世界最大級のメディアエージェンシーであるWPPメディア(WPP Media、旧GroupM)のフランス法人が、ゲーム領域に特化した統合オファー「WPP Media Gaming」と、専用のプライベートマーケットプレイス「Gaming Ads Garden(ゲーミング・アドズ・ガーデン)」を展開している。日本の広告主にとっての意味は、ゲーム内広告が大手代理店の実験枠から名前の付いた常設商品ラインに格上げされた、という一点に集約される。

WPPメディア(WPP Media)の公式ロゴ

画像出典: WPP Media 公式サイト

発表の内容

大観衆が集まるeスポーツアリーナ。マスメディア化するゲーミング領域を象徴するイメージ

本件にはWPPおよびWPPメディアの公式プレスリリースが存在しない。確認できる最上流はフランスの業界メディア各紙の報道と、在庫パートナー側であるGadsme(ガッドスミー)が自社プレスページに掲出した記事であり、本記事の記述はすべてこの報道ベースである。初出はViuz(2026年7月2日)、続いてInfluencia、J'ai un pote dans la com が同年7月6日に報じた。

報じられた内容は次のとおり。

項目

内容

オファー名

WPP Media Gaming

主体

WPPメディア フランス法人(WPP Media France)

カバー範囲

戦略立案 → メディアアクティベーション → 効果測定までバリューチェーン全体

中核商品

プライベートマーケットプレイス「Gaming Ads Garden」(WPPメディア フランス法人の専売)

在庫規模

12億規模のゲーミング在庫に単一窓口でアクセス

ゲーム内(in-game)在庫

Gadsme/TapNation(タップネーション)/Gameloft(ゲームロフト)/Azerion(アゼリオン)

ゲーム周辺(around-game)在庫

Twitch(ツイッチ)/YouTube Gaming

ターゲティング軸

消費タイミング/デモグラフィック/プレイヤーモチベーション/ゲームコンテクスト

説明上の位置づけ

「100%ブランドセーフ、完全計測可能、スケーラブル」

パートナーとして列挙されたのは Twitch、YouTube、BEM Network、Gameloft、Gadsme、TapNation、Azerion、Roblox(ロブロックス)、GamersOrigin の9社である(媒体によりGamersOriginの表記ゆれがあり、BEM Networkを掲載しない媒体もある)。

「12億」の単位は原文が "1,2 milliard d'inventaire gaming" とあるのみで、インプレッションなのかユニークユーザーなのか在庫ユニット数なのかは明示されていない。本記事では「12億規模のゲーミング在庫」という原文どおりの表現にとどめる。

効果測定は3軸で設計されていると説明されている。メディア軸(アテンション/リーチ/エンゲージメント)、ブランディング軸(認知/好意/連想/想起)、ビジネス軸(売上増分/ROI)で、自社の15,000人規模パネルとサードパーティ計測パートナーを併用する。

WPPメディアのHead of Strategyであるアリソン・クロ(Alisson Clot)氏は、報道内で次のようにコメントしている。

「ゲーミングはもはや二次的なチャネルではなく、真に質の高いアテンションを享受するマスメディアです。私たちの使命は、クライアントが安全に、適切に、そして本物らしくゲーミングに溶け込めるよう支援することです」

なお、WPPメディアが根拠として引用しているデータは以下のとおりだが、各記事に原典(調査会社名・調査時期)の記載がない。いずれも「WPPメディアが示すデータによれば」という前提で読む必要がある。

  • 世界のゲーマー数:36億人
  • フランス国内のゲーマー:4,000万人(人口の70%)、平均年齢40歳、男女比はほぼ均等
  • ゲーム内ブランドコンテンツへの能動的アテンション:11分(SNSは1.3秒)
  • ゲーム領域への広告投資:世界の広告費の5%にとどまる
  • ゲーム広告による購買意欲の押し上げ:+55%

このうち「11分 対 1.3秒」は、ゲーム内ブランドコンテンツへの滞在時間とSNS広告の平均視認秒数という、定義の異なる数値を並べている可能性が高い。WPPメディアはこの対比でゲーミングのアテンション優位を説明している、という事実として受け止めるのが妥当であり、そのまま媒体間比較の根拠に使える数値ではないと考えられる。

WPP Media Gamingという商品の中身

WPPメディアは2003年にGroupMとして設立され、2025年5月27日にWPPメディアへ改称した(改称日は二次情報に基づく。WPP公式サイトでの確認は取れていない)。親会社は英ロンドンのWPP plc、本社は米ニューヨークの3 World Trade Center、従業員は約41,000人とされる。日本を含む18か国以上で展開し、傘下にMindshare(マインドシェア)、Wavemaker(ウェーブメーカー)、EssenceMediacom(エッセンスメディアコム)、Choreograph(コレオグラフ)などのエージェンシーを持つ、世界最大級のメディアバイイング/プランニング事業体である(展開市場・傘下ブランドの出典: WPP Media 公式サイト)。

今回の主体はそのフランス法人で、CEOはアレクサンドラ・シャバンヌ(Alexandra Chabanne)氏。WPP Franceのカントリーマネージャーを兼任している。

WPP Media Gamingは次の3本柱で構成されると説明されている。

  1. 戦略・コンサルティング — ゲーム領域への参入方針の設計
  2. 統合メディアアクティベーション — 広告配信からブランド体験の実装まで
  3. 効果測定 — 前述のメディア/ブランディング/ビジネスの3軸

この3本柱のうち、広告主が最も直接的に触れるのが2番目のアクティベーションであり、その入口がGaming Ads Gardenである。

Gaming Ads Gardenの本質は、新しい広告技術ではない。ゲーム内広告の在庫事業者、カジュアルゲームのパブリッシャー、ゲーム実況プラットフォームという、本来バラバラに発注するしかなかった面を、代理店側が1つの発注窓口に集約した点にある。ゲーム内の看板やサイネージに出すin-game在庫と、ゲーム実況・ゲーム動画の周辺に出すaround-game在庫を同じPMPから買えるようにしたことで、広告主側の「どこに何社発注すればいいのか分からない」という実務上の障壁を取り除いている。

ゲーム内広告そのものの仕組みや種類を先に押さえたい場合は、ゲーム内広告とはを参照してほしい。また、ゲーム実況周辺まで含めた配信環境側の話はクラウドゲーミング広告とは|次世代ゲーム内広告の仕組み・フォーマット・実践設計ガイド【2026年版】で扱っている。

Gaming Ads Gardenのターゲティング項目に「プレイヤーモチベーション」「ゲームコンテクスト」が明記されている点も、設計思想として重要である。年齢・性別ではなく、何を目的にそのゲームを遊んでいるかでセグメントを切る発想であり、これはゲームユーザー層セグメンテーション活用ガイド|カジュアル・コア・ハードコアへのブランド体験設計と媒体選定で整理している考え方と同じ方向を向いている。

Gadsmeとはどんな会社か

ゲーム内広告事業者Gadsme(ガッドスミー)の公式ロゴ

画像出典: Gadsme 公式サイト

Gaming Ads Gardenのin-game在庫の中核を担うのがGadsmeである。日本ではまだ知名度が低いが、後述のとおりすでに国内での取り扱いが始まっており、本件で最も説明価値の高い会社といえる。

項目

内容

社名

Gadsme(ガッドスミー)

設立

2020年初頭

創業者

ギヨーム・モントゥー(Guillaume Monteux、Co-Founder & CEO)/リュック・ヴォヴィリエ(Luc Vauvillier、Co-Founder & CTO)/サイモン・スポール(Simon Spaull、Co-Founder & CRO)

創業者の前歴

モントゥー氏とヴォヴィリエ氏は9年間デジタル事業を共同で構築し、2017年にAltice(アルティス)が買収。スポール氏はAppLovin(アップラビン)に7年在籍

本社

フランス・パリ(公式のAboutページは現在404のため、所在地はメディア報道ベース)。2024年12月に米ニューヨークへ初の米国拠点を開設

従業員数

非公開

ミッション

「ゲームプレイを一切阻害せずに、ブランドがゲームというメディアで大規模に広告を出せるようにする」

(出典: Gadsme公式サイト companyページ)

広告がゲーム内に表示される仕組み

Gadsmeが扱うのは、ゲーム世界の中にネイティブに埋め込まれたイントリンシック型(in-world)広告である。ビルボード、スタジアムの看板、レース場のフェンス、市街地のデジタルサイネージなどを、ゲーム内の3Dアセットとしてそのままレンダリングする。オーバーレイ、インタースティシャル、ポップアップは使わないと公式に明言している。

一部フォーマットは長押しまたはダブルタップでクリック遷移でき、認知獲得だけでなくフルファネルに対応する。モバイル・PC・コンソールに対応し、2022年からはTargetspot(ターゲットスポット)との提携によりゲーム内オーディオ広告も提供している。

夜間の市街地マップのビル壁面ビルボードに配車サービスBoltの広告が表示されているGadsmeのゲーム内広告配信イメージ

画像出典: Gadsme 公式サイト

対応プラットフォームとインベントリ規模

項目

公表値

提携ゲームスタジオ数

200社以上(公式サイトのadvertisersページ。別ページでは「100社以上」の表記もあり、表記ゆれがある)

対応エンジン

Unity、Unreal、およびすべてのC++独自エンジンに完全対応

対応プラットフォーム

モバイル/PC/コンソール

ビューアビリティ

100%(ウォールドガーデン型の45%と対比して提示)

広告想起リフト

平均+35%

ブランドイメージ・検討意向

+25ポイント

無効トラフィック(IVT)

ポートフォリオ全体で0.5%未満

パブリッシャー側の収益改善

ARPDAU +8〜20%(他のマネタイズ設計やプレイ体験に影響を与えずに)

(出典: Gadsme公式サイト advertisersページ/publishersページ)

上記の想起リフトやブランドイメージの数値は、個別キャンペーンの実績ではなく公式サイトが示すポートフォリオ全体の平均値である点に注意が必要だ。この種のブランドリフト指標をどう設計し、どう読むかについてはゲーミング層へのブランド認知設計 完全ガイド|ゲーマー行動データ・媒体特性・ブランドリフト設計の実践法で整理している。

主要パートナー

  • ゲームスタジオ:Gameloft、Ubisoft(ユービーアイソフト)、SEGA、Konami(コナミ)、Miniclip(ミニクリップ)、Voodoo(ヴードゥー)、Zynga(ジンガ)、Ketchapp(ケッチャップ)、Outfit7(アウトフィット7)、TapNation、Sports Interactive(スポーツ・インタラクティブ)ほか
  • 計測・認証:IAS(Integral Ad Science/インテグラル・アド・サイエンス)、DoubleVerify(ダブルベリファイ)、IAB Europe、TAG
  • 配信基盤:自社DSPを保有し、市場のSSP/DSPとのプログラマティック接続およびPMP接続に対応
  • エージェンシー:WPP、Havas(アヴァス)、Publicis(ピュブリシス)、OMG、Arena Media、Blue 449、Goldbach、Heroiks
  • 日本:ARROVA(アローバ/博報堂DY ONE子会社、2026年5月13日〜)

公式サイトに掲出されている出稿ブランドには、Vodafone、adidas、LEGO、L'Oréal、McDonald's、PayPal、Spotify、Unilever、Canal+、Dr. Oetker、Marriott、Powerade、Lynx、Magnum が並ぶ。

ここまでの歩み

WPPメディア側:2025年12月に部門、2026年7月に商品化

今回の報道は「ゼロからの部門新設」ではない。時系列で並べると位置づけがはっきりする。

時期

出来事

2003年

GroupM設立

2025年5月27日

GroupMがWPPメディアへ改称(二次情報。WPP公式での確認は未達)

2025年12月5日

WPPメディア フランス法人が自社イベント「Level Up」でゲーム専門部門とPMPを発表。ゲーミングを「広告の次のエルドラド」と位置づけ。当時のパートナーはTwitch/Gameloft/Gadsme/YouTube/Roblox/GamersOriginの6社(出典: Minted、2025年12月5日)

2025年12月8日

The Media Leader FR がシャバンヌ氏のインタビュー「ブランドはもはやゲーミングを無視できない」を掲載

2026年7月2日〜6日

統合オファー「WPP Media Gaming」+PMP「Gaming Ads Garden」として整理し直して発信。パートナーが9社に拡大(BEM Network/TapNation/Azerion が追加)

つまり2026年7月に起きたのは、2025年12月に立ち上げた部門を、名前の付いた商品(PMP)と3本柱のサービス体系としてパッケージ化したフェーズである。2025年12月時点でWPPメディアが引用していたデータは「ゲーマーの63%がゲーム経由でブランドを認知」「49%が購買判断に影響を受ける」というもので、2025年12月から2026年7月にかけての約7か月で在庫パートナーは6社から9社へ増えている。

なお、「WPPが2024年10月にRobloxとグローバル提携した」という情報が一部で流通しているが、Roblox公式ニュースルームおよびWPP公式のニュース一覧では裏取りできなかった。本記事では未確認として扱う。

データを見ながらメディア戦略の変遷を確認するマーケティングチームのイメージ

Gadsme側:シード800万ドルから世界大手代理店の在庫パートナーへ

Gadsmeの歩みは、市場がイントリンシック型のゲーム内広告をどう評価してきたかの記録でもある。

時期

出来事

金額・リード投資家

2020年12月

会社設立

2021年2月

市場参入。CPC/CPA/CPI のパフォーマンス課金型キャンペーンを提供開始

2022年4月

シードラウンド。市場参入から1年未満での調達で、ゲームスタジオ側の当事者が出資に加わった点が特徴

800万ドル/リード: Galaxy Interactive、Ubisoftが参加

2022年9月

Targetspotと提携し、ゲーム内オーディオ広告を開始

2022年12月

IASと計測・透明性で提携。広告主の標準要件に乗せる段階に入る

2023年12月

BRAVE と提携(イントリンシック型in-game広告)

2024年8月

Antoine Jullemier氏をHead of Supplyに招聘。在庫拡大の体制を強化

2024年10月

非UnityエンジンへSDKを拡張。対応タイトルの幅を広げる

2024年12月

米ニューヨークに初の米国拠点を開設

2025年5月

adWMG と提携(コンソール広告主向け)

2025年7月

Konamiと提携(イマーシブ広告・eスポーツ)

2025年8月

Eskim とDSP提携(クリック可能なin-game広告)

2025年9〜10月

Sports Interactive『Football Manager 26』と3年間の独占契約、Zyngaとの提携を拡大

2026年5月13日

日本での取り扱い開始。博報堂DY ONE子会社のARROVAが広告主募集を開始

2026年7月

WPP Media Gaming のin-game在庫パートナーに採用

累計調達額は公式に記載がない。 公式プレスページで確認できる調達は2022年4月のシード800万ドルのみで、それ以降のラウンドは公式ニュースルームに掲載がなく未確認である(追加調達があったとしても非公表の可能性がある)。なお800万ドルについては、調達時点の為替レートを確認できていないため本記事では円換算を行わない。日本企業の投資家は、確認できた範囲では存在しない。

この履歴で注目すべきは資金の額ではなく、2022年にIAS、2025年にKonamiやSports Interactive、2026年に世界最大級の代理店とつながった順序である。計測の信頼性を先に固め、次に大手ゲームスタジオの在庫を確保し、最後に大手代理店のバイイング機能に組み込まれた。ゲーム内広告が広告主の正式な発注対象になるまでの標準的な段取りを、そのままなぞっている。

広告出稿事例

Gadsmeの公式サイトには数値付きのケーススタディが掲出されていないため、以下は実際のクリエイティブが確認できる配信例と、報道経由で確認できた事例である。個別の効果指標が公表されているものは限定的で、その旨を各事例に明記する。

事例1:マクドナルド「Big Arch」×『Hungry Shark』系タイトル

海中ステージに設置された看板に「BIG ARCH / GET IT WHILE YOU CAN」というバーガーの実写クリエイティブを掲出した例。ゲームの世界観を壊さずに実写素材を差し込んだ代表的な配置で、プレイヤーが泳ぐ導線の視界に自然に入る位置に置かれている。効果指標は非公開

海中ステージの看板にマクドナルド「BIG ARCH」の広告が表示されているゲーム内広告の例

画像出典: Gadsme 公式サイト

事例2:マリオット・ボンヴォイ ×カーレースゲーム

市街地コースのビル壁面にある大型LEDサイネージに「REWARDS REIMAGINED」を掲出。実在のOOH/デジタルサイネージ広告の体裁をそのままゲーム内に再現した形で、既存のOOH素材を流用しやすいフォーマットの典型例といえる。効果指標は非公開

レーシングゲームの市街地ビル壁面デジタルサイネージにマリオット・ボンヴォイの広告が表示されている例

画像出典: Gadsme 公式サイト

事例3:プラダ「Paradigme」×スタントバイク系タイトル

スタント会場の大型スクリーンに香水広告を掲出し、「SHOP NOW」ボタンを併設した例。ラグジュアリーブランドが認知獲得にとどまらず、クリック遷移型で出稿している点が特徴である。効果指標は非公開

バイクスタントゲームの会場スクリーンにプラダ「PARADIGME」の広告とSHOP NOWボタンが表示されている例

画像出典: Gadsme 公式サイト

事例4:レゴ「LEGO Minecraft」×ボクセル調カジュアルゲーム

水辺の木製看板にビルドイベント告知と「JOIN」ボタンを掲出。ゲーム内アセットの質感に合わせてクリエイティブを作り込んだ例で、既存バナーの流用では成立しないタイプの設計にあたる。効果指標は非公開

ボクセル調カジュアルゲームの水辺の木製看板にLEGO Minecraftのイベント告知が表示されている例

画像出典: Gadsme 公式サイト

数値が公表されている数少ない事例

  • Make-A-Wish(非営利団体)のキャンペーン:3億人以上のモバイルゲーマーにリーチしたと報じられている(Mobidictum、2025年12月11日。Gadsme公式プレスページ経由での確認であり、一次のプレスリリース本文は未確認)
  • Easy Cash × Bradford Agency:プログラマティック経由でのin-game出稿事例として報じられているが、効果指標は未確認(Minted、2025年12月11日)
  • WPP Media Gamingが挙げた事例ブランド:MAAF(フランスの保険)、Lion(シリアル、ネスレ)、Fanta(コカ・コーラ)の3社。ただし実施内容・効果指標ともに一切公表されていない

ブランド名は出るが数値は出ない、という状態が続いているのがこの領域の現状である。広告主側で検討する場合、効果は媒体側の公表値ではなく自社でブランドリフト調査を設計して取りにいく前提で臨むほうが現実的だと考えられる。

なぜこの動きが起きたのか

背景は3つに整理できる。

第一に、ゲーム人口の構成が広告主の想定とずれている。 WPPメディアがフランス市場について示した「ゲーマー4,000万人=人口の70%、平均年齢40歳、男女比はほぼ均等」というデータは、ゲーム=若年男性という前提を正面から否定する。これが正しければ、ゲーム内広告は若年層リーチの特殊施策ではなく、リーチの広いマス施策として検討する対象になる。ゲーマー像の実態についてはゲーマー向けマーケティングとは?ゲームユーザーの行動特性・施策比較・ブランド体験設計ガイドで詳しく扱っている。

第二に、出稿量と接触量のギャップが放置されていた。 WPPメディアはゲーム領域への広告投資が世界の広告費の5%にとどまると指摘している。可処分時間の占有率と広告費の配分が一致していない領域は、代理店にとって提案余地の大きい未開拓市場になる。「広告の次のエルドラド」という同社の表現は、この構造を指している。

第三に、ブランドセーフティと計測の前提が整ってきた。 GadsmeがIASやDoubleVerifyと接続し、IVTを0.5%未満と公表できる状態になったことは、大手代理店が扱える最低条件を満たしたということでもある。代理店がゲーム領域を常設メニューに格上げできたのは、効果が新しく証明されたからではなく、買い付けと検証の実務が既存のデジタル広告と同じ手順で回せるようになったからと見るのが妥当だろう。

媒体としてのゲーム内広告が、他の広告媒体の中でどの位置にあるのかを俯瞰したい場合は広告媒体とは?主要17種類の特徴・費用・選び方を徹底比較【2026年版】を参照してほしい。

日本市場ではどうか

「日本の大手代理店にはゲーム専門の部門がない」という見方は、すでに正確ではない。

博報堂DYグループでは、2023年8月1日設立の株式会社ARROVA(東京都渋谷区、代表取締役社長 河合佑介氏、博報堂DY ONE子会社)が自らを「国内初のゲームメディア専門マーケティングエージェンシー」と位置づけ、広告セールス、広告クリエイティブ制作、ゲーム開発、デジタルファッションを手がけている(出典: ARROVA公式会社概要)。そして2026年5月13日、ARROVAはGadsmeのゲーム内広告商品の取り扱いを開始し、広告主の募集を始めている

同社が扱う在庫はプレミアムタイトル中心で、月間アクティブユーザー180万人超のモバイルサッカーゲームを含み、PCにも対応する。主要サッカーゲームタイトルは2026年夏より配信予定と公表されている。同社の調査では、ゲーム内広告は従来型デジタル広告と比べて購買喚起効果が約1.7倍で、広告回避も低いとされる(出典: GameBusiness.jp、2026年5月13日)。

Gadsme CEOのモントゥー氏は「インゲーム広告は、プレイ体験を中断するものではなく、その体験の自然な延長線上にあるべき」、ARROVAの河合氏は「ゲーム空間における広告も、ゲームの世界観やプレイ体験を損なわず、自然に存在することが重要」とそれぞれコメントしている。

つまり、フランスで起きている構造変化は日本でもすでに始まっている。ただし、両者には質的な差がある。

観点

Gaming Ads Garden(仏)

ARROVA経由のGadsme(日本)

立ち位置

代理店専売のPMP

1事業者の商品の取り扱い

在庫の束ね方

複数事業者を横断(Gadsme/TapNation/Gameloft/Azerion/Twitch/YouTube Gaming)

Gadsmeの在庫

around-game在庫

含む

公表資料に記載なし

効果測定

3軸+自社パネル15,000人+第三者計測

自社調査値を提示

日本にまだ確認できないのは、複数の事業者の在庫を横断して1つの窓口にまとめたPMPである。存在しないと断定はできないが、現時点で公開情報からは確認できていない。

このほか、日本の広告主が直面する障壁としては、国内タイトルのin-game在庫がプラットフォーム横断で束ねられていないこと、ゲーム内広告のビューアビリティやブランドセーフティ計測が広告主の標準要件になりきっていないこと、ゲーム世界観に合わせた素材調整が必要で既存バナーの流用では成立しないこと、多くの企業でゲーム内広告が独立した予算枠を持たずデジタル枠の実験予算にとどまっていることが挙げられる。

大型デジタルサイネージが並ぶ東京・渋谷の街並み。日本のゲーム内広告市場を象徴するイメージ

日本で同じ広告を実施する選択肢

Gaming Ads Gardenは「WPPメディア フランス法人専売」と明記されており、日本展開についての言及は現時点で見当たらない。日本の広告主が同種の施策を実施する場合、現実的な選択肢は次の3つになる。

  1. ARROVA経由でGadsmeの在庫に出稿する — 海外の大型タイトルを含むプレミアム在庫にアクセスでき、IAS/DoubleVerifyを前提とした計測環境をそのまま使える。グローバル展開しているブランドや、海外タイトルの世界観に合う商材に向く。
  2. 国内のゲーム内広告アドネットワークを使う — 国内タイトルを横断して単一の発注・単一のレポーティングで運用する形。日本の生活者に向けた認知施策として設計しやすい。
  3. 個別タイトルとタイアップする — 話題性は最大化できるが、継続運用には向かず、都度の交渉と制作が発生する。

Ad-Virtuaは2番目にあたる。国内400タイトル以上をひとつの窓口で扱い、ゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信するアドネットワークで、累計再生数は8,000万回を超えている(2025年後半時点、自社実績)。1週間300,000円のプランを用意しており、CPMは約300円(通常500円との比較)、広告想起率は約1.8倍、注目度は約1.7倍、好感度は約85%という自社数値を公表している。Gaming Ads Gardenが実現した「バラバラの在庫を単一の発注窓口に集約する」という設計思想を、国内タイトルで先に形にしているのが位置づけとして近い。

こんな企業におすすめ

  • 国内の生活者に対する認知・想起の獲得が目的で、ターゲットが特定の狭いセグメントに限定されていない
  • TVCMやSNS広告の補完として、可処分時間の長い接点を新たに確保したい
  • すでに動画素材があり、ゲーム空間の看板・モニターサイズに転用できる
  • 月次で運用し、複数タイトルにまたがる配信結果を1つのレポートで見たい

おすすめしない企業

  • フランスをはじめとする特定の海外市場でのリーチが目的(この場合はWPPメディアのような現地の代理店経由が適切)
  • ゲーム実況やゲーム動画の周辺(around-game)への露出が主目的。Ad-Virtuaはプレイ中の視界に入るゲーム空間内のサイネージ広告に特化しており、TwitchやYouTube Gamingの面は対象外
  • 短期の直接獲得(CPA)を主KPIに置いており、認知・想起の中間指標を評価対象にできない
  • 特定タイトルのIPを使ったコラボ企画そのものが目的

なお、WPPメディアは代理店側のバイイング機能、Ad-Virtuaは媒体・配信側であり、両者は競合関係にない。日本で同じ構造を作る場合、Ad-Virtuaは在庫供給レイヤーに位置する。

関連する基礎知識

FAQ

Q. 公式プレスリリースがないのに、この情報は信頼できるのか。

A. 一次情報の強さとしては弱い部類に入る。ただし、フランスの業界メディア3紙が同一の数値・パートナー構成で報じており、さらに在庫パートナーであるGadsmeが自社の公式プレスページに当該記事を掲出している。当事者企業が否定せず公式に掲出しているという点で、内容の骨格は事実として扱ってよいと考えられる。一方で、在庫規模や引用データの原典が示されていないため、社内資料で引用する際は「WPPメディアがフランス業界メディアに対して説明した内容」という但し書きを付けるのが安全である。

Q. PMP(プライベートマーケットプレイス)とオープンなプログラマティック購入は何が違うのか。

A. PMPは、媒体側が招待した特定のバイヤーだけが参加できる非公開の取引枠である。オープンオークションと比べて在庫の素性が明確で、ブランドセーフティのコントロールがしやすい一方、参加できる買い手が限られる。Gaming Ads GardenがWPPメディア フランス法人の専売とされているのは、この性質によるもので、他の代理店や広告主が直接買い付けることはできない。

Q. 日本の企業がGaming Ads Gardenを使ってフランスに出稿することはできるのか。

A. 公開情報では、WPPメディア フランス法人のクライアント向けの専売オファーとされている。日本企業がフランス市場向けに検討する場合は、WPPメディアの現地法人またはグループ内のエージェンシー経由での相談が現実的な入口になる。日本国内向けの提供については、現時点で言及がない。

Q. ゲーム内に広告を出すと、プレイヤーから反発されないのか。

A. Gadsmeはオーバーレイ・インタースティシャル・ポップアップを使わず、ゲーム内の看板やサイネージとして3Dアセットに組み込む方式を採っている。パブリッシャー側のARPDAUが+8〜20%改善し、かつ他のマネタイズ設計やプレイ体験に影響を与えないと公表していることから、プレイを中断しない形式であればゲーム体験と両立しうるという立場をとっていると読める。ただし、これは配置設計とクリエイティブの質に依存する部分が大きく、どのゲームでも自動的に成立するわけではない。

Q. WPPメディアはなぜフランスから始めたのか。

A. 公式の説明は確認できていない。報道で示された前提としては、フランスは人口の70%にあたる4,000万人がゲームをプレイし、平均年齢40歳、男女比もほぼ均等という市場環境がある。また在庫パートナーの中核であるGadsmeがフランス・パリ発の企業であることも、現地で在庫を束ねやすかった背景として考えられる。