Overwolf(オーバーウルフ)の広告部門は2026年4月、PCでのプレイ行動と購買データを使って広告の配信先を絞り込む「Gamer Grid(ゲーマーグリッド)」を始め、5月には米ArcSpan Technologies(アークスパン・テクノロジーズ)がその裏側のID基盤を担っていると発表しました。ゲーム内広告を「どのタイトルに出すか」に加えて「どんな人に出すか」で買えるようにする動きです。ただ、日本の広告主がGamer Gridを買えるかどうかは公式情報で確認できず、国内で動くならタイトル属性で配信先を設計する方法が現実的です。

この記事では、Gamer Gridの仕組みと、日本では聞き慣れないArcSpanという会社を中心に整理します。Overwolfの会社全体の説明は「Overwolfとは」、ゲーム内広告そのものの基本は「ゲーム内広告とは」で解説しています。

Gamer Gridの発表内容

2026年4月28日:Overwolf AdsがGamer Gridを公開

Overwolfの広告部門Overwolf Adsは、2026年4月28日に公式ブログでGamer Gridを発表しました(出典: Overwolf公式ブログ)。PCでのプレイ行動、ハードウェア、コンテンツの利用から作る決定論的データ(推計ではなく実際の記録にもとづくデータ)で、広告主は配信先を絞り込めます。Overwolf自社の在庫に加えて、外部のプログラマティック環境でも使えるとしています。

Overwolf Adsのロゴと「Gamer Grid」の文字を配したキービジュアル
出典: Overwolf(

公式発表で示された内容は次のとおりです。

項目

公表内容

1stパーティのシグナル

ゲームのインストールとプレイ時間、セッションの頻度と長さ、GPU/CPU/周辺機器、端末ブランド、推定PC価格、ゲームライブラリへの支出、コスメMODのダウンロード

1stパーティの収集元

CurseForge(カースフォージ)、数千のゲーム内アプリ、提携ゲームサイト

3rdパーティのシグナル

LiveRamp(ライブランプ)とExperian(エクスペリアン)経由の購買データ(自動車の購入意向、食料品の購買傾向、金融状況など)

絞り込みに使うデータポイント

8,000超

標準セグメント

タイトル・ジャンル別(FPS、RPG、ストラテジー、MMOなど)、ハードウェア別、高エンゲージメント層、高価値層

カスタムセグメントの例

The Big Spenders、The Trendsetters、The Midnight Gamers、The Aesthetic Modders

更新

継続的に更新(具体的な間隔は非公開)

CEOで共同創業者のUri Marchand(ウリ・マーチャンド)氏は、発表の中で次のように述べています。

広告主にとっては、『一度ゲームサイトをクリックしたことがある人』に届けるのか、『先週40時間遊んだ人』に届けるのかの違いになる。
(出典: Overwolf公式ブログ、2026年4月28日。原文英語、筆者訳)

2026年5月6日:ArcSpanが基盤の提供を発表

2026年5月6日、米ArcSpan TechnologiesはPR Newswireでリリースを出し、自社のArcSpan AMS(Audience Monetization System)がGamer Gridの裏側で動いていることを明らかにしました(出典: PR Newswire)。リリースはGamer Gridを「先週Overwolf Adsが開始した」と書いており、4月28日の公式発表と時期が合います。

ArcSpanが担う役割は、リリースによると次の3つです。

  1. ID解決:ゲーム内、Web、端末のデータをつなぎ、サードパーティCookieを使わずに、環境をまたいで同じユーザーに届ける
  2. AIによる分類:LLMで作ったゲーム専用の分類体系(タクソノミー)で、ジャンル、プレイスタイル、熱中度、ペルソナごとにオーディエンスを分ける
  3. キャンペーンインサイト:出稿前のオーディエンス設計と、出稿後のビジネス上の成果をつなげて分析する

リーチは「約1億1,300万人の月間PCプレイヤー」で、データ元のタイトルとしてMinecraft、League of Legends、World of Warcraftの名前が挙がっています。データは「数百の大型タイトルで起きた数億件のゲーム内イベント」から得たとされますが、具体的な件数とタイトル数は書かれていません。

1.13億という数字はOverwolfの公称で、第三者による監査は確認できませんでした。同じリリースの中でも「月間PCプレイヤー」「月間ゲーマー」と呼び方が揺れており、後に公開されたツールの画面では「月間の消費者」と書かれています。PCゲーマーだけの数か、Webサイトの訪問者を含むのかは公表されていません。

なお、4月28日のOverwolf公式発表と、9月に公開された関連ツールの発表には、ArcSpanの名前が出てきません。ArcSpanの関与を示す一次情報は、ArcSpan側のリリースだけです。

Gamer Gridの仕組み

1stパーティと3rdパーティを重ねてセグメントを作る

Gamer Gridは、Overwolfが自社で集めたプレイ行動のデータに、LiveRampとExperian経由の購買データを掛け合わせてオーディエンスを作ります。下の図はOverwolfが発表で示した概念図で、1stパーティデータと3rdパーティデータの重なりから顧客像を作り、データ・インサイト・配信に使う流れを表しています。

Gamer Gridの概念図。1stパーティデータと3rdパーティデータを重ねて顧客像をつくり、データ・インサイト・配信に使う
出典: Overwolf(

公表情報をもとに、データの流れを整理すると次のようになります。ArcSpanとLiveRamp・Experianの役割分担(3rdパーティデータの結合をArcSpanのID解決が担っているのか)は公式に書かれていないため、この整理はイメージです。

段階

中身

担い手

データを集める

どのゲームを何時間遊んだか、ハードウェア、ゲームへの支出、MODのダウンロード、ゲーム内イベント

Overwolf(CurseForge、ゲーム内アプリ、提携サイト)

購買データを足す

自動車の購入意向、食料品の購買傾向、金融状況

LiveRamp、Experian

同じ人としてつなぐ

ゲーム内・Web・端末のデータをCookieなしで結びつける

ArcSpan AMS

分類する

ジャンル、プレイスタイル、熱中度、ペルソナ

ArcSpan AMS(LLMによる分類)

配信する

Overwolfの自社在庫と、外部のプログラマティック在庫

Overwolf Ads

振り返る

出稿前の設計と出稿後の成果を結びつける

ArcSpan AMS

外部在庫に配信するときの具体的な経路(どのDSPから買えるか、PMPかどうか)は、どちらの発表にも書かれていません。

セグメントの例:米国の「ハンバーガー好き」2,110万人

Overwolfは発表の中で、自社ユーザーのうち米国の「Burger Lovers(ハンバーガー好き)」を2,110万人と示したスライドを掲載しています。ハンバーガーをよく注文する人や、McDonald's、Burger King、Wendy's、Five Guysに最近行った人を、1stパーティと3rdパーティのデータで定義したもので、対象は米国のみです。発表資料の例示であり、このセグメントを使った出稿結果は公表されていません。

Gamer Gridのセグメント例。Overwolfユーザーのうち米国のハンバーガー好き2,110万人
出典: Overwolf(

外食や食品の広告主から見ると、ゲームを遊ぶ人を「ゲーマー」ではなく「自社の顧客になりうる生活者」として切り出した例です。Pin-Ju Chiang(ピンジュ・チャン)氏(4月28日の発表での肩書きはHead of Data)は、「『この人はMinecraftを遊んでいる』と伝えるだけではない。『高収入のテック好きで、オープンワールドのゲームに週20時間を使い、いま新車の購入を検討している』と伝えられる」と説明しています(Overwolf公式ブログ、筆者訳)。

ゲーマーをひとまとめにせず、属性や遊び方ごとに広告の設計を変える考え方は、日本の広告主にも当てはまります。たとえば女性ゲーマー層に向けた設計の例は「女性向けゲーム広告 ブランド戦略ガイド|女性ゲーマー層の行動特性・好まれる広告設計と費用効果【2026年版】」で解説しています。

ゲーム内の瞬間に合わせた配信

2026年8月16日のOverwolf公式ブログでは、勝利、リスポーン、ステージクリアといったゲーム内の瞬間に合わせて、リアルタイムに広告を出せると説明しています。郵便番号、インターネット回線事業者、セッションの長さでも絞り込めます(出典: Overwolf公式ブログ)。

注意したいのは、広告が表示される場所です。Overwolfの広告はゲーム本編の中ではなく、Overwolfアプリのウィンドウ、CurseForge、提携Webサイト、MODといった「ゲームの周辺の画面」に出ます。ゲーム空間の看板やモニターに広告を出す方式とは、表示面が異なります。

ArcSpan Technologiesとはどんな会社か

ArcSpan Technologiesのロゴ
出典: ArcSpan Technologies(

基本情報

項目

内容

社名

ArcSpan Technologies(Inc.などの法人格の表記は未確認)

設立

2020年

本社

米ニューヨーク(ロンドンにもオフィス)

創業者

Art(Arthur)Muldoon(共同創業者・CEO)、Garret Vreeland(共同創業者・CCO)

創業メンバーの出身

Accordant Media、Dentsu、NewsCorp、OpenSlate、Beeswax

従業員数

非公開(公式Aboutページには16人の名前が載っている)

アドバイザリーボード

Paul Bannister、Curt Brockelman、Kevin Gentzel、Jonah Goodhart、Noah Goodhart、Tim Hanlon、Jana Meron、Ari Paparo、Mollie Spilman、Joe Zawadzki

日本の顧客・拠点

確認できず

出典: ArcSpan公式サイト(About)、ArcSpanのPR Newswireリリース(2021年12月15日、2023年5月31日、2025年7月23日)

事業:メディアの1stパーティデータを「買えるオーディエンス」に変える

ArcSpanはメディア(パブリッシャー)が持つ1stパーティデータを、広告主が買えるオーディエンスに変えて売るためのSaaSを提供しています。自社では「プレミアムなパブリッシャー向けの、AIによるデータ収益化・オーディエンスインテリジェンス基盤」と名乗っています。

中心の製品がArcSpan AMSで、2023年5月31日に「次世代の1stパーティDMP」として正式に公開されました。AMSはデータを集める(Capture)、補強する(Enrich)、セグメントを作る(Build)、配信する(Activate)、最適化する(Optimize)の5段階で動きます。主な機能は次のとおりです。

機能

内容

公開時期

Custom Content Taxonomies

LLMでパブリッシャーごとのコンテンツ分類を作り、Cookieを使わずにオーディエンスセグメントを広げる。初期の対象業種に「ゲーム・スポーツ・エンタメ」を含む

2024年1月9日

Identifier Audit

どの識別子(ID)がプログラマティックの成果につながっているかを可視化する

2024年4月4日

Agentic Audience Builder

文章で書いたターゲット像や、アップロードしたRFPからオーディエンスを作る

公式サイトに掲載

料金は月額の基本料を低く抑え、利用料を加える形とされています(2023年5月31日のリリース)。具体的な金額は公開されていません。

今回の「LLMで作ったゲーム専用の分類体系」は、2024年に公開したCustom Content Taxonomiesの延長にあると考えられます。ArcSpan自身はそう説明していないため、ここでは解釈として書いておきます。

広告が配信される仕組み

ArcSpanは自社で広告枠を持ちません。パブリッシャー(今回はOverwolf)の1stパーティデータを統合・分類してセグメントにし、SSP(Index、Xandr、Magnite、OpenXなど)や直接取引(PMP、プログラマティック保証)を通じて、広告主の買い付けに乗せます。

主な顧客とパートナー

区分

名前

時期

顧客(ゲーム系メディア)

GAMURS Group(Dot Esports、Prima Games、Destructoidなど17超のブランド、月間6,000万人超)。AMSを使った「GAMURS Pulse」を発表

2024年1月

顧客

A360、Sundial Media Group、USNews、MediaCorp(シンガポール)

2024年12月

顧客

Overwolf(Gamer Grid)

2026年5月

顧客

LADbible Group(英国)

2026年10月に事例公開

ID連携

First-id(フランスのCookieを使わない永続ID)

2026年9月

SSP連携

Magnite(ディスプレイ・動画・CTV)、OpenX

2026年9月

出典: PR Newswireの各リリース、ArcSpan公式ブログ

アジアで確認できた顧客はシンガポールのMediaCorpだけで、日本の顧客やパートナーは見つかりませんでした。

ArcSpanとOverwolfのここまでの歩み

ArcSpanの資金調達:設立6年でシード2回

ArcSpanが公表した資金調達は2回で、どちらもシード段階です。

時期

ラウンド

調達額

リード投資家

主な参加投資家

そのとき会社が目指していたこと

2021年12月

シード

600万ドル

記載なし

AperiamVentures(旧MathCapital)、業界の経営者個人(Jonah Goodhart、Noah Goodhart、Sarah Baehr、Matt Bostock、Curt Brockelman、Tina Daniels、Matt Greitzer、Geoff Judge、Grant Gregory、Chris Lien、Eric Matlick、Peter Naylor、Frans Vermeulen、Jim Warner)

SaaS基盤とAIデータソリューションの開発を加速し、技術・製品・営業の主要人材を採用する。同時にアドバイザリーボードを設けた

2025年7月

シード延長

520万ドル

記載なし

「新規と既存の投資家」とのみ記載

Audience Builder 3.0、PMP Activation Hub、QualityCloud/AQIの開発と市場投入を加速し、製品・データサイエンス・パブリッシャー支援のチームを増やす

出典: PR Newswire(2021年12月15日)、PR Newswire(2025年7月23日)

累計調達額は公式に書かれていません。公表された2回の合計は1,120万ドルです。2021年より前の調達の有無は確認できず、両リリースに日本企業の名前はありません。

2021年のシードは、アドテク業界の経営者が個人で多く参加したラウンドでした。2025年もシリーズAではなくシード延長で、調達額は大きくありません。ArcSpanは、業界経験の長い人たちが小さな体制で作ったB2Bツール企業と見るのが実態に近いと考えられます。そうした会社の技術が、月間1億人規模のPCゲーム基盤のデータ製品に組み込まれた点が今回のニュースの中身です。

ArcSpanの歩み

時期

出来事

2020年

ニューヨークで設立

2021年12月

シードで600万ドルを調達、アドバイザリーボードを設置

2022年8月

Contextual APPデータソリューションを公開

2023年5月

ArcSpan AMSを正式公開

2024年1月

GAMURS Groupが「GAMURS Pulse」を発表(確認できる最初のゲーム系メディアとの接点)。LLMを使うCustom Content Taxonomiesを公開

2024年4月

Identifier Auditを公開

2024年12月

A360、Sundial Media Group、USNews、MediaCorpがAMSを採用

2025年2月

B2B、スポーツ・エンタメ、小売、自動車のオーディエンスデータをAMSに組み込む

2025年7月

シード延長で520万ドルを調達

2026年5月

OverwolfのGamer Gridを支えていると発表

2026年9月

First-id、Magnite、OpenXと連携

2026年10月

LADbible Groupの事例を公開

公式情報からは、撤退や失敗にあたる出来事は確認できませんでした。ゲーム系メディアのGAMURSで実績を作り、約2年後にゲームそのもののデータを持つOverwolfへ広げた流れと読めます。

Overwolfの広告データの歩み

Overwolf側から見ると、Gamer Gridは在庫とデータを少しずつ積み上げてきた結果です。

時期

出来事

2020年6月

TwitchからCurseForgeを取得(MODの利用データが入るようになる。報道ベース)

2024年5月

NitroPay(現Nitro)を買収。ゲームWebサイトの在庫と閲覧データが加わり、リーチは月間4,500万人超から1億人超へ

2024年7月

Yahoo DSPのPremium Publisherに参加

2025年3月

PubMaticのAccess Membershipに参加

2025年4月

The Trade DeskのOpenPathと連携

2025年5月

Adelaideのアテンション計測エコシステムに参加。同月、Riot Gamesが自社タイトルでのサードパーティ製ゲーム内広告を禁止

2025年9月

地域別のプログラマティックパートナーを12社追加(欧州中心。日本・アジアは含まれない)

2026年4月

Gamer Gridを発表

2026年5月

ArcSpanが基盤の提供を発表

2026年9月

Gamer Gridを使った無料ツール「In-Game Audience Map」を公開

2026年10月

Digiday Awards 2026「Most Innovative Technology Platform」のファイナリストに選出

OverwolfとNitro(旧NitroPay)のロゴを並べたバナー
出典: Overwolf(

このうちGamer Gridとの関係で押さえておきたいのが、2025年5月29日のRiot Gamesの方針です。Riotは自社タイトルで、オーバーレイ、ロード画面、Riot Clientに表示されるサードパーティ製の広告を禁止しました。Overwolfは6月5日に「まだすべての答えは出ていない」とする公式見解を出しています。オーバーレイの在庫は、ゲーム会社の方針ひとつで使えなくなりうることがはっきりした出来事でした。

その約1年後に、在庫ではなくデータを売り物にするGamer Gridが出てきました。在庫の外にも配信できるため、Overwolfは媒体社であると同時にデータ事業者の顔も持ち始めたと考えられます。ただし、Riotの件がGamer Gridにつながったという説明をOverwolfはしておらず、これは解釈です。

もう一つ、未解決の点があります。ArcSpanのリリースはLeague of Legends(Riotのタイトル)をデータ元に挙げています。「LoLでのプレイ行動のデータを使い、別の場所で広告を出す」ことがRiotの方針に照らしてどう扱われるのかは、公式に説明されていません。広告の表示とデータの収集は別の問題なので、矛盾しているとは言い切れませんが、確認が取れていない点として残ります。

2026年9月:Gamer Gridを使った無料ツール

2026年9月23日、Overwolf AdsはGamer Gridのデータを使った無料ツール「In-Game Audience Map」を公開しました。5,000超のゲームについて、広告主のターゲット層がどのタイトルで遊んでいるかを可視化します(出典: Overwolf公式ブログ)。入力画面には「Market: Global」の選択欄がありますが、日本を選べるかは確認できていません。

Overwolf Adsの「In-Game Audience Map」入力画面。ブランド名・オーディエンス属性・年齢・市場を入力する
出典: Overwolf(

広告出稿事例

Gamer Gridを使ったと公式が明記した出稿事例は、2026年10月31日時点で見つかりませんでした。ここでは、ゲーム内の行動データで広告を出し分けるという、Gamer Gridと同じ考え方にもとづくOverwolf Adsの事例と、ArcSpan側の導入事例を紹介します。

事例1:Tropicana「Naked Smoothie」×dentsu X「78分のゲーマー休憩」

PCのプレイセッションのデータから、プレイヤーは78分前後で休憩を取りやすいことを見つけ、Fortnite、VALORANT、Apex Legendsなどでその時間帯にメッセージとゲーム内報酬を出した施策です。プレイ行動そのもの(セッションの長さ)を配信の条件にしています。

指標

公表値

エンゲージしたプレイヤー

100万人超

累計プレイ時間

4.8万時間

ブランドリフト

「大きく上がった」とのみ記載(数値は非公開)

出典: Overwolf公式ブログ(2026年5月11日)

Naked Smoothieのボトルとゲームのキャラクターを組み合わせた、Overwolf Adsの施策のキービジュアル

飲料の広告主にとっては、「いつ休憩するか」というプレイの習慣を、商品を思い出してもらうタイミングとして使った例として参考になります。ただしブランドリフトの数値が出ていないため、効果の大きさは外から判断できません。追加効果を測る方法は「ゲーム内広告のインクリメンタルリフト測定」で解説しています。

事例2:Superloop(オーストラリアの通信事業者)

プレイヤーのPing(通信の遅延)が80を超えたときに、回線乗り換えの案内をオーバーレイで出した施策です(Overwolf公式ブログ、2026年6月30日)。効果の数値は公表されていません。「いまのゲーム内の状態」を広告の条件にした、最も分かりやすい例です。

ヘッドセットを着けてゲーミングPCでオンラインゲームを遊ぶプレイヤー

事例3:Universal Pictures『Nobody 2』×Fortnite

25〜34歳のゲーマーに向けて、Fortnite内でマップを制作した施策です。データによる出し分けの事例ではありませんが、映画会社がOverwolf Adsを使っている例として挙げます。

指標

公表値

ブランドコスメ(ゲーム内の見た目を変えるアイテム)の利用者

100万人超

平均プレイ時間

27分

NPCのインプレッション

2,500万超

出典: Overwolf公式ブログ(2026年6月5日)

The Drum Awards Americas 2026でOverwolf AdsとEssenceMediacomのUniversal Pictures向け施策がGOLDを受賞した授賞式の画面

参考:ArcSpan AMSを導入したLADbible Group

ゲームではありませんが、ArcSpanの技術がデータをセグメントに変える段階でどれだけ働くかを示す事例です。英国のメディアLADbible Groupは、AMSに移行して次の結果を公表しています(出典: ArcSpan公式の事例)。

指標

公表値

移行にかかった期間

28日(その間の収益の落ち込みなし)

オーディエンスのコホート規模

30〜200%拡大

Google Ad Managerへのセグメント反映

従来のDMPの5倍速

インプレッション

旧DMPの170万に対し388万

配信項目

39項目中37項目で配信規模が上回る

これらは媒体社側の運用効率の指標で、広告主のブランド効果を示す数字ではありません。

なぜこの動きが起きたのか

広告配信の成果データを表示したモニターとノートPC

背景は大きく3つあると考えられます。

1つ目はCookieに頼らない識別手段への需要です。ArcSpanは「サードパーティCookieを使わずに環境をまたいで同じユーザーに届ける」ことを打ち出しています。OverwolfのMarchand氏も、ゲーミングPCの中で起きていることを起点にしたデータを「根本的に違うシグナル」と表現しています。

2つ目はゲームを遊ぶ人を一般の消費者として買いたい広告主の存在です。2026年に契約を更新したOverwolfの顧客には、McDonald's、The J.M. Smucker Co.、Universal Pictures、Paramount Pictures、Logitech、Samsung Electronics、Amazonが並びます。食品や映画の広告主にとっては、「ゲーマー」より「ハンバーガー好き」「新車の購入検討層」のほうが買いやすい単位だと考えられます。

3つ目は在庫への依存を減らす必要です。前の章で書いたRiotの禁止のように、オーバーレイの在庫はゲーム会社の判断で減る可能性があります。データを外部の在庫でも使えるようにすれば、自社の表示面だけに収益を頼らずに済みます。

日本市場ではどうか

Gamer Gridは日本から使えるのか

Gamer Gridの提供地域、日本のデータの量、日本の広告主や代理店が買えるかどうかは、どの公式情報にも書かれていません。セグメント例の「Burger Lovers」は米国のみと明記されており、LiveRamp・Experian経由の購買データは米国が中心とみられます。Overwolfが2025年9月に追加したプログラマティックパートナーにも、日本・アジアの事業者は含まれていません。ArcSpanも日本の顧客や拠点は確認できませんでした。

日本で使うとした場合の障壁として、次の点が考えられます。

  • Overwolfの在庫とデータは欧米のPCゲーマーが中心とみられる
  • 購買データの提携先が日本向けのデータをGamer Gridに組み込んでいるかが分からない
  • 日本語の営業・計測の体制が見当たらない

国内で同じことは起きているか

「ゲーム内のプレイ行動データを、ゲーム以外の広告主向けのオーディエンスとして外部の在庫にも売る」事業者は、今回の調査の範囲では国内で確認できませんでした。起きていないと言い切れるわけではありません。国内のゲーム内広告のターゲティングは、タイトル、ジャンル、年齢・性別などのタイトルの属性、地域が中心とみられます。

日本で同じ広告を実施する選択肢

日本の広告主がGamer Gridと同じ発想、つまり「ゲームの時間を使って、自社の顧客になりうる生活者に届ける」ことを国内で試す場合、選択肢の一つがAd-Virtuaです。Ad-Virtuaは国内のゲームタイトルの空間内にある看板やモニターに動画広告を配信するアドネットワークで、公式サイトでは、メタバース・ゲームごとに設定された対象年齢層、性別、カテゴリによるフィルタリング、位置情報による地域ターゲティング、タイトルの指定ができると説明しています(2026年10月31日確認)。

ただし、できることはGamer Gridと同じではありません。

比較ポイント

Gamer Grid(Overwolf Ads)

Ad-Virtua

広告の表示場所

ゲームの周辺の画面(Overwolfアプリ、CurseForge、提携サイトなど)と外部のプログラマティック在庫

ゲーム空間の中の看板・モニター

絞り込みの単位

ユーザー単位(プレイ行動、ハードウェア、購買データ)

タイトル単位(対象年齢層、性別、カテゴリ)、地域、タイトル指定

購買データとの結合

LiveRamp・Experian経由で結合

公式サイトに記載なし

主な対象

Overwolfのユーザー(欧米のPCゲーマーが中心とみられる。日本からの利用可否は未確認)

国内のゲームタイトル

料金

非公開

1週間30万円から、初期費用なし(公式サイト、2026年10月31日確認)

Gamer Gridは「誰に出すか」を細かく絞る道具で、Ad-Virtuaは「どのゲームの空間に出すか」を選び、プレイの邪魔をしにくい看板型の接触で認知と想起をとる道具です。行動データで人を絞る機能を求めるなら、Ad-Virtuaは合いません。

こんな企業におすすめ

  • 国内の若年層やゲームを日常的に遊ぶ生活者に、まず認知と想起をとりたい食品・飲料・外食の企業
  • TVCMやSNS広告で使っている動画素材を、別の接点にも使いたい企業
  • ユーザー単位の行動データを外部と結合する前に、タイトルの属性で小さく試したい企業

おすすめしない企業

  • 購買データや来店データで対象者を絞り込むことが出稿の前提になっている企業
  • 欧米のPCゲーマーへの配信が主な目的の企業(その場合はOverwolf Adsに直接問い合わせるのが近道です)
  • 獲得件数を直接の成果指標にしたい企業

ゲーム内の層を行動特性で分けて施策を選ぶ考え方は、「女性ゲーマー層へのマーケティング戦略|行動特性・施策比較とブランド体験設計ガイド」でも整理しています。

広告主が取るべき判断

今動いてよい企業

  • 米国や欧州で事業をしており、現地のPCゲーマーにリーチしたい企業は、Overwolf Adsの営業窓口に、Gamer Gridのセグメントと買い方(自社在庫か、外部のどのDSPから買えるか)を問い合わせてよい段階です
  • 日本でゲーム内広告を試していない企業は、行動データでの絞り込みを待たず、タイトル属性で配信先を選ぶ方式で、ゲーム内の接点が自社のブランドに合うかを先に確かめられます

様子見でよい企業

  • 日本国内だけで事業をしており、行動データによる絞り込みを条件にしている企業は、日本で使えるかどうかの情報が出るまで待つほうが無駄がありません
  • データ連携の法務確認が社内で重い企業も、急ぐ必要はありません。ユーザー単位の行動データを外部と結合する施策は、国内の個人情報の取り扱いに関する規律と照らし合わせる作業が必要になると考えられます。Riotの例のようにデータ元のゲーム会社の方針が変わる可能性もあります。広告の掲載面の安全性を評価する考え方は「ゲーム内広告のブランドセーフティ評価」で解説しています

関連する基礎知識

よくある質問

Gamer GridとGAMURS Pulseは何が違いますか?

どちらもArcSpan AMSを使ったオーディエンス製品ですが、データの元が違います。GAMURS Pulse(2024年1月発表)は、Dot EsportsやPrima Gamesといったゲーム系Webメディアのデータにもとづき、規模は月間6,000万人超です。Gamer GridはPCの中でのプレイ時間、ハードウェア、MODのダウンロードといったゲームそのものの利用データにもとづきます。「ゲームの記事を読んだ人」と「実際にそのゲームを遊んだ人」の違いと言えます。

Gamer Gridにスマホゲームのデータは含まれますか?

公式の説明では、データの元はPCでのプレイ行動、CurseForge、ゲーム内アプリ、提携ゲームサイトです。スマホゲームのデータを含むとは書かれていません。1.13億人の内訳(PCに限るのか、Webサイトの訪問者を含むのか)も公表されていません。

Gamer Gridの料金や最低出稿額は分かりますか?

価格、CPM、最低出稿額はいずれも公開されていません。セグメントの更新間隔も非公開です。見積もりはOverwolf Adsに直接問い合わせる必要があります。

日本のメディア企業がArcSpan AMSを導入することはできますか?

日本の顧客、パートナー、拠点は確認できず、日本語での提供状況も分かりません。アジアで確認できた顧客はシンガポールのMediaCorpだけです。LADbible Groupの事例では移行に28日かかったとされており、導入を検討する場合は、日本のSSPやIDとの連携状況を個別に確かめる必要があります。

Pin-Ju Chiang氏の肩書きが記事によって違うのはなぜですか?

4月28日のOverwolf公式発表では「Head of Data」、5月6日のArcSpanのリリースでは「Director of Ad Platform」と書かれています。1週間あまりで表記が変わっていますが、異動なのか表記の違いなのかは公式に説明されていません。この記事では発言ごとに出典の肩書きを使っています。