モバイル特化のゲーム内広告プラットフォームGadsme(ガズミー)は、Take-Two Interactive傘下のモバイルゲーム大手Zynga(ジンガ)と提携し、選定モバイルタイトルに非侵襲型・没入型のインゲーム広告を統合すると発表した。日本の広告主にとっては、「プレイ体験を止めない広告」がジャンル横断で標準フォーマット化しつつある海外の動きを示す事例であり、国内でも同種の枠組みがすでに一部始まっている。

発表の内容
業界専門メディアのPocketGamer.biz(2025年10月23日掲載、著者Isa Muhammad氏)とGamesBeat(2025年10月17日掲載)が、GadsmeとZyngaの提携を報じた。両記事は同一の発表者コメントを引用しており、GamesBeatが先行報道、PocketGamer.bizが後追い報道と推定される。一次発表元である公式プレスリリース本体は確認できておらず、本記事では「業界専門メディア経由の報道ベース」として扱う。
発表内容は、Zyngaの選定モバイルタイトルに、Gadsmeの非侵襲型(non-intrusive)かつ没入型(immersive)のインゲーム広告を統合するというものだ。広告はゲーム空間内の看板・ポスター・デジタルサイネージのような形で自然に配置され、ポップアップやリワード動画のようにプレイ体験を中断しない設計とされる。対象となる具体的なタイトル名は両記事とも明記していない。
Gadsme共同創業者兼最高収益責任者のSimon Spaull氏は「Zyngaとの協業は、ブランドとプレイヤーの関わり方の新しい基準を打ち立てるというビジョンを裏付けるものだ。このモデルをあらゆるゲームエンジン・プラットフォームに拡大していく」とコメントした。Zynga広告パートナーシップ・オペレーション上級ディレクターのDmitriy Makiyevskiy氏は「Gadsmeは安定的でシームレスな技術によって、プロダクト品質と提供価値の両方の基準を満たしている。この統合は当社のマネタイズ戦略にとって価値が高く持続可能な追加要素だ」と述べている。
Gadsmeとはどんな会社か

Gadsmeはフランス・パリを本社とする(複数の二次情報源が一致するが、公式一次情報での明記は未確認)ゲーム内広告プラットフォームで、2019〜2020年初頭に設立された。公式ブログでは「2019年設立」、公式サイトの会社ページでは「early 2020」と表記に幅があるため、本記事では設立年を単一の年で断定しない。
創業者は3名で、CEOのGuillaume Monteux氏、CTOのLuc Vauvillier氏、そして共同創業者兼CROのSimon Spaull氏(元AppLovin VP Corporate Development)。MonteuxとVauvillierの両氏は、Gadsme創業以前にデジタルメディア企業miLibris(のちにAltice Groupに売却)を共同経営していた経歴を持つ。従業員規模は非公開。
提供プロダクトと仕組み
Gadsmeは「世界で最も洗練されたインゲーム広告プラットフォーム」を標榜し、ゲームプレイ内のビルボード・看板・デジタルサイネージに動画・静止画広告をネイティブに統合するSDK型プラットフォームを提供する。クロスプラットフォーム対応のSDKをゲームエンジンに組み込み、ゲーム内オブジェクトを広告面として認識・レンダリングする方式で、一部のプレースメントは長押しやダブルタップでランディングページへの遷移も可能とされる。対応エンジン一覧やレンダリング方式の詳細な技術仕様は非公開で、公式には「安定的でシームレスな技術」という表現にとどまる。
対応プラットフォームとインベントリ規模
主軸はモバイルで、2025年10月時点で1,600以上のモバイルゲームに対応する(2024年12月時点では約1,500タイトルで、増加が続いている)。2025年にはPC・コンソール展開も進んでおり、サッカー経営シミュレーション『Football Manager 26』のUnity移行に伴うPC/Mac展開で、モバイル以外への本格展開を初めて実施した。
主要パートナー
パブリッシャー側ではUbisoft、Konami、Gameloft、Miniclip、Azur Games、Zynga、SEGA/Sports Interactive、Voodoo、Wildlife Studios、Outfit7、Ketchapp、Illusion Labs等と提携する(公式サイト掲載のロゴ一覧より)。広告出稿ブランド側ではVodafone、Adidas、LEGO、L'Oréal、McDonald's、PayPal、Spotify、Unilever、Marriott、Canal+、Powerade、Lynx、Magnum、Dr. Oetkerなどが公式サイトに掲載されている。広告代理店ではWPP、Havas、Publicis、Omnicom Media Group(OMG)等と関係を持つ。計測・検証面ではIntegral Ad Science(IAS)、DoubleVerifyといった第三者ベンダーと連携し、IAB Europe・TAG(Trustworthy Accountability Group)にも加盟する。IASとの提携は2022年12月15日発表が公式に確認できる最古の発表で、viewability(視認性)やIVT(不正トラフィック)の計測をIAS Signalで提供する体制を早期から整えている。
ここまでの歩み
Gadsmeは2022年4月6日、Galaxy Interactiveを主導投資家とするシードラウンドで800万ドルを調達したと公式ブログで発表した。ゲーム業界大手のUbisoftが戦略的投資家として参加したほか、ゲーム業界の個人投資家も加わった。調達資金は事業スケーリングのための主要人材採用・組織構築に充てるとされ、この時点で既にLion Studios、Ubisoft、Voodooとの統合実績があったと公式ブログに記載されている。日本企業の投資家参加は確認できていない。公式に確認できる資金調達はこのシードラウンドの800万ドルのみで、それ以降の追加ラウンド(Series A等)の有無は未確認である。
資金調達後、Gadsmeは提携先とプラットフォームの両面で拡大を続けてきた。
時期 | 出来事 |
|---|---|
2019〜2020年 | Monteux、Vauvillier、Spaullの3名がフランスで創業 |
2022年4月6日 | シードラウンドで800万ドルを調達(Galaxy Interactive主導、Ubisoft参加) |
2022年12月15日 | Integral Ad Science(IAS)と計測パートナーシップを締結 |
2023年12月 | BRAVEとの提携を発表(ExchangeWire報道、詳細未確認) |
2024年12月3日 | ニューヨークに米国初拠点を開設。VP USに元EA/Microsoft出身のDon Reilley氏が就任 |
2025年5月 | adWMGとの提携を発表(ExchangeWire報道、詳細未確認) |
2025年7月30日 | Konamiとパブリッシャー契約を締結。『eFootball』『Yu-Gi-Oh! Duel Links』等にSDKを導入 |
2025年9月 | SEGA傘下Sports Interactiveと『Football Manager』向けに3年間の独占契約を締結。モバイル以外への初の本格展開 |
2025年10月17日/23日 | 本ニュース: Zyngaとの提携を発表 |
2026年5月13日 | 博報堂DYグループ子会社ARROVAが日本国内でGadsmeのインゲーム広告商品の取り扱いを開始 |
過去のサービス撤退や失敗については、本記事のリサーチ範囲では確認できなかった。Gadsmeは創業以来、一貫して提携先・対応プラットフォームを拡大する局面にあると見られる。今回のZynga提携は、PCシミュレーション(Football Manager、2025年9月)、モバイルタイトル群(Konami、2025年7月)に続くもので、ジャンル・プラットフォームを横断して「非侵襲型インゲーム広告」の標準化を進める一連の動きの延長線上にある。
広告出稿事例
Gadsme公式サイトには、実際の広告出稿を示す画像が複数掲載されている。いずれも掲載開始時期・キャンペーン期間・想起率やCTRといった個別の効果指標は開示されておらず、定量的な効果は未確認である。
事例1: McDonald's × 『Hungry Shark』
モバイルゲーム『Hungry Shark』のゲーム内看板広告として、McDonald'sの新商品「Big Arch」が訴求されている。McDonald'sはGadsme公式サイトのブランド導入企業一覧にもロゴが掲載されている。

事例2: LEGO × Minecraft連動タイトル
モバイルゲーム内の看板広告で「LEGO Minecraft Build Event」への参加が呼びかけられている。LEGOも同社のブランド導入企業一覧に掲載されている。

事例3: Marriott Bonvoy × レーシングゲーム
レーシングゲーム内のデジタルサイネージに、Marriottのリワードプログラム「Marriott Bonvoy」の広告が表示されている。

なお、Gadsme公式サイトの広告主向けページには「ブランドリコール平均+35%向上」「ブランドイメージ・購買意向で+25ポイント向上」という効果指標の記載がある。ただしこれは特定ブランドの個別事例ではなく、Gadsme広告枠全体を対象にした複数ブランドリフト調査の平均値として記載されており、調査主体・調査時期・サンプル数は開示されていない点に注意が必要だ。
なぜこの動きが起きたのか

背景には、ゲーム内広告市場全体の拡大がある。GamesBeatの記事はAllied Market Researchの調査(2022年発行)を引用し、グローバルのゲーム内広告市場が2030年までに170億ドル超に達すると予測されている点を紹介している。この数値は一次調査レポート本体では確認できておらず、GamesBeatが引用する二次データとして扱う。
Gadsme自身も、Zynga提携発表と前後してKonami(2025年7月)、Sports Interactive/Football Manager(2025年9月)と立て続けに提携を発表しており、2024年12月の米国拠点開設以降、事業拡大のフェーズに入っている。Spaull氏のコメントにある「あらゆるゲームエンジン・プラットフォームへの拡大」という方針は、モバイルに閉じず、PC・コンソールを含めた横展開を明確に志向している。ゲームパブリッシャー側にとっても、広告収益はリワード広告やインタースティシャル広告に偏重しがちなマネタイズ手段の分散策になる。Zynga担当者のコメントが「マネタイズ戦略にとって価値が高く持続可能な追加要素」という表現を使っている点は、この文脈で理解できる。
日本市場ではどうか

同種の動きは日本でもすでに始まっている。2026年5月13日、博報堂DYグループ傘下のゲームメディア専業マーケティングエージェンシー、株式会社ARROVA(設立2023年8月1日、東京都渋谷区、代表取締役 河合佑介氏)が、Gadsmeのインゲーム広告商品の国内取り扱いを開始したと正式発表した(出典: PR TIMES公式リリース、gamebusiness.jp)。
対象は「月間アクティブユーザー180万人超の、日本で長年親しまれているモバイルサッカーゲーム」で、2026年夏頃に主要サッカーゲームへの配信開始を予定している。具体的なタイトル名は公式リリースに明記されておらず未確認だ。ARROVA代表の河合氏は「ゲームは若年層をはじめとする生活者にとって日常の中で自然に触れるメディアであり、その空間における広告も世界観を損なわないことが重要」とコメントし、Gadsme CEOのGuillaume Monteux氏も「ユーザー体験を中断させるものではなく、その体験の自然な延長線上にあるべき」と述べている。ARROVAの独自調査(出典未確認)では、インゲーム広告は従来のデジタル広告と比較してユーザーの広告忌避感が低く、最大で約1.7倍の購買喚起効果があるとされる。
つまり日本の広告主にとって、Gadsmeの枠組み自体は「使える状態」に近づきつつある。博報堂DYグループの営業網を通じた提案が可能な体制になっているためだ。一方で、国内での対応タイトルは現時点で「モバイルサッカーゲーム」中心にとどまっており、Zynga提携が示すようなカジュアル・ソーシャルゲーム全般への横展開は、国内ではまだ確認できていない。国内広告主・代理店の間では、intrinsic型・非侵襲型のインゲーム広告フォーマットへの理解がまだ薄く、リワード広告やインタースティシャル広告中心の予算配分から動かす説得材料が必要な段階にあると考えられる。
ゲーム内広告そのものの仕組みや種類については、ゲーム内広告とはで基礎から解説している。プレイ体験を中断するリワード広告・インタースティシャル広告との違いを整理したい場合はリワード広告の完全ガイドもあわせて参照してほしい。
日本で同じ広告を実施する選択肢

Gadsmeのような非侵襲型のサイネージ・ビルボード型ゲーム内広告を、日本国内で実施する選択肢の一つがAd-Virtuaだ。Ad-Virtuaはゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信するアドネットワークで、累計再生数は8,000万回を突破し(2025年後半時点)、対応タイトルはカジュアル・RPG・パズル・アクションなど400タイトル以上に及ぶ。料金プランは1週間300,000円からで、広告想起率は通常比で約1.8倍、CPMは約300円(通常500円比)という数値を公表している。
Gadsmeとの違いを正確に書き分けると、Gadsmeは海外1,600以上のタイトルにネイティブ統合SDKで広告を配信し、モバイルからPC・コンソールへ拡張中の段階にある。一方Ad-Virtuaは国内400タイトル以上を対象に、サイネージ配信方式で広告を提供しており、対応領域・規模・技術方式が異なる。両者は「プレイ体験を壊さない広告」という思想では共通するが、同一のプラットフォームではない。
この選択肢が合うのは、TVCM・SNS広告の補完施策として「リワード広告以外の、嫌われにくい認知施策」を国内で探している食品・飲料・日用品メーカーや、幅広い生活者接点(特に女性・ファミリー層が多いカジュアルゲーム)を求めるブランドだ。逆に、対象を海外市場やサッカーゲーム特有のユーザー層に絞りたい場合、あるいはGadsmeが提供するPC/コンソール向けの独占的な統合を求める場合は、国内代理店経由でGadsme自体の取り扱いを検討するほうが適している。
広告主が取るべき判断
今すぐ動く価値があるのは、TVCM・SNS広告に次ぐ第3の認知接点をすでに検討中で、リワード広告のようなユーザー主導型広告では届きにくい層(能動的に広告視聴を選ばないカジュアルゲームのライトユーザー等)にリーチしたい企業だ。非侵襲型のゲーム内広告はプレイ体験を止めないため、好感度を損なわずに接触機会を作れる点が特徴になる。
一方、様子見でよいのは、国内での非侵襲型ゲーム内広告の対応タイトルがまだ限定的な業種、たとえば特定ジャンル(現状はサッカーゲーム中心)にしか展開できていない領域向けの商材を扱う企業だ。国内の対応タイトルの幅が広がるまで、既存のリワード広告・インタースティシャル広告での実績を積みながら情報収集する選択肢もある。
関連する基礎知識への導線
- ゲーム内広告とは — サイネージ広告・リワード広告・インタースティシャル広告など、ゲーム内広告全体の種類と仕組みを解説
- リワード広告の完全ガイド — 非侵襲型広告と対比されるユーザー主導型広告の仕組み
- テレビCMの代替・補完施策 — TVCM予算の一部をデジタル施策に振り分ける際の選択肢比較
FAQ
Q. Gadsmeの広告は日本国内のゲームにも表示されるようになるのか。
A. すでに一部で始まっている。博報堂DYグループ子会社のARROVAが2026年5月にGadsmeの国内取り扱いを開始し、まずは月間アクティブユーザー180万人超のモバイルサッカーゲーム1本への配信を2026年夏に予定している段階だ。Zynga提携のようにカジュアル・ソーシャルゲーム全般へ対象が広がるかどうかは、本記事のリサーチ範囲では確認できていない。
Q. GadsmeとAd-Virtuaは提携関係にあるのか。
A. 確認できていない。両社は「プレイ体験を中断しない広告」という思想の面で似た方向性を持つが、GadsmeはARROVA経由で国内展開を進めており、Ad-Virtuaとは独立したサービスである。
Q. 非侵襲型のインゲーム広告は、リワード広告と比べて効果測定がしやすいのか。
A. Gadsmeは2022年12月からIntegral Ad Science(IAS)と計測パートナーシップを結び、viewability(視認性)やIVT(不正トラフィック)を第三者機関で計測できる体制を整えている。ただし本記事で紹介した個別ブランドの出稿事例(McDonald's、LEGO、Marriott)について、想起率やCTRなど公表された定量指標は確認できていない。


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