ホテル・レジャー業界のZ世代マーケティング戦略とは、まだ宿泊単価の小さい若年層に対してゲーム空間・メタバース・SNSを通じて「将来の第一想起」を設計し、ロイヤルティプログラムを経由して10年後のファミリー層需要につなげる長期施策の総称です。Marriott BonvoyやHiltonがすでに実装している「ゲーム接点×ロイヤルティ統合」型ファネルは、シニア層の旅行離脱が加速する2026年において、中堅ホテル・レジャー施設にも応用可能な勝ち筋になっています。

この記事でわかること:

  • ホテル業界が「Z世代×ゲーム接点」に2026年に投資すべき構造的な理由
  • Marriott Bonvoy Land(Fortnite)とHilton Slivingland(Roblox)に共通する「将来顧客獲得ファネル」の設計図
  • 国内ホテル・レジャー業界(ホテルプラザオーサカ・志摩スペイン村・SHIBUYA109)のゲーム空間活用事例
  • 大規模メタバース投資をしない中堅ホテルに有効な「ゲーム内サイネージ広告」の費用感と実装条件
  • 導入検討時に確認すべき5つのチェックポイント

ホテル・レジャー企業のマーケティング担当者・ブランド戦略室・宣伝部の方を主な対象に書いています。本記事は「Z世代×ゲーム接点×将来顧客獲得」のテーマに特化した深掘りガイドです。同じホテル・旅行業界でも「OTA依存脱却・直接予約比率の引き上げ」という収益構造側の課題に焦点を当てた姉妹ガイド「ホテル・旅行業界のOTA依存脱却ガイド|直接予約比率を高めるブランド体験設計と顧客接点強化」もありますので、目的に応じて使い分けてください。

なぜ2026年に「Z世代×ゲーム接点」がホテル業界の経営課題なのか

富士山と市街地の眺め-2026年のホテル・レジャー業界が直面するインバウンド増加と国内旅行者減少の市場変化を象徴する風景

ホテル業界の主要顧客層だった70代以上のシニア層が、健康・介護を理由に旅行頻度を急減させています。一方、次の主力顧客となる20〜30代の若年層に対しては、多くのホテルが「いま予約しない層」として施策投資を後回しにしてきました。この優先順位は短期ROIとしては合理的ですが、10年後の顧客基盤を構造的に縮小させるリスクを内包しています。

宿研ナレッジ「2026年宿泊業界の動向」では、「若い時期の良い体験が将来のファミリー層の選択につながる」という構造が明示されており、20代前半に形成されたブランド印象は、その人が30代でファミリー旅行を計画するときの「第一候補」に直接影響します。同レポートによれば国内では「年1回も旅行しない人が50.5%」「旅行する人は年平均2.86回」と二極化が進んでおり、リスティング・OTA刈り取りだけでは届かない層への接点設計が急務です。

ヒルトン「2026 Trends Report」(世界14カ国14,000人調査、Travel Voice 2026年1月20日報)でも、旅行の選択基準が「どこへ行くか」から「なぜ行くのか(感情的動機)」へシフトしていることが示されており、感情記憶の起点として機能するメディア接触面の重要性が増しています。

Z世代のメディア接触の現実として無視できないのが、生活者データ・ドリブン「若年層にアプローチする、ゲームを活用した次世代PR手法」のデータです。Z世代の約80%がゲームアプリを毎日プレイし、平均プレイ時間は約100分/日に達しています。テレビリアルタイム視聴が減少する一方、スマートフォンゲームの利用時間は伸長しており、SNS・動画広告以外の接触面として「ゲーム空間」が台頭しています。広告そのものの基本構造を整理した「広告とは?意味・種類・効果と現代マーケティングでの位置づけ」も併せてご覧ください。

2026年に「Z世代×ゲーム接点」を経営課題化する3つの構造変化

構造変化

内容

経営への影響

シニア層の旅行離脱加速

70代以上の旅行頻度急減

顧客基盤の世代交代を10年単位で設計する必要

若年層のメディア構造転換

ゲーム接触100分/日、テレビ離れ進行

既存施策の延長では若年層にリーチできない

旅行動機の感情化

「どこへ行くか」より「なぜ行くのか」

感情記憶を残す接点設計が予約の入口になる

出典:宿研ナレッジ「2026年宿泊業界の動向」、ヒルトン2026 Trends Report、生活者データ・ドリブン

Marriott Bonvoy LandとHilton Slivingland:2大事例が示す「将来顧客獲得ファネル」の構造

スマートフォンを持ちセルフィーを撮る若い女性たち-Z世代・若年層のメディア接触特性を活かしたホテル業界の将来顧客獲得ブランド体験設計

ホテル業界のZ世代マーケティングを語るうえで、避けて通れない2大事例がMarriott BonvoyのFortnite活用とHiltonのRoblox活用です。両者は単なる広告露出ではなく、ゲーム空間→ロイヤルティプログラム→実宿泊という「将来顧客獲得ファネル」を完成させている点で共通しています。

Marriott Bonvoy Land(Fortnite)

Marriottは2023年10月、Fortnite上に「Marriott Bonvoy Land」をローンチしました。Marriott公式ニュースリリース(2023年10月25日)およびSkift(2023年12月16日)によれば、Moxy Hotels・Westin・W Hotels・Autograph Collectionの4ブランドをテーマにしたミニゲームを展開し、プレイヤーは仮想ロビーで「チェックイン」してから各ホテルのミニゲームに進む設計です。Hospitality Companyとしては初めて、かつ最大規模のFortnite展開となりました。

Skiftの分析によれば、Marriott側の狙いは「次世代の旅行者にBonvoyを紹介し、最終的には現実世界の旅行プログラムへと誘導する」こと。つまり18〜25歳の若年層をBonvoy会員に早期登録させ、カジュアルな宿泊→上位会員→高級ブランドへのステップアップを長期設計するロイヤルティ戦略の入口として、ゲーム空間を位置付けています(ゆいマーケメディア「マリオットマジック」も同様の分析)。

Hilton Slivingland(Roblox)

Hiltonは2025年1月、Paris Hilton率いる11:11 Media運営の「Slivingland」(Roblox上の仮想都市)と提携し、初のメタバース活用を発表しました(Hospitality Technology報)。仮想ホテルロビー、デジタルウェアラブルを獲得できるクエストに加え、メタバース内のチャレンジ達成でHilton Honorsのステータスアップ・ポイント獲得・限定特典が得られるという、業界初のメタバース→現実世界連動を実装しています。

2大事例の共通構造

両者の施策には明確な共通設計があります。

「将来顧客獲得ファネル」の3段構造

段階

ゲーム空間でやること

ロイヤルティ統合

実世界への誘導

第1段:感情接触

ブランド世界観に没入

(まだ会員でない層も自然に体験)

ブランド印象の形成

第2段:会員化

チャレンジ・ミッション達成

ポイント・ステータス付与

ロイヤルティアプリへの誘導

第3段:実宿泊

ゲーム内特典が実宿泊に連動

上位ステータスへのステップアップ

直接予約・指名予約

出典:Marriott公式ニュースリリース2023年10月25日、Hospitality Technology「Hilton Makes its First Metaverse Move」、Skift 2023年12月16日

このファネル設計は、Roblox・Fortniteへの数千万〜億単位の開発投資が前提です。日本国内の中堅ホテルが同じスケールで実装することは現実的ではありませんが、「ゲーム空間でブランドに触れさせ、ロイヤルティプログラムへ誘導する」という設計思想は、後述するゲーム内サイネージ広告でも応用可能です。

なお、ゲーム接点で形成したロイヤルティ会員を 直接予約(公式サイト・公式アプリ経由) にどう接続して収益化するか(OTA手数料15〜25%の削減効果も含む)という収益構造側の論点は、姉妹ガイド「ホテル・旅行業界のOTA依存脱却ガイド|直接予約比率を高めるブランド体験設計と顧客接点強化」で詳しく扱っています。

国内ホテル・レジャー業界のゲーム空間活用事例

国内でもゲーム空間を活用したホテル・レジャー施設の認知施策が始まっています。Marriott・Hiltonほどの大規模投資はないものの、Z世代・α世代への「ブランド体験の起点」として機能する事例が増えてきました。

企業

プラットフォーム

施策内容

主な狙い

ホテルプラザオーサカ

Fortnite

「和牛鉄板パルクール」マップを2024年5月公開

大阪文化発信・万博来訪者増加

志摩スペイン村

Roblox

園内の街並み・アトラクションを仮想空間で再現

遠方在住の若年層・未来の来場者へのアプローチ

SHIBUYA109

Fortnite

「SHIBUYA109 SHOOT and RUN」を2023年12月リリース

Z世代向けブランド接触面の確保

出典:各社プレスリリース・NEWGAME「飲食とホテル業界のメタバース事例9選」(確認日:2026-04-18)

これら国内事例に共通するのは「宿泊・来場の意思決定よりも前の段階で、ブランドとの感情的なつながりを作る」という目的設計です。直接予約に紐づくCV施策ではなく、5〜10年単位での第一想起形成を目的としている点で、Marriott・Hilton事例と方向性が一致しています。

ただし、独自マップやワールドの開発には数百万〜数千万円の投資が必要となり、運用ノウハウも限られた制作会社にしかありません。この投資規模を取れない中堅ホテル・レジャー施設には、別の選択肢としてゲーム内サイネージ広告(既存ゲームの看板枠への配信)が現実的です。

ゲーム内サイネージ広告:中堅ホテル・レジャー施設向けの現実解

モルディブの高級リゾートホテルの水上ヴィラ-ロイヤルティ統合と体験設計でゲーム内広告がブランド認知拡大に貢献する例

Roblox・Fortniteを使ったコラボ型施策は「大規模投資型」の認知施策ですが、国内市場ではゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信する「ゲーム内サイネージ広告」が、より導入しやすい認知チャネルとして選択肢に加わっています。これはホテルプラザオーサカや志摩スペイン村の事例とは別ベクトルの「広告ネットワーク型」の打ち手です。

Ad-Virtuaが提供するゲーム内広告は、プレイ体験を妨げない形でゲーム空間の看板・モニターに動画広告を表示するアドネットワークです。国内400タイトル以上に対応しており、累計再生数は8,000万回を突破(公式サイト確認)。主な効果データとして、広告想起率 約1.8倍、注目度 約1.7倍、視認率 最大96%、ユーザー好感度 約85%が報告されています(出典:Ad-Virtua公式サイト、確認日:2026-05-11)。

コラボ型 vs サイネージ型 比較

比較ポイント

コラボ型(Roblox・Fortnite独自展開)

サイネージ型(ゲーム内広告ネットワーク)

初期投資

数百万〜数千万円

30万円/週〜

制作期間

3〜6か月

数日〜2週間

効果発現

中長期(半年〜)

短期(出稿期間中)

ロイヤルティ統合

設計次第で可能(Marriott型)

別途LP・QRコード等で連携

ブランドリフト

高(深い体験)

中(接触ベース)

向いている規模

大手・グローバルチェーン

中堅〜大手全般

ゲーム内広告の仕組みや種類については「ゲーム内広告とは?種類・費用・効果を解説」を、費用感の詳細は「ゲーム内広告・メタバース広告の費用・料金相場」をあわせてご覧ください。

こんなホテル・レジャー企業に向いています

以下の条件に当てはまる場合、ゲーム内広告(サイネージ型)はZ世代向けブランド認知施策として有効に機能しやすいと考えられます。

  • 若年層(10代〜30代)への将来顧客獲得を経営課題として掲げている
  • すでにテレビCM素材・ブランド動画を保有しており、転用先を探している
  • SNS広告・インフルエンサー施策とは異なる、新しい接触面で第一想起を作りたい
  • 都市圏ホテル・テーマパーク・大型レジャー施設として、マス認知施策の補完を検討している
  • 30万円/週という予算規模で、まずはZ世代接点を試してみたい
  • ロイヤルティプログラムへの新規登録を増やすキャンペーンの誘導枠を探している

このような企業にはあまり向いていません

  • 即時の予約獲得・CVRを最優先とする施策を求めている(ゲーム内広告は認知フェーズの施策)
  • ターゲットが60代以上のシニア層に限定されている
  • 「特定県への旅行検討者」など、行動データに基づくピンポイント配信を必要としている
  • 動画素材がなく、制作費を確保する余地もない(ただし素材制作サポートは要問合わせ)
  • 短期間(1〜2か月)でROIを完結させる必要がある

導入検討時の5つのチェックポイント

実際にゲーム接点施策(コラボ型・サイネージ型のいずれか)を検討する際に、稟議・社内合意で確認しておきたい論点を整理します。

  1. 施策の位置付け:認知フェーズの長期施策として設計しているか。短期CV・予約数で評価する設計になっていないか。
  2. ロイヤルティ統合:会員プログラムへの誘導導線(QR・LP・アプリ)が組み込まれているか。
  3. 将来顧客獲得KPI:ブランドリフト調査・指名検索数・会員登録数など、長期評価の指標を設定しているか。
  4. 既存素材の活用:CM・ブランドムービーをそのまま転用できるか、追加制作が必要か。
  5. 直販導線との整合:ゲーム接点で獲得したリードを公式サイト・公式アプリへ送客し直接予約に繋げる導線が設計されているか(→ ホテル・旅行業界のOTA依存脱却ガイド)。

認知から体験・リピートまでのフェーズ全体設計については「顧客接点を増やす方法」もご参照ください。

よくある質問

Q. Marriott BonvoyやHiltonのような大規模メタバース展開は、どれくらいの予算が必要ですか?

A. 公式に予算は公表されていませんが、業界関係者の見立てではFortniteやRoblox上に独自ワールドを構築するには数千万〜億単位の開発費に加え、運用・マーケティング費用が継続的に必要です。中堅ホテルが同規模を取ることは現実的ではないため、まずはゲーム内サイネージ広告(30万円/週〜)でZ世代接点を試すのが現実的な第一歩になります。

Q. ゲーム接点で得られるロイヤルティ会員を、どう評価すれば良いですか?

A. Marriott BonvoyのFortnite施策のように、ゲーム経由で獲得した会員は通常会員より若年層比率が高く、長期LTVが大きくなる可能性があります。評価指標としては「会員獲得数」だけでなく「会員ランク移行率」「会員 vs 非会員の客単価差」「会員継続率」を複合的に追うことが推奨されます。

Q. Z世代へのゲーム経由アプローチは、ホテル業界では本当に効果があるのですか?

A. Arrivia調査(Travel Voice引用)によれば、Z世代・ミレニアル世代はロイヤルティプログラムへの参加意向が年配層より19%高い特性があります。また、Z世代の約80%がゲームアプリを毎日プレイしている(生活者データ・ドリブン)ことから、メディア接触面としての適合性は高いと考えられます。ただし「ゲーム接点で獲得した会員 = すぐ実宿泊する顧客」ではないため、5〜10年スパンでの将来顧客育成として位置付ける必要があります。

Q. ホテル・レジャー業界での国内ゲーム内広告事例はありますか?

A. Ad-Virtuaを活用したホテル業界向けの個別事例は、現時点(2026年5月)では公式サイト・プレスリリースに公表されていません。一方、ゲーム空間活用としてはホテルプラザオーサカ(Fortnite)や志摩スペイン村(Roblox)の独自ワールド展開事例があります。ゲーム内サイネージ広告は食品・飲料業界での実績が先行しており、ホテル・レジャー業界への展開は今後の拡大余地が大きい領域です。

Q. 「年1回も旅行しない50.5%」の層に対して、ゲーム接点はどう機能しますか?

A. 国内で旅行頻度の低い層に対してリスティング・OTAで刈り取るアプローチは費用対効果が低いですが、非侵入型の認知接触(ゲーム内広告・SNS等)で潜在的な興味を育てておくことには意味があります。「旅行するなら○○」という第一想起を形成しておくことで、旅行意欲が高まった瞬間(昇進・出産・退職など)の選択肢に入りやすくなります。Marriott・Hiltonがゲーム接点で狙っているのも、まさにこの「第一想起の予約」設計です。

Q. 効果測定はどう設計すれば良いですか?

A. 認知施策の効果測定はCV直接紐付けが難しいため、「ブランドリフト調査(想起率・好感度の変化)」「接触前後のSNS言及数」「指名検索数の変化」「ロイヤルティプログラム新規登録数」などを組み合わせて測定します。Ad-Virtuaの場合、媒体ROIは平均4.5倍・最大5.4倍という数値が報告されています(公式サイト、確認日:2026-05-11)が、ホテル業界での個別データは要問合わせとなります。