Gadsme(ガズミー)は、フランス・パリ拠点のゲーム内広告プラットフォームで、モバイル・PC・コンソールゲームの画面内にあるビルボードや看板などの3Dオブジェクトに、動画・ディスプレイ・音声広告をネイティブに差し込む技術を提供している。2026年5月、博報堂DYグループの株式会社ARROVA(東京)がGadsmeのインゲーム広告商品の取り扱いを開始したことで、日本の広告主が実際に出稿相談できる窓口がすでに存在する状態にある。

発表の内容

Gadsmeを巡る最も新しい確定事実は、日本市場での取り扱い開始である。2026年5月13日、博報堂DYグループのARROVA(東京)が、Gadsmeのインゲーム広告商品の取り扱いを開始し、広告主の募集を始めたと公式発表した(出典: PR TIMES掲載のARROVAプレスリリース)。

発表では、対象インベントリの例として「月間アクティブユーザー180万人超の人気モバイルサッカーゲーム」を含むプレミアム在庫が挙げられており、モバイル・デスクトップPCの両方に対応するとされている。取り扱い元のGadsme紹介文では「Ubisoft、SEGA、Lion Studioを含む100社以上のゲーム開発会社と協業」という表記が使われている一方、Gadsme公式サイトのadvertisersページでは「200以上のスタジオ」という表記になっており、数値には食い違いがある。時期やカウント基準の違いによるものと考えられるが、理由は確認できていない。

この日本展開は単発の出来事ではなく、2024年のマルチエンジンSDK対応や2025年のKonami・Zynga・adWMGとの相次ぐ提携という拡大路線の延長線上にある。詳細は後述する「ここまでの歩み」で時系列に整理する。

Gadsmeの公式ロゴ
出典: Gadsme(

Gadsmeとはどんな会社か

Gadsmeは2020年初頭、フランス・パリで創業された。創業者はGuillaume Monteux(CEO)、Luc Vauvillier(CTO)、Simon Spaull(CRO)の3名。GuillaumeとLucは2017年にAlticeに買収されたデジタル企業の構築に9年間従事した経験を持ち、その後Simonが合流して現在の経営陣を形成した。従業員規模は公式非公表で、二次情報(LinkedIn・PitchBook)では11〜50人程度とされているが幅があり、正確な人数は確認できていない。

何を提供しているか

Gadsmeが提供するのは「イントリンシック(内在型)ゲーム内広告」と呼ばれる方式のアドテクプラットフォームである。ゲームを中断して全画面表示されるインタースティシャル広告とは異なり、ゲームのワールド内にもともと存在するビルボード・ポスター・壁面・旗・ロゴ・店舗の看板などの3Dオブジェクトに、動画・ディスプレイ・音声の3フォーマットで広告をリアルタイムに動的差し込みする。ゲームスタジオはSDKを自社タイトルに組み込むことで広告在庫を提供し、広告収益の一部を受け取るレベニューシェア型のビジネスモデルを採用している(分配率は非公開)。

従来型のインタースティシャル広告(全画面表示でゲームを中断するタイプ)の例
出典: Gadsme(
Gadsme導入後のネイティブなゲーム内広告(ゲーム空間の看板等に溶け込む表示)の例
出典: Gadsme(

上の2枚はGadsme公式サイトが掲げるBefore/After比較で、画面を遮る従来型の広告(Before)と、ゲーム空間の看板に溶け込む形で表示されるGadsmeの広告(After)の違いを示している。このように、ゲーム内広告とはの記事で解説している「サイネージ型のゲーム内広告」に近い方式を、Gadsmeは自社開発(フルプロプライエタリ)の配信技術で実現している。

広告主側は、Gadsmeのプラットフォームを通じてプログラマティックにゲーム内在庫へ出稿できるとされているが、接続先のSSP・DSPの具体名は公式サイトに明記されておらず確認できていない。

都市の屋外広告(ビルボード)とゲーム内広告の到達力を比較するイメージ
出典: Gadsme(

対応プラットフォームとインベントリ規模

対応デバイスはモバイル・PC・コンソール。対応エンジンはUnity、Unreal、および全てのC++プロプライエタリエンジンで、2024年10月のSDK拡張でGodot・Cocos2dにも対応が広がった。提携スタジオ数は公式サイトで「200以上」、ARROVA向け日本語プレスリリースでは「100以上」と表記が分かれている。稼働タイトル数については、2025年10月のZynga提携の報道内で「1,600以上のモバイルゲーム」でプラットフォームが稼働中と紹介されている(報道ベース)。不正トラフィック(IVT)率はポートフォリオ全体で0.5%未満と公式サイトに記載がある。

なお、CTOのLuc Vauvillierは2022年のシード調達発表時、「自社開発アーキテクチャは、今後あらゆるゲーム・メタバース広告の機会に対応できる準備が整っている」とコメントしており、ゲームプラットフォームの外側への展開も視野に入れていることがうかがえる。

主要パートナー

ゲームスタジオ・パブリッシャーとしてはUbisoft、SEGA、Konami、Zynga、Gameloft、Miniclip、Voodoo、Outfit7、Ketchappなどとの提携が公表されている。計測・アドベリフィケーション領域ではIntegral Ad Science(IAS、2022年12月提携発表)とDoubleVerifyが協業パートナーとして名を連ねる。業界団体としてはIAB Europeへの加盟、TAG(Trustworthy Accountability Group)関連の表記がある。広告代理店ではWPP、Publicis、Havas、Arena Media、OMG(Omnicom Media Group)などがロゴ掲載企業として紹介されている。日本市場では、博報堂DYグループの株式会社ARROVA(東京)が2026年5月から販売パートナーとなっている。

提携パブリッシャーとして紹介されているKONAMIのロゴ
出典: Gadsme公式サイトのパートナー紹介欄より(KONAMIロゴの著作権はKONAMIに帰属)(

ここまでの歩み

Gadsmeはスタートアップであるため、資金調達履歴と提携の広がりを時系列で振り返る。

資金調達の振り返り

公式に確認できる資金調達ラウンドは、現時点で以下の1回のみである。

時期

ラウンド

金額

リード投資家

主要参加投資家

このとき会社は何をしようとしていたか

2022年4月

シードラウンド

800万ドル

Galaxy Interactive

Ubisoft、複数のゲーム企業創業者(個人名非開示)

事業スケールに向けた主要人材の採用と、クロスプラットフォーム技術への投資

CEOのGuillaume Monteuxはこの調達時、「事業に幅広い知見と専門性をもたらしてくれるパートナーを見つけたかった」とコメントしている。リード投資家のGalaxy Interactiveに加え、ゲームパブリッシャーであるUbisoftが投資家としても参加している点が特徴で、Ubisoftは後にパブリッシャーパートナーとしても提携している。これ以降、シリーズA等の追加ラウンドは公式ニュースルーム・Crunchbase・PitchBookのいずれにも記載がなく、確認できていない。日本企業の投資家参加も確認できなかった。累計調達額は公式発表ベースでは800万ドル(シードのみ)である。二次サイトでは「8.33Mドル」という表記も見られるが、これは二次サイトの集計値であり参考値にとどまる。

提携・事業展開の推移

時期

出来事

2020年初頭

Guillaume Monteux・Luc Vauvillier・Simon Spaullの3名で創業

2022年4月

シードラウンド800万ドル調達(Galaxy Interactive主導、Ubisoft参加)

2022年9月

Targetspotとの協業でオーディオ広告フォーマットを開始(ディスプレイ・ビデオに次ぐ第3フォーマット)

2022年12月

Integral Ad Science(IAS)と計測パートナーシップを発表

2024年10月

Unity以外(Unreal・Godot・Cocos2d・カスタムC++)に対応する新SDKを発表し、モバイル中心からPC・コンソームへ対応を拡張

2025年5月

adWMGと提携。Xbox・PlayStation向け広告主にモバイルゲーム内在庫へのアクセスを提供

2025年7月

Konamiとパブリッシャー契約。eFootball等のモバイルタイトルおよびeスポーツ領域への展開

2025年10月

Zyngaと提携。複数モバイルタイトルにイントリンシック広告を導入

2026年5月

博報堂DYグループARROVAがGadsme商品の取り扱いを開始(日本市場)

公式ニュースルーム・報道のいずれにおいても、Gadsmeの事業撤退・サービス終了・大規模な人員削減といったネガティブな出来事は確認できなかった。創業以来、資金調達から計測パートナー拡充、提携パブリッシャー拡大、対応エンジン拡張、そして日本を含む地域販売網の拡大へと、公表情報からは右肩上がりの拡大路線を辿っているように見える。ただしこれは当事者発表に基づく整理であり、独立した経営状況の裏付けまでは取れていない点には留意したい。

2026年5月のARROVAとの提携は、この一連の拡大路線の延長線上にある、アジア・日本市場への公式な販売チャネル確立と位置づけられる。Gadsme・ARROVAいずれも「日本進出第一号」といった表現はしておらず、あくまで「取り扱い開始」という表現にとどまっている点は誇張せずに書いておきたい。

広告出稿事例

Gadsme公式サイトのadvertisersページには、Vodafone、Adidas、McDonald's、PayPal、Spotify、L'Oréal、Unilever、LEGO、Marriott、Powerade、Magnum、Lynxなどのブランドロゴが導入企業として掲載されている。ただし、個別ブランドごとに「どのタイトルで、どんな効果が出たか」を明記したケーススタディページは確認できなかった。公開されているのは、ブランド横断の集計値と、導入タイトルの紹介にとどまる。

1. ブランドリフトの集計値(公式サイト、ブランド横断の平均値)

広告想起率が平均35%向上し、ブランドイメージ・購入検討意向は平均+25ポイント向上するという数値が公式サイトの訴求文言として掲載されている(出典: Gadsme公式advertisersページ)。比較対象や調査主体・算出方法は非公開であり、数値としては参考値として扱う必要がある。

2. ARPDAU向上(パブリッシャー向け集計値)

パブリッシャー向けには「一般的にARPDAU(1日あたりユーザーあたり平均収益)が8〜20%向上する」という数値が掲載されている(出典: Gadsme公式publishersページ)。こちらも個別スタジオ名や具体的な数値の内訳は非公開である。

3. 導入タイトルの紹介

効果指標の記載はないが、LEGO Minecraft、Hungry Sharksなどが導入タイトルとして画像付きで紹介されている。

LEGO Minecraftでのゲーム内広告掲載イメージ
出典: Gadsme(
Hungry Sharksでのゲーム内広告掲載イメージ
出典: Gadsme(

このように、Gadsmeは個社の広告出稿事例(キャンペーン単位のケーススタディ)を公式に詳細公開していない。導入ブランド名の羅列と、業界横断の集計指標の提示にとどまっている点は、他の海外ゲーム内広告プラットフォームと比較する際の判断材料として押さえておきたい。

なぜこの動きが起きたのか

Gadsmeが2024年以降にPC・コンソームへの対応拡張や大型パブリッシャーとの提携を相次いで発表している背景には、モバイル向けゲーム内広告市場だけでは頭打ちになりやすいという業界共通の事情があると考えられる。2024年10月のマルチエンジンSDK対応でUnity一辺倒からUnreal・Godot・Cocos2d・カスタムC++にも対応を広げたことで、モバイルタイトルに限らずPC・コンソームタイトルの広告在庫を取り込める体制を整えた。続く2025年のKonami・Zynga・adWMGとの提携は、パブリッシャー側の在庫拡大(Konami・Zynga)と広告主側の需要拡大(adWMG経由のコンソーム広告主のモバイル展開)という両輪で事業を伸ばす動きと位置づけられる。

2026年5月のARROVAとの提携も、この延長線上にある地域拡大の一環と考えられる。日本市場は広告代理店経由の商流が主流であるため、単独進出よりも国内代理店との提携を選ぶのは自然な戦略と言える。

日本市場ではどうか

日本国内では、2026年5月13日に博報堂DYグループのARROVAがGadsmeのインゲーム広告商品の取り扱いを開始し、広告主の募集を始めたと公式発表している。これにより、日本の広告主がARROVAを窓口としてGadsmeへの出稿相談をすること自体は可能と見られる。

ただし、最低出稿金額・最低契約期間・代理店手数料の構造など、意思決定に必要な条件はプレスリリースに記載がなく確認できていない。また、Gadsmeの広告想起率・ブランドイメージ向上といった効果指標はグローバルの集計値のみで、日本市場特有のデータは公開されていない。出稿の窓口が現時点では単一代理店(ARROVA)に限られている点も踏まえ、実際に出稿を検討する場合は個別に条件を確認する必要がある。

なお、ゲーム内広告とはで整理しているとおり、ゲーム空間内の看板・モニターに広告を表示する「サイネージ広告」は、インタースティシャル広告やリワード広告とは異なるゲーム内広告の一分類であり、Gadsmeが手がける方式もこの分類に含まれる。

日本で同じ広告を実施する選択肢

Gadsmeが手がける「ゲーム空間の看板やモニターに広告を差し込む」方式は、国内アドネットワークのAd-Virtuaが提供する広告方式と概念上近い。日本の広告主が同種の広告を実施する場合、ARROVA経由でGadsmeに出稿する以外に、国内向けに実績を積んでいるAd-Virtuaのようなアドネットワークを利用する選択肢もある。

Gadsmeは海外パブリッシャー中心・英語圏ブランドの事例が中心で、対応タイトル数は「1,600以上のモバイルゲーム」(報道ベース)とされているものの、国内タイトルへの導入状況や日本語での訴求実績は現時点で確認できていない。出稿条件(最低金額・契約期間・手数料)も非公開のため、意思決定のスピードを重視する広告主にとっては材料が少ない状態にある。

一方でAd-Virtuaは、国内400タイトル以上への導入実績、累計再生数8,000万回超(2025年後半時点)、1週間30万円というプラン料金、広告想起率約1.8倍・注目度約1.7倍という国内向けの実績数値を公式に開示している。海外プラットフォームが提示する「想起率+35%」等のグローバル集計値と、国内実績に基づくAd-Virtuaの数値は調査手法・比較対象が異なるため単純比較はできないが、いずれも「ゲーム空間の看板・モニターに広告を表示する方式」自体の有効性を示す参考値として捉えられる。ゲーム内広告の費用相場と合わせて確認すると、条件面の比較がしやすくなる。

すでに海外ブランドとの取引実績があり、英語での契約・レポーティングに支障がなく、単一代理店経由の出稿フローでも問題ない広告主にはGadsme・ARROVA経由の選択肢が合う。一方、国内での導入実績・料金体系を確認したうえでスピーディに意思決定したい広告主には、条件を公式に明示している国内アドネットワークの利用が現実的な選択肢になる。

広告主が取るべき判断

今すぐ動くべきなのは、すでに海外ブランドとしてグローバルにゲーム内広告を出稿した経験があり、Gadsmeの提携パブリッシャー(Ubisoft・SEGA・Konami・Zyngaなど)のタイトルに強い関心を持つ広告主である。ARROVAという窓口が存在する以上、出稿相談自体のハードルは低い。

様子見でよいのは、国内向けの費用対効果データや導入実績を重視する広告主、あるいは最低出稿金額・契約条件が非公開のまま意思決定することにリスクを感じる広告主である。この場合は、条件を公式に開示している国内アドネットワークの実績を先に確認し、比較材料をそろえてから検討するのが妥当である。

関連する基礎知識への導線

Gadsmeが採用する「ゲーム空間内の看板・モニターに広告を表示する」方式の全体像は、ゲーム内広告とはで整理している。ゲーム内広告の種類(インタースティシャル・リワード・サイネージ・コラボ型)の違いを理解したうえで本記事を読み直すと、Gadsmeがどの分類に属する会社かがより明確になる。

FAQ

Q. Gadsmeは日本法人を持っているか。 確認できていない。日本市場での取り扱いは、博報堂DYグループのARROVAが窓口となっており、Gadsme自身が日本国内に拠点を置いているという情報は確認できなかった。

Q. 日本のプレイヤーが実際に遊んでいるタイトルでもGadsmeの広告は表示されるか。 確認できていない。Gadsmeが導入タイトルとして紹介しているLEGO MinecraftやHungry Sharksは日本でも遊ばれているタイトルだが、日本語圏のユーザーに向けて広告が実際に配信されているかどうかの個別情報は公開されていない。提携スタジオにはUbisoft・SEGA・Konamiなど日本のプレイヤーにもなじみのある企業が含まれているが、日本語での訴求実績や国内ブランドの出稿事例は現時点で確認できていない。

Q. なぜGadsmeはUnity以外のゲームエンジンにも対応を広げたのか。 モバイルゲームの多くはUnity製だが、PC・コンソームタイトルにはUnreal Engine製の作品も多い。2024年10月にUnreal・Godot・Cocos2d・カスタムC++エンジンへの対応を発表したことで、モバイル中心だった広告在庫をPC・コンソームタイトルにも広げられる体制を整えた。この対応拡大は、同時期以降に相次いだKonami・Zyngaとの大型パブリッシャー提携の前提条件にもなっていると考えられる。

Q. Gadsmeとキッズスター(ごっこランド)のような国内サービスは競合するか。 対象読者層・広告方式が異なるため単純比較はできない。Gadsmeはグローバルのモバイル・PC・コンソームゲームのビルボード等に広告を差し込む方式で、キッズスターは未就学児〜小学校低学年とその保護者向けのアプリを主戦場としている。国内でGadsmeと概念上近い方式を提供するのはAd-Virtuaのようなゲーム内サイネージ広告のアドネットワークである。