結論
米ミシガン州アナーバー拠点のゲーム内広告スタートアップ Adrenaline Interactive が、州が主催するピッチ大会「PitchMI Championship」で優勝し、100万ドルの投資を獲得した。同社はFortnite・Robloxなどの人気ゲーム内に、AIでブランド資産を取り込んで商品配置(プロダクトプレイスメント)広告を自動生成するプラットフォーム「Brand Fusion AI」を展開しており、日本の広告主にとっては「ポップアップやビルボードに頼らない、ゲーム世界に馴染む広告表現」という選択肢が海外でどう資金と実績を集めているかを知る手がかりになる。
発表の内容
2026年4月7日、米ミシガン州ランシングの Grewal Hall で開催された第2回「PitchMI Championship」で、Adrenaline Interactive が優勝し、100万ドルの投資を獲得した。表彰はミシガン州知事 Gretchen Whitmer が登壇して行った(出典: Michigan Economic Development Corporation公式プレスリリース)。

PitchMI Championshipは Michigan Economic Development Corporation(MEDC)が主催し、Michigan State University(MSU)Research Foundationが運営する州全体のピッチコンペで、2026年で2回目の開催となる。今回は州内100以上の地域コミュニティから375社が応募し、決勝には4社が進出。その中からAdrenaline Interactiveが選ばれた(出典: MEDC公式プレスリリース、MSU Today)。

同社は今回のチャンピオンシップに先立ち、2025年秋の地区予選(アナーバー地区)でも37万5,000ドルを獲得しており、PitchMI関連での獲得額は合計137万5,000ドルに達する。この数値はMEDC公式プレスリリースとMSU公式ニュースの両方で一致している。なお2025〜2026年度のPitchMI全体では、地区賞・チャンピオンシップ賞金・追加ベンチャー投資・Google Cloudクレジットなどを合算して230万ドル以上が配分されたと報じられているが、内訳の按分は報道ベースの情報であり、記事化にあたっては個別に確認できた金額のみを扱う。

Adrenaline Interactive CEOのMax Albert氏は、優勝時のコメントで次のように語っている(MEDC公式プレスリリースより)。
"Winning feels surreal. To be honest, I still don't really believe that I won, because the other companies were just so phenomenal. (中略) In terms of the future, this check is so meaningful to help us bring back advertising dollars to the state of Michigan."
(訳: 「優勝は現実離れした感覚です。正直、自分が勝ったといまだに信じられません。他の企業もあまりに素晴らしかったので。今後については、この小切手はミシガン州に広告費を取り戻す上でとても意味のあるものです」)
「広告費をミシガン州に取り戻す」という発言は、自動車産業の集積地として知られるミシガン州が、近年テック企業の誘致・雇用創出策を進めている文脈と結びついている。
Adrenaline Interactiveとはどんな会社か

正式社名は Adrenaline Interactive, Inc.。2024年に米ミシガン州アナーバーで設立され、CEOはMax Albert氏が務める。従業員規模は公式に非開示だが、後述のPitchMI資金を元手にAnzu(大手ゲーム内広告企業Anzu.io)の元Head of PartnershipsであるDiti Rami氏を採用した経緯があり、それまでは採用余力が限られる小規模チームだったとみられる。
何を提供する会社か
同社が展開するのは「Brand Fusion AI」というAIプラットフォームで、ゲーム内への商品配置(プロダクトプレイスメント)広告の制作・統合を自動化する。公式サイトのキャッチコピーは "Reach, impress, and convert real players into real customers — without ever pulling them out of the game"(プレイヤーをゲームから一切連れ出すことなく、リーチ・印象づけ・顧客化する)で、CEOのAlbert氏はポップアップ広告やビルボード広告がゲーム体験を阻害する課題を繰り返し指摘している。
"I really think that product placement is the friendliest way to advertise to gamers."
"How can we create software to automate the process of product placement within games?"
(訳: 「商品配置こそが、ゲーマーに最も嫌われにくい広告手法だと考えている」「ゲーム内の商品配置プロセスをソフトウェアで自動化するにはどうすればよいか、を考えてきた」)
出典: Max Albert氏、Marketing Brew(2026年5月13日付)
仕組み
ブランド側がロゴやカラーパレットなどのブランド資産をプラットフォームに提供すると、AIがゲームタイトルごとのビジュアルスタイルに合わせて、パワーアップアイテム・看板・テクスチャなど「ゲームの世界観に自然に馴染む」インゲーム要素を自動生成し、実際のゲーム内に統合する。従来は個別の交渉と手作業の制作工程が必要だったゲーム内商品配置を、ソフトウェアで自動化・スケール化することを狙っている。
対応プラットフォームとインベントリ規模
公式サイトおよび複数の報道で明示されている対応タイトルはFortniteとRoblox。加えて公式サイトにはUnity関連タイトル、モバイルトップ100タイトル、「Speed Realistics」など複数タイトルへの展開についての言及があるが、具体的なタイトルリストは非公開。「日次4,400万ゲーマーにリーチ」という記載も確認できたが、一次プレスリリースでの裏取りができていないため、報道ベースの数値として扱う。
計測面では、インクリメンタル売上測定ベンダーのAttainと提携し、IAB(Interactive Advertising Bureau)標準メトリクスでの報告に対応しているとしている(自社サイト記載)。

主要パートナー
公式サイトの「Trusted by」セクションに掲載されているロゴから、Fortnite(Epic Gamesのクリエイターエコシステム関連とみられる)、Roblox、Unity、IABとの関係性がうかがえる。計測面ではAttainとの提携も報道されているが、こちらは報道ベースの情報にとどまる。
ここまでの歩み
Adrenaline Interactiveの資金調達は、2024年の創業からPitchMI優勝まで一連の流れとして追うことができる。
2024年: 創業、Antlerアクセラレータへの参加
Max Albert氏がミシガン州アナーバーで創業し、スタートアップアクセラレータのAntlerが運営するプログラムに参加した(Marketing Brew報道ベース)。この段階では「ゲーム内の商品配置プロセスをどう自動化するか」という着想段階にあった。
2025年1月: シードラウンド
209万ドル、ポストマネー評価額1,000万ドルのシードラウンドを実施したとPitchBookの集計に基づき報じられている。投資家として Antler、eLab Ventures、Michigan Rise、Red Cedar Ventures、20Fathoms の名前が挙がっているが、いずれも公式プレスリリースでの一次確認はできておらず、報道ベースの情報として扱う必要がある。この段階でBrand Fusion AIのプロダクト開発とFortnite・Robloxへの対応が進んだとみられる。
2025年秋: PitchMI地区予選(アナーバー地区)で受賞
MSU Research Foundationが関わるアナーバー地区の予選で37万5,000ドルを獲得した。州全体のチャンピオンシップに進出する足がかりとなったラウンドである。
2026年4月7日: PitchMI Championship優勝
375社の応募・4社の決勝進出という競争の中で優勝し、100万ドルを獲得した。この資金の使途についてAlbert氏は「ミシガン州に広告費を取り戻すために意味のある小切手だ」と述べており、獲得資金を元にAnzuの元Head of PartnershipsであるDiti Rami氏を採用するなど、人材強化に踏み出している。大手ゲーム内広告企業からの人材流入が起きている点は、業界内の人材循環という観点でも記録に値する。
累計調達額について、Crunchbase・PitchBookなど二次集計サイトでの総額表示は本記事執筆時点で確認できていない。そのため本記事では「累計調達額」を断定せず、確認できた個別ラウンドの金額のみを示している。
なお、Adrenaline Interactive自体、あるいはこの領域における大型の撤退・失敗事例は確認できていない。同社は2024年創業の若い企業であり、まだ撤退を語るフェーズにはない。
広告出稿事例
公式サイトのケーススタディセクションには複数のブランド事例が掲載されている。いずれも公式サイト上でCTR・想起率・売上リフトといった具体的な成果指標は公開されていない点は明記しておく必要がある。
事例1: Ballboyz(石鹸ブランド)
Fortnite内での商品配置を2週間展開した事例。効果指標は非公開。

事例2: Dr. Squatch(パーソナルケアブランド)
同じくFortnite内での商品配置事例。効果指標は非公開。

事例3: All Day Energy(エナジードリンクブランド)
レーシング系タイトル「Speed Realistics」内での商品配置事例。効果指標は非公開。

そのほかの言及事例
Sargento Cheese(食品ブランド)については、25万ドル規模のキャンペーンを実施したと報じられているほか、設計パートナーからの署名済みLOI(意向表明書)総額が500万ドルに達するとの言及もある。ただしこの金額は報道ベースであり、一次ソースでの確認は完了していない。Maxxis Tireについてもクライアントとして言及されているが、詳細は未確認である。
いずれの事例も、成果指標が非公開であること自体が一つの事実であり、CPMや想起率といった数値を公開しているサービスと比較検討する際の材料になる。
なぜこの動きが起きたのか
背景には2つの文脈が重なっている。
一つは、ポップアップ広告やビルボード広告に対するゲーマーの拒否感という業界共通の課題だ。Albert氏は「商品配置こそがゲーマーに最も嫌われにくい広告手法」と位置づけており、ゲーム体験を止めない広告表現への需要が投資家の評価につながったとみられる。
もう一つは、地方自治体・大学発のスタートアップ支援スキームという米国特有の資金循環構造だ。PitchMIはMEDCとMSU Research Foundationが運営する州全体のピッチコンペであり、自動車産業の集積地として知られるミシガン州が、Michigan Rise Pre-seed FundやSSBCI 2.0 Venture Capital initiativeなどを通じてテック企業誘致・雇用創出を進めている流れの一環にある。MSU Research Foundation CEOのDavid Washburn氏は次のように述べている。
"Our goal is to create a seamless pathway for founders to move from early traction to global scale without ever having to leave Michigan."
(訳: 「私たちの目標は、創業者が初期の牽引力からグローバルなスケールへと、ミシガンを離れることなく進める道筋をつくることです」)
つまり今回の100万ドルは、単なるスタートアップ資金調達ではなく、地域経済振興策がゲーム内広告という新興分野に資金を流し込んだ事例として読むことができる。
日本市場ではどうか
日本国内で「AIによるゲーム内商品配置の自動生成」を謳うサービスの一次情報は、本記事執筆時点で確認できていない。ゲーム内広告とはで解説しているとおり、国内のゲーム内広告はサイネージ型(ゲーム空間内の看板・モニターへの動画配信)が主流であり、Adrenaline Interactiveのように「ブランド資産をAIでゲーム内アセット化し、既存の人気タイトルに商品配置として組み込む」方式とはアプローチが異なる。
国内でのRoblox・Fortniteを活用したブランド事例としては、読売テレビの「Birdman Contest」on Fortnite、サンリオのハローキティ50周年 on Roblox/ZEPETO、住友商事の「Omochi Studio」(Roblox上のオリジナルコンテンツで代表作「ペタペタ様」が4,500万プレイ超)などが報じられている。ただしこれらは「ブランド世界観を持つオリジナル体験を新規に構築する」型であり、Adrenaline Interactiveが掲げる「既存の人気タイトル内へのAI自動商品配置」とはアプローチが異なる点に注意が必要だ。
Adrenaline InteractiveはFortnite・Robloxという米国発グローバルプラットフォームを主戦場としており、日本語対応や日本国内の代理店網、国内配信インベントリの有無は公式サイト上で確認できなかった。日本の広告主が直接契約する場合、英語でのやり取り、海外送金、グローバルタイトル内での配信効果測定(国内ユーザー比率の把握を含む)といった、海外SaaSを導入する際に一般的に想定される障壁が生じうる。
参考までに、日本のモバイルゲーム広告市場は2025年に約4,400億円(31.2億ドル)、グローバルゲーム内広告市場は2026年に約1.2兆円(約120億ドル、年平均成長率約11%)とされる。
日本で同じ広告を実施する選択肢
Adrenaline InteractiveのBrand Fusion AIは、Fortnite・Robloxという特定のグローバル超大型タイトル内で、AIがブランド資産をゲーム内アセットに自動変換して商品配置する「クリエイティブ生成寄り」のサービスだ。これに対し、国内のゲーム内サイネージ広告は、既存のゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信する「メディア買い付け・配信寄り」のアプローチであり、両者は役割が異なる。
日本の広告主がAdrenaline Interactiveと同種の「ゲーム世界に馴染む、プレイ体験を止めない広告」を国内で実施したい場合、選択肢の一つになるのが国内向けのゲーム内サイネージ広告だ。Ad-Virtuaはこの領域で、ゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信するアドネットワークを展開しており、対応タイトルは400タイトル以上、累計再生数は8,000万回を超える(2025年後半時点)。広告想起率は約1.8倍、注目度は約1.7倍、CPMは通常500円に対して約300円という数値を公表しており、1週間30万円のプランから導入できる。
この選択肢が合うのは、Fortnite・Robloxのようなグローバルタイトルへの英語での直接契約に障壁を感じる企業、国内ユーザーへのリーチを優先したい企業、比較的小さい予算からゲーム内広告を試したい企業だ。逆に、Fortnite・Robloxそのものの巨大なグローバルユーザーベースにリーチしたい企業や、ブランド資産をAIでゲーム内アセットとして自動生成する技術そのものに関心がある企業には、Adrenaline Interactiveのようなサービスの動向を直接追う方が適している。両者は競合というより、リーチする市場とインベントリの性質が異なる別のレイヤーの選択肢として捉えるべきである。
広告主が取るべき判断
今動く価値がある企業
- 若年層への好感度を落とさずに接触したいブランドを持つ食品・飲料・日用品メーカー
- ポップアップ広告やインタースティシャル広告への忌避感が既に社内で課題として認識されている企業
- 国内のゲーム内サイネージ広告を比較的小さい予算から試したい中堅ブランドの担当者
様子見でよい企業
- Fortnite・Roblox等のグローバルタイトルでの商品配置を検討する場合、Adrenaline Interactive自体の日本語対応・国内代理店網の整備状況がまだ確認できていないため、今後の情報公開を待つ方が安全
- 効果指標(CTR、想起率、売上リフト等)を出稿判断の必須条件とする企業は、Adrenaline Interactiveが現時点でこれらを公開していない点を踏まえ、公式な数値開示を待つのが妥当
関連する基礎知識への導線
- ゲーム内広告とは — ゲーム内広告の種類・仕組み・市場性を体系的に解説する基礎記事
- 食品・飲料の若年層リーチ — 本記事の事例(食品・パーソナルケアブランド)と重なる業界別の施策解説
- テレビCMの代替・補完施策 — ゲーム内広告を含む新しい生活者接点の選び方
FAQ
Q. Adrenaline InteractiveはFortniteやRobloxの公式パートナーなのか?
A. 公式サイトの「Trusted by」セクションにFortnite・Roblox・Unityのロゴが掲載されており、関係性がうかがえるが、公式パートナー契約の具体的な形態(Fortnite Creator Program等への参加形式を含む)は本記事執筆時点で確認できていない。
Q. 日本の広告主はAdrenaline Interactiveに直接出稿を依頼できるのか?
A. 公式サイト上に日本語対応や日本国内の代理店窓口についての記載は確認できていない。問い合わせ自体は公式サイトから可能とみられるが、契約・支払い・効果測定を含めた実務フローは未確認であり、今後の情報公開を待つ必要がある。
Q. Brand Fusion AIの料金体系はいくらか?
A. 公式サイト上で具体的な料金プランは公開されていない。Sargento Cheeseの事例で25万ドル規模というキャンペーン金額が報じられているが、これは個別キャンペーンの報道ベースの数値であり、標準的な料金体系を示すものではない。
Q. Adrenaline Interactiveの累計調達額はいくらなのか?
A. シードラウンド(2025年1月、209万ドル、報道ベースで公式未確認)とPitchMI関連の獲得額(累計137万5,000ドル、公式確認済み)は個別に判明しているが、両者を合算した公式な累計調達額の発表はなく、Crunchbase・PitchBookなど二次集計サイトでの総額表示も本記事執筆時点では確認できていない。そのため本記事では「累計調達額」を断定的な一つの数字としては示していない。
Q. 商品配置広告とゲーム内サイネージ広告、日本の広告主はどちらを検討すればよいか?
A. Fortnite・Robloxのようなグローバル超大型タイトルへの英語での直接契約に抵抗がなく、海外ユーザーへのリーチを重視するなら、Adrenaline Interactiveのような商品配置サービスの動向を追う価値がある。一方、国内ユーザーへの効率的なリーチを優先したい、あるいは比較的小さい予算からゲーム内広告を試したい場合は、国内向けのゲーム内サイネージ広告が現実的な選択肢になる。両者は競合ではなく、リーチする市場とインベントリの性質が異なる別レイヤーの施策として使い分けるのが妥当だ。


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