英国のゲーム特化広告プラットフォーム Venatus Media(以下Venatus)と、アイトラッキング技術によるアテンション計測会社 Lumen Research の共同調査により、ゲーム内動画広告の「APM(1,000インプレッションあたりの注視秒数)」が標準的なデジタル動画広告の最大5倍に達することが分かった。日本の広告主にとっては、ゲーム内という接点が「見られやすさ」の観点で他のデジタル媒体と異なる特性を持つことを、第三者データが裏付けた事例として読める発表である。

発表の内容

Lumen ResearchとVenatusの共同調査発表を示す公式シェア画像
出典: Lumen Research / Venatus Media(

2026年3月18日、VenatusとLumen Researchは、Venatusが配信する動画広告のアテンションを独立測定した調査結果を発表した(出典: PR Newswire公式リリース、Lumen Research公式サイト)。

調査の軸は、ユーザーが没入・集中した認知状態にあるとVenatusが定義する「In the Zone」(没入状態)のオーディエンスに配信された動画広告と、標準的なデジタル動画広告のベンチマークとの比較である。Lumen Researchのアイトラッキング技術により、次の3指標が測定された。

  • 視聴率(% Viewed)
  • 平均視聴時間(Average View Time)
  • APM(Attention per Mille=1,000インプレッションあたりの注視秒数)

結果として、「In the Zone」状態のオーディエンスは、標準的なインストリーム広告のベンチマークと比較して次の差が示された。

指標

結果

ベンチマーク比

広告を視聴する可能性

約2倍高い

標準的なインストリーム広告比

平均視聴時間

8秒

業界ベンチマーク2秒の4倍

APM(1,000imp当たりの注視量)

最大5倍

標準的なデジタル動画比

(出典: PR Newswire, Lumen Research公式サイト、2026年3月18日発表)

なお、調査対象国・サンプルサイズ・実施期間の具体的な数値は、本リサーチで参照した一次情報には記載がなく未確認である。

Venatus CEOのNick Hugh氏は、「アテンションはデジタルメディア全体に均等に分布しているわけではない。ゲームで最初に観察したのは、アテンションがウェブの他のどこよりも根本的に異なる振る舞いをする環境が存在するということだ」とコメントしている。Lumen Research CEOのMike Follett氏も「広告へのアテンションはコンテンツへのアテンションの関数であり、環境が没入的であるほど広告への注視も伸びる」と述べた(出典: PR Newswire、ExchangeWire転載記事)。

Venatusの広告事業とLumen Researchの計測事業

Venatusとはどんな会社か

Venatus公式ブログの記事バナー。赤背景に白文字のVenatusロゴ
出典: Venatus Media(

Venatus Media Limitedは2010年、Rob Gay氏(CEO)とMatt Cannon氏(COO)が英国ロンドンで設立した広告技術企業である。両名は2008年からアドテク業界で協働しており、ゲーム業界向けの広告ソリューションが不足していることに着目して創業したと公式ブログ「12 Years of Venatus」で説明している。本社は英国ロンドンに置き、米国・豪州にも地域拠点を持つ。従業員規模は公式サイトで「120人以上」と説明されているが、第三者データベースでは51〜200人・117人など幅のある数値も見られるため参考値として扱う。

主力プロダクトは広告配信プラットフォーム「Prosper」で、ダイレクトセールス・ヘッダービディング・動画広告・ハイインパクト広告フォーマット・AdBlock Recovery(広告ブロック対策)機能を提供する。仕組みとしては、ゲーム攻略サイト・eスポーツメディア・エンターテインメントメディアなど「ユーザーが高い集中状態にある」パブリッシャーの広告枠を独占的に代理販売し、動画・高インパクト広告を配信する。予測的な需要最適化技術でユーザーの心理状態・文脈・タイミングを評価して広告を最適化するとしている。

対応インベントリ規模は「600以上のプレミアムパブリッシャー」の直接・プログラマティック広告販売を独占的に代理し、年間900件以上の直接販売キャンペーンを実施している(info.venatus.com、公式Aboutページ記載)。月間リーチ・インプレッション数の公表値は確認できなかった。

主要パートナーとしては、ゲームパブリッシャー・スタジオとしてEA、Rovio、Spil Games、FUTBIN等を独占的に代理しているほか、Google認定パブリッシングパートナー(GCPP)、Roblox公式再販業者(英国・フランス・ドイツ)の認定を受けている。広告主事例としてLEGO、PlayStation、Disney、Intel、HP、Logitechなどが公式サイトで紹介されている。ブランドセーフティに関してはTAG(Trustworthy Accountability Group)認証(ABC監査による検証済み)とIAB Gold Standard認証を取得している。

Lumen Researchとはどんな会社か

アイトラッキング調査会社Lumen Researchの公式ロゴ
出典: Lumen Research(

Lumen Research Ltd.は2013年設立のアイトラッキング調査企業である。本社所在地・創業者名は公式サイトのAboutページに明記がなく、本リサーチでは未確認である。特許取得済みのアイトラッキング技術を用いて、オンライン・オフライン広告のアテンションを測定し、広告主・パブリッシャー・DSPに効果測定データを提供している。

測定手法としては、専用ヘッドセットまたはデバイスカメラでアイトラッキングを実施し、100ミリ秒以上の注視を「Attentive View」と定義する(日本向け発表内の説明。本件Venatus調査の測定基準と完全に同一かは未確認)。対応国数についてはプレスリリース内で「50カ国以上」でアイトラッキング技術を展開しているとされる一方、日本向け発表(後述のUNICORN提携時)では「30カ国以上で75万件以上のセッション」のデータセットを保有すると説明されており、発表時期が異なるため単純比較はできない。

主要パートナーとしては、2024年11月18日に国内DSPのUNICORN株式会社(アドウェイズ子会社)と提携し、プラットフォーム全体にアテンション計測を導入したことが挙げられる。UNICORN側は「DSPとしてアジア初のアテンション傾向データ提供」と発表している(出典: UNICORN公式PR TIMES発表)。このほか、Globaliveとの戦略的パートナーシップによる日本市場での事業拡大、Teads AdManagerへのアテンション計測導入、電通ジャパン・インターナショナルブランズとの音楽ストリーミング広告アテンション調査などが報道ベースで確認できる。

ここまでの歩み

Venatusは典型的なVCスタートアップとは異なり、プライベートエクイティ(PE)の出資を受けて拡大してきた企業である。そのため調達履歴はシリーズA・Bのような形式ではなく、投資・買収の節目で整理するのが実態に近い。

時期

出来事

そのとき何をしようとしていたか

2010年

創業

Rob Gay氏・Matt Cannon氏がロンドンで設立。ゲーム・エンタメ特化の広告技術の不在に着目

2021年9月28日

Livingbridgeからの成長投資

英国の中堅企業向けPEファンドLivingbridge(Livingbridge 7ファンド、2021年組成・総額12.5億ポンド)から出資を受け、同社「初の資金調達ラウンド」と報じられた。米国含む国際展開と独自技術開発への投資が目的。金額は非公開

2023年3月7日

AdinPlay買収

オランダ拠点のブラウザゲーム広告技術企業AdinPlayを買収し、ブラウザゲームのマネタイズ領域でグローバル展開を拡大。金額は非公開

2026年3月18日

【本件】Lumen Researchとの共同アテンション調査を発表

「規模」ではなく「効果の科学的裏付け」を第三者データで示す広報施策

2026年4月

公式ブログでフォローアップ記事「From Attention to Receptivity」を公開

調査データを引用しつつ、フォーマット横断でオーディエンス状態の重要性を訴求

2026年7月

Media Scale Capitalによる買収、新体制へ移行

投資ファンドMedia Scale Capitalが買収し、新CEOにTheodora Michail-Clendinnen氏(社内昇格)、新CFOにJoe Seath氏を任命。金額は非公開

いずれの調達・買収も金額は非公開であり、累計調達額として公式に確認できる数値は無い。

2021年のLivingbridge投資、2023年のAdinPlay買収という「規模拡大」の流れに続き、2026年3月の本件調査は「規模」ではなく「効果の科学的裏付け」を訴求する広報施策と位置づけられると考えられる。同年7月のMedia Scale Capitalによる買収・経営体制刷新の直前に発表されており、買収前の企業価値・差別化訴求としての意味合いも読み取れる。ただしこれは公式説明ではなく、時系列から導かれる推測である点に留意されたい。

過去の事業撤退・サービス終了については、本リサーチの範囲では公式発表を確認できなかった。買収・投資はいずれも拡大方向の発表のみである。

広告出稿事例

Venatus公式サイト・公式ブログで確認できた配信事例を紹介する。いずれも「広告が配信された」という事実は公式画像で確認できるが、CTR・ブランドリフト等の定量的な効果指標が明記されたケーススタディページは本リサーチでは発見できなかった。数値を伴う公式効果データは非公開、または未公開である点を明記した上で紹介する。

Intel(Intel Arcグラフィックボード):韓国のLeague of Legends攻略・統計サイト「OP.GG」上で、画面を大きく占有する「プレミアムテイクオーバー」形式の広告を配信した。

VenatusがOP.GG上で配信したIntel Arcのプレミアムテイクオーバー広告の実装イメージ
出典: Venatus Media(

FUTBIN(EA SPORTS FC攻略サイト):Venatus公式サイトのケーススタディ導線にバナー広告を掲載した事例。

Venatusが配信するEA SPORTS FC攻略サイトFUTBIN上での広告事例バナー
出典: Venatus Media(

Pokemon Coders(ゲーム攻略サイト):『真・女神転生V』の広告を配信した事例。

Venatusがゲーム攻略サイトPokemonCoders上で配信した『真・女神転生V』のプレミアム広告事例
出典: Venatus Media(

Logitech G × KIMBLUE(韓国):ゲームメディア「RPG Site」上でコラボキャンペーン広告を配信した事例。

VenatusがゲームメディアRPG Site上で配信したLogitech G×KIMBLUEコラボキャンペーンの広告事例
出典: Venatus Media(

このほか、公式Aboutページで言及される広告主としてLEGO、PlayStation、Disney、HP、Waffleなどのロゴが掲載されているが、個別の実施内容・効果指標は非公開である。

なぜこの動きが起きたのか

広告業界では、ビューアビリティ(表示可能性)だけでは広告が実際に「見られたか」を証明できないという課題が長く指摘されてきた。アイトラッキングによるアテンション計測は、この課題に対する第三者検証の手段として近年注目を集めている。

Venatusにとって本件調査は、2021年のLivingbridge投資、2023年のAdinPlay買収による「規模拡大」の実績に続き、「効果の科学的裏付け」を独立した調査会社のデータで示す広報施策と位置づけられると考えられる。前述の通り、本件は2026年7月のMedia Scale Capitalによる買収発表の直前に公表されており、買収前の企業価値・差別化訴求としての意味合いも読み取れる。ただしこれはリサーチ時点での時系列からの解釈であり、Venatus・Lumen Researchいずれも公式にはそのような意図を説明していない。

Lumen Research側にとっても、ゲーム内広告環境という「没入的なコンテキストほど広告への注視が伸びる」という仮説を、大手パブリッシャーネットワークを持つVenatusのデータで裏付けられることは、自社の計測手法の説得力を高める機会になったと考えられる。

日本市場ではどうか

Venatus自体の日本展開は、本リサーチでは確認できなかった。公式サイトに日本オフィス・日本語対応・国内パブリッシャー提携の記載はなく、拠点は英国・北米・豪州が中心である。韓国向けの広告事例は確認できたが、日本市場での配信事例は見当たらなかった。

一方、Lumen Researchは日本市場で既に活動している。2024年11月18日、国内DSPのUNICORN株式会社(アドウェイズ子会社、月間買い付け可能トラフィック1.2兆imp超)がLumen Researchと提携し、プラットフォーム全体にアテンション計測を導入した。Lumen Research CEOのMike Follett氏も業界イベント登壇のため来日した実績が報じられている。Globaliveとの戦略的パートナーシップによる日本国内での事業拡大も報道されているが、締結時期・詳細は未確認である。

国内の同種データとしては、博報堂DYホールディングスの生活者調査(2026年5月発表)で、ゲーム内・メタバース内広告が従来のデジタル広告に比べ最大約1.7倍の購買喚起効果を示したと報告されている(出典: 博報堂DYホールディングス公式サイト)。また、IAS(Integral Ad Science)の調査では、高アテンション広告インプレッションは低アテンション比でコンバージョン率最大3倍の差があるとされる(一次ソースは本リサーチでは未確認)。

つまり、「Venatusという配信面」は日本の広告主が直接利用できる段階にはないが、「第三者アイトラッキングでゲーム関連環境のアテンションを証明する」という発想自体は、UNICORN経由で日本のDSP・広告主が既に触れられる状態にある。海外の目新しい実験ではなく、計測思想としては日本にも受け皿が存在する段階だと理解しておくとよい。

なお、ゲーム内広告そのものの定義や種類を体系的に押さえたい場合は、ゲーム内広告とはで全体像を確認できる。

日本で同じ広告を実施する選択肢

本件のVenatusが扱うのは、ゲーム攻略サイト・eスポーツメディアなどWebブラウザ上に配信されるインストリーム動画・高インパクト広告である。これは、ゲーム世界の中の看板・モニターに広告を表示するサイネージ型のゲーム内広告とはインベントリの形態が異なる。「ゲーム内広告」という括りは共通するが、混同せずに選択肢を整理する必要がある。

日本で第三者アイトラッキングによるアテンション検証を伴うWeb動画広告を配信したい企業には、Lumen Researchの計測手法を導入済みのUNICORNのような国内DSPを通じた出稿が選択肢になる。既に実装が進んでいるため、今すぐ検証データ付きで動画広告を配信したい企業に向く。

一方、ゲーム空間そのものの中に広告を配置し、プレイ体験を大きく阻害せずに認知を獲得したい企業には、Ad-Virtuaのようなゲーム内サイネージ広告のアドネットワークが選択肢になる。Ad-Virtuaはゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信する国内アドネットワークで、対応タイトルは400タイトル以上、広告想起率は約1.8倍、CPMは通常500円比で約300円という指標を公表している。ただし、Ad-Virtua自身がLumen Researchのような第三者アイトラッキング機関との提携を持つかどうかは、本リサーチの範囲では確認できておらず、断定はできない。

したがって、「独立機関によるアイトラッキング検証データを重視するか」「ゲーム世界に溶け込む広告表現を重視するか」で、どちらの選択肢が合うかが変わる。両方を同時に満たす国内事業者が存在するかは、本記事の時点では確認できていない。

広告主が取るべき判断

今すぐ動く価値があるのは、動画広告の効果を「見られたかどうか」の観点で証明する責任を負っている企業、たとえばブランドリフト・想起率を経営層に説明する必要があるナショナルクライアントの担当者である。第三者アイトラッキングによる検証データは、TVCM・SNS広告の補完施策としてゲーム関連接点を検討する際の材料になりうる。

一方、様子見でよいのは、Venatusの配信面(英語圏中心のゲーム攻略・eスポーツメディア)を直接使う予定がない企業である。Venatus自体が日本展開していない以上、国内での即時活用は難しい。日本国内での検証を先に済ませたい場合は、UNICORN等の国内DSP経由のLumen Research計測、またはAd-Virtuaのような国内ゲーム内サイネージ広告の実績データを確認するところから始めるのが現実的である。

関連する基礎知識への導線

本件をより深く理解するための関連記事:

FAQ

Q. APMとCPMは何が違うのか。
CPMは1,000インプレッションあたりの広告費用を示す指標であり、コストの単位である。一方、本件で使われたAPM(Attention per Mille)は1,000インプレッションあたりに広告がどれだけの注視秒数を獲得したかを示す指標であり、コストではなく「見られた量」を測る。同じCPMの広告枠でも、APMが高いほど広告接触の質が高いと解釈できる。

Q. Lumen Researchのアイトラッキング計測は、どんな広告フォーマットに使えるのか。
研究時点で確認できた範囲では、オンライン・オフライン双方の広告に対応するとされる。日本国内ではUNICORNのDSPを通じて動画広告への計測導入が進んでいるが、ゲーム内サイネージのような3D空間内広告への適用実績は本リサーチでは確認できなかった。

Q. Media Scale CapitalによるVenatus買収は、今回のアテンション調査にどう関係するのか。
時系列上、2026年3月の本件調査発表は同年7月の買収発表より前であり、直接の関連を示す公式発表は確認できていない。時系列から「買収前の企業価値訴求だったのではないか」という解釈は成り立つが、これは推測であり事実として断定できない。

Q. 「In the Zone」という状態は、どのユーザーにも当てはまるのか。
Lumen Researchの定義では、没入・意図的なエンゲージメント・広告への受容性によって特徴づけられる認知状態を指すとされる。ただし、この状態がどの程度のユーザー層・どのコンテンツ種別で再現されるかについて、公式リリースにサンプル条件の詳細な記載はなく、本リサーチでは確認できなかった。