結論
Take-Two Interactive Software, Inc.(以下Take-Two)のCEOストラウス・ゼルニック(Strauss Zelnick)氏が、「70〜80ドルを支払ったゲームにインタースティシャル広告を入れるのは不公平」と発言し、無料プレイ(フリー・トゥ・プレイ、F2P)タイトルと買い切りのプレミアムタイトルとで広告方針を明確に線引きした。日本の広告主にとっての意味は単純で、海外の大作コンソールタイトルへの広告出稿は今後も選択肢になりにくい一方、F2Pのモバイルタイトルはこれまで通り広告在庫として現実的に使える、という業界の暗黙の前提が、業界最大手のCEO発言として改めて言語化された、ということである。
発表の内容
業界専門メディアThe Game Business(発行人・編集者 Christopher Dring)が2026年3月17日に公開したTake-Two CEOストラウス・ゼルニック氏へのインタビュー記事の中で、この発言があった(The Game Business)。
ゼルニック氏は次のように述べている。
"For free-to-play titles, yes. For titles for which you have paid 70 or 80 bucks? No."
"It is difficult for me to believe that we would want to have interstitial advertising in a game that someone paid 70 or 80 bucks for. It would seem unfair."
(意訳)「フリー・トゥ・プレイのタイトルであれば広告はある。しかし70〜80ドルを支払ったタイトルには入れない」「70〜80ドルを支払ってもらったゲームにインタースティシャル(画面遷移時の全画面)広告を入れたいと考えるのは、私には信じがたい。それは不公平に思える」
一方でNBA 2Kについては次のように述べ、限定的な広告の存在を認めている。
"We have some limited advertising inside games like NBA 2K because it fits with the vernacular. You want to see advertising in a stadium, because you would if you were there in real life."
(意訳)「NBA 2Kのようなゲームには限定的な広告がある。それはその世界観の“語彙(バナキュラー)”に合っているからだ。スタジアムには広告があるのを見たいと思うものだ。現実にスタジアムにいたらそうであるように」
その上でゼルニック氏は、NBA 2K内の広告について「大きな経済的貢献者ではない(not a big economic contributor)」と補足しており、収益の主軸として位置づけているわけではないことを明確にしている。
このインタビューはポッドキャスト版としてApple Podcasts・Spotify・YouTube(The Game Business Show)でも同日配信された。インタビュー全体の主題はAI(Google Project Genie等)がゲーム開発に与える影響についての質問が発端であり、広告方針はその中の一トピックとして語られたものである点も押さえておきたい。
GameSpot、PC Gamer、gtaboom.comなど複数の海外メディアが同時期に後追いで報じている。特にgtaboom.comは、ゼルニック氏が「F2Pなら広告可」と明言したことに着目し、将来Grand Theft Auto Online等がF2Pモデルへ移行した場合には広告解禁の余地が残る「抜け穴(loophole)」があると指摘している。これはgtaboom.comの解釈であり、Take-Two公式の見解ではない。
Take-Two Interactiveの事業構造と広告方針の位置づけ

Take-Twoは1993年9月に創業者Ryan Brant氏によって設立された、米ニューヨーク市に本社を置くゲームパブリッシャーである。NASDAQに「TTWO」で上場しており、2023年9月時点で北米・欧州の上場ゲーム会社として売上規模2位(Electronic Artsに次ぐ)と報じられている(二次情報ベース、Take-Two公式での同旨記載は未確認)。従業員数は2025年3月31日時点で12,928名、うち78%が製品開発部門に所属するとされる(二次情報ベース、公式10-K原本での確認は未実施)。
Take-Two自体はゲームを自社開発する会社ではなく、傘下スタジオ・レーベルを通じてパブリッシングを行うホールディングカンパニーである。事業構造は次の通り。
レーベル | 主なタイトル・領域 |
|---|---|
Rockstar Games | Grand Theft Auto(GTA)、Red Dead Redemption、Max Payne、L.A. Noire、Midnight Club |
2K | NBA 2K、Borderlands、BioShock、Civilization、Mafia、WWE 2K |
Zynga | モバイル・F2Pタイトル運営(2022年にTake-Twoが買収) |
Private Division / Social Point | インディー・カジュアル領域 |

今回の発言で名指しされたNBA 2Kは、上記のうち2Kレーベルが展開するスポーツシミュレーションシリーズである。会計年度2026(FY26、2025年4月〜2026年3月期)の決算では、Net Bookings(純予約額)が67億2,000万ドル(前年比19%増)、GAAP純売上が66億5,600万ドル(前年比18%増)となり、NBA 2K26/NBA 2K25がその主要な牽引役として明記されている。リカーリング消費(recurrent consumer spending)は前年比17%増で、Net Bookings全体の78%を占める(出典: Take-Two決算発表、2026年5月21日公開)。
重要なのは、Take-Two自体は独立した広告プロダクトやアドネットワークを持つ企業ではないという点である。ゼルニック氏の発言によれば、NBA 2K内に存在する広告はスタジアムの看板等に限られ、これは現実のスポーツ観戦体験を再現する演出として組み込まれているものであり、独立した広告事業・収益ラインとして大きく扱われているわけではない。EA Advertisingのような専用広告部門・プラットフォームの立ち上げは、2026年8月25日時点で確認できない。具体的な出稿ブランド名・導入時期・効果指標も非開示であり、今回のリサーチ範囲では確認できなかった。
ここまでの歩み
Take-Twoは上場企業であり資金調達ラウンドの積み重ねで語る対象ではないため、ここでは自社の広告関連の取り組みと、同時期の業界大手の動きを時系列で整理する。
Take-Two自身の広告に関する立ち位置
- 2022年: Zynga買収により、モバイル・F2Pタイトルの運営基盤を獲得した。ゼルニック氏が容認する「F2Pタイトルなら広告可」という方針の土台となり得る事業領域だが、広告事業単体としての位置づけは公式には確認できていない。
- 現状提供中: NBA 2K内の「限定的な広告」(スタジアム看板等、現実のスポーツ観戦体験を模した文脈的演出)。提供開始時期は公式に確認できていない。
- 上記以外に大規模な広告事業の買収・立ち上げ・撤退を行った記録は、今回のリサーチでは確認できなかった。Take-Two公式のニュースルーム・IRページに「広告事業」単独の言及は見当たらない。
- 2026年3月17日のこのインタビューが、Take-Two CEOによる広告方針についての最も明確な公式見解であり、これ以前に同種の明言があったかどうかは未確認である。

同時期の業界大手の広告関連の動き
2026年前半から中盤にかけて、大手パブリッシャー・プラットフォーマーがゲーム内広告・広告付きサービスへ相次いで前のめりな姿勢を見せている。今回のゼルニック氏の発言は、この流れの中に置くと意味が読み取りやすい。
時期 | 主体 | 内容 |
|---|---|---|
2026年1月 | Project Genie(AIゲーム開発ツール)ローンチ。今回のインタビューの発端となったAI話題の背景 | |
2026年3月17日 | Take-Two(ゼルニックCEO) | プレミアムタイトルへの広告導入を明確に否定、F2Pタイトルは容認 |
2026年5月21日 | Take-Two | FY26決算発表。Net Bookings 67億2,000万ドル |
2026年6月15日 | Electronic Arts | EA Advertising立ち上げ。EA Sports FC / Madden NFL等に実装 |
2026年7月23日 | Xbox(Microsoft) | 広告付きクラウドゲームストリーミングのテスト開始(Xbox Insider対象) |
2026年8月(求人ベース) | Sony(PlayStation) | 広告営業・アドテク構築の求人拡大が報道される |

Xboxが2026年7月23日に開始した広告付きクラウドゲームストリーミングのテストは、広告表示を「セッション開始前のみ」とし、ゲームプレイ自体は中断しない設計になっている。EA Advertisingは2026年6月15日、EA Sports FC・Madden NFL・EA Sports College Football等を対象に立ち上げられ、Visa、Lowe's、Red Bull、Xfinity/Peacock、Mountain Dew、State Farm、Coach、Vansがローンチパートナーとして参加した(詳細は次章)。
この並びで見ると、EA・Xbox・PlayStationが広告在庫の拡大に動く中、Take-TwoのCEOが「フルプライスタイトルには広告を入れない」という明確な逆方向の方針を公式に示した点が、このニュースの価値である。ただし完全な広告拒否ではなく、「F2Pタイトルには広告可」「世界観の“語彙”に合う場合は限定的に許容」という条件付きの線引きである点には注意が必要だ。
広告出稿事例
Take-Two(NBA 2K)自身の具体的な広告出稿ブランド名・実施内容・効果指標は、今回のリサーチ範囲では確認できなかった。ゼルニック氏の発言はNBA 2K内のスタジアム看板広告の「存在」を認めたのみで、スポンサー名の開示はない。
参考として、同時期に広告事業を積極展開する競合パブリッシャーの事例を示す。Take-Two自身の事例ではなく、業界文脈の比較材料として扱う。
1. Lowe's × EA Sports FC / Madden NFL(EA Advertising)
2026年6月15日に立ち上げられたEA Advertisingのローンチパートナーの一つ。公表された効果指標は、98万7,000ゲームプレイ、20万チャレンジ完了。
2. Red Bull × EA Advertising
同じくローンチパートナー。公表された効果指標は、1億2,800万マッチプレイ、120万オブジェクティブ完了。EA全体の月間プレイヤーリーチは1億2,000万人以上とされる。



State Farm、Coach、Vansも同じくEA Advertisingのローンチパートナーとして参加しているが、個別の効果指標は今回のリサーチでは確認できなかった。いずれもコンソール向けのスポーツ・ライフスタイルタイトルであり、F2P/無料プレイ部分または試合中の演出領域に統合されている点が共通する。Take-Twoが「フルプライスタイトルには入れない」とする一方、EAはスポーツタイトルの中でも広告を受け入れやすい領域を選んで統合を進めている構図が見える。
なぜこの動きが起きたのか
背景には次の2つの動きが重なっている。
一つは、EA・Xbox・PlayStationといった大手が2026年前半から中盤にかけて広告在庫の拡大に相次いで動いたことである。ゲーム内広告市場全体の拡大機運の中で、Take-Twoのゼルニック氏の発言は、この流れに単純に追随するのではなく、自社の立ち位置を明確に線引きするものだった。
もう一つは、Take-Two自身の収益構造である。FY26のNet Bookings 67億2,000万ドルのうち、NBA 2K26/2K25が主要な牽引役となっており、リカーリング消費(継続課金)が全体の78%を占める。プレミアムタイトルであるGTAシリーズやRed Dead Redemptionシリーズは、買い切り購入という収益モデルの性質上、追加の広告収益を必要とする経営上の必然性が相対的に低いと考えられる。一方でNBA 2Kのようなスポーツタイトルでは、現実のスタジアム体験を模した文脈的演出として広告が自然に組み込まれ、かつリカーリング型の収益構造とも整合しやすい。ゼルニック氏の発言は、この収益構造上の違いを反映したものと考えられる。
なお、このインタビューの主題自体はAI(Google Project Genie等)がゲーム開発に与える影響についての質問であり、広告方針はその中の一トピックとして語られたものである。ゼルニック氏は記事末尾で「地球上のコンソールを持つすべての成人」がGTA6を購入するだろうという趣旨の発言もしており、市場規模の大きさを強調する文脈の一部として広告方針が語られている点は押さえておきたい。
日本市場ではどうか
日本語で今回の広告方針発言そのものを詳しく扱った記事は、本リサーチ時点(2026年8月25日)では見当たらない。GTA6関連の他ニュース(リーク訴訟等)はGame*Spark等で報じられているが、この広告方針発言に特化した日本語解説は確認できなかった。
日本国内でも、フルプライスの家庭用ゲーム(コンソール/PC)に広告を入れる商習慣は一般的ではなく、Take-Twoの立場は国内の暗黙のコンセンサスに近い。一方でモバイル・F2Pタイトルでは、リワード広告・インタースティシャル広告・ゲーム内サイネージ広告が既に定着しており、ゼルニック氏の「F2Pなら広告可」という線引きは日本市場の実態とも整合する。ゲーム内広告の種類や仕組みについてはゲーム内広告とはで整理している。
日本のモバイルゲーム広告市場は2025年に約4,400億円規模、グローバルのゲーム内広告市場は2026年に約1.2兆円規模で、年平均成長率は約11%とされる(参考値。ドル建て換算値については為替レート・確認日を今回のリサーチで特定できなかったため、円建て数値のみを記載する)。
Take-Two自体(NBA 2K等)は日本向けの広告出稿窓口を公式に持たない(未確認)。したがって「海外の大作フルプライスタイトルへの広告出稿」は、現状、日本の広告主にとって選択肢として存在しない。
日本で同じ広告を実施する選択肢
Take-Two・EA・Xboxが動かしているのは、いずれも海外の大作コンソールタイトルまたはグローバル配信のクラウドサービスであり、日本の広告主が直接出稿できる窓口ではない。一方で、ゼルニック氏が容認したF2Pタイトルへの「限定的で文脈に合う広告」という考え方自体は、日本国内のモバイルゲーム向けゲーム内広告と設計思想が近い。
日本国内でこの種の広告を実施する場合、選択肢の一つがAd-Virtuaのようなゲーム内サイネージ広告アドネットワークである。ゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信する仕組みで、対応タイトルはカジュアル・RPG・パズル・アクション等400タイトル以上、累計再生数は8,000万回を超える(2025年後半時点)。広告想起率は通常比約1.8倍、注目度は約1.7倍とされ、CPMは通常500円に対し約300円という水準が公表されている(Ad-Virtua公式実績値)。
この選択肢が合うのは、次のような企業である。
- 無料プレイのモバイルタイトルを広告接点として使いたい食品・日用品・外食等のブランド担当者
- 「侵襲的な広告でプレイ体験を阻害したくない」という懸念を持つ企業(サイネージ型はプレイを中断しない)
- TVCM・SNS広告の補完として、若年層への新しい接点を探している企業
一方で、次のような企業には現状合わない。
- 海外の大作コンソールタイトル(GTA・NBA 2K等)自体への出稿を前提としている企業(Take-Two自身がフルプライスタイトルへの広告を否定しているため、この選択肢は存在しない)
- グローバル規模でのリーチを最優先する企業(Ad-Virtuaは国内タイトル中心のネットワークであり、EA AdvertisingのようなグローバルAAAタイトル規模のリーチとは前提が異なる)
広告主が取るべき判断
今動くべき企業は、無料プレイのモバイルタイトルを既にマーケティング接点として検討している、あるいは検討を始めたばかりの企業である。ゼルニック氏の発言が示す通り、F2P領域での広告は業界最大手も容認する前提であり、国内でも既に実行可能な選択肢が存在する。
様子見でよい企業は、海外の大作コンソールタイトルへの広告出稿を前提に検討していた企業である。Take-Twoの明言により、この種の出稿は少なくとも当面は選択肢として存在しないことが明確になった。EAもスポーツタイトル中心の展開であり、コンソールのフルプライス作品全般に広告在庫が広がっている状況ではない。この動きが今後変化するかどうかは、業界全体の広告展開のペースを引き続き注視する必要がある。
関連する基礎知識への導線
ゲーム内広告の種類や、インタースティシャル広告とサイネージ広告の違いについてはゲーム内広告とはで解説している。ゲーム内広告の基礎から検討を始めたい場合は、ゲーム内広告とは 入口記事もあわせて参照してほしい。
FAQ
Q. Take-Twoは今後もフルプライスタイトルに広告を入れない方針で確定したのか。 A. ゼルニック氏の発言は2026年3月17日時点でのCEOの見解であり、Take-Two公式の恒久的な方針表明として文書化されたものではない。今回のリサーチ範囲では、この発言以前に同種の公式見解があったかどうかも確認できていない。今後の状況変化により方針が変わる可能性はある。
Q. GTA6には広告が入るのか。 A. ゼルニック氏はGTA6の広告について直接言及していない。一部海外メディア(gtaboom.com)は、F2Pタイトルには広告を容認するという発言から、将来GTA Online等がF2Pモデルへ移行した場合に広告解禁の余地が残るという解釈を示しているが、これは当該メディアの推測であり、Take-Two公式の見解ではない。
Q. NBA 2Kの広告はいつから始まったのか。 A. 今回のリサーチでは、NBA 2K内の広告の導入時期を確認できなかった。ゼルニック氏の発言では「限定的な広告が存在する」という現状のみが語られている。
Q. Take-Two以外の大手パブリッシャーも同じ方針なのか。 A. 一律ではない。EAはEA Advertisingを通じてスポーツタイトル等に広告統合を進めており、Xboxは広告付きクラウドゲームストリーミングのテストを行っている。Take-Twoは「フルプライスタイトルには入れない」という立場を明確にしており、大手各社の方針は分かれている。
Q. 日本のゲーム会社もTake-Twoと同じような線引きをしているのか。 A. 日本国内で、フルプライスの家庭用ゲームに広告を入れる商習慣自体が一般的ではなく、明文化された方針として語られる場面は今回のリサーチ範囲では確認できなかった。ただしF2Pタイトルでのゲーム内広告は既に定着しており、実態としてはTake-Twoの線引きに近い状態にあると考えられる。


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