Discordは2025年10月2日、ブランドが選んだゲームをユーザーが選んでプレイする新広告フォーマット「Arena Quests」を発表し、同時にAppsFlyer・Gamesightという2社のモバイル・PC計測プラットフォームとの提携を締結した。日本の広告主にとっては、「報酬型の広告フォーマット」と「効果を数値で証明する計測体制」を同時に整えるのが海外の標準になりつつあることを示す事例として読める。

発表の内容
2025年10月2日、Discord(正式社名 Discord Inc.)は自社の広告事業「Discord Ads」の公式プレスリリースで、以下4点を同時に発表した。
- Arena Quests: 新しい広告フォーマット。ブランドが厳選したゲームタイトルやテーマ別バンドルの中からユーザーが1本を選んでプレイし、規定時間プレイを完了すると、Discord内の仮想通貨「Orbs」やアバター装飾を獲得できる。現状は限定パートナー向けのAlphaテスト段階。
- Video Quests on Mobile の本格展開: Discord初のモバイル向け広告フォーマット。2025年6月にパイロットを開始しており、今回はモバイル・PC横断でのリーチ拡張に向けた本格展開のタイミングにあたる。
- AppsFlyerとの計測パートナーシップ: DiscordにとってAppsFlyerは初のモバイル計測プラットフォーム(MMP)パートナー。プライバシーに配慮したキャンペーン測定・ターゲティングを提供する。
- Gamesightとの計測パートナーシップ: PC・コンソールのパブリッシャー向けに、サーバー間イベントAPI連携でインストール・ログイン・購入といったゲーム内アクションをDiscord広告のエンゲージメントに直接紐付ける。ベータテスト提供中。

この発表は単発ではなく、2025年5月のKantar(ブランドリフト計測)パートナーシップに続く、Discordの計測パートナー拡充の第3弾という位置づけである。Digidayの報道整理によれば、Kantarが5月、AppsFlyerが7月頃に先行テスト、Gamesightが10月2日に正式発表という順序をたどっている。
Discord広告担当のAdam Bauer(VP of Sales and Ads Solutions)は「Discordの Quests は、報酬型広告の未来を体現するものです。ユーザーには本物の価値を届けながら、広告主には意味のあるインパクトをもたらします」とコメントしている(Discord公式プレスリリース、2025-10-02)。AppsFlyerのAdam Smart(Director of Product)も「Discordのエンゲージメントの高いコミュニティは、マーケターがプレイヤーと本物のかたちでつながる稀有な機会を提供します」と述べた(同上)。
なお、2025年に実施されたQuestsユーザー約1,000人対象のDiscord独自調査では、直近1か月にQuestsへ接触したユーザーの50%超が「Discord体験が向上した」と回答したという(Discord公式プレスリリース)。
Discord Ads「Quests」の広告事業
Discordはコミュニケーションアプリとして広く知られているが、本章では広告事業部門「Discord Ads」、なかでも今回の発表の中心である「Quests」製品群に絞って解説する。
- 運営会社: Discord Inc.(設立2012年、本社は米カリフォルニア州サンフランシスコ)
- 月間アクティブユーザー(MAU): 2億人以上(複数の公式発表で一貫して言及)
- 日次アクティブユーザー(DAU): 9,000万人以上(discord.com/ads/quests 公式記載)
Questsの仕組み
Quests広告は「受け入れる(Accept)→ アクションを実行する(ゲームプレイ/動画視聴)→ 報酬を得る(Orbsやアバター装飾)」という3ステップで構成される、オプトイン型・報酬型の広告フォーマットである。ユーザーのチャット欄やコミュニティのやり取りそのものには広告を表示せず、ホーム画面などにQuestカードとして提示される点が特徴だ。

2025年10月時点の製品ラインナップ(discord.com/ads/quests 記載)は以下の4種類。
製品名 | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
Play Quests | 対象ゲームを規定時間プレイすると報酬を獲得。新規獲得・復帰促進向け | PC |
Video Quests | 動画(トレーラー等)視聴で報酬を獲得 | PC・モバイル |
Video Quests on Mobile | Video Questsのモバイル拡張版(2025年6月パイロット、10月本格展開) | モバイル |
Arena Quests | ブランドが選んだゲーム/バンドルからユーザーが選択してプレイ(Alphaテスト中) | PC想定 |
対応タイトル数はPCで8,000以上(Checkpoint 2ブログ、2025年3月31日時点)、Quest受諾中のゲーム起動率はPCプレイヤー平均で約40%、ゲームプレイ率はユーザーの90%以上に達するという(discord.com/ads/quests 公式記載値)。
主要パートナー
discord.com/ads/quests のロゴ掲載によると、Universal Pictures、Capcom、Blizzard、Paramount、Street Fighter、Marvel Snap、Brawl Stars、World of Warcraft、Dune: Prophecy、DOOM、Mission: Impossible、Diablo IV、Genshin Impact、THE FINALSなどが広告主として名を連ねる。計測パートナーはKantar(ブランドリフト、2025年5月〜)、AppsFlyer(モバイル計測、2025年10月〜正式)、Gamesight(PC/コンソール計測、2025年10月〜ベータ)の3社体制になった。
社内では、Adam Bauer(VP of Sales and Ads Solutions)とPeter Sellis(SVP of Product)が製品面のコメントを担当している。2024年後半にはJules Shumaker氏がChief Business Officer(CBO)として着任し、Discordの広告事業推進を主導しているとDigidayが報じている(就任日は本記事執筆時点で未確認)。
計測パートナー1: AppsFlyer
AppsFlyer Ltd.は2011年にイスラエルで創業(創業者Oren Kaniel・Reshef Mann、現CEO Oren Kaniel)、本社は米カリフォルニア州サンフランシスコに置く。モバイルアプリ向けのマーケティング計測・アトリビューション・不正検知・ディープリンクを提供するSaaS型のモバイル計測プラットフォーム(MMP)で、広告主やアプリ開発者がキャンペーン効果を測定し広告費を最適化するために利用する。公式Aboutページでは対応ブランド数「15,000以上」と記載されており、クライアント例としてHBO、Waze、Adidasが挙げられている(累計調達額・評価額は二次情報ベースの参考値のため本記事では割愛)。
計測パートナー2: Gamesight
Gamesight, Inc.は2015年に米ワシントン州シアトルで創業(創業者Adam Lieb・Anthony Kinson)。PC・コンソールゲーム専門のパフォーマンスマーケティングプラットフォームで、ゲームのプリローンチ(プレイテスト・市場調査)からローンチ(ユーザー獲得・インフルエンサー起用)、ポストローンチ(クリエイタープログラム・グロースマーケティング)まで一気通貫で支援し、中核製品は計測・アトリビューションとクリエイターマーケティングだ。公式サイト記載では対応タイトル数1,000以上、年間トラッキング広告投資額10億ドル以上、年間キャンペーン数10万以上、保有クリエイターデータベース1億2,900万人以上という規模を持つ。主要クライアントとしてKrafton、Netflix、Wizards of the Coast、Atlus Westなどが名を連ねる。Techstarsアクセラレータ出身のスタートアップで、シード段階の資金調達を経ている。

ここまでの歩み
Discord Ads / Questsは、コミュニティ・チャットアプリとして広告に慎重だった時期を経て、以下のように段階的に立ち上がってきた。
時期 | 出来事 |
|---|---|
2024年3月 | Play Quests ローンチ(Discord初の広告商品) |
2024年10月 | Video Quests ローンチ(第2弾。動画視聴型) |
2024年11月 | HBO『Dune: Prophecy』のVideo Questで映画・TV領域の広告主獲得に着手 |
2025年3月20日 | Video Quests on Mobile 発表(初のモバイル広告フォーマット。同年6月パイロット開始を予告) |
2025年3月31日 | Quests開始1周年ブログ「Checkpoint 2」公開。累計70以上のキャンペーン実施、パートナーの50%超がリピート出稿と発表 |
2025年5月28日 | Kantarとのブランドリフト計測パートナーシップ発表「Checkpoint 3」。同時にDiscord Orbs(新仮想報酬)を一部ユーザーへ展開開始 |
2025年6月 | Video Quests on Mobile パイロット開始 |
2025年7月頃(推定) | AppsFlyerとの計測テスト実施(Second Dinner/Marvel Snap) |
2025年10月2日 | 本発表: Arena Quests ローンチ(Alpha)、Video Quests on Mobile本格展開、AppsFlyer正式パートナーシップ、Gamesightベータパートナーシップ |
今回の発表は、2024年3月の「ゲームプレイで報酬」という単一フォーマットから始まり、動画・モバイル・ブランド選択型(Arena Quests)へとフォーマットを広げながら、Kantar→AppsFlyer→Gamesightと計測パートナーを並行して積み増してきた、約1年半にわたる拡張の最新到達点にあたる。フォーマットの新設と計測パートナーシップ発表を必ずセットで行っている点が一貫した特徴といえる。
なお、本記事の調査範囲では、Discord Ads/Quests領域における撤退やサービス終了の事実は確認できなかった。過去の失敗事例を踏まえて今回どこが変わったか、という比較はできないが、逆に言えば今回の発表までDiscordの広告事業は縮小を経験せず一貫して拡大路線を歩んできたことになる。
広告出稿事例
Second Dinner(Marvel Snap)
Second Dinnerは、VenomやThor、Spider-Manをテーマにしたスーパーヒーロー対決コンセプトで、Video Quests on Mobileを2本連続展開した。2本目でAppsFlyer連携(プレイヤーベースのモバイルターゲティング+サーバー間MMP)を活用したところ、Discord公式プレスリリースは「最初のQuestから30%のパフォーマンス向上」を達成したと表現している。
一方Digidayは、別のテスト(時期は7月頃と推定)として、Marvel Snapのキャンペーンで「インプレッション1,500万件以上」「Quest完了率99%」「インストール単価(CPI)30%削減」という具体的な数値を報じている。プレスリリースの「30%パフォーマンス向上」とDigiday報道の数値が同一キャンペーンを指すのか、Second Dinnerの別テストを指すのかは、本記事執筆時点の一次情報では確認できていない。両者は出典が異なる別々の記録として扱うのが適切だろう。

Genshin Impact(HoYoverse)
Discordが2025年3月20日に発表したVideo Quests on Mobile発表分によれば、Genshin ImpactはVideo Quest(友人へのストリーミング配信で報酬を付与する仕組み)を実施し、キャンペーン中のプレイ時間が80%増加したという(数値は要約ベースの二次確認のため、原文の完全な確認は推奨されるが、公式プレスリリースを出典とする)。
HBO『Dune: Prophecy』
2024年11月、HBOの『Dune: Prophecy』はVideo Questでトレーラー視聴を促進した。Discordの広告事業が映画・TV領域に拡大した最初の事例で、トレーラー視聴完了率85%を達成したと公式発表されている。

なぜこの動きが起きたのか
Discordはコミュニティ・チャットアプリとして、これまで広告に否定的な立ち位置を取ってきた経緯がある。その中で2024年3月のPlay Quests発表を皮切りに広告事業を段階的に立ち上げ、「チャット欄そのものには広告を出さず、ユーザーが任意で受け入れるオプトイン型の報酬広告に限定する」という設計を一貫させてきた。
今回の発表で計測パートナーシップ(AppsFlyer・Gamesight)を新フォーマットと同時に打ち出したのは、広告主に対して「Discordの報酬型広告がインストール・購入・エンゲージメントにどう寄与したか」を第三者の計測基盤で証明できる体制を示す狙いがあると考えられる。フォーマットの目新しさだけでなく、効果を数値で説明できることが広告予算獲得の条件になっている業界の流れを反映した動きといえる。
日本市場ではどうか
本記事の調査時点で、Discordの日本国内ユーザー規模について公式開示は確認できていない(二次情報ではMAU約800万人・DAU約400万人という数値が見られるが未確認)。一方で、日本国内での広告取り扱い体制は2026年に入って動き始めている。
- 2026年5月19日、博報堂DYグループ傘下のARROVAが「国内初のゲームメディア専業マーケティングエージェンシー」として、DiscordのVideo Quests・Play Questsの日本国内取り扱いを開始したと発表した。Quest完了率は「96%(中央値、Discord社内データ2025年12月時点)」、DAU「9,000万人以上」を紹介値として引用している(ARROVA公式プレスリリース)。
- 2026年5月28日、CARTA ZERO(東京都港区)が「日本初の代理店パートナー」として選定され、米Discord本社と直接連携する体制を構築した。UbisoftのモバイルゲームIP『レインボーシックス モバイル』の日本ローンチキャンペーンでQuestsフォーマットを14日間活用したと発表している(CARTA ZERO公式サイト)。
ただし、現時点で日本国内代理店が取り扱いを表明しているのはVideo Quests・Play Questsであり、今回のニュースの中心であるArena Quests(Alphaテスト中)、およびAppsFlyer・Gamesightとの計測パートナーシップが日本の広告主に提供されているかどうかは確認できていない。海外での新フォーマット発表から日本での取り扱い開始までにタイムラグが生じている実例として捉えるのが実態に近いだろう。
Discordのようなオプトイン型の報酬広告は、ゲーム内広告全体の中でも「ユーザーが自発的にアクションを起こして報酬を得る」フォーマットに分類される。ゲーム内広告のフォーマット全体像についてはゲーム内広告とはで整理している。
日本で同じ広告を実施する選択肢
DiscordのQuestsシリーズは「アクション(プレイ・視聴)完了で報酬」というオプトイン型・リワード型の広告フォーマットであり、国内でも同種の設計思想を持つリワード広告は存在する。一方でAd-Virtuaが提供するのは、ゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信するサイネージ型の広告で、フォーマットとしてはDiscordのQuestsとは異なる。
Ad-Virtuaが選択肢になりやすいのは、次のような条件の企業だ。
- 日本国内のモバイル・カジュアルゲームのユーザー層(対応400タイトル以上)にリーチしたい
- 海外プラットフォームの英語サポート・審査プロセスを介さず、日本語で完結する導入体制を求めている
- 想起率・注目度・CPMといった指標を国内実績(広告想起率約1.8倍、注目度約1.7倍、CPM約300円)で確認したうえで予算判断したい
- 1週間300,000円プランのように、比較的小さい単位からテスト出稿を始めたい
逆に、Discordのようなグローバル・PC中心のゲーマーコミュニティへの直接リーチや、AppsFlyer・Gamesightと連携したモバイル/コンソールタイトルのインストール計測そのものを目的とする場合は、現時点の日本国内取り扱い状況(ARROVA・CARTA ZERO経由のVideo Quests・Play Questsのみ)を踏まえたうえで、海外プラットフォーム側の代理店に直接相談する選択肢のほうが目的に合う。
広告主が取るべき判断
今動くべき企業の条件
- 国内のモバイル/カジュアルゲームユーザーへの認知拡大を、比較的低コストで今すぐテストしたい企業
- TVCMやSNS広告の補完として、ゲーム内の生活者接点を検証したい食品・飲料・日用品・外食チェーンのマーケティング担当者
様子見でよい企業の条件
- DiscordのArena QuestsやAppsFlyer/Gamesight連携そのものを使いたい企業(現時点で日本向け提供は未確認のため、今後の代理店発表を待つのが妥当)
- グローバルPCゲーマー以外がメインターゲットで、Discordのユーザー層と自社ターゲットの重なりが小さい企業
関連する基礎知識への導線
- ゲーム内広告とは — サイネージ広告・リワード広告など、ゲーム内広告全体の分類を整理したハブ記事
- リワード広告完全ガイド — Discord Questsのようなオプトイン型・報酬型広告の仕組みと国内実装例
- 広告効果とは — フォーマット発表と計測体制をセットで語る業界標準の考え方
FAQ
Q. Arena QuestsとPlay Questsは何が違うのか
Play Questsは対象ゲームを規定時間プレイするだけの単純な報酬型フォーマットだが、Arena Questsはブランドが用意した複数のゲーム・バンドルの中からユーザー自身が1本を選んでプレイする点が異なる。ユーザーの選択行動が挟まる分、興味関心に近いタイトルへの誘導効果が期待できる設計だが、本記事執筆時点ではAlphaテスト段階であり、公表された効果指標はまだない。
Q. Discord Adsに出稿するにはDiscord上にコミュニティ(サーバー)を持っている必要があるか
本記事の調査範囲では、出稿要件としてのコミュニティ保有の要否は確認できなかった。事例に挙がっているUniversal Pictures、Capcom、HBOなどは映画・ゲーム・配信コンテンツのブランドであり、Discordコミュニティ運営の有無にかかわらず出稿している例と考えられるが、正式な出稿要件は公式窓口への確認が必要である。
Q. AppsFlyerやGamesightは、Discord広告以外の計測にも使えるプラットフォームか
使える。両社ともDiscord専用の計測ツールではなく、AppsFlyerはモバイルアプリ全般のアトリビューション・不正検知を提供するMMP、GamesightはPC・コンソールゲーム全般のパフォーマンスマーケティング基盤であり、他の広告チャネルの計測にも利用されている。
Q. 日本の広告主がDiscordに直接問い合わせて出稿することは可能か
本記事の調査範囲では確認できていない。現時点で確認できているのはARROVA・CARTA ZEROという国内代理店経由での取り扱いであり、Discord本社への直接出稿ルートの有無や条件は公式情報での裏取りができていない。


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