Discordは2026年8月20日、ゲーム内の特定アクション達成に対して報酬を付与する新広告フォーマット「Play Quest+」を発表した。EA(Electronic Arts)が『Battlefield 6』で第1弾キャンペーンを2026年9月初旬に開始する予定で、日本の広告主にとっては「視聴」や「プレイ時間」ではなく「行動の達成」を成果指標にする広告の選択肢が海外で先行し始めたことを意味する。

発表の内容

Discordは公式プレスリリース「Introducing New Tools to Power Game Discovery and Social Play」(2026年8月20日)で、複数の新機能とともにPlay Quest+を発表した。

Play Quest+は、既存の「Play Quests」(一定時間プレイすると報酬を得られる時間ベースの広告フォーマット)を発展させたもので、最大の変更点は「時間ベースのアクション」から「イベント(行動達成)ベースのアクション」への転換にある。動画視聴やプレイ時間の消化ではなく、「チュートリアル完了」「マッチ完了」「友人と一緒にプレイ」といった具体的なゲーム内行動の達成に対して報酬が付与される。

技術基盤はDiscordのSocial SDKEvents APIで、プレイヤーがDiscordアカウントとゲームアカウントを連携させると、ゲーム内の進捗がリアルタイムでDiscord側に同期され、クエストの進捗として反映される。この仕組みは、視聴させることを目的にした従来の動画広告ではなく、ユーザーに実際の行動を促す設計であり、プレイアブル広告の設計と効果で扱う「体験を伴わせて成果を測る」考え方に近い。

EAはPlay Quest+を導入する最初のパブリッシャーとなり、『Battlefield 6』を対象に2026年9月初旬(正確な開始日は未確認)にキャンペーンを開始する予定である。EAはSocial SDKとEvents APIを事前に統合済みだったため、早期導入が可能だった。

同日の発表にはPlay Quest+以外に、Ninja Kiwi(『Bloons Tower Defense 6』)・Facepunch Studios(『Rust』)が加わったSocial Commerceの拡大、プレイヤーのゲーム内実績をDiscordプロフィールに表示する「Game Stats Widgets」、iOS/Android向けSocial SDK対応も含まれる。

Discordが発表した新広告フォーマット「Play Quest+」の公式バナー画像
出典: Discord Inc.(

Discord Adsの広告商品「Discord Quests」

Discord公式ロゴ(黒背景用)
出典: Discord Inc.(

Discordはコミュニケーションプラットフォームとしてすでに広く知られているが、広告事業を担う「Discord Ads」およびその主力商品「Discord Quests」の実態は日本ではまだ詳しく紹介されていない。ここではこの事業部門を中心に整理する。

Discord社の背景(最小限)

  • 設立: 2015年(創業者 Jason Citron、Stanislav Vishnevskiy)
  • 本社: 米国カリフォルニア州サンフランシスコ
  • CEO: Humam Sakhnini(2025年4月28日付で就任。創業者Jason Citronは取締役会・CEOアドバイザーへ)
  • 従業員規模: 約4,900人(2026年7月時点、報道ベース。公式IR未公開)
  • 月間アクティブユーザー: 約2億3,100万人(2025年末時点、報道ベース)
  • ビジネスモデル: 従来はNitroサブスクリプション中心で広告非掲載だったが、2025年以降にDiscord Adsを本格展開
  • 2026年1月に機密IPO申請を行ったと報じられている(Discord広報は公式コメントを拒否)

Discord Questsの仕組みと規模

Discord Questsは、ブランドやパブリッシャーがスポンサーとなり、ユーザーがDiscord内で「クエスト」を受諾し、指定されたアクション(ゲームプレイ・視聴など)を完了すると、Discord Orbsやアバターデコレーション、ゲーム内アイテムなどの報酬を獲得できる広告フォーマットである。Play Quest+では、この報酬条件がアカウント連携によるリアルタイムの行動データ同期に置き換わった点が新しい。

Discord Questsの仕組みを説明する公式ステップ図(ステップ4)
出典: Discord Inc.(
Discord Questsの仕組みを説明する公式ステップ図(ステップ2)
出典: Discord Inc.(

対応プラットフォームはモバイル・デスクトップ・コンソール。公式Discord Ads Questsページによれば、日次アクティブユーザーは9,000万人超(2025年Q4時点)、ユーザーの90%以上がビデオゲームをプレイし、PCプレイヤーの約40%が1時間以内にゲームを開始する。Quests全体の完了率は中央値96%(2026年3月公式プレスリリース)と公表されている。

Discord Ads公式サイトのQuestsページ ヒーローセクション背景
出典: Discord Inc.(

主要パートナーとして公式ページにはUniversal、Capcom、Blizzard、Paramountのロゴが掲載されている。計測面では、モバイル向けにAppsFlyer、PC・コンソール向けのサーバー間イベント連携にGamesightをパートナーとしており、2025年10月2日付の公式プレスリリースで発表された。

Discord Ads公式ページに掲載されているパートナー企業ロゴ(Universal)
出典: Discord Inc.(

広告営業体制の責任者はAdam Bauer氏(Digidayの記事表記では\"Global VP of Advertising\"、過去記事では\"VP of Sales\"表記も見られ、役職名の詳細は未確認)。前職はFaZe ClanのSVP of Partnershipsで、GIPHY・Shazam・ShareThisも経験している。チームにはSnap出身のMeena Mutha氏(Director of Sales)、Twitch出身のStephanie Russo氏(Director of Client Strategy)が参画している。

Play Quest+以前の「Play Quests」はゲームエコノミー×ブランド戦略の実践ガイド|P2E・報酬型広告・ゲーム内広告の選び方と活用法で扱う報酬型広告の一種であり、Play Quest+はその報酬条件を「時間消化」から「行動達成」へ精緻化したものと位置づけられる。

Bauer氏は今回の発表についてDigidayの取材に次のようにコメントしている。

\"What we're going from is a time-based action with a Play Quest to a Play Quest+, which is an event-based action.\"
(訳: 「時間ベースのアクションだったPlay Questから、イベント〔行動達成〕ベースのアクションであるPlay Quest+へと移行します」)

\"Our vision from the get was how we can create a full-funnel solution for game marketers who want to reach our audience, because 90% of our users play games weekly.\"
(訳: 「私たちのビジョンは当初から、Discordのオーディエンスにリーチしたいゲームマーケター向けにフルファネルのソリューションをどう作るかということでした。ユーザーの90%が毎週ゲームをプレイしているからです」)

出典: Digiday

ここまでの取り組み

Discord Questsは2025年の提供開始以降、段階的に機能を拡張してきた。今回のPlay Quest+単発の発表ではなく、一連の広告事業強化の延長線上にある。

時期

出来事

2024年頃

Adam Bauer氏をVP of Sales(当時)として採用し、Quests事業の拡大に着手

2025年(時期未確認)

Discord Quests(Play Quests / Video Quests)提供開始

2025-03-20

Video Questsをモバイルに拡大。Discord初のモバイル広告フォーマット

2025-10-02

Arena Quests発表。モバイル向けVideo Quests正式ローンチ。AppsFlyer・Gamesightと計測パートナーシップ締結

2025-12-02

Discord Commerce(ゲームコミュニティ向け新コマース体験)発表

2026-03-04

EA『Battlefield 6』デベロッパーケーススタディ公開

2026-03-09

Social Commerce拡大、Official Game Profiles、Instant Play Quests(クラウドストリーミング体験版)発表

2026-05-11

Discord Nitro Rewardsローンチ

2026-05-28

CARTA ZEROが日本初のDiscord代理店パートナーに選定

2026-07-22

『Resident Evil』とのタイアップで「初のQuestアクティベーション」実施

2026-08-20

Play Quest+発表。EA『Battlefield 6』が第1弾。Social Commerce拡大・Game Stats Widgets・モバイル向けSocial SDK対応も同時発表

この流れを見ると、Discord Questsは「動画視聴で報酬」(Video Quests)から「プレイ時間で報酬」(Play Quests)、そして今回の「特定の行動達成で報酬」(Play Quest+)へと、報酬条件がより精緻な行動データに基づく方向へ一貫して進化していることがわかる。現時点で公表されている広告メニューはVideo Quests・Play Quests(Play Quest+含む)・Arena Quests・Instant Play Quests・Social Commerceの5系統で、今回の発表はこのうちPlay Questsを行動達成型に更新するアップデートという位置づけになる。過去に大きな撤退や失敗が公表された記録は確認できていない。

広告出稿事例

事例1: EA『Battlefield 6』

Discord公式デベロッパーケーススタディ(2026年3月4日公開)によると、EAはEA Connect内にDiscordの「Unified Friends List」を統合し、コンソールとPCをまたいだフレンド招待を実現した。あわせてOfficial Community Serverを再編し、Legacy/Battlefield 6/REDSECのマイクロコミュニティを構築、Discord Quests(Play Quest)キャンペーンを実施した。

公表されている効果指標は以下の通り。

  • Quest完了 400万件(うち新規プレイヤー由来 204万件)
  • Cost-per-Complete: $0.15
  • Quest参加者の81%が30日以内も継続プレイ
  • アカウント連携プレイヤーの起動日数+22%、セッション長+18%、28日継続率+29%
  • Battlefield 6はEAフランチャイズ史上最高の売上を記録(施策との直接因果は公式には明言されていない)

EA Senior Product ManagerのDave Banse氏は「Players who have more friends to play with spend more time in the game and play more matches.」とコメントしている。

Battlefield 6とDiscordの連携施策を紹介する公式事例ページの図版
出典: Discord Inc.(
EA Battlefield 6のDiscord活用施策を示す公式事例ページの図版2枚目
出典: Discord Inc.(

なお、Discordが2026年8月20日のプレスリリースで公表した「継続率+31%/セッション長+47%/起動日数+57%」という数値は、PC向けSocial SDK連携タイトル全体(Social Layer機能全般)の実績であり、Battlefield 6単体の実績である「起動日数+22%/セッション長+18%/28日継続率+29%」とは異なる指標・異なる集計対象である。両者の関係を明記した公式記述は見つかっておらず、本記事でも混同しないよう書き分けている。

事例2: Second Dinner『Marvel Snap』

Discord公式プレスリリース(2025年10月2日)およびDiscord Ads Questsページによると、Second DinnerはVideo Questsを活用したインストール促進キャンペーンを実施した。800万ユーザー以上にリーチし、AppsFlyerによる計測で「最初のQuestに対して30%のパフォーマンス向上(30% performance lift over the first Quest)」が確認されたと公表されている。

事例3(参考・国内): Ubisoft『レインボーシックス モバイル』日本ローンチ

CARTA ZERO(Discord日本初代理店パートナー)の公式ニュースによると、Ubisoftの『レインボーシックス モバイル』日本ローンチに際し、14日間の集中キャンペーンでシューターゲーム愛好家層をターゲットに認知拡大とインストール促進を実施した。具体的な効果指標は公表されていない。

なぜこの動きが起きたのか

Bauer氏はDigidayの取材で「Discordをコミュニケーションプラットフォームとして捉えており、ソーシャルグラフがゲームの発見・エンゲージメント・マネタイズにおけるフルファネルのレイヤーになりつつある」と説明している。Video Quests(視聴)からPlay Quests(プレイ時間)、Play Quest+(行動達成)への進化は、広告の評価軸を認知から行動、さらに行動の質へと段階的に引き上げる意図の表れと考えられる。動画を見せて態度変容を狙う従来型の広告と異なり、成果指標が「行動の完了」に置き換わる点は、ディスプレイ広告 費用 料金で扱うインプレッション・クリック単価型の評価軸とは異質であり、同じ「デジタル広告」でも評価の考え方が異なることを示している。

背景として、Discordは2026年1月に機密IPO申請を行ったと報じられている(Discord広報は公式コメントを拒否)。広告事業を安定した収益源として強化する必要性が、一連のQuestsアップデートの動機の一つとして指摘されている(Digiday報道)。

日本市場ではどうか

Play Quest+自体の日本展開時期は、2026年8月20日の公式プレスリリースおよび関連報道のいずれにも言及がなく、未確認である。Play Quest+はSocial SDKとEvents APIを事前に統合しているパブリッシャーのみが利用できる仕組みで、EAが第1弾になれたのも先行統合が済んでいたためだった。日本のパブリッシャー・広告主がすぐに使うには、まずこの技術統合というハードルを越える必要がある。

一方でDiscord広告そのものの日本展開は始まっている。2026年5月28日、CARTA ZEROがDiscord米国本社と直接連携し、国内初の展開パートナー(代理店)に選定されたと発表した。これによりDiscord Quests(Video Quests・Play Quests等)の国内出稿が可能な体制は整いつつある。ただし現時点で確認できる国内活用事例は、前述のUbisoft『レインボーシックス モバイル』のみで、効果指標は非公開である。

日本のモバイルゲーム広告市場は2025年に約4,400億円(31.2億ドル)、グローバルのゲーム内広告市場は2026年に約1.2兆円(約120億ドル)規模で年平均成長率約11%とされる。市場自体は拡大しているが、Play Quest+のような最新フォーマットが日本のブランドにとって「今すぐ使える手段」かというと、現状はまだそこまで到達していない。ゲーム内広告全体の基礎的な仕組みはゲーム内広告とはで整理している。

日本で同じ広告を実施する選択肢

Discord Play Quest+は「特定のゲーム内行動を達成した人に報酬を渡す」という設計であり、技術統合の準備ができているパブリッシャー・広告主がグローバル配信の一環として活用する性格が強い。日本の広告主が同種の効果を今すぐ狙う場合、選択肢は大きく2つに分かれる。

1つは、CARTA ZERO経由でDiscord Quests(Play Quests・Video Quests等)の出稿を検討する方法。Discordのコミュニティに強く根ざしたユーザー層(特にゲーマー層)にリーチできる一方、Play Quest+のような最新フォーマットの提供時期・料金体系は現時点で公表されておらず、技術統合の要否も含めて個別確認が必要になる。

もう1つは、国内のゲーム内広告アドネットワークを使う方法である。Ad-Virtuaはゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信する国内最大級のアドネットワークで、対応タイトルは400以上、1週間30万円のプランから出稿でき、累計再生数は8,000万回を超えている(2025年後半時点)。Play Quest+のような「行動達成型」の報酬設計とは仕組みが異なり、Ad-Virtuaは視認・想起をベースにした広告表示である点は正直に書き分ける必要がある。共通するのは、いずれも「広告を広告として押し付けない」設計思想を持つ点である。

Discord Play Quest+に向くのは、すでにグローバルでSocial SDK統合を進めているパブリッシャーや、Discordコミュニティとの親和性が高いゲーム関連ブランドである。一方、日用品・食品・外食など非ゲーム業種のブランドが「まず国内で認知・想起を獲得したい」段階であれば、技術統合を必要としないAd-Virtuaのようなアドネットワークの方が着手のハードルは低い。FMCGメーカーのゲーム内広告活用プレイブック|食品・日用品のKPI設計・クリエイティブ戦略・ROI目安では、こうした業種のKPI設計の考え方を整理している。

広告主が取るべき判断

今動くべき企業の条件

  • 自社タイトルが既にDiscord Social SDK・Events APIを統合済み、または統合を検討中のゲームパブリッシャー
  • Discordコミュニティ内での継続率・セッション長といった「接触後の行動継続」をKPIに据えたいゲーム関連ブランド

様子見でよい企業の条件

  • ゲーム開発・パブリッシングを行っていない非ゲーム業種のブランドで、まずは国内での認知拡大・想起獲得を目的とする企業。この場合は技術統合を要さない国内アドネットワークの活用から検討する方が現実的である
  • Play Quest+の日本展開時期・料金体系が未公表である以上、今すぐ予算化する段階にはない企業

関連する基礎知識への導線

FAQ

Q. Play Quest+はPlay Questsとどう違うのか。

Play Questsは一定時間のプレイで報酬を得る時間ベースの仕組みだったが、Play Quest+は「チュートリアル完了」「マッチ完了」といった具体的な行動の達成を条件にする。技術的にはDiscordアカウントとゲームアカウントを連携させ、Social SDKとEvents APIでゲーム内の進捗をリアルタイムに同期する点が新しい。

Q. Play Quest+はどのゲームパブリッシャーでも使えるのか。

現時点ではSocial SDKとEvents APIを事前に統合しているパブリッシャーが対象で、EAはこの統合を先行して済ませていたため第1弾になれた。他のパブリッシャーが利用できる時期は本記事執筆時点で公表されていない。

Q. Battlefield 6の売上が過去最高だったのはPlay Quest(+)の効果と言えるのか。

Discordの公式ケーススタディでは、Quest完了400万件などの数値と「フランチャイズ史上最高の売上」が併記されているが、施策と売上との直接的な因果関係は公式には明言されていない。継続率やセッション長の向上は確認できるが、売上との因果は解釈にとどまる。

Q. 日本企業がDiscordに広告出稿する場合、代理店を通す必要があるのか。

2026年5月28日にCARTA ZEROがDiscord米国本社と直接連携する日本初の代理店パートナーに選定されたと発表しており、国内からの出稿相談窓口としてはこの代理店経由が現状確認できる唯一のルートである。