リフトオフ(Liftoff Mobile, Inc.)は、モバイルゲームのリワード動画広告を配信するVungle SDKを持ち、アプリの広告主と運営者の両方に広告の仕組みを提供している米国の会社で、2026年6月4日に米ナスダック(Nasdaq)へ上場しました。広告の目標はアプリのインストールや課金で、日本法人はありません。そのため、日本のブランド広告主が認知を目的にゲームの中で広告を出すなら、別の手段と比べて選ぶことになります。
上場と2026年第2四半期決算の内容

リフトオフは2026年6月4日、ナスダック・グローバル・セレクト・マーケットにティッカー「LFTO」で上場しました。目論見書(424B4、2026年6月3日付)と上場後の四半期報告書(10-Q)に書かれている主な数字は次のとおりです。
項目 | 内容 |
|---|---|
売買開始日 | 2026年6月4日(払込完了は6月5日) |
公開価格 | 1株23.00ドル |
売出株数 | 1,900万株。引受会社のオプション285万株が全部行使され、合計約2,190万株 |
手取額 | 約4億7,240万ドル(引受手数料を引いた後、発行費用を引く前) |
主幹事 | ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、ジェフリーズ(Jefferies)、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley) |
資金の使い道 | 2026年6月29日にタームローン(借入金)4億920万ドルを期限前に返済 |
出典: 424B4目論見書、10-Q(2026年第2四半期)
上場で集めた資金の大半は、借入金の返済に使われました。
2026年8月12日には、上場後初めての四半期決算を発表しました。2026年第2四半期の売上高は2億1,951万ドルで、前年同期より35%増えています。純損失は423万ドルで、この中には上場関連など現金の支出を伴わない費用4,500万ドルが含まれます。調整後EBITDAは1億3,200万ドル(利益率60%)でした。会社は2026年度通期の売上高を8.7億〜8.8億ドル、調整後EBITDAを5.10億〜5.18億ドルと予想しています。これは会社の予想で、確定した数字ではありません(出典: 2026年第2四半期決算リリース)。
CEOのジェレミー・ボンディ(Jeremy Bondy)氏は決算リリースで、次のように述べています。
"Q2 marked our eleventh consecutive quarter of revenue growth and reinforced a pattern we have seen over time"
(第2四半期で11四半期連続の増収となり、これまで見てきた傾向がさらに確かになった)
"Our integrated advertising platform, powered by Cortex machine learning, is designed to serve all verticals"
(Cortexの機械学習で動く統合型の広告プラットフォームは、あらゆる業種に対応するよう設計している)
Liftoffとはどんな会社か

基本情報
項目 | 内容 |
|---|---|
正式社名 | Liftoff Mobile, Inc.(旧称 Booster Parent Holdings, Inc.)。米デラウェア州法人 |
法人の設立登記 | 2020年11月6日 |
事業の始まり | 2012年(合併前の旧リフトオフ) |
共同創業者 | フィル・クロスビー(Phil Crosby)氏、ハリー・ロバートソン(Harry Robertson)氏 |
CEO | ジェレミー・ボンディ氏(2022年5月から) |
本社 | 米カリフォルニア州レッドウッドシティ |
拠点 | ロンドン、シンガポール、北京、ベルリン、サンフランシスコ、ロサンゼルス、オレンジカウンティ、ニューヨーク、パリ、ヘルシンキ、ソウルなど。東京はない |
上場市場 | ナスダック(LFTO) |
支配株主 | ブラックストーン(Blackstone) |
従業員数 | 公開資料では確認できなかった |
共同創業者の2人は現在、それぞれExecutive Product Advisor、Executive Technical Advisorを務めています。クロスビー氏はiOSアプリと動画配信プレーヤーの初期のエンジニアで、ロバートソン氏はスタンフォード大学で計算機科学の修士号を取り、DARPA向けの自律ロボット開発に携わった経歴を持ちます。
ボンディ氏は2020年にVungleのCEOに就任し、2021年10月の合併後はリフトオフのPresidentを務め、2022年5月にCEOになりました。CRO(最高売上責任者)のスコット・シルバーマン(Scott Silverman)氏もVungleで同じ役職にいた人物で、合併後の経営陣にはVungle出身者が入っています。
目論見書は自社を「アプリ経済のための、ミッションクリティカルな成長と収益化のエンジン(mission-critical growth monetization engine for the app economy)」と説明しています。「ゲーム広告の会社」ではなく、アプリ全般の広告の会社として自らを位置づけていることになります。
3つの事業と広告が表示される仕組み
リフトオフの事業は広告を買う側・売る側・その間の取引所の3つに分けると整理できます。
役割 | プロダクト | 使う人 | 何をするか |
|---|---|---|---|
広告主側(DSP) | Accelerate | アプリの広告主 | 新規ユーザーの獲得や休眠ユーザーの呼び戻しのために広告を出す |
運営者側(SSP+SDK) | Monetize、Vungle SDK | アプリ・ゲームの運営者 | 自分のアプリに広告枠を置いて収益にする |
取引所 | Vungle Exchange | 外部のDSP | SDKで集めたアプリ内の広告在庫をプログラマティック取引で買う |
ゲームの中で広告が表示されるまでの流れは次のとおりです。
- ゲームの運営者が自分のアプリにVungle SDKを組み込みます。
- SDKを入れたアプリでは、リワード動画、インタースティシャル、アプリ起動時広告といった全画面の広告と、ネイティブ、インライン、バナー、MRECといった全画面でない広告の枠が使えるようになります。
- 枠は、複数の広告ネットワークを束ねるメディエーションを通じたアプリ内入札で売られます。リフトオフは「主要なメディエーションすべて」に対応しているとしていますが、具体的な社名は公開していません。
- 広告主はAccelerateから入札し、外部のDSPはVungle Exchange経由で入札します。
リワード動画は、プレイヤーがゲーム内のアイテムなどの報酬と引き換えに、自分で選んで見る全画面の動画広告です。仕組みの詳細は「リワード動画広告とは」で解説しています。
目論見書は「DSPとSSPをひとつにまとめたことで、片側だけのときより両側とも効果が高くなる」と説明しています。広告の買い手と売り手を1社で持っている点が、リフトオフの構造上の特徴です。
運営者向けのMonetizeとVungle SDK

Monetizeはアプリの運営者が広告で収益を得るためのプロダクトです。対応OSはiOS、Android、Windows、Amazon。公式ページは「15万超のアプリ」「トップ100アプリの93%」で使われているとしています(出典: Monetize)。広告で収益を得るゲームの設計については「広告収益型ゲームとは」で詳しく扱っています。
2026年7月31日の公式ブログでは、SDKの最新版v7.7.4を紹介しています。サイズはAndroidが672.8KB(1MB未満)、iOSが5.12MBです。

このグラフはリフトオフが2026年6月に自社で測った値で、Androidは「2位より約55%小さい」、iOSは「約5%小さい」としています。比較相手の社名は伏せられています。SDKが軽いほどアプリの容量を圧迫しにくいので、運営者に選んでもらうための訴求と考えられます。
広告主向けのAccelerateとDirect
Accelerateはアプリの広告主がユーザーを獲得するための出稿ツールです。目標にできる指標はCPC、CPI(インストール単価)、CPA(成果単価)、ROAS(広告費用対効果)、pLTV(予測LTV)で、広告の形式は動画、インタースティシャル、UGC(クリエイター出演の動画)、トリプルページです。公式ページでは次の点を掲げています(出典: Accelerate)。
- Vungle Exchangeのユニークインプレッションの約80%に直接アクセスできる
- 上位のゲームアプリの95%にVungle SDKが入っている
- CPIが最大10%下がる
いずれも会社自身の主張です。DirectはMonetize SDKを入れた15万超のアプリの在庫に広告主が直接出稿する仕組みで、形式は動画(VAST)とプレイアブル(HTML)です(出典: Direct)。プレイアブル広告の作り方は「プレイアブル広告の設計ガイド」を参照してください。
入札を自動で最適化しているのが、自社開発のAI予測モデル「Cortex」です。目論見書はCortexを「自社開発のニューラルネットワークを使ったAI予測モデルで、事業の土台」と説明しています。公式サイトには「21X More Data」「4X Faster Learning」という表示がありますが、何と比べた数字かは書かれていません。
このほか、広告クリエイティブを制作するLiftoff Creative Studio(Creative)、市場分析のGameRefinery(ゲーム)とAppRefinery(ゲーム以外のアプリ)(Intelligence)も提供しています。
プラットフォームの規模
指標 | 2024年 | 2025年 | 2026年第1四半期 |
|---|---|---|---|
SDKを組み込んだアプリ数 | 126,509 | 163,708 | 167,814 |
広告主側の顧客数 | 728社 | 881社 | 878社 |
出典: 424B4目論見書
- 1日あたりアクティブユーザーは世界で14億超(2026年第1四半期)
- 年10万ドル以上を払う広告主は384社(2026年第1四半期、過去12か月)、391社(2026年6月末、過去12か月)
- 中核の広告事業(Core Advertising)が売上のほぼすべてを占め、2025年は約99%、2026年第1四半期は約100%
- 2026年第1四半期は、中核の広告事業の売上の10%を超える顧客はいない
2026年第1四半期は、広告主側の売上の「半分をやや超える」部分がゲーム以外の業種(SNS、金融、エンタメなど)から来ています(外部のプログラマティック取引所経由を除く)。2026年3月31日時点では、広告在庫の36%がゲーム以外のアプリでした。リワード動画広告で知られるVungleの印象とは違い、ゲーム以外の比率が高くなっています。
主要パートナーと株主
インフラにはAWSを使っていることが、目論見書のリスク要因に書かれています。メディエーション、MMP(広告効果の計測ツール)、IASやDoubleVerifyといった第三者の広告検証の連携先は、公式ページでは社名を確認できませんでした。
株主構成は次のとおりです。
- ブラックストーン: 支配株主。目論見書では、上場後の議決権を約50.4%(引受会社のオプションを全部行使した場合は49.5%)としている。過半を持つ間は、ナスダックの規則上「controlled company(支配株主のいる会社)」に当たると説明している
- ジェネラル・アトランティック(General Atlantic): 2025年6月30日に約14.5%の株式を4億2,500万ドルで取得
10-Qではオプションが全部行使されたとされているため、目論見書の計算に従えば議決権は49.5%になります。上場後の最新の保有比率は今回確認していません。
ここまでの歩み
リフトオフは、資金調達を重ねて上場したスタートアップとは違う道をたどってきました。旧リフトオフとVungleの合併、投資ファンドのブラックストーンによる支配、外部投資家の受け入れを経て、上場に至っています。

時期 | 出来事 |
|---|---|
2012年 | 旧リフトオフが事業を始める(クロスビー氏とロバートソン氏が共同創業) |
2020年 | ボンディ氏がVungleのCEOに就任 |
2020年11月6日 | 現在の上場会社(旧称 Booster Parent Holdings)がデラウェア州で設立登記 |
2020年12月18日 | 合併契約を締結。旧株主への最大1億3,090万ドルのアーンアウト(業績連動の追加対価)の根拠として10-Qに記載がある。相手先の社名は書類の中で確認できない |
2021年10月 | 旧リフトオフとVungleが合併 |
2022年5月 | ボンディ氏がCEOに就任 |
2024年度 | 売上高5億1,925万ドル、純損失4,823万ドル |
2025年6月30日 | ジェネラル・アトランティックが約14.5%を4億2,500万ドルで取得 |
2025年10月16日 | ドメインをliftoff.ioからliftoff.aiへ移す。告知ブログの題は「A Home That Reflects Our Identity」(自社の姿を映す新しい拠点) |
2025年度 | 売上高6億8,574万ドル、純損失2,315万ドル、調整後EBITDA 3億7,440万ドル(利益率55%) |
2026年第1四半期 | 売上高2億564万ドル、純利益4,933万ドル、調整後EBITDA 1億2,009万ドル(利益率58%) |
2026年4月17日 | SECにS-1(上場申請書類)を提出 |
2026年6月4日 | ナスダックに上場(LFTO、23ドル) |
2026年6月29日 | 借入金4億920万ドルを期限前に返済 |
2026年7月31日 | 軽量SDK v7.7.4を公式ブログで紹介 |
2026年8月12日 | 2026年第2四半期決算。売上高2億1,951万ドル、11四半期連続の増収 |
出典: Liftoff 会社ページ、424B4目論見書、10-Q、公式ブログ(ドメイン移転)
Vungleの設立年と創業者、ブラックストーンがVungleや旧リフトオフに投資した時期と金額は、今回の調査では確認できませんでした。
合併で何を狙ったか
合併前の旧リフトオフは広告主側、Vungleは運営者側の会社でした。2社を合わせたことで、広告を買う側と売る側の両方を持つ現在の形になっています。
Vungleは合併前に、AlgoLift、GameRefinery、TreSensa、JetFuelを買収しています。会社ページによると、これらの買収を主導したのはボンディ氏です。各社の買収時期と金額は確認できませんでした。買収先のうち、GameRefinery Oy(フィンランド)とJetFuel, LLCは現在も子会社です。プレイアブル広告を制作していたTreSensaや、ユーザー獲得を自動化するAlgoLiftは子会社一覧に名前がなく、独立したプロダクトとして残っているかは確認できませんでした。
赤字とリスク
2024年度と2025年度はどちらも純損失でした。売上が2024年度から2025年度に約32%増える一方で純損失は縮小し、四半期単独で黒字になったのは2026年第1四半期です。2026年第2四半期は、上場関連の費用を含めて再び純損失になっています。
目論見書のリスク要因には、次の点が書かれています。
- IT全般統制に「重要な不備(material weakness)」がある
- 支配株主のブラックストーンと一般株主の利害がぶつかる可能性がある
- 2026年第1四半期の売上の約10%が中国(請求先ベース)で、米中関係の規制がリスクになりうる
- AppleのIDFA(iOSの広告識別子)やプライバシー設定の変更が、業績に影響しうる
- 古い広告技術の基盤からCortexへの移行を進めている
撤退したプロダクトやサービス終了の記録は、今回の調査では見つかりませんでした。
現在の広告メニューと今回の上場の位置づけ
現在の広告メニューを整理すると、広告主向けがAccelerate(入札型)とDirect(運営者在庫への直接出稿)、運営者向けがMonetizeとVungle SDK、その他がCreative(制作)とIntelligence(市場分析)です。今回の上場は資金調達の出来事で、集めた資金の大半は借入金の返済に充てられました。
上場資料から読み取れる最近の変化は3つあります。2025年度に売上が年6億ドル台に乗ったこと、2026年第1四半期に四半期単位の黒字を出したこと、広告主側の売上の半分超がゲーム以外の業種になったことです。
広告出稿事例
リフトオフの公式サイトに掲載されている事例は、どれもインストールや売上といった成果を目標にしています。ブランド認知やブランドリフトを測った事例は見つかりませんでした。
キング(King):キャンディークラッシュ・サーガ

月間アクティブプレイヤーが2億を超えるキングは、多くのキャンペーンをCortexに移し、Liftoff Creativeと「Liftoff Exclusive Ads」(キングの成果が良い素材を組み直した広告)を実施しました。
公表されている成果は定性的な説明だけで、数値はありません。キングのパフォーマンスマーケティング担当のサイモン・ヘイルズ(Simon Hales)氏は、次のようにコメントしています。
"The new neural net models are able to find more high-value players."
(新しいニューラルネットのモデルは、価値の高いプレイヤーをより多く見つけてくれる)
"For global Candy Crush Saga campaigns, they delivered higher impression-to-install rates than standard video ads."
(キャンディークラッシュ・サーガの世界向けキャンペーンで、通常の動画広告より高いインプレッションあたりのインストール率を出した)
デリバリーヒーロー(Delivery Hero):PedidosYa

デリバリーヒーローは中南米のフードデリバリーアプリPedidosYaのAndroid向けキャンペーンで、インクリメンタリティ・テストを実施しました。広告を出した場合と出さなかった場合を比べて、広告による純増分を測る検証です。
対象 | インストールCVR | イベントCVR |
|---|---|---|
アルゼンチン(飲食の注文) | +23% | +22.6% |
アルゼンチン(食料品) | +17.5% | +14% |
ペルー | +26% | +14% |
出典: Liftoff 事例ページ(Delivery Hero)
事例の見出しには「20%」とありますが、この数字は本文には出てきません。ゲーム以外の業種がリフトオフ経由で出稿している例で、「広告がなければ起きなかった成果」を検証している点が他の事例と違います。
ビゴライブ(Bigo Live):UGC動画広告
ライブ配信アプリのビゴライブはクリエイターが出演するUGC動画広告を使いました。成果はCPIが20%下がり、IPM(1,000インプレッションあたりのインストール数)が12%上がり、2024年第1四半期にiOSの新規ユーザーを5万人以上獲得したとしています(出典: Liftoff 事例ページ(Bigo Live))。

勝利の女神:NIKKE

ゲーム「勝利の女神:NIKKE(GODDESS OF VICTORY: NIKKE)」も、価値の高いユーザーを獲得する事例として掲載されています。事例一覧のページに成果の数値は載っていません。
このほか事例一覧の見出しには、暗号資産取引所のバイナンス(Binance)が主要市場で7日目のROAS目標を30%上回った例と、運営者側のEyeconがGAMを組み合わせた構成とアプリ起動時広告で広告収益を91%伸ばした例が並んでいます(出典: Liftoff 事例一覧)。
事例から読み取れること
リフトオフの事例が示す成果指標は、インストール率、CVR、CPI、ROAS、広告収益です。広告想起率や好感度といった、ブランド広告主が見る指標の事例は公開されていません。ユーザー獲得担当者のコメントも、PrizePicksのジェフ・グリアン(Jeff Gurian)氏の「Liftoff経由のユーザーのLTV(顧客生涯価値)は、優秀なSNS広告チャネルと比べても見劣りしない」のように、獲得したユーザーの質に関するものです(出典: Liftoff 公式サイト)。
なぜこの動きが起きたのか
背景には3つの流れがあると考えられます。
1つ目は広告の買い手と売り手を1社にまとめた構造です。運営者側のSDKで広告在庫を確保し、その在庫に広告主側のDSPから入札する形を取れば、在庫とデータの両方を自社で持てます。目論見書が「片側だけのときより両側とも効果が高くなる」と書いているのはこの点で、この構造が売上の伸びと55〜60%という調整後EBITDAの利益率を支えていると考えられます。
2つ目はゲーム以外への広がりです。広告主側の売上の半分超、広告在庫の36%がゲーム以外になりました。ボンディ氏が決算で「あらゆる業種に対応するよう設計している」と述べたのも、ゲーム広告の会社から「アプリ経済」の会社へ見え方を変える狙いがあると考えられます。
3つ目はブランド予算を取り込もうとする動きです。2026年7月15日の公式ブログ「Madison Avenue is missing out on in-app advertising」は、大手広告代理店やブランド広告主に、アプリ内広告へ予算を移すよう呼びかけています。裏を返せば、ブランド予算はまだアプリ内に十分来ていないと会社自身が見ていることになります。このブログには、数値や計測パートナーの記載はありません。
一方で、目論見書が挙げるとおり、AppleのIDFAとプライバシー設定の変更は、成果を測ってユーザーを獲得するこの種の広告にとって、業績を左右しうる要因として残っています。
日本市場ではどうか

リフトオフには日本法人がなく、会社ページの拠点一覧にも東京はありません。子会社は中国、フィンランド、米国、ドイツ、英国、フランス、ブラジル、韓国、シンガポール、カナダにあります。liftoff.aiの日本語ページ(/ja/)を開いても、2026年10月31日時点では英語で表示されます。Vungle時代に日本チームがあったかどうかは確認できませんでした。
日本だけの売上は開示されていません。2026年第2四半期の地域別売上(請求先の所在地ベース)は次のとおりです。
地域 | 売上高 |
|---|---|
米国 | 8,782万ドル |
アジア太平洋 | 7,236万ドル |
欧州・中東・アフリカ | 5,636万ドル |
その他米州 | 296万ドル |
出典: 10-Q(2026年第2四半期)
日本との公式な接点としては、子会社GameRefineryのポッドキャスト第55回が日本のモバイルゲーム市場を取り上げています(配信ページ)。「上位のゲームのほぼ半分がRPG」といった、ゲームを作る側に向けた内容です。
日本でも、リワード動画広告はアプリの収益化の手段としてすでに定着しています。国内では、アイモバイルの「maio」がリワード動画、動画インタースティシャル、プレイアブルを扱う動画広告配信の基盤として使われ、2020年12月16日に「i-mobile Ad Network」に統合されました(出典: maio)。
市場全体では、電通「2025年 日本の広告費」によると、総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)、インターネット広告費は4兆459億円(同110.8%)で、インターネット広告費が総広告費に占める割合は初めて50%を超えて50.2%になりました。ゲームやアプリ内の広告だけの数字は、この資料にはありません。
日本の広告主から見ると、使える条件は立場によって分かれると考えられます。
- 日本のアプリ事業者: Accelerate(英語での対応)やメディエーション経由のSDK組み込みで使えると考えられる。ただし日本語の窓口と日本の拠点は確認できない
- 食品・日用品などのブランド広告主: プロダクトの目標がインストールや成果に置かれ、ブランドリフトを測った事例も公開されていない。認知を目的にした出稿先としては、現時点で前提がそろっていない
ゲームに関わる広告の全体像は「ゲーム内広告とは」で整理しています。
日本でゲームのプレイヤーに広告を届ける選択肢
日本でモバイルゲームのプレイヤーに広告を届ける方法は、目的によって分かれます。アプリのインストールや課金が目的なら、リフトオフのAccelerateやi-mobile Ad Networkのようなリワード動画・インタースティシャルの配信網が候補です。商品やブランドの認知が目的なら、ゲーム空間の中に広告を表示する方法も選択肢の一つになります。
Ad-Virtuaはゲーム空間の中の看板やモニターに動画広告を配信する国内のアドネットワークです。リワード動画やインタースティシャルのようにプレイを止めて全画面で見せるのではなく、ゲームの世界の中に広告を表示します。料金は1週間30万円からの定額プランで、インストール単価ではなく期間で買う形です。
比較ポイント | リフトオフ(Accelerate/Vungle SDK) | Ad-Virtua |
|---|---|---|
広告が出る場所 | ゲームの外(全画面のリワード動画、インタースティシャル、アプリ起動時広告など)とバナー・ネイティブ枠 | ゲーム空間の中の看板・モニター |
プレイへの影響 | 全画面の広告はプレイを中断する。リワード動画はプレイヤーが自分で選んで見る | プレイを止めずに表示される |
主な目的 | インストール、課金、ROAS | 認知、想起 |
買い方 | CPI・CPA・ROASなどを目標にした入札 | 1週間30万円からの定額プラン |
主な広告主 | アプリ事業者(ゲーム、SNS、金融、デリバリーなど) | 認知を広げたいブランド |
日本語での窓口 | 確認できない | あり(国内の会社) |
同じ「プレイヤーに嫌われにくい広告」でも、理由が違います。リワード動画はプレイヤーが報酬と引き換えに自分で選ぶから嫌われにくく、全画面で商品やアプリの説明を見せられます。ゲーム空間の中の広告はプレイを止めないから嫌われにくく、世界観の中で何度も目に入ります。
Ad-Virtuaが合う企業
- 食品・飲料、日用品、外食、交通・レジャーなど、アプリのインストールではなく商品やブランドの認知を目的にしている
- TVCMやSNS広告で使っている動画素材を、若い層に別の接点で見せたい
- 日本語で相談し、国内のゲームタイトルに配信したい
- 週単位の定額で、予算の上限を決めて試したい
Ad-Virtuaが合わない企業
- アプリのインストール数やROASを入札で最適化したいアプリ事業者。リフトオフのようなユーザー獲得用のDSPが向いている
- 海外のユーザーを主な対象にしている
- 全画面で商品の説明を最後まで見せたい
費用の考え方の違いは「ゲーム内広告の費用」で詳しく比べています。
広告主が取るべき判断
今動くべき企業
- 海外向けにゲームやアプリを配信していて、CPIやROASでユーザー獲得の効率を上げたい日本のアプリ事業者。リフトオフは広告主側の売上の半分超がゲーム以外の業種で、デリバリーや暗号資産の事例もある。英語で対応できるなら、Accelerateを他のユーザー獲得用チャネルと並べて比べる価値がある
- 広告で収益を得ているゲームの運営者。メディエーションの入札先の一つとして、Vungle SDKを試す余地がある。Android版のSDKが1MB未満という点は、アプリの容量を気にする運営者にとって判断材料になる
- ブランドの認知を目的に、若い層に届く新しい接点を探している国内の広告主。リフトオフのブランド向けの動きを待つ必要はなく、ゲーム空間の中の広告など国内で使える手段から検討できる
様子見でよい企業
- ブランド広告主で、リフトオフ経由のアプリ内広告を検討している企業。公式ブログでブランド予算への呼びかけは始まっているが、ブランドリフトの事例や計測パートナーは公開されていない。事例と日本での窓口が出てくるまで待っても遅くないと考えられる
- 日本語での契約・運用支援が必須の企業
関連する基礎知識
- ゲーム内広告とは: ゲームの外の広告(リワード、インタースティシャル)とゲームの中の広告(看板などのサイネージ)の分類
- リワード動画広告とは: Vungle SDKの主力であるリワード動画広告の仕組み
- プレイアブル広告の設計ガイド: Directが扱うプレイアブル形式の作り方
- 広告収益型ゲームとは: Monetizeが支えている、広告で収益を得るゲームの設計
- ゲーム内広告の費用: CPI課金、CPM課金、週単位の定額の違い
よくある質問
Vungleという名前はもう使われていないのですか?
親会社の社名はLiftoff Mobile, Inc.ですが、Vungleの名前は今も使われています。運営者向けの「Vungle SDK」と取引所の「Vungle Exchange」はプロダクト名として残り、韓国(Vungle Korea)、シンガポール(Vungle SEA)、カナダ(Vungle Technologies ULC)などの子会社の社名にも入っています(出典: SEC提出書類 S-1別紙21)。vungle.comにアクセスすると、リフトオフのサイトに転送されます。
liftoff.ioとliftoff.aiは別の会社ですか?
同じ会社です。リフトオフは2025年10月16日に、サイトのドメインをliftoff.ioからliftoff.aiへ移しました(出典: 公式ブログ)。古い記事や資料にliftoff.ioと書かれていても、同じ会社を指しています。
GameRefineryとはどんなサービスですか?
フィンランドのGameRefinery Oyが提供する、モバイルゲームの市場分析サービスです。Vungle時代に買収され、現在はリフトオフの子会社として、ゲーム以外のアプリを分析するAppRefineryとともに「Intelligence」の製品群に入っています。日本のモバイルゲーム市場を取り上げたポッドキャストも配信しています。
リフトオフの決算や開示資料はどこで読めますか?
米国の上場企業なので、決算や上場時の書類は米証券取引委員会(SEC)の開示システムEDGARで公開されています。会社の識別番号(CIK)は0001850351で、EDGARの会社ページから目論見書(424B4)、四半期報告書(10-Q)、決算リリース(8-K)を読めます。上場後最初の四半期決算は2026年8月12日に発表されました。資料はすべて英語です。
支配株主がいることは、広告主にとって何か影響がありますか?
広告の取引に直接の影響があるとは、公開資料には書かれていません。目論見書のリスク要因には、支配株主のブラックストーンと一般株主の利害がぶつかる可能性と、IT全般統制に重要な不備があることが挙げられています。長く取引する前提で契約する場合は、上場企業として開示される決算や監査の状況を確かめておくと安心です。


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