ドバイ政府の機関であるDMCCと地元のイベント会社ワイルド・アンリミテッドが、ドバイの名所10か所をフォートナイトの中に再現した島「Dubai Developed in Fortnite 2033」を2026年11月11日に全世界で公開します。広告枠を買うのではなく、都市や施設そのものをゲームの中に「遊べる場所」として置く施策です。日本でも自治体が同じ型の島を作り始めていますが、民間の広告主が今すぐ使える手段は、自前の島を作るか、既存タイトルの中に広告を出すかの2つです。

発表の内容

2026年11月2日、ドバイ・マルチ・コモディティーズ・センター(Dubai Multi Commodities Centre、以下DMCC)が運営するゲーム企業の集積拠点「DMCC Gaming Centre」と、ドバイのイベント会社ワイルド・アンリミテッド(Wild Unlimited)は、フォートナイト(Fortnite)の島「Dubai Developed in Fortnite 2033(略称DDIF2033)」を発表しました(出典: DMCC公式リリース)。

「Dubai Developed in Fortnite」のキービジュアル。フォートナイトのキャラクター5人とドバイの街並み、Wild UnlimitedとDMCC Gaming Centreのロゴ
出典: DMCC / Wild Unlimited(

リリースで確認できる事実は次のとおりです。

項目

内容

名称

Dubai Developed in Fortnite 2033(DDIF2033)

制作

ワイルド・アンリミテッドが、エピックゲームズ(Epic Games)の制作ツールUEFN(Unreal Editor for Fortnite)で独自に制作

ゲームの形式

オープンワールドのチーム制。探索、対戦チャレンジ、チームで達成する目標がある

全世界公開日

2026年11月11日

公開イベント

同日、ドバイのカイト・ビーチにあるビーチ施設SALTで公開イベントと「Wild Game Fest」を開催

事前キャンペーン

2026年11月1日から「Dubai Drop」を実施中

エピックゲームズとの関係

「Epic Games, Inc.のスポンサー、承認、運営によるものではない」とリリースに明記

今後の予定

今後のバージョンで目的地とゲーム機能、「クリエイターと商業パートナー向けの機会」を追加予定。内容は未公表

島の中に再現されるのは次の10か所です。

再現スポット

アル・ファヒディ・フォート(Al Fahidi Fort)

アルマス・タワー(Almas Tower)

アップタウン・ドバイ(Uptown Dubai)

スカイダイブ・ドバイ(Skydive Dubai)

ディープ・ダイブ・ドバイ(Deep Dive Dubai)

カイト・ビーチ・ドバイ(Kite Beach Dubai)

SALT

ドバイ・ハーバー(Dubai Harbour)

エックス・ドバイ(X-Dubai)

アメリカン大学ドバイ校(American University in Dubai、以下AUD)

協力組織として、ドバイ経済観光局(Dubai Department of Economy and Tourism)、ドバイ・カルチャー(Dubai Culture)、SALT、投資会社のシャマル・ホールディング(Shamal Holding)、AUDのモハメド・ビン・ラシッド・コミュニケーション学部が挙がっています。経済観光局については名前があるだけで、具体的な役割は書かれていません。

事前キャンペーンのDubai Dropは、SNS、クリエイター施策、市内各所に置いたAR(拡張現実)のルートボックスを組み合わせたものです。参加者はARのコレクティブルを集め、11月11日のWild Game Festで協賛企業の景品と交換します。島とは別のキャンペーンという位置づけです。

一方、島コード、対応機種、無料かどうか、公開期間はどの公式発表にも書かれていません(テックメディアのtbreakも未公表と報じています)。制作費と来訪者数の目標も公表されていません。

発表者のコメントのうち、リリースから原文で確認できた部分を訳して紹介します。DMCC会長兼CEOのアハメド・ビン・スライエム(Ahmed Bin Sulayem)氏は「私たちのゲームコミュニティが働くAlmas TowerとUptown Dubaiが、世界中のプレイヤーが一緒に探索できる目的地になる」「目指すものは明確だ。ドバイで作られ、ドバイで育った人材が手がけ、世界中で遊ばれるゲームである」と述べています。ワイルド・アンリミテッド創業者兼CEOのサム・シャミ(Sam Shami)氏は「世界中の何百万人ものプレイヤーがドバイを発見できる、デジタルの目的地をつくりたい」と話しています。

DMCCとワイルド・アンリミテッドはどんな組織か

DDIF2033には当事者が2者います。ドバイ政府の機関であるDMCCと、地元のイベント会社ワイルド・アンリミテッドです。性格がまったく違うため、分けて説明します。

DMCC Gaming Centreの入口サイン。木製ルーバーに「DMCC GAMING CENTRE」のロゴ
出典: DMCC(

DMCCとはどんな組織か

DMCCは2002年に設立されたドバイ政府の機関(a Government of Dubai Authority)です。ドバイをコモディティ取引と企業進出の玄関口にする目的で作られました(出典: DMCC about)。

項目

内容

法的な性格

ドバイ政府の機関

設立

2002年

本部

ドバイのアルマス・タワー(2008年から本部)

運営エリア

ジュメイラ・レイク・タワーズ(Jumeirah Lakes Towers、JLT)とアップタウン・ドバイ

登録企業数

26,000社超、180か国(aboutページ)。2026年8月のリリースでは「約27,000社」

トップ

アハメド・ビン・スライエム氏(会長兼CEO)。取締役会議長はハマド・ムバラク・ブアミム(Hamad Mubarak Buamim)氏

テック分野の企業

ゲーム、AI、暗号資産、Web3、サイバーセキュリティで4,000社超。DMCC内で最も大きく、最も伸びている分野(2026年8月のリリース)

DMCCはフリーゾーン(経済特区)の運営機関で、企業に登記、オフィス、ライセンスを提供しています。政府機関なので創業者はおらず、職員数は確認できませんでした。

DDIF2033に再現されたアルマス・タワーとアップタウン・ドバイは、DMCC自身の本部と、ゲーム企業が入居するエリアです。再現スポットには観光名所と「自分たちの拠点」の両方が入っており、島は企業誘致の宣伝も兼ねていると考えられます。

DMCC Gaming Centre

今回の発表の主体は、DMCCの中のゲーム部門「DMCC Gaming Centre」です。2022年12月13日、ドバイ・eスポーツ・フェスティバル(Dubai Esports Festival)の場で設立が発表されました(出典: DMCC設立リリース)。

設立時に掲げた提供内容は、コミュニティ、イベントとeスポーツ大会、ゲームに特化したアクセラレーションと市場参入支援、オンラインで完結する会社設立手続き、ブロックチェーン/Web3ゲーム向けの資金プログラムでした。設立時のパートナーはヤッラ・イースポーツ(YaLLa Esports)、アストロラボ(AstroLabs)、ブリンク(Brinc)の3社です。

現在の提供内容はDMCCのGamingページで確認できます。

区分

内容

場所

コワーキング席、個室オフィス、会議室

事業支援

NEXUS(KOSDAQ上場のブロックチェーンゲーム企業と運営する共同パブリッシングとWeb3の支援。初期費用ゼロでレベニューシェア)、Epiphany(隔週のメンタリング)、DMCC Knowledge Series

エコシステムパートナー

ユニティ(Unity)、Nexus、Epiphany、Level Up、AUD、SAEユニバーシティ・カレッジ

海外のコワーキング提携

CV Labs、Solana Shipyard、Unicorn Factory Lisboa

入居企業の例

Omnyex、Perfect Tap Games、Meta Gaming Labs、GameX Solutions、Appquantum、Hockwood、Fraglab、Zuuks

担当役員

ベラル・ジャソマ(Belal Jassoma)氏

入居企業数は、公式発表の時期によって次のように増えています。

時点

入居社数

出典

2022年12月(設立時)

DMCC全体のゲーム企業が50社超

設立リリース

2026年8月

165社。過去12か月で約40社増え、年30%の成長

DMCCリリース(Gamescom 2026)

2026年11月

170社超

今回のリリース

NEXUSの運営パートナーについて、DMCCは「KOSDAQ上場のブロックチェーンゲーム企業」としか書いておらず、社名はわかりません。日本企業が入居しているかどうかも確認できませんでした。

DDIF2033は、Gaming Centreにとって「ドバイのゲーム人材が世界向けのものを作れる」と示す実例と考えられます。ビン・スライエム氏はリリースで「ドバイのゲーム産業の次の成長段階は、私たちがここで生み出し、世界へ届けるものによって決まる」と述べています。

2022年12月のDMCC Gaming Centre設立リリースに掲載された写真
2022年12月のDMCC Gaming Centre設立リリースに掲載された写真。出典: DMCC(

ワイルド・アンリミテッドとはどんな会社か

ワイルド・アンリミテッドは、ドバイを拠点にするイベント会社です。公式サイトのタイトルは「Wild Unlimited — Event Powerhouse for the Digital Generation」で、検索結果に表示される紹介文では「Where the real world meets the game」を掲げ、リアルとゲーム内の両方で体験をつくる会社と説明しています(出典: Wild Unlimited公式サイト。本文はJavaScriptで描画されるため、検索結果の抜粋で確認)。

項目

内容

創業者兼CEO

サム・シャミ氏。LinkedInでは「Gaming, Esports, Web3 & the Digital Economy」を掲げ、中東・北アフリカ(MENA)地域のゲーム、eスポーツ、Web3の領域で活動している(LinkedInの検索結果の抜粋による)

拠点

ドバイ。DMCCの入居企業かどうかは未確認

設立年、従業員数、法人格

公表情報なし

資金調達

調達ラウンドの発表は見つからなかった

確認できた事業は、2026年2月以降のものです。

  1. UEFNマスタークラス(AUDとアップタウン・ドバイで開催。AUDでは2026年2月5〜6日)
  2. 業界交流イベント「WILD Meet-Up」(2026年2月6日にAUDで1回目、11月3日に2回目)
  3. DDIF2033の制作と運営
  4. Dubai Drop(ARキャンペーン)
  5. Wild Game Fest

ゲームスタジオというより、イベント会社がゲーム内の体験づくりに手を広げた会社と見るほうが実態に合っています。イベントのバックパネルには、DMCC Gaming Centre、ドバイ・カルチャー、AUD、10F Creators、NOETA Academy、Unreal Engineの「Instructor Partner 2025」表記、GDEVのロゴが並んでいます(AUDの記事に掲載された写真による)。

2026年2月にドバイ・アメリカン大学で開かれたWILD Meet-Upのパネル討論。背景にWild Unlimited、DMCC Gaming Centre、Dubai Culture、AUDなどのロゴが並ぶ
2026年2月のWILD Meet-Up。出典: American University in Dubai(

11月3日の2回目のMeet-Upでは、DMCC、ドバイ・カルチャー、AUDのコミュニケーション学部に加え、ドバイ・フェスティバル・小売振興機関(Dubai Festivals and Retail Establishment、DFRE)の代表が「なぜDDIF2033を支援したか」を話すパネルに登壇する予定です(出典: イベント告知ページ)。DFREはDMCCリリースの協力組織一覧には載っていません。

エピックゲームズとの関係は、リリースの免責文どおり「スポンサー、承認、運営によるものではない」と扱うのが正確です。

島の中でブランドや施設がどう見えるのか

DDIF2033には、公表時点で「広告枠」を売る仕組みはありません。施設や企業が登場するのは、施設そのものがゲームの中に場所として再現される形です。

UEFNは、エピックゲームズが提供するPC向けのツールで、フォートナイトの中に独自の島を作れます。今回の島もこのツールで作られました。プレイヤーはチームを組んで島を探索し、対戦チャレンジやチームの目標に取り組みます。その舞台として、スカイダイブ・ドバイやドバイ・ハーバーといった実在の場所が再現されています。

対応プラットフォーム、想定するプレイヤー数は公表されていません。シャミ氏のコメントに「何百万人ものプレイヤー」という言葉があるだけで、公式の目標値はありません。

ブランドが自分でゲーム体験を作る型の仕組みは、広告ゲームの仕組みを解説した記事で詳しく扱っています。

ここまでの歩み

DMCCは政府機関で、ワイルド・アンリミテッドは資金調達を公表していません。そのため資金調達の履歴ではなく、DMCCとドバイがゲームの領域で何をしてきたかを時系列で並べます。

時期

出来事

そのとき目指していたこと

2002年

DMCC設立

ドバイをコモディティ取引と企業進出の玄関口にする

2008年

アルマス・タワーがDMCCの本部に

本部の移転。今回、島に再現された建物の一つでもある

2022年12月13日

DMCC Gaming Centreの設立を発表。当時のゲーム企業は50社超

MENAのゲーム市場を18億ドル、2025年に50億ドルと試算し、企業の集積を狙った

2023年3月16日

ソウルと京畿道でロードショー。韓国のブロックチェーン、メタバース関連の団体と提携

韓国のゲーム関連企業との関係づくり

2023年5月29日

調査レポート「Future of Trade」のゲーム・eスポーツ版を発行。MENAのゲーム収益が2027年までにほぼ倍増すると予測

市場の成長見通しを示す

2023年11月2日

ドバイ皇太子ハムダン殿下が「Dubai Program for Gaming 2033」を発表

2033年までに世界のゲーム都市トップ10入り、3万人の雇用創出、GDPを約10億ドル押し上げる

2024年12月17日

DMCC Crypto Centre Metaverseを公開

自前の仮想空間を持つ

2025年8月

Dubai Program for GamingがGamescomで地域初の政府パビリオンを出すと発表

海外の展示会での発信

2026年2月5〜6日

AUDでUEFNマスタークラス(ワイルド・アンリミテッド、NOETA Academy、DMCC)

学生がキャンパスを再現し、のちにDDIF2033に組み込まれる

2026年8月26日

Gamescom 2026でセルビアのゲーム協会と提携。Gaming Centreは165社

欧州との連携

2026年11月1日

Dubai Drop開始

島の公開前の集客

2026年11月2日

DDIF2033を発表

—

2026年11月11日

全世界公開、SALTで公開イベントとWild Game Fest

—

時期未定

次のバージョンで目的地、ゲーム機能、クリエイターと商業パートナー向けの機会を追加する計画

内容は未公表

Dubai Program for Gaming 2033はドバイ未来財団(Dubai Future Foundation)が所管し、人材、コンテンツ、技術の3領域に重点を置いています(出典: Dubai Media Office)。DMCCのリリースは、DDIF2033をこの政策に沿った取り組みと説明しています。島の名称の「2033」も、政策の目標年と同じ数字です。

2024年12月に公開されたDMCC Crypto Centreのメタバース空間。ドバイの高層ビル群を望む仮想ロビー
2024年に公開されたDMCC Crypto Centre Metaverse。出典: DMCC(

2024年の仮想空間と今回の違い

ゲームとメタバースの領域で、DMCCがサービスを終了したり撤退したりしたという公式発表は、今回の調査では見つかりませんでした。2024年のCrypto Centre Metaverseが今も動いているかは確認できていません。

ただ、2024年と2026年では作り方が変わっています。2024年は、ブラウザで入れる自前の仮想空間を技術パートナーのインフィニット・リアリティ(Infinite Reality)と作りました。2026年は、フォートナイトという既存の大きなプラットフォームの中に島を置いています。自前の空間はプレイヤーを一から集める必要がありますが、フォートナイトの中なら、すでにそのゲームを遊んでいる人の近くに場所を置けます。ただしDMCCはこの方針転換を明言しておらず、ここで書いた違いは筆者の解釈です。

広告出稿事例

DDIF2033は公開前で、ブランドが費用を払って出稿した事例の効果指標(想起率、来訪数など)は、今回の調査範囲では一次情報が見つかりませんでした。そこで、出稿や協賛の形で関わっている事例と、同じ型の先行事例を整理します。どの事例も効果指標は未公表です。

事例1: DDIF2033に再現された施設(ドバイ)

  • 登場する施設: スカイダイブ・ドバイ、ディープ・ダイブ・ドバイ、SALT、ドバイ・ハーバー、エックス・ドバイ、アップタウン・ドバイなど、民間とレジャー施設を含む10か所
  • 実施内容: 施設そのものをゲーム内に再現した。SALTは、実際の施設が公開イベントの会場にもなる
  • 費用負担: 各施設が費用を払って掲出したかどうかは確認できていない
  • 効果指標: 未公表(公開前)

ゲームの中の場所と、現実の会場が同じ施設になっている点が特徴です。ゲームで知った場所に、イベントの日に実際に足を運んでもらう流れを狙っていると考えられます。

事例2: Dubai Drop(ドバイのAR施策)

  • 実施内容: 市内各所にARのルートボックスを置き、集めたコレクティブルをWild Game Festで協賛企業の景品と交換する
  • 協賛企業名、景品の内容、終了日: 未公表
  • 効果指標: 未公表

島とは別のキャンペーンですが、公開日のイベントに向けて人を集める役割を持っています。SNSとクリエイター施策も組み合わせており、ゲームの外で集客を組んでいる点が参考になります。SNSとゲームで接触の質がどう違うかの整理は、ゲーム広告とSNS広告の比較が詳しい内容です。

事例3: DMCC Crypto Centre Metaverse(2024年、DMCC自身の先行施策)

  • 実施内容: DMCC Crypto Centreのデジタルツインを、ブラウザで入れる仮想空間として公開した。トレーディングゲーム、景品付きの宝探し、銀行、コンプライアンス、保険の相談窓口、チャットボットを備える
  • 技術パートナー: インフィニット・リアリティ
  • 効果指標: 未公表

出典: DMCC 2024年12月17日リリース

事例4: 江の島フォートナイトバーチャルワールド(藤沢市)

  • 主体: 藤沢市と株式会社ステラマリス(名古屋市)の実証実験
  • 公開: 2026年2月16日
  • 実施内容: 江の島の街なみと観光施設を再現した。目的はメタバースによる観光プロモーションと、実際の来訪の促進。島コードは1741-5229-6282。ステージの拡大とギミックの追加を予定している
  • 効果指標: 未公表

出典: 藤沢市公式サイト

フォートナイト内に再現された江の島のシーキャンドル(藤沢市の実証実験「江の島フォートナイトバーチャルワールド」)
出典: 藤沢市(

4つの事例とも、プレイ数や来訪者数といった成果は公表されていません。自前の島や仮想空間は体験を深く作れる一方で、成果を外から比べられる数字はまだ出ていません。

なぜこの動きが起きたのか

直接の背景は、2023年11月に発表されたDubai Program for Gaming 2033です。「2033年までに世界のゲーム都市トップ10」という目標があり、政府機関であるDMCCは、企業を集めるだけでなく、ドバイで作ったものが世界で遊ばれる実例を必要としていたと考えられます。ビン・スライエム氏の「ドバイで作られ、ドバイで育った人材が手がけ、世界中で遊ばれるゲーム」という言葉も、この目標と重なります。

人材育成の流れもつながっています。2026年2月のUEFNマスタークラスで、AUDの学生が自分たちのキャンパスを再現し、それがDDIF2033に組み込まれました(出典: AUD記事)。AUDのゲームデザイン・開発学士課程は、USCスクール・オブ・シネマティック・アーツ(USC School of Cinematic Arts)と共同で作られ、現在2年目です。AUDのソフィー・ブトロス(Sophie Boutros)氏は、学生の参加を「このプログラムの可能性を早い段階で、目に見える形で示すもの」と述べています。

AUDキャンパスで開かれたWILD Meet-Upの会場。ステージで話す登壇者と聴衆
UEFNマスタークラスと同時期に開かれたWILD Meet-Upの会場。出典: American University in Dubai(

市場の面では、DMCCがGamingページでGamesBeatの調査「State of Dubai's Games Industry 2025」として紹介している数字があります。UAEのゲーム市場は2023年に4億8,410万ドル、2030年に7億5,420万ドル(年平均成長率6.16%)、UAEの成人の91%がゲーマー、ドバイのゲーマーの72%がソーシャル機能のあるタイトルを好む、というものです。チーム制で一緒に探索する島の作りは、こうした遊ばれ方に合わせたものと考えられます。

DDIF2033には、政府の産業政策、企業誘致、人材育成、観光の4つが1つの島に載っています。単独の観光PRというより、都市のブランディングの施策と見るのが妥当だと考えられます。

日本市場ではどうか

観光地をフォートナイトの中に再現する取り組みは日本でも始まっており、先行しているのは自治体です。

倉敷美観地区の倉敷川と川舟。柳並木と白壁の町並み
倉敷美観地区(イメージ)。写真: Chanju Jung / Unsplash

事例

主体 / 制作

公開

内容

江の島フォートナイトバーチャルワールド

藤沢市と株式会社ステラマリスの実証実験

2026年2月16日

江の島の街なみと観光施設を再現。観光プロモーションと来訪促進が目的

くまモン島 -KUMAMON ISLAND TYCOON-

熊本県(制作会社名はページに記載なし)

ページに記載なし

熊本城、黒川温泉、阿蘇山、球磨川下り、万田坑、あか牛丼屋などを配置したタイクーン型。トマト、いちご「ゆうべに」、晩白柚、すいかなど県産品も登場。島コード0507-8727-1071

倉敷美観地区マップ

倉敷市。制作は株式会社tenshabi

2026年10月25日

公開イベントで講演、プロ選手のデモプレイ、交流マッチ(午前の定員200名)、ゲーム制作ワークショップ(30組)を実施

出典: 藤沢市、熊本県、倉敷市

倉敷市は公開イベントと制作ワークショップを組み合わせており、DDIF2033の「公開イベントとUEFNマスタークラス」に近い構成です。ただし国内の事例は、多くが自治体と制作会社の2者で進めています。観光局、商業施設、大学、イベントを束ねたDDIF2033ほどの座組みは、確認できた範囲では見当たりません。

日本の広告主から見た現状は次のとおりです。

  • DDIF2033そのものへの出稿は、現時点ではできません。商業パートナー向けの機会は「今後の版で追加予定」とされているだけで、窓口も条件も公表されていません
  • 自社でフォートナイトの島を持つことはできます。UEFNは公開されたツールで、国内には藤沢市、倉敷市の島を手がけた制作会社があります
  • 既存のゲームタイトルの中で広告に接触してもらう方法(ゲーム内広告)は、国内ですぐに使えます

ゲーム内広告の全体像はゲーム内広告とはで、ゲームに関わる広告の種類はゲーム広告の種類一覧で解説しています。

日本で同じ広告を実施する選択肢

DDIF2033と同じ「ゲームの中でブランドに触れてもらう」施策を日本で行う場合、選択肢は大きく3つです。

光るゲーミングキーボードとマウスでPCゲームをプレイする手元
PCでゲームをプレイする様子(イメージ)。写真: Salah Regouane / Unsplash

比較ポイント

自前のフォートナイト島を作る

商業パートナー枠を待つ(DDIF2033など)

既存タイトル内のゲーム内広告(Ad-Virtuaなど)

体験の深さ

深い。施設や商品の世界を丸ごと作れる

島の設計次第。内容は未公表

看板やモニターでの動画接触。体験は浅い

集客

自前で設計する必要がある

島の運営者に依存

既存タイトルのプレイヤーに届く

費用

国内事例、DDIF2033とも非公開

未公表

Ad-Virtuaは1週間300,000円のプランから

開始までの期間

制作期間が必要

時期未定

動画素材があれば始めやすい

成果の測り方

自分で仕組みを作る必要がある

未公表

再生数やCPMなど、比べられる指標がある

日本向けかどうか

自由に設計できる

ドバイ向けの文脈

国内のゲームプレイヤー向け

自前で島を作る場合の障壁は、制作費と期間、集客、エピックゲームズの規約への対応、成果測定の4つです。島を作っても、プレイヤーが自然に来るとは限りません。DDIF2033もDubai Drop、クリエイター施策、リアルイベントで集客を組んでいます。エピックゲームズ側の規約(免責表記が義務かどうかなど)は今回の調査で本文を確認できていないため、制作会社と事前に確認してください。

ゲーム内広告のAd-Virtua

国内で、既存のゲーム空間の中に広告を出す選択肢の一つがAd-Virtuaです。ゲーム空間の看板やモニターに動画広告を配信するアドネットワークで、対応タイトルは400タイトル以上、料金は1週間300,000円のプランからです。公表している指標は、広告想起率約1.8倍、注目度約1.7倍、CPM約300円(通常500円との比較)です(いずれもAd-Virtuaの公表値)。動画広告にかかる費用全般との比べ方は、動画広告の費用相場を参照してください。

こんな企業におすすめです。

  • 手持ちの動画素材を使い、若年層のゲームプレイヤーに短期間で接触したい企業
  • 自前の島を作る前に、ゲームの中での接触を小さく試したい企業
  • 認知施策の成果を、再生数やCPMなど他の媒体と比べられる指標で説明する必要がある企業

こんな企業にはおすすめしません。

  • 施設や商品の世界観を、プレイヤーが歩き回れる空間として丸ごと体験させたい企業。この場合は自前の島のほうが合います
  • Dubai DropのようなAR施策やリアルイベントと一体で動かしたい企業。Ad-Virtuaの提供範囲は、ゲーム内の看板やモニターでの動画配信です

自前の島を作る場合も、島の存在を知らせる入口として既存タイトル内の広告を使う組み合わせは考えられます。ただし、ゲーム内広告から島への送客効果を示すデータはまだありません。

広告主が取るべき判断

今動いてよい企業の条件は次のとおりです。

オフィスでパソコンに向かい施策を検討するマーケティング担当者
施策を検討するマーケティングチーム(イメージ)。写真: Vitaly Gariev / Unsplash
  • 観光地、レジャー施設、商業施設を持ち、施設そのものを再現する素材がある。国内でも藤沢市や倉敷市の事例があり、制作会社もある
  • 公開イベントや店頭施策など、ゲームの外で集客を組める
  • 成果指標が未整備でも、実証実験として予算を取れる

様子見でよい企業の条件は次のとおりです。

  • DDIF2033への出稿を考えている。商業パートナー向けの機会は内容も時期も未公表です。11月11日の公開後に、プレイヤーの反応と次のバージョンの発表を見てからでも遅くありません
  • 投資判断に成果の数字が必要。国内外とも、フォートナイト島のプレイ数や来訪数を公表した事例は今回の調査では見つかっていません
  • 施設や体験を持たず、伝えたい内容が商品の認知である。この場合は島を作るより、既存タイトル内の広告や他の動画施策の方が費用と成果を比べやすいと考えられます

関連する基礎知識

よくある質問

日本からDDIF2033を遊べますか?

全世界公開と発表されていますが、島コード、対応機種、無料かどうか、公開期間は11月3日時点で公表されていません。11月11日の公開後に、DMCCとワイルド・アンリミテッドの公式発表で確認する必要があります。

Dubai Dropには日本から参加できますか?

ARのルートボックスはドバイ市内各所に置かれ、景品の交換も11月11日にドバイのSALTで開くWild Game Festで行います。ドバイにいる人向けの施策と考えられます。協賛企業名と景品の内容、終了日は公表されていません。

エピックゲームズが関わっていない島を企業や自治体が公開してよいのですか?

UEFNはエピックゲームズが提供している制作ツールで、DDIF2033もこのツールで独自に作られています。リリースには「Epic Games, Inc.のスポンサー、承認、運営によるものではない」という免責文が入っています。ブランドや自治体が島を作るときの規約の本文は今回確認できていないため、制作を始める前に制作会社を通じてエピックゲームズの規約を確認してください。

DMCC Gaming Centreに日本のゲーム企業は入居していますか?

確認できませんでした。DMCCが公開している入居企業の例に日本企業の名前はなく、NEXUSの運営パートナーもKOSDAQ上場の企業とだけ書かれています。アジアでは、DMCCは2023年に韓国のソウルと京畿道でロードショーを開いています。

島に再現された施設は費用を払って掲出しているのですか?

公表されていません。協力組織としてSALTとシャマル・ホールディングの名前は挙がっていますが、各施設が費用を負担したかどうかはリリースに書かれていないため、本記事でも「出稿」とは断定していません。国内の藤沢市、熊本県、倉敷市の島も、制作費や施設側の負担はページに書かれていません。自社の施設を自治体の島に登場させたい場合は、費用負担の有無を主体の自治体や制作会社に直接確かめる必要があります。