Azerion(アゼリオン)は、Webやアプリ、CTV、ゲームなどの広告在庫を広告主とつなぐオランダの広告プラットフォーム企業で、自社ゲームを買い集めた時期を経て、現在はゲーム配信網GameDistributionとアドテクに事業を絞っている。日本向けの窓口や国内の在庫は確認できないため、日本の生活者にゲーム内で広告を届けたい広告主は、国内のゲームに在庫を持つ事業者から選ぶことになる。

2026年の主な発表

2026年のAzerionの公式発表のうち、現在の事業の姿がわかるものが3本ある。

1つ目は2026年9月23日のパブリッシャー向け事業の統合である。Azerionはパブリッシャー向けの供給事業を「Improve Digital」ブランドにまとめ、2つの製品に整理した。自前で広告の仕組みを運用するパブリッシャー向けの「Improve Digital SSP」と、ヘッダービディングや収益の最適化を運用ごと請け負う「Improve Digital Yield」である。50を超えるDSP、50を超えるSSPとリアルタイムに接続し、扱う在庫はWeb、アプリ、CTV、オーディオ、DOOH、ゲーム内に及ぶ(Azerion公式発表)。

発表のなかで、Chief Publishing OfficerのJurriaan van Teunenbroek氏は「パブリッシャーにとって、Azerionこそが選ぶべき場所だ("Azerion is the place to be as a publisher.")」と述べている。

2つ目は2026年8月21日に英国のゲーミング広告企業Venatusが、Azerionを技術パートナーに選んだことである。提携の詳細はAzerionとVenatusの提携を解説した記事にまとめている。

3つ目はGameDistributionによるホワイトレーベルのゲームポータルの立ち上げである。2026年6月30日にドイツのQ&Aコミュニティgutefrage.net向け、2026年9月17日にブラジルのニュースサイトCorreio 24 Horas向けを公開した。Correio 24 HorasはGameDistributionにとってブラジルで初めての案件になる(Azerion公式発表)。

ブラジルのニュースサイトCorreioとAzerionのロゴを並べた提携告知画像
出典: Azerion(

3本の発表を並べると、Azerionが自社でゲームを持つ会社から、ゲームを含むさまざまな広告在庫をつなぐ広告インフラの会社へ軸足を移したことがわかる。この変化の経緯は「ここまでの歩み」で扱う。

Azerionとはどんな会社か

Azerion(アゼリオン)のロゴ
出典: Azerion(

Azerion Group N.V.(以下Azerion)は、自社を「欧州最大級のデジタル広告・エンターテインメントメディアプラットフォームの一つ(one of Europe's largest digital advertising and entertainment media platforms)」と説明している。

基本情報

項目

内容

正式社名

Azerion Group N.V.

設立

2013年(公式のAboutページ)。IRページは「2014年」と表記しており、英語版Wikipediaは「2013年設立、2014年に従業員45名で事業開始」と説明している

本社

オランダ・アムステルダム(IRページ)。登記上の所在地はSchiphol-Rijk

創業者

Atilla Aytekin氏、Umut Akpinar氏(Aytekin氏が共同創業者であることは公式発表のタイトルで確認できる。Akpinar氏の創業者表記は英語版Wikipediaによる)

上場

ユーロネクスト・アムステルダム(Euronext Amsterdam)、ティッカーAZRN

従業員数

912人(公式サイトの統計。時点の記載なし)

事業展開国

17か国(公式サイトの統計)

2025年売上高

5億4,100万ユーロ(IRページの統計)

出典: Azerion About、Azerion IR、英語版Wikipedia

設立年は公式サイトの中でも2013年と2014年に分かれている。本記事では「2013年設立、2014年に本格的に事業を開始」と扱う。

英語版Wikipediaによると、前身は2004年に両氏が設立したTriodor SoftwareとOrange Gamesで、Orange Gamesがのちに社名をAzerionに改めた。この経緯は公式サイトでは確認できていない。

事業の全体像

公式サイトは事業を5つの柱で説明している。

事業

主な内容

広告主向け

Azerion DSP(Hawk)、Azerion Identity Graph、計測メニュー「Insights」。フォーマットはオーディオ、CTV、動画、DOOH、ハイインパクト、ゲーミング、ネイティブ

パブリッシャー向け

Improve Digital(SSPとYield)、Azerion Edge、GameDistribution

ゲーム

カジュアルゲーム(GameDistribution)、AAAゲームの販売(Voidu、Genba Digital)

スポーツ

ファンエンゲージメント事業

Azerion Intelligence

複数のクラウドとLLMを使えるAI基盤。広告制作や運用のAIアプリのマーケットプレイスも持つ

このほか、ハイインパクト広告のInskin、Azerion Native、DOOH、オーディオ、中小企業向けのセルフサービスも手がけている。

ゲームに広告が表示される仕組み(GameDistribution)

ゲーム内広告の観点で中心になるのがGameDistributionである。ブラウザで遊べるHTML5ゲームの配信網で、公式サイトは「2万本のゲームコレクション」を、Azerion自社と第三者の「5,000ポータル」に配信していると説明している(Azerion Gaming)。

スマートフォンのゲームポータル画面と、スマホでゲームを遊ぶ若者たち(Azerionゲーム事業の公式イメージ)
Azerion公式サイトのゲーム事業のイメージ画像。出典: Azerion(

収益化の方法は2つある。ゲームの中で流れる動画広告と、ゲームを載せたページ上のディスプレイ広告である。提供形態はゲームを1本ずつ組み込む「Direct Game Integration」から、ポータルを丸ごと提供する「All-Inclusive White-Label」まで用意している。

ホワイトレーベルでは、大手のB2C企業向けにモバイルファーストのゲームページをWebビューで運営し、その国の言語に合わせたゲームを選んで並べる。2026年のgutefrage.netは月間1,500万人が使うQ&Aコミュニティ、Correio 24 Horasは月間1,570万訪問でトラフィックの95%がモバイルのニュースサイトだ。ゲームを持たないメディアが、ゲームのページを追加して広告枠を増やす使い方である。

社内スタジオがブランドやIPホルダー向けにゲームを作る事業もある。ゲーム開発者に対しては「高いeCPM」をうたっているが、数値は公表していない。

ゲームページに掲載されている配信パートナーのロゴには、Samsung、Yahoo、Ströer、Orange、MTN、Coolmath Games、Chicago Tribuneなどが並ぶ。それぞれの役割は説明されていない。

広告主向けのプロダクト

広告主は「Azerion DSP」で広告を買い付ける。公式ページはこれを「AzerionのHawk DSP」と呼び、デジタル広告への投資を1つのプラットフォームにまとめ、すべてのスクリーンに配信して成果を計測できるとしている(Azerion Advertisers)。

ターゲティングには「Azerion Identity Graph」を使う。複数のデータソースを統合し、ユーザーの接触や行動を横断して把握する仕組みである。

計測メニュー「Insights」は3つに分かれる。

  • Media Performancesはインプレッション、エンゲージメント、接触、動画完了率、ブランドセーフティを測る
  • Brand Liftは認知、知覚、好意、検討、意向の変化を測る
  • Brand Performanceは来店数、増分来店、アップリフト率、接触から来店までの時間や距離を測る

公式ページは外部の調査会社と組んで計測すると説明しているが、ベンダー名は記載していない。

パブリッシャー向けのプロダクト

Improve Digital SSPは、セルフサービスでの運用、キュレーションしたマーケットプレイス、Azerion直のデマンド、オープンAPIを備え、Prebid、OpenRTB、独自ラッパーに対応する。Improve Digital Yieldはヘッダービディングのラッパー、モバイルSDK、動画プレイヤー、AIによるフロア価格の最適化と専任の運用担当を組み合わせたサービスである。接続方式としてはVAST、Google Open Bidding、Amazon Publisher Servicesにも対応している(Azerion Publishers)。

Azerion EdgeはCookieに頼らずに収益化するためのプロダクトで、訪問者をリアルタイムに分析してオーディエンスセグメントを作る。

広告が配信される流れ

ここまでのプロダクトを、広告が届く順に並べると次のようになる。

  1. 広告主や代理店がAzerion DSP(Hawk)で買い付け、Identity Graphのデータでターゲティングする
  2. Improve Digitalが、パブリッシャーのWeb、アプリ、CTV、オーディオ、DOOH、ゲーム内の在庫を、50を超えるDSP・SSPとリアルタイムにつなぐ
  3. GameDistributionがHTML5ゲームを5,000のポータルに配り、ゲーム内の動画広告とページ上のディスプレイ広告で収益化する
  4. Insightsのメニューでブランドリフトや来店を計測する

Azerionは需要(デマンド)、データ、インフラを自社で持つため仲介業者が少なく、独占的なディールにアクセスできると説明している(2026年9月23日の発表)。

規模とインベントリ

公式サイトに掲載されている規模は次のとおりである(Azerion公式サイト)。

指標

数値

広告主数

40万超

パブリッシャー数

30万超

月間広告インプレッション

130億超

GameDistributionのゲーム数

2万本

GameDistributionの配信先ポータル

5,000

Azerionの拠点を示す世界地図。欧州を中心に北米・中南米にも拠点がある
出典: Azerion(

拠点の地図は欧州が中心で、北米と中南米にも拠点がある。アジアの拠点は示されていない。

業界団体と新しいフォーマット

公式のAboutページには業界団体のロゴが並んでいる。取引先ではなく、Azerionが加盟する団体である。フランスのalliance digitale、IABのスペイン・イタリア・英国・ブラジル・オーストリア・スウェーデン支部、IAA UK、ベルギーのB:A/M!、ドイツのBVDWとOVK、イタリアのeスポーツ団体OIES、IDOOHなどが含まれる。

Azerionが加盟する欧州の業界団体のロゴ一覧(IAB各国支部、BVDW、IDOOHなど)
出典: Azerion(

TAGの認証や、IAS・DoubleVerifyのような第三者検証ベンダーとの連携は公式ページに記載がない。

ゲーム内の新しいフォーマットとして、2026年7月9日にAudiomobの「Moments」の提供を始めた。ハイスコアの更新や対戦での勝利など、ゲーム内の出来事をきっかけに、その場面に合った音声広告を流す。18言語に対応したAI生成とDCO(動的なクリエイティブ最適化)を使う。Audiomob側は月間5億人超へのリーチ、月150億超の広告リクエストを公表している(Azerion公式発表)。

Azerionのここまでの歩み

Azerionは上場企業のため、歩みはスタートアップのような調達ラウンドではなく、ゲームの買収、上場、株式と社債による資金調達、ゲーム事業の売却の順にたどると理解しやすい。

ゲームを買い集めた時期(2004〜2021年)

時期

出来事

出典

2004年

Aytekin氏とAkpinar氏がTriodor SoftwareとOrange Gamesを設立

英語版Wikipedia

2013年

Azerion設立

公式Aboutページ

2014年

従業員45名で事業を開始(公式IRページは2014年を設立年と表記)

英語版Wikipedia

2016年

AAAのPCゲームを販売するVoiduを買収(金額非公開)

英語版Wikipedia

2018年

「Habbo」を運営するフィンランドのSulakeの株式51%を取得(金額非公開)

Wikipedia(Habbo)

2019年6月

Spil Gamesのモバイルゲーム部門と株式5%を取得

Wikipedia(Spil Games)

2020年2月

Spil Gamesの残りを取得し完全子会社化

Wikipedia(Spil Games)

2021年1月

Elisa社からSulakeの残り49%を取得し完全子会社化

Wikipedia(Habbo)

出典がWikipediaの行は、Azerionの公式サイトでは確認できていない。

この時期のAzerionは、カジュアル、ソーシャル、AAAとジャンルを問わずゲーム会社を買い、その画面を広告在庫にした。そこにImprove Digitalなどのアドテクを組み合わせ、「自社ゲームと広告技術を一社で持つ」形をつくった。GameDistributionがSpil Games由来かどうかは、公式でもWikipediaでも明記されていない。

SPACでの上場(2022年)

2022年2月1日、AzerionはSPAC(特別買収目的会社)「EFIC1」との事業統合の完了手続きに入ると発表し、ユーロネクスト・アムステルダムに上場した(Azerion公式資料一覧)。オランダ語版Wikipediaによれば、取引の開始は2022年2月2日である。

上場した年には、GameDistributionがGameBakeと提携してクロスプラットフォームへの配信を広げ(2022年6月)、Hotel Hideawayで「Love Island」のブランドルームを開いた(2022年8月、後述の事例1)。同年12月には、HabboのNFT「Habbo X」の1,300ルームが54時間で完売し、Habbo内で初めてのゲーム内コンサートも開いている。

資金調達の推移

上場後の資金調達は、株式よりも社債が中心である。

時期

内容

金額

そのとき会社が進めていたこと

2020年11月

社債の追加発行

公式資料の本文未確認

ゲーム会社の買収を続けていた時期

2021年4月

新規社債を発行し既存社債を償還

公式資料の本文未確認

Sulakeの完全子会社化の直後

2022年7月15日

第三者割当による調達

1,050万ユーロ

上場から半年、ゲームとアドテクの両輪で拡大していた

2023年9月14日

シニア担保付き変動利付債

1億6,500万ユーロ

Youda Gamesの売却を終え、事業の絞り込みを始めた

2024年6月・12月

社債の追加発行

各5,000万ユーロ

広告プラットフォームへの集中を進めていた

2025年9月17日

新規社債を発行し、既存社債を任意償還(10月13日に借り換え完了)

2億2,500万ユーロ

2025年7月にWhow Gamesの売却を発表した後

2026年9月21日

社債目論見書を公表し、Nasdaq Stockholmへの社債上場を申請

—

Improve Digitalへの統合の直前

出典: Azerion IRおよび公式発表一覧のタイトル

累計の調達額は公式資料で確認できていないため記載しない。ゲーム事業の売却益を借入の返済に充てたかどうかも、公式資料では確認できていない。投資家や提携先に日本企業が入っていることは、今回の調査では確認できなかった。

自社ゲームの売却(2023〜2025年)

2023年以降、Azerionは自社で持っていたゲーム事業を売却していく。

1つ目はカジュアルゲームのIP群「Youda Games Portfolio」のPlaytikaへの売却で、2023年8月28日に完了した(契約は8月1日)。公式は金額を開示していない。オランダ語版Wikipediaは、8,100万ユーロ超、アーンアウトを含めて最大1億5,000万ユーロと記載し、2023年に7,300万ユーロの一時利益を計上したとしている。

2つ目は欧州の基本無料ソーシャルゲーム「Whow Games」の売却である。2025年6月30日に売却の協議を公表し(公式発表のタイトル)、オランダ語版Wikipediaによれば、2025年7月にDoubleDown Interactive(DoubleUGames傘下)への売却を発表した。オランダ語版Wikipediaによると、金額は5,500万ユーロに、2年以内の業績達成で最大1,000万ユーロが加わる。公式の発表資料と買い手側の発表本文は確認できていない。

オランダ語版Wikipediaは、この売却でAzerionの自社ゲーム事業はほぼなくなったと説明している。2025年次報告書を伝える報道では、2025年にPremium Games事業を売却したとされているが、HabboやHotel Hideawayが売却の範囲に含まれるかは確認できていない。

同じ時期、経営面でも動きがあった。2023年3月13日、オランダ金融市場庁(AFM)がAzerion株の取引の不正について調査を始め、同年に共同CEOだったAytekin氏が退任した(英語版Wikipedia)。AFMは2025年3月14日に調査を終えている(公式発表のタイトル)。2025年8月1日には、Aytekin氏の新しい役割が公式に発表された。

他社の広告事業を受け入れる側へ(2026年)

2026年のAzerionは、他社の広告事業を引き受ける動きが目立つ。

時期

出来事

2026年4月17日

2025年次報告書を公表

2026年6月4日

CFOの交代を発表

2026年6月16日

中小企業向けのセルフサービスを開始

2026年6月25日

Westfield Riseとショッピングモール内のオーディオ広告で独占提携

2026年6月30日

GameDistributionがgutefrage.net向けのホワイトレーベルポータルを公開

2026年7月9日

Audiomob Momentsの提供を開始

2026年7月16日

Bauer Media Franceが広告販売事業をAzerionに移管

2026年8月21日

VenatusがAzerionを技術パートナーに選定

2026年8月27日

2026年第2四半期・上半期の決算を公表

2026年9月10日

ベルギーでDOOHネットワークを開始

2026年9月17日

GameDistributionがCorreio 24 Horas向けのホワイトレーベルポータルを公開

2026年9月23日

パブリッシャー向け事業をImprove Digitalに統合

2026年10月29日

Azerion Netherlandsが、テクノロジーとプロダクトを重視した新経営陣を任命

ドイツのQ&AサイトgutefrageとAzerionのロゴを並べた提携告知画像
出典: Azerion(

2022年の姿と今の違い

2022年の上場時点では自社ゲームを持ち、SSPとDSPまで一社でそろえる垂直統合がAzerionの特徴だった。2026年のAzerionは自社ゲームを手放し、GameDistributionとアドテクを残した形になっている。

GameDistributionを残した理由について、公式の説明はない。ゲームそのものを販売する事業ではなく、ニュースサイトやQ&Aサイトにゲームを配って広告在庫に変える事業なので、広告インフラの会社としての方針と合うと考えられる。

広告出稿事例

Azerionが公式に効果の数値を公表している事例を2件紹介する。どちらもゲーム空間の看板に広告を出す方式ではなく、ブランド専用の空間やミニゲームを作り込む方式である。

事例1:ITV Studios「Love Island」× Hotel Hideaway(2022年)

ITV Studiosの恋愛リアリティ番組「Love Island」が、当時Azerion傘下だった仮想世界ゲーム「Hotel Hideaway」の中にブランドルームを作った事例である(Azerion公式発表、2022年8月29日)。

2022年9月1日から月1回のクイズ「World of Love Island」を開いた。プレイヤーはA・B・Cの床を踏んで回答し、1ラウンド5問、3ラウンドを1日4回行う。参加者には限定ピンを配り、新しい服や家具のアイテムも販売した。

仮想世界ゲーム『Hotel Hideaway』に作られた『World of Love Island』のブランドルーム。A・B・Cの床を踏んで答えるクイズ会場
出典: Azerion(

公表された効果は次のとおりである。

指標

結果

比較

最初の15時間のアイテム販売

13万5,000個

過去のキャンペーン平均は7万5,000個

30日間のアイテム販売

54万5,000個

過去のキャンペーン平均は36万個

30日間の訪問

300万回

—

1日平均の訪問者

4万6,000人

—

期間中の平均滞在時間

52分

—

Hotel Hideawayの開始(11週間前)以降、どのルームよりも高いエンゲージメントだったとしている。当時VP Games and ContentだったJurriaan van Teunenbroek氏は「Hotel HideawayでのLove Island体験は大きな成功を収め、ブランドにとっての多くの可能性を示した」と述べている。

Hotel Hideaway内に作られたLove Islandのビーチエリア
出典: Azerion(

番組の視聴者にとって、ゲームの中に番組の世界に入れる「場所」ができたことで、平均52分の滞在とアイテム購入につながった事例と読める。ただし、これはAzerionが自社でゲームを持っていた2022年の事例である。Hotel Hideawayが現在もAzerionの事業かどうかは確認できていない。

事例2:Lidl「AchtertuinMinis」(2023年)

小売チェーンのLidlが2023年2〜3月に実施したキャンペーンの告知である(Azerion公式事例、2023年7月17日公開)。代理店はZigt、クリエイティブ制作はDSlabが担当した。実施国は事例記事に書かれていない。

キャンペーンの中身は、庭の生き物をモチーフにしたぬいぐるみ10種類がもらえる「貯めて交換」型の販促である。Azerionのゲームネットワークと親向けのサイトで、ページ全体を使うインタラクティブなテイクオーバー広告を出した。最初に動画が流れ、そのままアドバゲーム(ブランドのミニゲーム)で10種類のキャラクターを紹介する構成である。

LidlのAchtertuinMinisキャンペーン事例のバナー。庭の生き物をモチーフにしたぬいぐるみ10種
出典: Azerion(

指標

結果

インプレッション

33万3,460

クリック

2,004

CTR

0.60%

アドバゲームのイベント(操作)

322万2,424

インタラクション率

10%

この広告はWeboramaの「Creation of the Month」を受賞した。

クリック数よりも、アドバゲームの操作が322万回を超えたことに特徴がある。遊びながら10種類のキャラクターを覚えてもらい、「貯めて交換」への参加につなげる設計とみられる。ゲーム内の看板広告ではなく、ゲームサイト上のリッチ広告とミニゲームを組み合わせた方式である点には注意したい。ミニゲーム型の広告の設計はプレイアブル広告の設計ガイドで詳しく扱っている。

参考:ゲーム以外の事例

ゲーム以外では、高級フレグランスのMaison El NabilがAIを使ったプログラマティックDOOHを実施し、購買意向が41%になったと公表されている(Azerion公式事例)。

なぜAzerionは広告インフラに絞ったのか

ここからは公開情報をもとにした解釈である。

Azerionの売上高は、2024年が5億5,100万ユーロ(英語版Wikipedia)、2025年が5億4,100万ユーロ(公式IRページ)で、売上の規模はほぼ横ばいだ。そのなかでゲーム事業を売却し、2025年には2億2,500万ユーロの社債で借り換えを行っている。自社ゲームを運営し続けるより、ゲーム事業を売って広告インフラに資源を集めるほうを選んだと考えられる。

広告インフラに絞ると、自社のゲームだけでなく、他社のゲームやメディアの在庫も扱える。VenatusやBauer Media Franceの広告事業を受け入れ、gutefrage.netやCorreio 24 Horasのようにゲームを持たないメディアにゲームのページを提供しているのは、この方針の表れとみられる。

ゲームの扱いも変わった。2022年までのAzerionにとってゲームは「保有する資産」だったが、現在は「広告在庫をつくる配信面」の一つになっている。Improve Digitalが扱う在庫の種類にゲーム内が並び、広告主向けのフォーマットにゲーミングが並ぶのは、その位置づけを示している。

ゲーム内広告が広告の分類のどこにあたるかは、ゲーム内広告とはで整理している。

日本市場ではどうか

ゲームやアニメの看板が並ぶ夜の秋葉原の大通り

今回の調査では、Azerionの日本法人、日本語サイト、日本の提携先は確認できなかった。拠点の地図にもアジアの拠点は示されていない。

日本の広告主がAzerionをすぐ使えるかというと、障壁が3つある。

  1. 在庫が欧州と中南米が中心で、日本の生活者に届く在庫はほとんどないとみられる
  2. 日本語での営業窓口や、日本向けのAzerion DSPの提供は確認できない
  3. Identity Graphは欧州のデータを前提にしているとみられ、日本のオーディエンスのターゲティングには使いにくいと考えられる

グローバルの広告代理店を通じて欧州の在庫を買うことは、仕組みのうえではできると考えられる。欧州や中南米で商品を販売している日本企業にとっては、現地の施策として検討する余地がある。

国内では、ブラウザゲームのポータルやゲームを配信する事業はあるものの、SSP、DSP、ゲーム配信網を一社でそろえた事業者は今回の調査では確認できなかった。国内のゲーム広告市場の規模についてはゲーム内広告の市場規模にまとめている。

日本で同じ広告を実施する選択肢

Azerionの事例は方式で分けると3つになる。ゲームサイトでの動画・ディスプレイ広告、Lidlのようなミニゲーム型の広告、Love Islandのようなゲーム内のブランド空間である。日本で近い施策を行う場合の選択肢を比較する。

比較ポイント

Azerion(欧州)

ゲーム空間内のサイネージ広告(Ad-Virtua)

ブランド専用のゲーム制作

広告の出方

ゲーム内の動画広告、ページ上のディスプレイ、アドバゲーム、ブランド空間

ゲーム空間の看板やモニターに動画を表示する

ブランドを題材にしたゲームそのものを作る

プレイとの関係

動画広告はプレイの合間に表示される

プレイを止めずに表示される

プレイすること自体がブランド体験になる

主な地域

欧州が中心(北米、中南米にも拠点)

日本国内のゲーム

制作する内容による

規模の目安

月間130億インプレッション超

400タイトル以上、累計再生8,000万回(2025年後半時点)

作品ごとに異なる

素材

フォーマットごとに用意

既存の動画素材を使える

企画と制作が必要

費用の目安

公表なし

1週間300,000円のプラン

制作費がかかる

公表されている効果

ブランドリフト、来店計測のメニューがある

広告想起率約1.8倍、注目度約1.7倍、好感度約85%

作品ごとに異なる

Ad-Virtuaの数値は同社の公表値である。

Ad-Virtuaは国内の400以上のゲームタイトルの空間内にある看板やモニターに動画広告を配信するアドネットワークである。自社ではゲームを作らず、既存のゲームの中に広告面を持つ点は、GameDistributionを通じて他社のゲームに広告を載せる今のAzerionと考え方が近い。一方で、Azerionの収益化はプレイの合間に流れる動画広告とページ上のディスプレイが中心で、Ad-Virtuaはゲーム空間の看板に表示するため、方式が違う。規模もAzerionの月間130億インプレッションに対して、Ad-Virtuaは累計8,000万回の再生と、桁が違う。

Ad-Virtuaが合う企業

  • 日本国内の若年層に、TVCMやSNS広告とは別の接点で動画を見せたい企業
  • すでにTVCMやWeb動画の素材があり、新たな制作をせずに始めたい企業
  • 1週間単位、30万円程度の予算から試したい企業
  • プレイを止めない、嫌われにくい形で広告に接触させたい企業

Ad-Virtuaが合わない企業

  • 欧州や中南米の生活者に広告を届けたい企業。この場合はAzerionのような現地の事業者が向いている
  • DSPでほかのWeb広告と一緒に運用し、来店計測までつなげたい企業。Ad-Virtuaがこうした買い方や計測に対応しているかは、個別に問い合わせて確認が必要である
  • Love Islandのように、ゲームの中に専用の空間を作り込みたい企業

作り込み型の施策を考えている場合は、Ad-VirtuaがPRゲーム制作として提供しているゲームバズも選択肢になる。ゲーム空間内のサイネージ広告の詳細はAd-Virtuaのサービスページ、相談はお問い合わせから受け付けている。

広告主が取るべき判断

Azerionの動きから、日本の広告主が判断に使える条件を整理する。

今動くべき企業

  • 欧州や中南米で商品を販売していて、現地の若年層やファミリー層に届く施策を探している企業。グローバル代理店を通じてAzerionの在庫を検討できる
  • 国内で若年層への認知施策を探していて、ゲームを広告の配信面として試したい企業。Azerionでは、ゲーム内広告がDSPや計測と結びついた在庫の一つとして扱われている
  • 子ども向けの商品を扱い、Lidlのように親と子どもの両方に届く広告を考えている企業

様子見でよい企業

  • 国内向けの施策だけを考えていて、Azerionそのものの利用を検討している企業。現時点で日本向けの提供は確認できない
  • ゲーム内広告をプログラマティックで買うことを前提にしている企業。国内でゲーム内の在庫がどこまでDSPから買えるかは、事業者ごとに確認する必要がある

注意したい点

Azerionが公表している事例は2022年と2023年のもので、どちらも自社でゲームを持っていた時期の施策である。Love Islandの数値は、ゲームの運営者が自らブランド空間を作れたから出た数値とも読める。現在のAzerionで同じ施策ができるかは、提供メニューを確認する必要がある。

また、事例の数値はいずれもAzerionの自社発表で、第三者による検証の記載はない。他社の数値と比べるときは、測り方が同じかを確かめたい。

関連記事

よくある質問

Azerionの読み方と、日本語の正式表記はありますか

一般的には「アゼリオン」と読まれている。日本法人がなく、公式の日本語表記は確認できていない。英語の正式社名はAzerion Group N.V.である。

AzerionのサイトにAnzuのロゴがありますが、提携していますか

Azerionの広告主向けページには「信頼されている企業」として、Disney、L'Oréal、Tiffany、McDonald's、Havas Mediaとともに、ゲーム内広告事業者のAnzuのロゴが掲載されている。ただし、どのような取引なのかは説明されておらず、提携の内容は確認できていない。

HabboやHotel Hideawayは今もAzerionのゲームですか

確認できていない。Whow GamesはDoubleDown Interactiveに売却されたことが、買い手側の2026年第2四半期の決算要約でも裏づけられる。一方、HabboやHotel Hideaway、Woozworldについて、2025年に売却したとされるPremium Games事業に含まれるかは公式資料で確認できなかった。Azerionのゲームページには今も「3億5,000万人超にリーチ」との記載があるが、売却前の数値である可能性が高い。

ゲーム内オーディオ広告「Moments」は日本でも使えますか

Azerionの発表では、対象市場として米国、中南米、ドイツ、オランダなどが挙げられており、日本の名前はない。日本で提供されているかは確認できていない。

Azerionの最新の業績はどこで確認できますか

AzerionのIRページで決算資料が公開されている。直近では2026年8月27日に2026年第2四半期・上半期の決算(監査前)を公表した。本記事では、決算資料の本文の数値は扱っていない。

Azerionの株式はどこで取引されていますか

ユーロネクスト・アムステルダムに上場しており、ティッカーはAZRNである。2026年5月29日時点の普通株式の総数は1億2,287万787株で、そのうち670万6,358株が自己株式である(Azerion株式情報)。社債については2026年9月にNasdaq Stockholmへの上場を申請している。