英ロンドン拠点のゲーム・スポーツ・エンタメ特化型広告プラットフォーム「Venatus(ヴェナトゥス、Venatus Media Limited)」が、投資ファンド「Media Scale Capital Limited」に買収された。日本の広告主にとっては、ゲーム内広告というフォーマットが海外の資本市場で投資対象として評価され続けている事実を示す出来事であり、国内で同種の施策を検討する際の参考材料になる。

発表の内容

Venatusは公式ブログ(2026年7月付、日単位の日付は非表記)で、Media Scale Capital Limitedによる買収と、新経営体制への移行を発表した。買収額・出資比率・取引条件は非公開。

Venatus買収を発表するMedia Scale Capitalのプレスリリース用シェア画像
出典: Venatus Media Limited(

同時に、新CEOにTheodora(Dora)Michail-Clendinnen氏、新CFOにJoe Seath氏を任命したと発表している。Michail-Clendinnen氏は社内昇格で、2025年1月にCRO(最高収益責任者)として経営陣入りしていた人物。Seath氏の経歴は公式ブログに記載がなく未確認。

新CEOのコメントは以下の通り。

"This is an exciting moment for Venatus. We're entering this next chapter from a position of real strength. With the backing of MediaScale Capital we can now do more than ever for the publishers and advertisers we work with, while staying true to what has always set us apart: activating audiences In the Zone and turning high-focus moments into measurable outcomes."

(訳)「Venatusにとってエキサイティングな瞬間です。本当の意味での強みを持った状態で次の章に入ります。Media Scale Capitalの支援により、パブリッシャーと広告主のためにできることが増えます。同時に、私たちを特徴づけてきたもの――オーディエンスを『In the Zone(高集中状態)』で活性化させ、高集中の瞬間を測定可能な成果に変えること――には忠実であり続けます」

買収元のMedia Scale Capital Limitedもコメントを寄せている。

"Venatus has built a genuinely differentiated position in gaming and entertainment advertising over more than a decade, and that specialism is exactly what drew us to this investment."

(訳)「Venatusはこの10年以上、ゲーミング・エンタメ広告において真に差別化されたポジションを築いてきました。その専門性こそが、私たちがこの投資に魅力を感じた理由です」

公式が説明する買収の狙いは、10年以上培ってきた没入型・高集中環境(immersive, high-focus environments)における専門性を土台に、より大きな事業規模と新規需要へのアクセスを得ることにある。データ・アイデンティティ関連のツール、テクノロジー基盤の拡充を数カ月以内に進める計画としている。出典: Venatus公式ブログ

Venatusとはどんな会社か

Venatusの企業ロゴ(赤色の幾何学的なアイコン)
出典: Venatus Media Limited(

Venatus Media Limitedは2010年、Rob Gay氏(CEO)とMatt Cannon氏(COO)が共同創業した広告技術企業。両者は2008年にアドテク業界の同僚として出会い、2010年に会社を立ち上げた。本社は英国ロンドンで、米ニューヨーク・ロサンゼルス、豪シドニー、韓国ソウルにオフィスを持つ(2015年に米国・豪州の地域拠点を開設)。従業員規模はグローバルで120名以上。

自社を「Gaming & Entertainment Advertising Growth Engine(ゲーム・エンタメ広告の成長エンジン)」と位置づけ、ゲーム・スポーツ・エンタメコンテンツを消費するオーディエンスに広告を配信する広告技術プラットフォームを運営している。日本語での正式表記・国内代理店の記載は確認できず、日本オフィスも保有していない。

提供プロダクトと広告が表示される仕組み

自社プラットフォームの名称は「Prosper」。Webサイト・アプリ・ブラウザゲームのパブリッシャー(媒体社)に対し、リッチメディア広告フォーマットによる収益化ソリューションを提供する。広告主・代理店側からは、250以上のコアパブリッシャーに対する直接・プログラマティック広告販売を独占的に代行する立場にある。

広告の配信面は「イン・ゲーム(ゲーム内)」「アラウンド・ゲーム(ゲーム周辺)」「ゲーム外」の3層にまたがる。ダイレクトセールスとヘッダービディングの両方に対応し、動画フォーマット、アドブロック回復ソリューション、PMP(プライベートマーケットプレイス)取引にも対応する。この配信面の区分は、広告ゲームとは 仕組みで解説している「広告がゲーム体験のどこに組み込まれるか」という論点と対応する。

Venatusのゲーム内リワード動画広告フォーマットのイメージ
出典: Venatus Media Limited(

対応プラットフォームとインベントリ規模

公式サイトに記載されている実績値は、年間900件以上の直接販売キャンペーン、100件以上のメディア掲載、30以上の業界賞受賞。Google Certified Publishing Partnerの認定を受けているほか、2026年5月にはRobloxの英国・フランス・ドイツにおけるRewarded Video(リワード動画広告)の公式リセラーとなったことを発表している。

Venatus全社としての対応タイトル数・月間リーチ・月間ユーザー数の合算値は公式サイト上に明記されておらず未確認。ただし、2023年8月に商業提携したBidstack(ゲーム内看板広告のインベントリを持つプロバイダー)経由のインベントリとしては「400以上の高品質ゲーム(モバイル・PC)、月間1億人リーチ」という数値が公式ブログに記載されている。この数値はVenatus全体ではなくBidstack提携分の数値である点に注意が必要。このゲーム内看板広告というフォーマット自体は、ゲーム広告 種類 一覧で紹介しているサイネージ型広告に相当する。

主要パートナー

パブリッシャー/インベントリ提携先にはEA、Rovio、OP.GG、What Culture、FUTBIN、Roblox(公式リセラー)、Bidstack(インゲーム広告インベントリの独占直接販売、2023年8月提携)が並ぶ。広告主・ブランド側の取引実績としては、LEGO、PlayStation、Disney、McDonald's、Burberry、Intel、HP、Logitech、Unilever、BBC、Universalが公式に挙げられている(個別キャンペーンの詳細は非公開のものが多い)。代理店としてはHavas Mediaがケーススタディに登場する。

測定・技術面ではLumen Research(アテンション測定)と提携し、IAB Gold Standard認証、TAG(Trustworthy Accountability Group)認証も毎年更新している。出資者はLivingbridge(英PEファンド、2021年9月〜)と、現オーナーのMedia Scale Capital Limited(2026年7月〜)の2社。

ここまでの歩み

今回の買収は単発の出来事ではなく、2021年のPEファンド出資に始まる、資本と経営陣の入れ替わりの延長線上にある。

時期

出来事

内容

2010年

創業

Rob Gay氏・Matt Cannon氏が共同創業。ゲーム・エンタメ広告に特化した広告技術企業として始動

2015年

地域拠点拡大

米国・オーストラリアに地域オフィスを開設。グローバル展開を開始

2021年9月

Livingbridge出資

英中堅PEファンドLivingbridgeが出資(金額非開示)。米国事業の成長・新地域展開・独自技術への投資を後押しする目的だった

2023年3月

AdinPlay買収

オランダ拠点の広告技術企業AdinPlay BVを買収し、カジュアル・ソーシャルゲーム媒体向けの収益化ソリューションを取得。CEO(当時)のRob Gay氏はこれをM&A戦略の第一弾と説明した

2023年8月

Bidstack商業提携

インゲーム看板広告インベントリの独占直接販売権を6市場(米・英・独・加・豪・韓)で取得

2024年9月

Nick Hugh氏CEO就任

Telegraph Media Group前CEO・Yahoo元EMEA副社長のNick Hugh氏が新CEOに就任。Venatusは2019年以降の収益200%成長、従業員120名への倍増を公表した

2025年1月

経営陣3名を新任

CTO・CPO・CROの3ポストに新任者を招聘。このうちCROとして就任したのがMichail-Clendinnen氏

2026年3月

Lumen Researchとの共同調査発表

「In the Zone」状態のオーディエンスに対する動画広告の注視効果が最大5倍になるという調査結果を公表

2026年5月

Robloxの公式リセラーに

英・仏・独においてRoblox Rewarded Videoの公式リセラー契約を締結

2026年7月

Media Scale Capitalによる買収

Michail-Clendinnen氏がCEOに昇格、Joe Seath氏がCFOに就任。オーナーがLivingbridgeからMedia Scale Capitalへ交代

Nick Hugh氏(外部招聘の経営者)の体制からわずか2年弱で、2025年に社内に迎え入れたMichail-Clendinnen氏へCEOが交代し、同時にオーナーもLivingbridgeという汎用型PEファンドから、ゲーミング・エンタメ広告領域への投資を専門とするMedia Scale Capitalへ移った。これは「専業PEファンドから領域特化型の投資ファンドへ」という、より専門性の高い資本の移動と読み取れる。Nick Hugh氏の退任時期・理由、Livingbridgeが今回の買収でどのような形でエグジットしたか(全株売却か一部保有継続か)は、いずれも公式発表に記載がなく未確認。

Venatus公式のRobloxパートナーシップ発表用PR画像
出典: Venatus Media Limited(

広告出稿事例

Venatus公式のケーススタディページで広告主向けの事例として公開されているのは、確認できた範囲でBurberryの1件のみ。それ以外はパブリッシャー(媒体社)側の収益改善事例であり、広告主別の詳細な効果指標は非公開となっている。

事例1: Burberry「Hero Eau de Parfum」ローンチキャンペーン

Burberryの新作メンズ香水「Hero Eau de Parfum」のローンチ告知として、Venatus AustraliaとメディアエージェンシーのHavas Mediaが協力し、20〜45歳の男性ゲーマー・エンタメ愛好者層に向けた認知拡大キャンペーンを実施した。使用フォーマットはStandard Takeover(スタンダード・テイクオーバー)、Display Retargeting(ディスプレイ・リターゲティング)、In-Game Rewarded Video(ゲーム内報酬動画)の3種類。

公表されている効果指標は、Standard Takeoverでクリック率2.4%、In-Game Rewarded Videoで視聴完了率96.5%。Venatusはこの数値について「業界ベンチマークを超過した」と説明している。

Burberryのロゴ(Venatusケーススタディ掲載)
出典: Venatus Media Limited(掲載元)/Burberry(ロゴ権利者)(
Burberry「Hero Eau de Parfum」キャンペーンで使用されたゲーム内バナー広告のイメージ
出典: Venatus Media Limited(
Burberryキャンペーンのターゲットオーディエンス説明図
出典: Venatus Media Limited(
Burberry: Hero ケーススタディのカード型サムネイル画像
出典: Venatus Media Limited(

事例2: Lumen Researchとの共同アテンション調査

特定ブランドのキャンペーン事例ではないが、Venatus全体のフォーマット効果を裏付けるデータとして扱われている調査結果。独立系アテンション測定企業のLumen Researchが、Venatusの動画広告フォーマットの実際の視覚的注視データを測定し、「In the Zone」状態(高集中の没入環境)のオーディエンスに配信した場合、Lumenの主要指標(%Viewed、Average View Time、APM=Attention per Mille)で通常より最大5倍高い注視効果を確認したと2026年3月に発表された。出典: PR Newswire

こうした第三者機関によるアテンション測定の考え方は、広告効果を単純な接触数ではなく注視の質で評価する手法であり、ゲーム内広告 インクリメンタルリフト測定ガイドで扱う効果測定の論点とも重なる。

Burberry以外の広告主別の詳細事例(LEGO、PlayStation、Disney、McDonald'sなど)は、取引実績としての言及はあるが個別キャンペーンの実施内容・効果指標は公式ケーススタディとして公開されていない。

なぜこの動きが起きたのか

Venatusは過去15年、PE投資と経営陣刷新を繰り返しながら、ゲーム・エンタメ広告領域のスペシャリストとしてのポジションを固めてきた。2021年のLivingbridge出資は汎用型のPEファンドによる成長支援だったのに対し、2026年のMedia Scale Capitalによる買収は、ゲーミング・エンタメ広告領域への投資を専門とするファンドによるものである点が異なる。公式コメントが「その専門性こそが投資を魅力的にした」と述べている通り、10年以上にわたって積み上げてきた没入型・高集中環境における知見が評価軸になっている。

Venatusの『アテンション/レセプティビティ』を示す公式図解
出典: Venatus Media Limited(

CEOコメントで繰り返し使われる「In the Zone」というコンセプトは、ゲーム・スポーツ・エンタメ視聴中の高集中状態のユーザーに広告接触させることで注視率が高まるという主張であり、2026年3月のLumen Researchとの共同調査結果を踏まえたものである。「measurable outcomes(測定可能な成果)」という表現からも、単なる媒体規模の拡大ではなく、効果測定を伴う広告商品として評価されていることがうかがえる。この論点は、ゲーム広告 sns広告 比較で扱っている、SNS広告に対するアテンション面での優位性という文脈とも接続する。

なお、買収額・出資比率・取引スキーム、Media Scale Capital Limitedの設立年や運用資産規模、他のポートフォリオ企業構成は非公開であり、投資判断の詳細な背景までは公式情報からは確認できない。

日本市場ではどうか

日本語メディアでのVenatus・Media Scale Capital関連の報道・詳細解説は、確認した範囲では見当たらず、本ニュースは日本語では実質的に未報道の状態にある。

日本のモバイルゲーム広告市場は、2025年に約31.2億ドル(約4,400億円台)に達する見込みとされる(出典: eスポーツニュースジャパン。ただし一次算出元の調査会社名は明示が薄く、二次集計値の可能性がある点に留意)。Venatusが提携するBidstack型のインゲーム看板広告は、ゲーム空間内の看板・モニターに表示する広告フォーマットであり、ゲーム内広告とはで解説しているサイネージ型のゲーム内広告と同じカテゴリに属する。

海外ではこの領域に対してPEファンド・専業投資ファンドが資本投入する事例が積み上がっている一方、国内で同種の専業プレイヤーへの投資・M&Aのニュースはほぼ確認できない。Venatusのサービス(Prosper、Robloxリワード動画の欧州リセラー機能など)を日本の広告主が直接利用できるかは未確認で、公式サイト上に日本語対応・国内代理店の記載はなく、日本オフィスも保有していない。日本の広告主が英国発プラットフォームに直接出稿するには、代理店経由の英語コミュニケーションや海外契約のハードルが存在すると推測されるが、これは公式情報に基づく確認ではなく推測であることを明記しておく。

日本で同じ広告を実施する選択肢

Venatusが扱うゲーム内看板広告・リワード動画広告といったフォーマットは、日本国内でも同種の広告メニューが存在する。国内向けのゲーム内広告アドネットワークとして展開しているサービスの一つがAd-Virtuaで、ゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信するアドネットワークとして400タイトル以上に対応している。

Venatusのように英語での契約・代理店経由の交渉が前提となる海外プラットフォームと比べ、国内アドネットワークは日本語での商談・国内配信タイトルへの出稿が前提になる点が構造的な違いとなる。以下の条件に当てはまる企業は、国内サービスの利用を検討する価値がある。

  • 日本国内の若年層・ファミリー層への認知拡大を主目的にしている
  • 海外プラットフォームとの英語契約・代理店調整に工数を割けない
  • 比較的小規模な予算から試験導入したい(Ad-Virtuaは1週間300,000円プランを提供)
  • TVCM・SNS広告の補完として、プレイ体験を阻害しにくい広告接触を求めている

一方で、Burberryの事例のように海外ゲーム層・グローバルなエンタメ視聴者に向けた認知拡大を目的とする場合や、Roblox上での大規模なリワード広告展開を検討している場合は、Venatusのような海外プラットフォームの方が適している可能性が高い。国内外どちらが合うかは、リーチしたいオーディエンスが国内在住かグローバルかで判断が分かれる。

広告主が取るべき判断

今回の買収そのものは広告主の出稿条件を直接変えるものではない。ただし、次のように整理できる。

今動く価値がある企業

  • ゲーム内広告というフォーマットを「一時的なトレンドではないか」と懐疑的に見ていた企業。海外の投資ファンドが専業特化して資本投入している事実は、カテゴリとしての成熟度を示す材料になる
  • アテンション(注視)を評価指標として広告効果を測定したい企業。第三者機関による測定という考え方自体は国内でも参考にできる

様子見でよい企業

  • 現時点でVenatus自体への出稿を検討している国内企業(日本語対応・国内代理店が確認できないため)
  • 買収の詳細条件(出資比率・取引スキーム)が非公開のままである以上、Media Scale Capital側の今後の戦略変更を見極めたい企業

関連する基礎知識への導線

ゲーム内広告というフォーマットそのものの基礎を押さえたい場合は、まずゲーム内広告とはを参照してほしい。合わせて以下の記事も、今回のニュースの理解を補強する。

FAQ

Q. Venatusは日本国内向けに広告を配信できますか?

公式サイト上に日本語対応や国内代理店の記載はなく、日本オフィスも保有していない。日本国内のオーディエンスに向けた出稿が可能かどうかは公式情報からは確認できない。

Q. 買収金額はいくらですか?

非公開。Venatus公式ブログ・関連報道のいずれにも金額の記載はない。

Q. 前オーナーのLivingbridgeは今回の買収で株式を売却したのですか?

全株売却か一部保有継続かは公式発表に記載がなく、確認できていない。

Q. 「In the Zone」とは何を指す言葉ですか?

Venatusが提唱する独自コンセプトで、ゲーム・スポーツ・エンタメ視聴中の高集中状態にあるユーザーに広告を接触させることを指す。2026年3月に発表したLumen Researchとの共同調査で、この状態でのアテンション(注視)効果が通常より最大5倍高いという結果が示されている。

Q. Prosperとは何ですか?

Venatusが提供する広告収益化プラットフォームの名称。Webサイト・アプリ・ブラウザゲームのパブリッシャー向けに、リッチメディア広告フォーマットによる収益化ソリューションを提供する。