博報堂DYグループ傘下のARROVA(東京・渋谷)が、フランス発のインゲーム広告プラットフォーム「Gadsme(ガズミー)」の国内取り扱いを2026年5月13日に開始した。日本の広告主にとっては、海外の大手ゲームスタジオが持つゲーム内広告インベントリに、代理店経由でアクセスできる新しい選択肢が生まれたことを意味する。
発表の内容
株式会社ARROVAは2026年5月13日、Gadsme提供のインゲーム広告商品について日本国内での取り扱いを開始し、出稿希望広告主の募集を同日開始したと発表した(PR TIMES)。
Gadsmeの広告は、ゲーム空間内の壁面・看板・建物といった仮想空間の構造物に溶け込む非侵襲型(ネイティブ)フォーマットで、モバイル・PC・コンソールの各プラットフォームに対応する。一部の広告枠には長押しやダブルタップでクリックできる機能が実装されており、Webサイトへの誘導が可能なため、認知目的だけでなくアクション獲得を狙うキャンペーンにも活用できるとしている。
対応タイトルとしては、月間アクティブユーザー180万人超の「日本で長年親しまれているモバイルサッカーゲーム」を含むプレミアムタイトル群が挙げられている。ただし具体的なゲームタイトル名は公表されておらず、このサッカーゲームへの広告配信開始は2026年夏頃を予定とされている。

ARROVA代表取締役社長の河合佑介氏は「ゲームは今、若年層をはじめとする多くの生活者にとって、日常の中で自然に触れるメディア」とコメント。Gadsme CEOのGuillaume Monteux氏は「インゲーム広告は、ユーザー体験を中断させるものではなく、その体験の自然な延長線上にあるべき」と述べている(いずれもPR TIMES掲載の日本語訳)。
Gadsmeの広告事業
ARROVAとはどんな会社か

株式会社ARROVAは2023年8月1日設立、本社を東京都渋谷区恵比寿ガーデンプレイスタワー31Fに置く、博報堂DYグループの株式会社Hakuhodo DY ONEの子会社である。代表取締役社長は河合佑介氏。自らを「国内初のゲームメディア専業マーケティングエージェンシー」と位置づけ、「プレイアブルブランディング」を基本理念に掲げる。
事業は4本柱で構成される。
- 広告販売事業: ゲーム内・ゲーミングプラットフォーム向け広告枠の販売(今回のGadsme取り扱いはこの事業に該当)
- 広告クリエイティブ制作事業: CGI・AR・3DCGを用いた広告クリエイティブの制作
- ゲーム制作事業: Fortnite・Roblox上でのワールド構築、ブラウザゲーム制作
- デジタルファッション事業: VRChat向けアバター衣装マーケット「TOKYO AVATAR GATE」の運営
資本金・従業員数は公式サイトに記載がなく非公開。
Gadsmeの広告事業

Gadsmeはフランス・パリを拠点とするインゲーム広告プラットフォームで、Guillaume Monteux氏(CEO)、Luc Vauvillier氏(CTO)、Simon Spaull氏(CRO)の3名が創業した。公式ブログでは「3年間のブートストラップ運営を経て2022年4月に資金調達した」と説明されており、この記述から設立は2019年頃と推定される(公式な設立日そのものは確認できていない)。報道ベースでは2024年12月に米国ニューヨークオフィスを開設したとされるが、この点も未確認である。
事業の中核は、ディスプレイ・動画・音声のネイティブ広告を、ゲーム内のスタジアム広告ボード・レーシング回路・都市景観といった構造物にプログラマティックにレンダリングする配信技術だ。ブランド認知目的だけでなく、CPC・CPA・CPIといったパフォーマンス指標に対応したキャンペーンも扱える。

対応プラットフォームはモバイル・PC・コンソールで、Unity・Unreal Engine・独自C++エンジンに対応する。ゲーム内広告とはで解説しているとおり、ゲーム空間の構造物に溶け込ませる方式はゲーム外広告(インタースティシャル等)と異なりプレイ体験を中断しない特徴を持つが、Gadsmeもこの非侵襲型フォーマットを軸にしている。

インベントリ規模については、Gadsme公式サイトのadvertisersページで「契約ゲームスタジオ200社以上」と記載される一方、ARROVA向けプレスリリースでは「100社以上のゲーム開発会社と取り組み中」とされており、両者の数値には食い違いがある。前者が現状値、後者がプレスリリース時点の値である可能性はあるが、差異の理由は確認できていない。
主要パブリッシャーパートナーとして公式サイトにロゴが掲載されているのは、Gameloft、Ubisoft、Sega、Konami、Zynga、Voodoo、Miniclip、Outfit7、Sports Interactive、Ketchapp、Illusion Labs、OneSoft、TapNation、YsoCorpなど。広告主・代理店側のパートナーとしては、Vodafone、WPP、Adidas、Arena Media、Blue 449、Canal+、Dr. Oetker、Havas、Heroiks、LEGO、L'Oréal、McDonald's、Lynx、Magnum、Marriott、PayPal、Powerade、Publicis、Spotify、Unilever、Goldbach、OMGなどのロゴが並ぶ。計測・検証パートナーにはIAS、DoubleVerify、IAB Europe、TAG(Trustworthy Accountability Group)が名を連ねる。
パブリッシャー(ゲーム開発会社)向けの訴求としては、「ARPDAU(1日あたりアクティブユーザー当たり収益)が8〜20%向上する」という数値を公式サイトで掲げている。
ここまでの歩み
Gadsmeの資金調達
Gadsmeは創業から3年間、外部資金に頼らないブートストラップ運営を続けたのち、初めて資金調達を行っている。
時期 | ラウンド | 調達額 | リード投資家 | 主要参加者 |
|---|---|---|---|---|
2019年頃(推定) | 創業 | ― | ― | Guillaume Monteux氏、Luc Vauvillier氏、Simon Spaull氏の3名で創業。3年間ブートストラップで運営 |
2022年4月6日 | シードラウンド | 800万ドル | Galaxy Interactive | Ubisoft(戦略的投資)、複数のゲーム会社創業者ら |
このシードラウンドは「主要人材の採用・組織構築」と「需要拡大に対応するための事業スケール」を目的としたと公式ブログで説明されている。ゲームパブリッシャーであるUbisoftが戦略的投資家として参加している点は、Gadsmeがパブリッシャー側からも事業性を評価されていたことを示す記録といえる。
公式・報道で確認できる調達は、このシードラウンド1回(累計800万ドル)のみで、以降の追加ラウンドは確認できなかった。投資家に日本企業が含まれるかも確認できていない(出典: Gadsme公式ブログ、AdExchanger)。
ARROVAの事業展開

ARROVAは博報堂DYグループ傘下のスタートアップ的子会社であり、資金調達ではなく事業展開の積み重ねとして歩みを整理できる。
- 2023年8月: ARROVA設立(Hakuhodo DY ONEの子会社として)
- 2025年8月7日: VRChat公式IPアバター衣装販売でVとの戦略的業務提携を発表
- 2025年11月13日: マンガ・アニメの公式コラボ商品を扱うVRChat上の「デジタルファッション百貨店」オープン
- 2025年12月18日: 「TOKYO AVATAR GATE」内にデジタルファッション編集平場「HIRAVA」オープン
- 2026年5月12日: 博報堂DYホールディングスと共同で「インゲーム広告に関する生活者調査」を発表
- 2026年5月13日(本件): Gadsmeのインゲーム広告商品の国内取り扱い開始
- 2026年5月19日: Discordの広告商品(Quests、Video Quests等)の国内取り扱い開始
本件は単発の提携ではなく、「ゲーム内広告の効果訴求(5月12日の生活者調査)→海外プラットフォームの取り扱い開始(5月13日のGadsme)→隣接領域のコミュニティ広告取り扱い開始(5月19日のDiscord)」という一連の事業拡大の中核に位置する。博報堂DYグループが海外ゲーム・ゲーミング関連広告プラットフォームの日本総代理店的な機能を、短期間に複数構築している流れの一つと整理できる。
広告出稿事例
Gadsme公式サイトのadvertisersページには、Vodafone、Adidas、L'Oréal、McDonald's、Marriott、PayPal、Spotifyなどのブランドロゴが列挙されているが、個社別に実施内容と効果指標を明示したケーススタディは確認できなかった。代わりに、以下2件の効果指標付き実績が確認できる。

1. Verve(旧Smaato)とのSSP・マーケットプレイス連携実績(2023年通年)
広告配信基盤のVerveとの連携により、Gadsme側の収益は次のように伸びたとVerveが公表している。
- 年間収益成長: 前年比697%
- Prebid統合後の収益成長: 2023年第3四半期対第2四半期で113%
- iOS収益成長: 2023年下半期対上半期で475%
- 在庫充填率の向上: 年間242%
- プラットフォーム依存度: Android約80%からより均衡した構成(約60%)へ低下
出典: Verve公式ケーススタディ(Gadsme本体ではなく、パートナー企業であるVerve側が公表した実績である点に注意)
2. ARROVA×博報堂DYホールディングスによる生活者調査(2026年5月12日発表)
Gadsme導入とは別件だが、ARROVAがGadsme取り扱い開始の効果訴求の裏付けとして用いている数値である。2026年1月に全国15〜49歳男女を対象に実施され、事前スクリーニング5万サンプルから本調査2,860人が回答した。結果、ソーシャルVR(VRChat等)における「空間の壁・看板・建物に表示される広告」の購買喚起度は11.3%で、従来型デジタル広告である「アプリ内バナー広告」(6.8%)の約1.7倍だった。
出典: PR TIMES
ただしこの調査はソーシャルVR空間内の広告を対象としたものであり、Gadsmeが扱うモバイルゲーム内広告そのものの効果を測定したデータではない。ARROVAやこれを報じた媒体は、この結果をGadsme取り扱い開始の文脈で引用しているが、対象範囲が異なる点は広告主として押さえておく必要がある。Gadsme単体でのブランド別出稿事例(実施内容・効果指標つき)は、本記事執筆時点で確認できていない。
なぜこの動きが起きたのか
インゲーム広告の非侵襲型フォーマットは、プレイ体験を中断しないため広告忌避が起きにくいとされ、Gadsmeも「ユーザー体験の自然な延長線上にある広告」を訴求してきた。パブリッシャー側には「ARPDAU8〜20%向上」という収益メリットを示し、広告主側にはVodafone、Adidas、L'Oréalといった大手ブランドの導入実績(ロゴ掲載)を並べることで、両サイドの参加者を増やす戦略を取っている。
ARROVA側から見ると、5月12日の生活者調査で「インゲーム広告の購買喚起効果」を示したうえで、5月13日にGadsmeという海外の具体的な広告枠を提示する流れは、ゲーム内広告というカテゴリーそのものへの理解を促してから商品を紹介する、教育先行型のマーケティングと捉えられる。博報堂DYグループとしては、海外の専業プラットフォームを次々に取り扱うことで、国内広告主に対して「海外ゲーム内広告への窓口」としてのポジションを確立しようとしていると考えられる。
日本市場ではどうか
海外のインゲーム広告プラットフォームが日本の広告代理店を通じて本格参入した事例として、本件は確認できる中では最初期のものにあたる。
ただし、日本の広告主が今すぐ利用できる段階かというと限定的である。ARROVA経由での出稿は「募集開始」段階であり、目玉として挙げられている月間180万人超のサッカーゲームへの実配信は2026年夏を予定としているのみで、本記事執筆時点(2026年8月26日)で開始済みかどうかは確認できていない。具体的な出稿タイトル名、料金体系、最低出稿額もプレスリリースでは非公開だ。
Gadsmeの対応タイトルは海外開発のゲームが中心とみられ、国内パブリッシャーとの直接契約網は確認できていない。ARROVAが日本の広告主とGadsme(海外プラットフォーム)の間に立つ形態のため、運用・レポーティング・言語対応はARROVA経由になる点も特徴だ。
参考までに、日本のアプリ内広告市場は2025年時点で約92億ドル規模、2026〜2034年の年平均成長率は14.16%と予測されている(出典: マーケットリサーチセンター調査、ATPRESS)。市場自体の拡大は続いており、海外プラットフォームの日本進出が今後も続く可能性は高い。
日本で同じ広告を実施する選択肢
Gadsmeのように「海外プレミアムタイトルの量」で訴求するプラットフォームは、グローバル展開するブランドが海外ゲームユーザー層へリーチしたい場合の選択肢になり得る。契約ゲームスタジオ200社以上という規模は、単一の国内事業者では持ちにくいインベントリの厚みだ。
一方で、国内の生活者接点を軸にした認知施策を求める広告主にとっては、いくつか検討すべき違いがある。ARROVA経由のGadsme出稿は代理店を挟む構造であり、料金体系や最低出稿額が非公開であることに加え、対応タイトルの多くが海外開発ゲームである点は、国内パブリッシャーとの直接関係を重視する広告主には合わない可能性がある。
Ad-Virtuaは、国内400タイトル以上のゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信するアドネットワークで、料金は1週間30万円のプランを設定しており、広告想起率は約1.8倍、注目度は約1.7倍、CPMは約300円(通常500円比)という指標を公表している(自社公表値)。国内で完結する運用・レポーティング体制を求める広告主や、料金・効果指標を事前に把握したうえで意思決定したい広告主には、Gadsmeのような海外プラットフォーム経由の窓口よりも扱いやすい面がある。逆に、海外ユーザー層への大量リーチを主目的とする広告主であれば、Gadsmeのような海外プラットフォームの検討価値は高い。
ゲーム内広告とはで解説しているとおり、ゲーム内広告にはサイネージ型・コラボ型などいくつかの方式があり、自社の目的に応じて選ぶ必要がある。
広告主が取るべき判断
今動くべき企業の条件
- グローバル展開しており、海外の主要タイトルユーザー層に早期リーチしたい企業
- 代理店経由での運用・レポーティングに抵抗がない企業
- 対応タイトル名・料金の詳細が非公開の段階でも、先行検討を進める体力がある企業
様子見でよい企業の条件
- 国内の生活者接点を主目的とし、対応タイトルが国内で認知されているかを重視する企業
- 料金体系・最低出稿額が公開されてから意思決定したい企業
- 主要サッカータイトルへの実配信開始(2026年夏予定)の実績が出るのを待ちたい企業
関連する基礎知識への導線
ゲーム内広告の基本的な仕組みや種類については、ゲーム内広告とはで整理している。ゲーム内広告の入り口としての基礎知識はゲーム内広告とは(入口記事)も参照してほしい。
FAQ
Q. Gadsmeは日本のゲームパブリッシャーとも契約しているのか。
A. 本記事執筆時点で確認できた情報の範囲では、Gadsmeの主要パートナーはGameloft、Ubisoft、Sega、Konamiなど海外拠点のゲームスタジオが中心で、国内パブリッシャーとの直接契約は確認できていない。対応タイトルとして挙げられているモバイルサッカーゲームも「日本で長年親しまれている」とされるのみで、開発元の詳細は公表されていない。
Q. ARROVAはGadsme以外にどんな海外プラットフォームを扱っているか。
A. 本件の6日後にあたる2026年5月19日、ARROVAはDiscordの広告商品(Quests、Video Quests、Video Quests on Mobile、Play Quests)の国内取り扱い開始も発表している。短期間に複数の海外ゲーム関連プラットフォームの窓口を構築する動きが続いている。
Q. Gadsmeの資金調達規模は他のインゲーム広告スタートアップと比べてどうか。
A. Gadsmeの公表されている資金調達は2022年4月のシードラウンド800万ドル(Galaxy Interactiveがリード、Ubisoftが戦略的投資家として参加)のみで、これ以降の追加ラウンドは確認できていない。3年間のブートストラップ運営を経ての調達という点が特徴だが、他社との規模比較については本記事のリサーチ範囲では確認できていない。
Q. この記事で紹介されているGadsmeの広告効果指標は、そのままGadsme広告の効果として信頼してよいか。
A. 記事内で紹介したVerveとの連携実績(収益成長697%等)は、Gadsme本体ではなくパートナー企業であるVerve側が公表した数値である。またARROVAが引用する「購買喚起効果1.7倍」の調査は、ソーシャルVR空間内の広告を対象としたものでGadsmeのモバイルゲーム内広告そのものの効果測定ではない。数値を検討材料にする際は、どの媒体・どの広告形式を対象にした調査かを個別に確認することが必要だ。


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