チャートブースト(Chartboost)は、モバイルゲームにSDKを組み込んで広告を配信し、ゲーム開発者の収益化を支えてきたプラットフォームで、2024年12月に英国のアドテク企業ループミー(LoopMe)が買収し、2026年4月9日にはゲームアプリの広告枠をブランド広告主へ直接売る「Chartboost Direct」を始めました。日本の広告主から見ると、海外ではゲームアプリがブランド広告の出稿先として作り直されつつある一方で、チャートブースト経由で国内ブランドがすぐ使える窓口や事例は確認できないため、国内で同じ目的を果たすには別の手段と比べて選ぶことになります。

Chartboost Directの発表内容

開発者向けのノートPCとスマートフォンが並ぶデスク(アプリ開発のイメージ)
出典: Unsplash

ループミーは2026年4月9日、ニューヨークとロンドンから「Chartboost Direct」を発表しました(出典: LoopMe 公式リリース、ExchangeWire)。リリースでの位置づけは「アプリ内環境向けのブランドSDK(the brand SDK for in-app environments)」で、ループミーが特許を持つAI(ブランド成果の最適化)で動きます。アプリの運営者(パブリッシャー)は、今使っているアドテクの構成を変えずに導入できるとしています。

機能は3つあります。

機能

内容

Direct Pay

パブリッシャーが、参加するブランド系SSPと直接契約する。支払いは既存のChartboost SDK連携を通じて直接受け取る

Direct Deals

PMPのディールIDを持つ新しい広告枠を作り、パブリッシャー自身のアドサーバーから呼び出す。プレミアムなブランド系DSPと直接つながる

Marketplace Deals

メディエーションのオークションの中で、在庫にディールIDを付けてまとめて売る。新しい設定は要らない

SSPは広告枠を売る側、DSPは広告枠を買う側の取引システムです。PMP(プライベート・マーケットプレイス)は特定の買い手だけが参加できる取引で、ディールIDはその取引を識別する番号です。メディエーションは複数の広告ネットワークを1つのアプリの中で競わせる仕組みを指します。

参加するSSPの社名はリリースに書かれていません。コメントを寄せたのはマグナイト(Magnite)だけです。

発表者のコメント

ループミーのCEO兼創業者、スティーブン・アップストーン(Stephen Upstone)氏は、Webの代わりになる広告在庫の必要性を挙げています。

"As web traffic declines, brands need new inventory sources to replace web, but these often require direct supply, and we see reseller traffic being penalised through SPO."
(Webのトラフィックが減るなか、ブランドはWebに代わる新しい在庫を必要としている。ただしそれには直接供給が求められることが多く、再販経由のトラフィックはSPO〔サプライパス最適化〕で不利に扱われている)

"With higher CPMs, cleaner supply paths, better UX, and sustainable brand demand for mobile app publishers, Chartboost Direct is a must-have toolkit"
(CPMの向上、透明な供給経路、より良いUX、そしてモバイルアプリのパブリッシャーにとって持続的なブランド需要。Chartboost Directは欠かせないツールキットだ)

SPOは、広告の買い手が、仲介業者の多い経路を減らして直接に近い経路から買うようにする取り組みです。

マグナイトのマイク・ラバンド(Mike Laband)氏(Group SVP, US Revenue)は、次のように述べています。

"Traditionally, premium mobile supply has been blocked by reseller constraints or lack of interoperable buying signals,"
(これまでプレミアムなモバイル在庫は、再販の制約や、相互運用できる買い付けシグナルの不足に阻まれてきた)

"Chartboost Direct now brings SSPs and brands an alternative path directly into quality in-app publisher environments."
(Chartboost Directは、SSPとブランドに、良質なアプリ内パブリッシャー環境へ直接入る別ルートを提供する)

リリースに添えられた調査

リリースはループミーの調査も引用しています。生成AIを使い始めた人の約5人に1人がWebを見る時間が減った(増えたは15%)と答え、モバイルゲームアプリの利用時間は「増えた」が最大19%、「減った」が15%でした。リリースはこれを「net increase of +31%」と表記しています。AIを従来の検索より多く使うようになった人は約3割です。

元の調査は2025年12月11日に発表されたもので、対象は米国・英国・オーストラリアの消費者66,819人です。モバイルゲームの時間が増えた人は米国19%、英国21%、オーストラリア18%でした(出典: LoopMe 調査リリース)。

Chartboostとはどんな会社か

赤背景に白抜きで並ぶLoopMeとChartboostのロゴ
出典: LoopMe(

基本情報

項目

内容

法人名

Chartboost, Inc.(ジンガのSEC提出書類による)

現在の位置づけ

ループミーの製品ラインの一つ「Chartboost by LoopMe」

創業

2011年、米サンフランシスコ(報道ベース)

創業者

マリア・アレグレ(Maria Alegre)氏(CEO)、ショーン・ファナン(Sean Fannan)氏(CTO)。2人ともタプラス(Tapulous)の出身(報道ベース)

従業員数

2021年5月時点で100人超。現在は非公開

拠点(2021年)

サンフランシスコ、北京、バルセロナ、アムステルダム

歴代CEO

創業時はアレグレ氏、2021年のジンガによる買収時はリッチ・イッツォ(Rich Izzo)氏。交代の時期は確認できなかった

親会社

LoopMe(2024年12月から)

出典: TechCrunch(2013年1月8日)、Zynga 公式リリース(SEC提出)、LoopMe Chartboost製品ページ

創業年・創業者・本社は2013年のテッククランチ(TechCrunch)の報道で確認したものです。チャートブースト自身の会社紹介ページは残っておらず、chartboost.comにアクセスするとloopme.ai/chartboostへ転送されます。ループミーのサイトでは「より高いCPMとフィル率を実現するアプリ内収益化プラットフォーム」と紹介されています。

広告がゲームに表示される仕組み

Chartboostのアプリ内広告フォーマットを示すスマートフォン画面の図
出典: LoopMe(

広告が表示されるまでの流れは次のとおりです。

  1. 主にモバイルゲームの開発者が、自分のアプリにChartboost SDKを組み込みます。
  2. ゲームの画面が切り替わる地点や、報酬と引き換えに広告を見る地点で、動画・リワード・インタースティシャル・バナーなどの広告が表示されます。
  3. 広告の買い手は、チャートブーストの取引所(エクスチェンジ)につながる110超の需要ソースです。これにループミー自身のブランド広告の需要が加わります。

SDKの売り方は2通りあります。1つはネットワークSDKで、あらかじめ決めた順番で広告ネットワークに枠を回すウォーターフォール方式です。もう1つはビディングSDKで、メディエーションの中のアプリ内入札に参加します。製品ページは「主要メディエーションパートナーの大半」でアプリ内入札に対応しているとしています。個別の社名は書かれておらず、公式に発表されているのは2025年5月20日のアップラビン(AppLovin)の「MAX」への対応です(出典: LoopMe 公式リリース)。

自社のメディエーション「Chartboost Mediation」もあります。開発者向けドキュメントでは、Monetization SDK(Android v9.14.1、iOS v9.14.2)とMediation SDK(v5.4.0)がどちらも現行の製品として載っています(2026年11月1日確認、出典: Chartboost ドキュメント)。

ここで出てくる広告はリワード・インタースティシャル・バナーといった、ゲームのプレイの外側に出る広告が中心です。ゲーム空間の中の看板などに表示する広告との違いは「ゲーム内広告とは」で整理しています。

2026年の機能追加

  • 2026年3月19日: AIエージェントがSDKの組み込みを自動で行う「Chartboost AI-powered SDK integration」を発表しました。App ID、広告フォーマット、同意(プライバシー)の要件を入れると、AndroidとiOSの組み込みコードを作ります。手作業で組み込んだ既存の実装の点検と修正もします。効果の数値は公表されていません(出典: LoopMe 公式ブログ)。
  • 2026年4月9日: Chartboost Directを発表しました。
  • 2026年7月28日: LoopMeの公式リリースによると、Monetization SDK 9.13.0でディープリンクへの対応を広げ、動画再生を改善し、iOSのSwift Package Managerに対応しました。

インベントリの規模

時点

公表されている指標

出典

2013年1月

月間アクティブ端末3億台超、月60億ゲームセッション、1.2万超のゲーム

TechCrunch(報道)

2021年5月

月間ユーザー7億人超、月間の広告オークション900億件超

ジンガ公式

2026年

直接SDK連携のアプリ3,000超、日次アクティブのモバイルユーザー7億人、1日9,000億件のビッドリクエスト、需要ソース110超

ループミー製品ページ

2021年は「月間ユーザー」、2026年は「日次アクティブ」と、指標の定義が違います。2つの数字を並べて伸びたかどうかを判断することはできません。地域ごとの内訳も公開されていません。

主要パートナー

Chartboostに接続する主な需要パートナーのロゴ一覧(aarki、Magnite、InMobi、Moloco、Kayzen、PubMatic、Liftoff、PubNative、LinkedIn、The Trade Desk)
出典: LoopMe(
  • ゲームスタジオ: ジンガ(Zynga)とその傘下のスタジオ。製品ページで名指しされており、買収のリリースにはジンガのモバイルゲームが引き続きチャートブーストの在庫に含まれると書かれています。
  • メディエーション: アップラビンのMAX。ほかは「主要メディエーションの大半」とだけ書かれています。
  • 需要側(DSP・SSP): 製品ページのロゴ一覧に、アーキ(aarki)、マグナイト、インモビ(InMobi)、モロコ(Moloco)、ケイゼン(Kayzen)、パブマティック(PubMatic)、リフトオフ(Liftoff)、パブネイティブ(PubNative、Verve Group)、リンクトイン(LinkedIn)、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)が載っています。ロゴ一覧は需要ソースの例として示されたもので、個別の提携内容は書かれていません。
  • 計測ベンダー: チャートブースト単体の計測パートナーは確認できませんでした。

親会社LoopMeの事業

チャートブーストの今後を考えるうえでは、親会社のループミーが何をしている会社かを押さえる必要があります。

項目

内容

設立・本社

2012年、英国ロンドン

創業者

スティーブン・アップストーン氏、マルコ・ファン・デ・ベルフ(Marco van de Bergh)氏

経営陣

会社ページではアップストーン氏はFounder & Chair Emeritus。リリースではCEO & Founderの名義が続いている。ほかにマイナルド・デ・ナルディス(Mainardo de Nardis)氏(Executive Chairman)、マイケル・スコット(Michael Scott)氏(CRO、2026年2月就任)など

自己定義

「the global leader in brand performance」。標語は「Bringing Brands into Apps(ブランドをアプリに呼び込む)」

製品群

Intelligent Marketplace、Chartboost、PurchaseLoop、Premium Deals Library、AMP(Audience & Measurement Platform)、Creative Studio、Political Advertising

成長率

2018〜2025年の総収益の年平均成長率40%

特許

ホームでは「9 patents」。2025年1月時点は4件取得・9件出願中

出典: LoopMe ホーム、LoopMe 会社ページ、LoopMe 公式リリース(2026年2月24日)

アップストーン氏は2026年2月のリリースで「今後数年で年10億ドル超の収益」を目指すと話しています。これは会社の目標で、達成した数字ではありません。

ループミーの中心にあるのが「PurchaseLoop」です。キャンペーンの配信中に、認知・好意・購買意向といったブランドリフトをリアルタイムで測り、その指標が上がるようにAIで配信を調整します。2020年8月にCTV(インターネットにつながったテレビ)へ広げ、2021年9月には計測だけを行う「PurchaseLoop Measurement」を始めました(出典: LoopMe 公式リリース(CTV)、LoopMe 公式リリース(Measurement))。

ユーザー獲得と収益化のために使われてきたチャートブーストの在庫に、ブランドリフトを目標に配信する親会社の仕組みが乗ったことになります。

ここまでの歩み

チャートブーストの歴史はベンチャー投資を受けて育ったスタートアップの時期と、親会社がジンガ、テイクツー、ループミーと変わっていった時期に分かれます。

創業期の資金調達

時期

ラウンド

金額

投資家

そのとき会社がしようとしていたこと

2011年10月

シリーズA

200万ドル

トランスリンク・キャピタル(TransLink Capital)、SKテレコム・ベンチャーズ(SK Telecom Ventures)

ゲーム同士の相互送客(クロスプロモーション)とユーザー獲得。この時点で黒字だったと報じられている

2013年1月

シリーズB

1,900万ドル

リードはセコイア・キャピタル(Sequoia Capital)。既存のトランスリンク、SKテレコム・ベンチャーズも参加

アプリ内の収益化とアナリティクスの製品を開発する

出典: TechCrunch(2013年1月8日)。いずれも報道ベースで、チャートブーストの公式発表は確認できていません。

報道で確認できる2回を足すと2,100万ドルです。ほかのラウンドがあったかどうかは確認できず、チャートブーストが公式に示した累計調達額も見つかりませんでした。日本企業の投資家は確認できません。SKテレコム・ベンチャーズは韓国のSKテレコムの系列です。

創業期の事業はあるゲームの中で別のゲームを宣伝して、開発者同士でユーザーを送り合う仕組みでした。シリーズBの用途が「収益化」に移っていることから、ユーザー獲得の仕組みから、ゲームの広告枠を売る仕組みへ軸足を移していった時期だと考えられます。2016年以降に提供したサービスとその終了については、公式の記録を確認できませんでした。

ジンガによる約2.5億ドルの買収

ゲーム会社のジンガは2021年5月5日、チャートブーストの全株式を現金約2.5億ドルで取得すると発表しました。合意は前日の5月4日で、このうち2,500万ドルはエスクロー(第三者預かり)に置かれ、通常の価格調整も付いていました。買収は2021年8月4日に完了しています(出典: Zynga 8-K、Zynga 完了リリース)。

このときのチャートブーストはDSP・SSP・SDKベースのメディエーションを持つ、モバイルのプログラマティック広告と収益化のプラットフォームとして紹介されています。ジンガのCEOだったフランク・ギボー(Frank Gibeau)氏は、狙いを次のように説明しました。

"By combining Zynga's high-quality games portfolio and first-party data with Chartboost's proven advertising [platform] … we will create a new level of audience scale"
(ジンガの良質なゲームポートフォリオとファーストパーティデータを、チャートブーストの実績ある広告プラットフォームと組み合わせ、新しい水準のオーディエンス規模を生み出す)

チャートブーストのCEOだったイッツォ氏は、「ジンガとモバイルのエコシステム全体に役立つフルスタックの広告プラットフォームをさらに広げる」と述べています。ゲーム会社が自社のゲームとデータに広告の基盤を組み合わせる、という構想でした。

テイクツー・インタラクティブの傘下へ

2022年1月10日、テイクツー・インタラクティブ(Take-Two Interactive)がジンガの買収を発表しました。ジンガ1株あたり9.861ドル(現金3.50ドルとテイクツー株6.361ドル相当)で、示された企業価値は約127億ドルです。買収は2022年5月23日に完了し、チャートブーストはテイクツーのグループに入りました。テイクツーのリリースでも、チャートブーストを持つジンガは次世代のプラットフォームとして紹介されています(出典: Take-Two 公式リリース(SEC提出)、Take-Two 10-Q)。

ループミーへの売却

LoopMeとChartboostのロゴを並べた買収発表の告知画像
出典: LoopMe(

2024年12月10日、ループミーはテイクツーの完全子会社であるジンガから、チャートブーストを取得したと発表しました。取引条件は公表されていません(出典: LoopMe 公式リリース)。

リリースはチャートブーストを「没入型の広告フォーマットでアプリ開発者の収益化を支え、ゲームパブリッシャー向けのメディエーション事業も運営する会社」と紹介しています。買収でループミーのSDK網が広がり、ループミーの需要パートナーはジンガのモバイルゲームを含むチャートブーストのパブリッシャーに広告を出せるようになりました。アップストーン氏は「モバイルアプリ内とCTVこそがブランド広告の未来だと考えている」と述べています。

ジンガは約2.5億ドルで取得したチャートブーストを、約3年半後に金額を明かさずに手放したことになります。売却額が取得額を下回ったかどうかは公表されておらず、売却の理由も説明されていません。ゲーム会社が広告基盤を自社で持つという2021年の構想は、この売却で元に戻ったと考えられます。ジンガ時代に掲げていたDSP(広告主側)がループミーの下でどうなったかも公式な説明はなく、現在の開発者向けドキュメントはMonetization・Mediation・Partnersの3区分で、DSPの項目はありません。

ループミーの資金調達

チャートブーストを買い取ったループミー自身の資金調達は、次のとおりです。

時期

内容

金額

投資家

用途

2017年3月7日

追加調達

1,000万ドル

新規: インパルスVC(Impulse VC)、ハーバート・ヨーロピアン・グロース・キャピタル(Harbert European Growth Capital)。既存: ホルツブリンク・ベンチャーズ(Holtzbrinck Ventures)、オープン・オーシャン(Open Ocean)

AI技術とグローバル展開。この時点の累計は1,700万ドル

2018年10月28日

成長資金

1,700万ドル

リード: BGF。参加: HVホルツブリンク・ベンチャーズ、オープン・オーシャン、インパルスVC

AIによる最適化とアトリビューションの米国展開、アジア太平洋の強化。公式表記の累計は3,200万ドル

2022年1月13日

過半数株式の取得

1.2億ドル(企業価値は2億ドル弱)

メイフェア・エクイティ・パートナーズ(Mayfair Equity Partners)。BGFは継続

米国での成長、日本を含む新しい地域への展開、データ・計測製品

出典: LoopMe 公式リリース(2017年)、LoopMe 公式リリース(2018年)、LoopMe 公式リリース(2022年)

2018年の累計3,200万ドルはそれまでの累計1,700万ドルに1,700万ドルを足した値と一致しませんが、公式の表記のまま載せています。2015年にも調達があったことが2017年のリリースで触れられていますが、金額と投資家は公開されていません。

ループミーは、ベンチャーキャピタルからの調達で公式表記の累計3,200万ドルに達した段階から、2022年にプライベート・エクイティが過半数を取得する段階に移りました。その2年後に、ゲーム会社が手放したモバイルゲームの広告基盤を引き取っています。

現在の広告メニューとChartboost Directの位置づけ

区分

プロダクト

使う人

役割

収益化

Monetization SDK(ネットワーク/ビディング)

ゲーム開発者

ゲームに広告枠を置き、需要ソースに売る

収益化

Chartboost Mediation

ゲーム開発者

複数の広告ネットワークを競わせる

ブランド向けの直接取引

Chartboost Direct(Direct Pay/Direct Deals/Marketplace Deals)

パブリッシャー、ブランド系SSP・DSP

再販を通さずにブランドへ在庫を売る

開発支援

AI-powered SDK integration

ゲーム開発者

SDKの組み込みを自動化する

親会社の計測・最適化

PurchaseLoopほか

広告主・代理店

ブランドリフトを測って配信を調整する

従来、チャートブーストのアプリ在庫は、アドネットワークからSSP、DSPへと再販を重ねて売られていました。Chartboost Directは、この在庫をブランド系のSSP・DSPへ直接売る経路として、既存のSDKの上に追加されたものです。ループミーのCEOは2026年7月28日のリリースで、Chartboost Directへの投資を続けると話しています。

広告出稿事例

ここで紹介するのは、ループミー全体(モバイルアプリ内とCTV)の公開事例です。チャートブーストの在庫やゲームの中で配信したと明記された事例は、見つかりませんでした。

マクドナルド:チキン・マッククリスピー

LoopMeのマクドナルド「チキン・マッククリスピー」事例ページに掲載されたキービジュアル
出典: LoopMe(

マクドナルド(McDonald's)は「チキン・マッククリスピー」の広告で、PurchaseLoop Audiencesを使い、「辛くないフライドチキンが好きな人」のセグメントを配信前に作りました。配信中はブランドリフトが上がるようにAIで配信を調整し、クリエイティブには3Dの要素を使っています。

指標

公表値

商品認知のリフト

13.9%

ブランド認知のリフト

業界のベンチマークの2倍

リフトしたユーザー数

3.4万人

出典: LoopMe 事例ページ(McDonald's)

この事例はMARKies Awardsで「Most Effective Use of Zero-Party Data」を受賞し、Singapore Media & Marketing Awardsではファイナリストに選ばれています。実施した国と時期は事例ページに書かれていません。

食品・外食ブランドが国内でどのような体験型の施策をしているかは「食品メーカーのブランド体験施策事例10選」でまとめています。

キア:2023年の新モデル投入

LoopMeのKia事例ページに掲載された「Seltos SX」のモバイル縦型広告クリエイティブ
出典: LoopMe(

自動車メーカーのキア(Kia)は2023年の新モデル投入でループミーを使いました。代理店はキャンバス・ワールドワイド(Canvas Worldwide)です。AIと配信前の調査で心理的な特性にもとづくオーディエンスを作り、PurchaseLoop Brandで「その車種の検討意向」が上がるように配信を調整しました。使った枠は全画面動画やリッチメディア動画といった目立つモバイル動画枠で、期間は4〜6週間です。

指標

公表値

認知・検討のKPI

自動車業界のベンチマークの4〜7倍

AI由来のリフト

リフトしたユーザーの約50%

出典: LoopMe 事例ページ(Kia)

広告に接触した人の想起を、その後の別の接点でどう高めるかは「ゲーム内広告 リターゲティング設計ガイド」で扱っています。

ほかの公表値とパブリッシャー側の事例

ループミーのホームページには、モトローラ(motorola)の購買検討リフト28%、ギネス(Guinness)のコスト42%削減といった要約が載っています。カリフィア・ファームズ(Califia Farms)やヴィーヴォ(Vevo)の事例、デジタル・タービン(Digital Turbine)のOMSDKトラフィックが前年比160%増えた事例も並んでいます。これらの詳細ページの内容は今回確認していません。

パブリッシャー側では、ジンガの広告収益化の担当者ケイト・エリス=ヒル(Kate Ellis-Hill)氏が、チャートブーストのビディングSDKについて「追加してすでに成長が見られ、特にバナーの伸びが目立つ」とコメントしています。数値は公表されていません(出典: LoopMe 公式リリース(2025年5月20日))。

事例から読み取れること

ループミーの事例の指標は商品認知、ブランド認知、検討意向のリフトです。インストール単価や課金額を示す事例ではありません。親会社がブランドリフトを測る仕組みを持ち、そこにゲームアプリの在庫がつながったことで、ゲームアプリでの配信にもこうした指標を使う条件が整いつつあると考えられます。ただし、ゲームアプリで配信した結果として示された数値は、現時点ではありません。

なぜこの動きが起きたのか

ソファでスマートフォンゲームを遊ぶ若い男性(Chartboost製品ページのメインビジュアル)
出典: LoopMe(

ループミーが説明している理由は、ブランド広告の出稿先の変化です。生成AIを使う人が増えてWebを見る時間が減ると、ブランドはWebの代わりになる在庫を探すことになります。その在庫には直接の供給が求められることが多く、再販を重ねた経路はSPOで不利に扱われている、というのがアップストーン氏の説明です。

マグナイトのラバンド氏の発言は売る側の事情を示しています。質の高いモバイルの在庫があっても、再販の制約や、ブランドの買い手が判断に使う情報の不足が原因で、ブランドの予算が届いていなかったという見方です。

この2つを合わせて読むと、ユーザー獲得と収益化の会社だったチャートブーストは、3,000超のアプリにつながるSDK網を使って、ブランド広告を受け入れる供給側の基盤へ役割を移していると読めます。ループミーにとっては、自社のブランド広告の需要と計測の仕組みを流し込める在庫を、SDKごと手に入れたことになると考えられます。

生成AIの普及で接触時間がWebからゲームへ移るという見立ては、米国・英国・オーストラリアの調査にもとづくものです。ゲームでの接触をSNSなど他のチャネルとどう組み合わせるかは「ゲーム内広告×SNS広告の統合設計ガイド」で解説しています。

日本市場ではどうか

駅のホームでスマートフォンを操作する人たち(モバイル利用のイメージ)
出典: Unsplash

ループミーは2022年5月の公式リリースで東京を拠点の一つに挙げ、東京に駐在する戦略パートナーシップの責任者(Head of Strategic Partnerships)としてDaisuke Shigeishi氏の採用を発表しました。2022年1月のメイフェアからの出資でも、用途に「日本を含む新しい地域」が入っています。一方、2025年1月のアジア太平洋に関するリリースは、シンガポール・シドニー・メルボルンを挙げ、東京には触れていません。東京の拠点が今も動いているかは確認できず、日本語のサイトや日本語のチャートブーストのドキュメントも見つかりませんでした。

日本の広告主がChartboost Directの在庫を買えるかを考えると、仕組みの上では、ザ・トレード・デスクなどのDSPからPMPのディールで買う形になります。ただし、次の点から、国内のブランドがすぐ使える手段とは言いにくいと考えられます。

  • 日本の広告主向けの販売窓口や、日本での事例が見当たらない
  • 在庫の地域別の内訳が公開されておらず、日本のユーザーがどれだけいるか分からない
  • 広告フォーマットはリワード・インタースティシャル・バナーといった、ゲームのプレイの外側に出る広告が中心

国内で「アプリのSDK網を、ブランド向けの直接取引に作り替える」というアドネットワークの発表は、今回の調査では確認できませんでした。国内のモバイルゲーム広告は、アプリのインストールを獲得する広告と、リワードやインタースティシャルによる収益化が中心と見られていますが、これを裏付ける統計は今回見つけていません。

市場全体では、電通「2025年 日本の広告費」によると、総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)で4年続けて過去最高になりました。インターネット広告費は4兆459億円(同110.8%)で初めて4兆円を超え、総広告費の50.2%を占めています。伸びを支えたのは、SNSの縦型動画広告やコネクテッドTVなどの動画広告です。ゲーム内広告だけの区分はこの資料にはありません。

日本で同じ広告を実施する選択肢

チャートブーストとループミーが目指しているのは、ゲームアプリでの広告接触を、インストールではなくブランドの認知や好意のために使うことです。日本でこれと同じ目的の広告を出すなら、届けたい相手によって方法が分かれます。

  • 海外のゲームユーザーにも届けたい場合: DSPを通じて、Chartboost Directのようなアプリ内のPMPを買う
  • 国内のゲームユーザーに届けたい場合: 国内のゲームアプリの広告枠やゲーム内広告を使う

国内のゲーム内広告の選択肢の一つがAd-Virtuaです。Ad-Virtuaはゲーム空間の中の看板やモニターに動画広告を配信するアドネットワークで、プレイを止めずに広告を表示します。料金は1週間30万円からで、再生数の目安は100万回、初期費用はかからず、枠は週2つまでです。レポートは無料です(Ad-Virtua 公式サイト、2026年11月1日確認)。

比較ポイント

Chartboost(Chartboost Direct)

Ad-Virtua

広告が出る場所

ゲームのプレイの外側(リワード、インタースティシャル)とバナー

ゲーム空間の中の看板・モニター

プレイへの影響

全画面の広告はプレイを中断する。リワードはユーザーが自分で選んで見る

プレイを止めずに表示される

買い方

DSPからPMPのディールなどで買う、プログラマティック取引

1週間30万円からのプランで直接申し込む

配信対象の地域

グローバル(地域別の内訳は非公開)

国内のゲームタイトル

効果の測り方

親会社ループミーのPurchaseLoopで、配信中にブランドリフトを測る仕組みがある

レポート(無料)

日本語での窓口

確認できない

あり

チャートブーストの強みはグローバルで日次7億人規模のSDK網と、ブランドリフトに合わせて配信を調整する親会社の仕組みです。Ad-Virtuaの強みは国内のゲームタイトルにプレイを止めない形で広告を出せる点です。どちらが優れているかではなく、届けたい地域と広告の出方で選ぶものです。

媒体の選び方そのものは「広告戦略の立て方」で、目標設定から効果測定まで順に解説しています。

Ad-Virtuaが合う企業

  • 食品・飲料、日用品、外食、交通・レジャーなど、国内の若い層に商品やブランドを知ってもらいたい
  • TVCMやSNS広告で使っている動画素材を、別の接点でも見せたい
  • プログラマティック取引の体制を持たず、期間と予算を決めて申し込みたい
  • 日本語で相談しながら進めたい

Ad-Virtuaが合わない企業

  • 海外のユーザーを主な対象にしている。チャートブーストのようなグローバルのSDK網のほうが届く範囲が広い
  • 配信中にブランドリフトを測り、その結果に合わせて自動で配信を調整したい
  • アプリのインストール数や課金額を入札で最適化したい

広告主が取るべき判断

ノートPCを囲んで施策を検討するチーム(広告出稿の判断のイメージ)
出典: Unsplash

今動くべき企業

  • 海外向けにブランド広告を出していて、DSPでPMPを買う体制がある企業。Chartboost Directの在庫を、Webの代わりの出稿先として試す価値があると考えられる。担当の代理店やDSPに、ディールを組めるかを確かめるところから始められる
  • 広告で収益を得ているゲームの運営者。ブランド系の需要を、既存のSDK連携のまま受けられるかを検討する余地がある
  • 国内のゲームユーザーに認知を広げたいブランド。チャートブーストのブランド向けの動きを待つ必要はなく、国内で使える手段から検討できる

様子見でよい企業

  • 日本国内だけで広告を出しているブランドで、チャートブースト経由のアプリ内広告を考えている企業。日本での窓口と、ゲームアプリで配信したブランドリフトの事例が公開されるまで待っても遅くないと考えられる
  • 認知の先の好意やファン化までを一つの施策で設計したい企業。広告の接触だけで完結させず、「ファンベースマーケティング」のような長い設計の中で、ゲームでの接触をどこに置くかを先に決めておくほうがよい

関連する基礎知識

よくある質問

ループミーはどこに拠点を持っていますか?

2022年5月の公式リリースでは、ニューヨーク、ボストン、アトランタ、シカゴ、デトロイト、サンフランシスコ、ロサンゼルス、トロント、シンガポール、シドニー、東京、ドニプロ、クラクフ、香港などを拠点に挙げています(出典: LoopMe 公式リリース)。2025年にはメルボルンが加わりました。東京の拠点が今も動いているかは確認できていません。

ループミーはゲーム空間の中に表示する広告も扱っていますか?

扱っています。ループミーは2023年2月、ゲーム空間の中に広告を表示する「In-Play」広告を持つアドバーティ(Adverty)と連携し、広告主がループミーを通じてゲーム内の在庫を買えるようにしました。連携の発表では、2022年12月の調査で消費者の62%がモバイルでゲームをしていたことも紹介しています(出典: LoopMe 公式ブログ)。チャートブーストの買収より前の取り組みです。

ループミーはどのような第三者の認証を受けていますか?

確認できたのは、TAG Registry(2016年12月)、IAB Gold Standard、ABC/JICWEBSのブランドセーフティ検証、EDAA Trust Seal、ePrivacyseal、NAIへの加盟(2023年8月)、NBCUのCertified Measurement Partner(2023年2月)です。MRCの認定は確認できませんでした。社内の基準でMRC認定を求めている場合は、ループミーに直接確かめる必要があります。

ループミーの調査結果は日本の利用者にも当てはまりますか?

そのまま当てはめることはできません。調査の対象は米国・英国・オーストラリアの消費者で、日本は入っていません。実査の時期と調査会社も公表されていないため、日本で「生成AIの普及でゲームの時間が増える」と判断するには、国内の調査を別に確かめる必要があります。