イスラエル・テルアビブ発のインゲーム広告企業Anzu(Anzu Virtual Reality Ltd.)は、2017年の創業以来WPP・NBCUniversal・Sony Innovation Fund・Bandai Namco Entertainment 021 Fund・PayPal Ventures・American Express Venturesなど、メディア・広告・ゲーム業界の大手企業から連続的に出資を受けてきた企業である。日本の広告主にとっては、「ゲームプレイを止めない広告」がグローバルでどこまで投資対象として確立しているかを知る手がかりになる一方、国内で同じ仕組みを今すぐ使えるかは別問題であり、その選択肢を整理することが本記事の目的である。
発表の内容
Anzuに関する直近の公式発表は、2025年6月12日のAmerican Express Venturesからの戦略的出資である(金額非開示)。単発の資金調達ニュースというより、2017年の創業から続く一連の出資の最新回に位置づけられる。
CEOのItamar Benedy氏はこの発表で「プレミアムゲーム向けの広告は、広告主とデベロッパーの双方が『情熱を注いでいるゲームの中で消費者にリーチできる』という巨大な機会に気づくにつれて成長を続けている」とコメントしている。Amex VenturesのマネージングディレクターMargaret Lim氏も「ゲーミングは今や主流であり、ブランドはその機会に目覚めつつある」と述べた(出典: Anzu公式ニュースルーム、確認日2026-08-12)。
Anzuはゲーム内広告の中でも、ゲーム空間内の看板やモニターにディスプレイ・動画広告を配信する「イントリンシック(没入型)広告」を専門とする。イントリンシック広告カテゴリーの中では、資金調達額の大きさで言及されることの多いプレイヤーの一社とされる(複数の業界メディアの評価に基づく。「最大」を単一の数値で裏付ける一次資料は確認できていない)。
Anzuとはどんな会社か

正式社名はAnzu Virtual Reality Ltd.。運営ブランド名・サイト名はAnzu(anzu.io)で、2017年にイスラエル・テルアビブで設立された。本社はテルアビブに置き、ロサンゼルス・シカゴ・ニューヨーク・ロンドンにもオフィスを構える(出典: Anzu公式Aboutページ、確認日2026-08-12)。従業員数は第三者データベースの推計で約78〜79名(2026年5月頃時点、3大陸に展開)とされるが、Anzu公式による従業員数の発表は確認できていない。創業者はItamar Benedy氏(CEO)、Michael Badichi氏(CTO)、Ben Fenster氏(CPO)の3名とされているが、これも第三者データベース(Tracxn、TheOrg、Crunchbase)の記載に基づくもので、Anzu公式ページでの明記は確認できていない。
提供しているもの・仕組み
Anzuが提供するのは、ゲーム空間内のビルボード・看板・モニターなどにゲームプレイを中断しないディスプレイ広告・動画広告を配信する「イントリンシック広告」プラットフォームである。広告主向けには配信・計測プラットフォームを、ゲーム開発者(パブリッシャー)向けには広告在庫のマネタイズソリューションを提供する二面市場型のアドテク企業に当たる。広告フォーマットは「Blended Display」(クリック可否を選べるディスプレイ広告)、「Blended Video」(動画広告)、「Custom Ads」(カスタム広告)の3種類が公式サイトに記載されている(出典: Anzu公式advertisersページ)。



技術面では、独自特許のレイキャスティング(ray-casting)アルゴリズムを用いた3D広告トラッキングエンジンで、ゲーム画面内のブランドコンテンツの視認性を1秒間に複数回計測する。画面占有率・オクルージョン(遮蔽の有無)・仮想空間内の位置・ユーザー視点との向き関係といった、従来の2Dディスプレイ広告にはないデータポイントを収集している(出典: Anzu公式media-valueページ)。
対応ゲームエンジンはUnityとUnreal Engine(ノーコード対応)で、それ以外のエンジン向けにもSDKを提供する。AnzuはUnityの「Verified Solutions Partner Program」に参加した最初のインゲーム広告企業になったと公式発表している(発表時期の明記なし。出典: Anzu公式)。プログラマティック接続は「40以上のプログラマティックパートナーとの直接統合」と公式サイトに記載され、対応プラットフォームはモバイル・PC・コンソール・ゲーミングメタバースに及ぶ。対応タイトル数は公式サイトで「数百本のクロスプラットフォームの生きたゲームタイトル、全ジャンルを網羅」と表現されるのみで、具体的な本数や月間リーチ、月間アクティブユーザー数は公表が確認できなかった。
主要パートナー
出資企業がそのまま戦略パートナーになっているのがAnzuの特徴で、WPP・NBCUniversal・Sony Innovation Fund・Bandai Namco Entertainment 021 Fund・PayPal Ventures・American Express Ventures・Samsung Nextなどが名を連ねる。計測面ではIAS(Integral Ad Science)・HUMAN・Nielsen・Comscore・Lumenが現在のパートナーとして公式media-valueページに記載されている。過去にはOracle Moat(旧Moat by Oracle Data Cloud)ともGIVT(一般無効トラフィック)測定で提携していた(2020年)。配信面ではAPAC地域でInMobiと優先アクセスパートナーシップを、ラテンアメリカ地域ではEntravisionと独占パートナーシップを結んでいる。日本市場については2019年にゲシェル(Gesell)と営業戦略パートナーシップを結び、2020年には坂野拓也氏(元Xbox関係者)が日本市場代表に就任した記録があるが、2022年以降の公式発表にこの提携の継続を示すものは確認できていない。
ここまでの歩み — 資金調達の振り返り
Anzuの歩みは、資金調達のたびに出資企業の顔ぶれがメディア・広告・ゲーム業界の大手に広がっていく過程として整理できる。
時期 | ラウンド | 調達額 | リード投資家 | そのとき会社は何をしようとしていたか |
|---|---|---|---|---|
2019-08-06 | Series A | 650万ドル(約9.8億円、150円/ドル換算・2026年8月時点の目安レート) | BITKRAFT Esports Ventures | WPP・Axel Springerを迎え、広告代理店大手との接点を作りながらプラットフォームの立ち上げを進める段階 |
2021-02-02 | Series A追加ラウンド | 900万ドル(約13.5億円) | BITKRAFT Ventures/HBSE Ventures | Sony Innovation Fundやシカゴ・カブスなどスポーツ・ゲーム業界の資本を取り込み、事業拡大を加速する段階。公式発表では2017年以降の累計調達額を1,700万ドルと明記 |
2022-03-30 | ラウンド名非公表(最新の資金調達ラウンド) | 2,000万ドル(約30億円) | 明記なし | NBCUniversal・HTCが新規参加し、メディア企業・デバイスメーカーとの結びつきを強める段階。公式発表では2017年以降の累計調達額を3,700万ドルと明記 |
2023-06-27 | Series B | 4,800万ドル(約72億円) | Emmis Corporation | PayPal Ventures・Bandai Namco Entertainment 021 Fundが新規参加。CEOのItamar Benedy氏は「インゲーム広告は数十億ドル規模の市場になるポテンシャルを持っている」とコメントし、市場そのものの立ち上がりに賭ける段階に入った |
2025-06-12 | 戦略的出資(ラウンド名非公表) | 非開示 | American Express Ventures | PayPal Ventures・WPP・Emmis Corporation・NBCUniversalなど既存投資家が並走する中、決済大手のベンチャー部門を新たに迎えた段階 |
出典: 各ラウンドのAnzu公式発表、Series B発表ほか。2019年Series Aのみ業界メディア報道ベース(Anzu公式ニュースルーム上に同一の一次リリースは確認できず)。確認日はすべて2026-08-12。
リード投資家として参加した日本の投資家の記録は本リサーチでは確認できなかったが、2023年のSeries Bには日本企業であるバンダイナムコエンターテインメントの021 Fundが新規参加している。
累計調達額については食い違いが見られる。2021年公式発表では「2017年以降の累計1,700万ドル」、2022年公式発表では「累計3,700万ドル」と明記されているが、2023年のSeries B後は業界メディア(AdExchanger)が「累計6,500万ドル」と報じており、2022年公式値との整合が取れていない。第三者データベース(CB Insights)は「7ラウンドで累計8,350万ドル」と推計するが、これも参考値にとどまる。Anzu公式による最新の累計調達額を明記した一次資料は確認できておらず、本記事では各ラウンドの単体金額のみを事実として扱う。
広告出稿事例
Anzu公式のケーススタディページには、実施内容と効果指標が第三者計測パートナーの数値とともに公開されている。
事例1: SUPERPRETZEL(J&J Snack Foods、冷凍プレッツェルブランド)


グローバルクリエイティブエージェンシー160over90を通じて実施。Trackmania(Ubisoft/Nadeo)、Asphalt Unite(Gameloft)、Cooking Fever、Slapshot: Reboundの4タイトルにモバイル・PC・コンソール横断でディスプレイ・動画広告を配信し、フィラデルフィア・ピッツバーグ地域の18〜24歳(Z世代・大学生)をターゲットにした。
公表された効果指標(出典: Anzu公式ケーススタディ、確認日2026-08-12):
- ブランド興味度 +29ポイント
- ブランドイメージ +22ポイント
- 購入意向 +23ポイント
- 動画完了率 81%(業界平均70%を上回る)
- 平均画面内表示時間 4秒(IAB要件の1秒を上回る)
事例2: Vodafone(通信キャリア、ドイツ市場向け)



PC向けレースゲームTrackmania内で、プログラマティック配信の大型ブレンド広告を実施。目的はドイツ人ゲーマーに対する高速接続速度の認知向上で、第三者計測パートナーのAudienceProjectが効果を測定した。
公表された効果指標(業界平均との比較付き、出典: Anzu公式ケーススタディ、発表日2022-04-05、確認日2026-08-12):
- キャンペーン認知度 +176%リフト(業界平均+27%)
- ブランド検討度 +20%リフト(業界平均+4%)
- トップオブマインド・ブランド認知 +19%リフト(業界平均+2%)
- 広告認知度 +14%リフト(業界平均+5%)
このほかSony「INZONE Buds」、P&G、Tommy Hilfiger、QuikTripなどの事例も公式ケーススタディページに掲載されているが、本記事では効果指標の詳細確認まで至っていないため割愛する。
なぜこの動きが起きたのか
Anzuへの連続出資の背景には、ゲーム内広告市場そのものの拡大がある。2023年のSeries B発表でリード投資家Emmis CorporationのCEO Jeff Smulyan氏は「インゲーム広告は、次の主要な広告カテゴリーになる準備ができている」と述べ、2025年のAmex Ventures出資発表ではEmmis CorporationのPatrick Walsh氏が「ゲーミングは文化とメディア消費の中心的存在になっており、世界で34億人以上がプレイしている」とコメントしている(出典: Anzu公式)。
もう一つの背景は計測面の整備である。Anzuは2020年のNielsen Connectivity、Oracle Moatとの提携を皮切りに、2021年のHUMAN、2023年のIASと第三者計測パートナーシップを積み重ね、従来「効果が見えにくい」とされてきたインゲーム広告に、ディスプレイ広告と同様の第三者計測(viewability・IVT・ブランドリフト)を持ち込んできた。出資企業にWPP・NBCUniversalのような広告・メディアの大手が名を連ねる背景には、この計測面の信頼性向上があると考えられる。
なお、公式サイトや報道では「MRCおよびIABの測定基準に準拠(compliant)」という表現が確認できるが、MRC(Media Rating Council)による正式な認証(Accreditation)を取得済みとする一次資料は見つかっていない。「準拠」と「認証取得」は意味が異なるため、この点は現時点で未確認として扱う。
日本市場ではどうか
Anzu自身の日本向け公式発表は2020年6月の市場代表就任リリースを最後に確認できておらず、2022年以降のニュースルームでは北米・欧州・ラテンアメリカ中心の展開が続いている。2019年のゲシェルとの営業戦略パートナーシップ、2020年の元Xbox関係者・坂野拓也氏の市場代表就任という早期の動きはあったものの、これらの提携が2026年時点でも有効かどうかは公式情報からは確認できない。
イントリンシック広告のプログラマティック配信という仕組みそのものが日本で広く採用されているかどうかについても、本リサーチの範囲では一次情報を確認できなかった。日本のモバイルゲーム広告市場は2025年に31.2億ドル(約4,400億円)規模で、2030年には43億ドルへ拡大すると予測されている(出典: Emergen Research「In-Game Advertising Market」)。市場自体は拡大が見込まれる一方、その中でグローバルなイントリンシック広告基盤が日本語での営業・サポート体制、国内タイトルのインベントリ規模、代理店経由の商習慣にどこまで対応できているかは、Anzu側への直接確認が必要な領域である。
日本で同じ広告を実施する選択肢
Anzuが強みとするのは、プログラマティック(RTB)接続による自動配信と、IAS・HUMAN・Nielsen等の第三者計測を組み合わせた「配信の自動化と計測の厚み」である。一方、日本国内で同種の広告接触を得たい広告主にとっては、国内アドネットワークを通じた出稿が現実的な選択肢になる。Ad-Virtuaはその一つで、国内対応タイトル400以上、累計再生数8,000万回(2025年後半時点)のアドネットワークとして、ゲーム空間内のサイネージ広告枠に動画広告を配信している(広告想起率は通常配信比で約1.8倍、注目度は約1.7倍という数値が公表されている)。
比較ポイント | Anzu | Ad-Virtua |
|---|---|---|
配信方式 | プログラマティック(RTB)中心、40以上のDSP接続 | 国内アドネットワークによる週次パッケージ配信 |
対応タイトル | 数百本(具体的な本数は公式非公表) | 400タイトル以上(国内) |
計測体制 | IAS・HUMAN・Nielsen・Comscore・Lumen等の第三者計測 | 独自KPI(広告想起率・注目度)を公表 |
出稿の始めやすさ | 日本語窓口・国内代理店体制の現状が不透明 | 1週間300,000円プランで定額導入が可能 |
向いている広告主 | グローバルタイトルへ横断出稿したいナショナルクライアント | 国内タイトルへ直接・短期間で出稿したい広告主 |
自動入札による柔軟な配信量調整や、国際的な第三者計測の厚みを重視するなら、Anzuのようなグローバルプラットフォームの提案を代理店経由で検討する価値がある。一方、国内向けアプリタイトルへ短期間・定額で出稿したい、日本語で完結する窓口が欲しいという条件であれば、Ad-Virtuaのような国内アドネットワークの方が導入のハードルは低い。両者は代替関係というより、出稿したいタイトル群と契約体制の違いによる住み分けとして捉えるのが実態に近い。
広告主が取るべき判断
今すぐ動くべきなのは、グローバル展開しているブランドで、海外の主要タイトルへの横断出稿と第三者計測によるレポーティングを求めている広告主である。この場合はAnzuのような海外プラットフォームを代理店経由で検討する余地がある。
一方、国内市場向けの認知拡大が目的で、まずは低予算・短期間で「ゲームプレイを止めない広告」の効果を試したい広告主は、様子見よりも国内アドネットワークでのテスト出稿から始める方が判断材料を早く得られる。Anzuの事例が示す「ブランドリフト・想起率・購入意向の向上」というKPIの構造は、国内の施策評価にもそのまま応用できる考え方であり、海外の実測データは「ゲーム内広告は定性的な新奇施策ではなく、KPIで語れる施策である」ことを補強する材料として参照する価値がある。
関連する基礎知識への導線
イントリンシック広告を含むゲーム内広告とはで、広告フォーマットの種類や市場全体像を整理している。Anzuのようなグローバルプレイヤーの動きと合わせて読むことで、国内で選べる施策の位置づけがつかみやすくなる。国内での出稿を具体的に検討する場合は、Ad-Virtua公式サイトで対応タイトルや料金プランを確認できる。
FAQ
Q. Anzuは日本に法人を持っているか。
A. 2026年時点でAnzuが日本法人を保有しているかどうかは、本リサーチの範囲では確認できなかった。2019〜2020年にゲシェルとの提携・市場代表の就任があったが、2022年以降の公式発表にこの体制の継続を示すものはない。
Q. Anzuの広告はどんなゲームジャンルに出せるか。
A. 公式サイトでは「全ジャンルを網羅する数百本のクロスプラットフォームタイトル」とのみ記載されており、具体的なジャンル一覧やタイトル数は公表されていない。事例として確認できているのはレース(Trackmania、Asphalt Unite)、料理(Cooking Fever)、スポーツ(Slapshot: Rebound、UFL)などである。
Q. Anzuの広告はコンソール・PCゲームだけでなくモバイルにも出せるか。
A. 出せる。公式サイトによれば対応プラットフォームはモバイル・PC・コンソール・ゲーミングメタバースで、SUPERPRETZEL事例でもモバイル・PC・コンソールを横断した配信が行われている。
Q. Anzuの累計調達額はいくらか。
A. Anzu公式が最後に累計額を明記したのは2022年3月の発表(累計3,700万ドル)で、2023年のSeries B以降の公式な累計額の発表は確認できていない。業界メディアや第三者データベースには6,500万ドル〜8,350万ドルという異なる推計値があるが、いずれも参考値であり、本記事では単体ラウンドの金額のみを事実として扱っている。


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