結論

Microsoft Advertisingは2026年4月6日、公式ブログで「ゲームは最も強力な広告環境である」と主張し、ゲーム内広告の視聴完了率100%などの独自データを公開した。日本の広告主にとっては、TVCM・SNS広告の補完施策としてゲーム内広告を検討する際の海外エビデンスが1つ増えたことを意味するが、提示された数値はXbox・King・Microsoft Casual Gamesという英語圏中心のグローバルインベントリに基づくものであり、そのまま国内施策の根拠にはできない点に注意が必要だ。

発表の内容

2026年4月6日、Microsoft Advertisingの公式ブログに「The Future Is In Play: Gaming as Advertising's Most Powerful Ecosystem」と題する記事が掲載された。執筆者はXbox Media Solutions(Microsoft Advertising傘下のゲーム広告事業部門)でマーケティング・コミュニケーションを担当するシニアディレクター、Claire Nance氏である(出典: Microsoft Advertising Blog)。

自宅でXboxコントローラーを持ちベッドに座ってゲームをプレイする若い女性
出典: Microsoft Advertising(

記事の核心は "The most powerful environments in media belong to gaming"(メディアの中で最も強力な環境はゲームに属する)という一文だ。King・Microsoft Casual Games・Xboxプラットフォームを横断する自社データと、Dentsuとの共同リサーチを根拠に、ゲーム内広告の視聴完了率・エンゲージメント・ブランド好意度が他の広告環境を上回ると主張している。

本文で公表された主な数値は次の通り。

指標

数値

備考

プレイヤーの週次モバイルゲーム利用率

86%

複数プラットフォームでの週次プレイ率

73%

週次プレイヤーが2つ以上のプラットフォームでプレイ

主要3プラットフォーム(モバイル・コンソール・PC)いずれかの週次利用率

96%

ゲーム広告の視聴完了率

100%

オンライン動画86%、ソーシャルメディア77%との比較。Dentsuとの共同リサーチによる数値だが、調査対象・母数・手法の詳細は本文に記載なし

没入度(immersion)と消費者行動・記憶の相関

予測精度80%

売上との相関は83%

ゲームプレイを中断しない広告を「必須」とする割合

40%

オプトイン型フォーマットを好む割合

54%

非ディスラプティブなネイティブ配置を好む割合

47%

ゲームを「エンゲージメントが高い」とする割合

67%

コンソールプレイヤーが「Xboxはクール」と回答する割合

83%

好きなゲーム内でブランド接触した際にブランド好感度が上がった割合

3人に1人

Activision-Blizzard/Microsoftゲーム内広告を「高品質・プレミアム」と感じた割合

過半数

具体的パーセンテージは非開示

いずれもXbox Media Solutions側が自社の広告商材(Rewarded Video・Playables・Xbox Landing Experiences・Click-to-Engageの4フォーマット)への出稿を呼びかける文脈で提示している数値であり、第三者機関による検証結果ではない点に留意が必要だ。記事末尾のCTAは「Xbox Media Solutionsに問い合わせる」で、同部門のゲーム広告ソリューションページに誘導している。

Xbox Media Solutions マーケティング・コミュニケーション担当シニアディレクター Claire Nance 氏のプロフィール写真
出典: Microsoft Advertising(

Xbox Media Solutionsの広告事業

Microsoft・Xboxそのものは説明を要しない大企業のため、ここでは今回の発表主である事業部門「Xbox Media Solutions」に焦点を当てる。

Microsoft コーポレートロゴ
出典: Microsoft(

事業部門の成り立ちと規模

Xbox Media Solutionsは、Microsoft AdvertisingのゲームIP専業広告部門である。前身は、Activision Blizzardが自社で運営していた広告事業部門「Activision Blizzard Media」だ。2022年1月18日にMicrosoftが総額687億ドルでのActivision Blizzard買収を発表し、2023年10月13日に買収が完了。これに伴いActivision Blizzard MediaはMicrosoft傘下に統合され、その後「Xbox Media Solutions」へブランド名が変更された(改称の正確な実施日は確認できず)。本社所在地・従業員数は非公開である。

代表的な担当者であるClaire Nance氏は、Activision Blizzardの広告事業立ち上げ初期から関与し、買収に伴いXboxブランドへ移管された人物と紹介されている(出典: Adweek、公開日未確認)。

提供する広告フォーマットと仕組み

Xbox・King・Microsoft Casual Gamesという3系統のゲームポートフォリオを横断し、ブランド広告主にゲーム内・ゲーム隣接領域の広告枠を提供する。「プレイヤー体験を阻害しない」ことを前提思想に置き、主力商材は次の4フォーマットである。

フォーマット

内容

Rewarded Video

プレイヤーが任意で動画広告を視聴し、ゲーム内アイテムやブースター等の報酬を得るオプトイン型広告。King系タイトル(Candy Crush Saga等)で提供

Playables(インタラクティブ広告)

ブランド独自のミニゲームをゲーム内に統合する広告形式

Xbox Landing Experiences

Xboxダッシュボード上のカスタム統合広告枠(例: ホーム画面のスポンサードタイル)

Click-to-Engage

Xbox上でのクリック誘導型広告フォーマット

スマートフォン画面に表示されるPlayables(インタラクティブ広告)のブランド化されたミニゲーム画面例
出典: Microsoft Advertising(

ゲーム内広告の広告フォーマット全般(インタースティシャル・リワード・サイネージ・コラボ型の違い)についてはゲーム内広告とはで整理している。

対応プラットフォームとインベントリ規模

モバイル・PC・コンソールを横断し、「players move seamlessly across devices」と自己紹介している。月間アクティブプレイヤー数は「数億人規模(hundreds of millions of monthly active players)」で200以上の国と地域をカバーするとされるが、具体的な数値は非公開だ。傘下には13の「10億ドル規模フランチャイズ」を保有し、King系ではCandy Crush Saga・Solitaire等、Xbox・Activision Blizzard系ではCall of Duty・World of Warcraft・Halo・Minecraft・Doom・Diablo等が含まれる。Candy Crush Sagaは米国アプリストアで最高収益フランチャイズの一つと自称し、Call of Duty Mobileは4億ダウンロード以上(測定時点未確認)、米国ユーザーのマルチプラットフォーム利用率は58%である(出典: Gaming solutionsAbout us)。

Candy Crush Saga、Solitaireなど King傘下タイトルのアイコンが並ぶポートフォリオ紹介イメージ
出典: Microsoft Advertising(Xbox Media Solutions)(

なお、Xbox Media Solutionsの製品ページ(Gaming solutionsトップページ、about-usページ)には、今回のブログとは別の文脈で以下の数値も掲載されている。今回のブログ本文の数値と混同しないよう出典を分けて記載する。

  • 購買意向: 他のデジタルパブリッシャー平均比2.3倍
  • ブランド認知度: 4.4倍(Gaming solutionsページ)、4.3倍(About usページ、表記にブレあり)
  • ビューアビリティ: 98%(業界平均60%との比較)
  • リワード広告への好意度: 78%、オプション型広告への好意度: 76%

出典: Gaming solutionsAbout us

認証・第三者認定

IAB UK Gold Standard 2.1、TAG(Trustworthy Accountability Group)Brand Safety認証、TAG Certified Against Fraudを取得している(出典: About us)。

主要パートナー

計測・調査面ではDentsuとアテンションエコノミー領域の共同リサーチを行っている。過去の別記事(2024年1月時点)ではLumen Researchによるアイトラッキング技術を用いた広告注目度測定にも言及しているが、今回のブログのDentsu共同リサーチと同一調査であるかは確認できていない。DSP・広告代理店名の明記はページ内になかった。

Candy Crush Sagaのキャラクターがスマートフォン画面から飛び出す演出のポートフォリオ紹介イメージ
出典: Microsoft Advertising(Xbox Media Solutions)(

ここまでの歩み

Xbox Media Solutionsはスタートアップではなく大企業の一事業部門のため、資金調達ではなく買収・事業立ち上げ・撤退の履歴として整理する。

時期

出来事

2006年

Microsoftがin-game広告企業Massive Incorporatedを買収(金額非公開、報道では約2億〜4億ドル)

2010年

Massive Incorporatedを事業終了。当時のCEOは2010年までに20億ドル規模の市場になると予測していたが実現せず、EAの離脱・Xbox Live広告部門との内部競合が要因として報じられた

2016年2月

Activision Blizzard、King Digital Entertainmentを59億ドルで買収完了(Candy Crush Sagaの獲得)

2016年以降

Activision Blizzardが自社広告プラットフォーム「Activision Blizzard Media」を整備・拡大

2020年

Candy Crush Saga等でリワード広告・ブランドパートナーシップ(Space Jam、Sonic 2等)を拡大。King広告事業は2020年Q1に前年同期比75%成長と報道

2022年1月18日

Microsoft、Activision Blizzard買収を発表(総額687億ドル)

2023年10月13日

買収完了。King・Xbox・Activision Blizzard傘下スタジオがMicrosoft/Xboxに統合される

2023年(買収後)

Activision Blizzard MediaがXbox Media Solutionsへ改称・統合

2024年10月7日

関連インフォグラフィック「Play it forward: Gaming attention」を公開

2025年3月31日

関連記事「Gaming's next-level advertising power of platforms」を公開

2025年4月28日

Back-to-schoolシーズンのゲーミングインサイト記事を公開

2026年4月6日

本ブログ「The Future Is In Play」公開

2006年のMassive Incorporated買収は、当時のゲーム内広告市場への早期参入だったが、2010年に事業を閉鎖した「一度失敗したゲーム内広告」の歴史である。今回Xbox Media Solutionsとして再びゲーム内広告を主力商材として打ち出しているのは、2023年のActivision Blizzard買収によってKing・Candy Crush Sagaという巨大なカジュアルゲームインベントリと、Kingが2016年以降に自社で築いてきた広告プラットフォームのノウハウを取り込めたことが背景にあると考えられる。2024年10月・2025年3月・2025年4月と続いた関連コンテンツの延長線上に、今回のブログは最も包括的な集大成として位置づけられる。

広告出稿事例

公式ページ上に「事例(Case Study)」としてブランド名・実施内容・効果指標をセットで公表しているページは確認できなかった。ここでは公式に確認できた「ブランド適合度(コンテクスト適合度)」指標と、製品ページに掲載されている広告表示イメージを事例に準ずる材料として紹介する。いずれもXbox Media Solutions自身が自社商材の説明として提示している数値であり、第三者検証済みの事例ではない点に注意されたい。

事例1: Xbox Landing Experiences(Biomutant)

Xboxダッシュボードのホーム画面上に「SPONSORED」表記付きでタイトル「Biomutant」のスポンサードタイル広告が表示された例が製品ページに掲載されている。

Xboxダッシュボード上に「SPONSORED」表記付きで表示されるBiomutantのタイル型広告表示例
出典: Microsoft Advertising(

これはXbox Landing Experiencesフォーマットの製品説明用イメージであり、実際のキャンペーンの実施年月・効果指標は公表されていない。

事例2: Rewarded Video(Candy Crush Saga)

King傘下のCandy Crush Sagaでは、レベルクリア画面に「Play」ボタン付きのリワード動画広告への視聴導線が用意されている。

Candy Crush Saga内でリワード動画広告の視聴誘導(Playボタン)が表示されたスマートフォン画面
出典: Microsoft Advertising(

この画面例にも具体的なブランド名は掲載されておらず、フォーマットの仕組みを示すサンプル画像の位置づけと考えられる。

コンテクスト適合度(ブランドとタイトルの相性)

ブログ本文では、ジャンルとブランドの相性を示す「コンテクスト適合度(Contextual Alignment)」として次の数値が挙げられている。個別のブランド名・実施時期は非公開だ。

  • 自動車ブランド × Forza: 他媒体比2倍の「フィット感」
  • CPG食品ブランド × Xbox: 1.4倍の「フィット感」
  • CPG食品ブランド × Candy Crush Saga: 1.2倍の「フィット感」

なぜこの動きが起きたのか

背景には2つの要因が重なっていると考えられる。1つは、Microsoftが2023年にActivision Blizzardを687億ドルで買収し、King・Candy Crush Sagaという大規模なカジュアルゲームインベントリとKing自身の広告運用ノウハウを一体で取り込んだことだ。2006年のMassive Incorporated買収・2010年撤退という失敗を経験したMicrosoftにとって、King統合は自社インベントリでゲーム内広告を再挑戦する土台になった。

もう1つは、ゲーム内広告市場全体でプレイヤーの広告受容性データを定量的に示す動きが広がっていることだ。プレイヤーの40%が「プレイを妨げないタイミングの広告を必須」と回答し、54%がオプトイン型フォーマットを好むという数値は、ゲーム内広告が「プレイ体験を阻害しない設計」であることが受け入れられる条件になっている実態を示している。Dentsuとの共同リサーチを重ねながら、2024年以降段階的に効果データを対外発信してきた流れの延長線上に、今回のブログがあると考えられる。

日本市場ではどうか

本リサーチの範囲では、Xbox Media Solutionsが今回のブログで示したような「ゲーム内広告の視聴完了率・ブランド好意度」を包括的に定量データ化し対外発信する動きについて、日本市場向けの類似の日本語一次情報は確認できなかった。

Rewarded Video・Playables・Xbox Landing Experiences・Click-to-Engageは、いずれもXbox・King・Microsoft Casual Gamesの広告在庫を前提としたグローバル商材である。日本の広告主が単独で直接出稿できるかどうかの窓口情報(日本法人・代理店経由の取り扱い有無)は本リサーチの範囲では確認できなかった。King・Candy Crush Sagaは日本でも高い認知度を持つが、広告出稿の商流がMicrosoft Advertising経由なのかDSP経由なのかも要確認である。英語圏中心の情報発信であること、最低出稿金額やターゲティング粒度(日本語ユーザーセグメントの有無)が非公開であることが、日本の広告主にとっての障壁になり得る。

ゲーム内広告の基礎的な仕組みや広告フォーマットの分類はゲーム内広告とはで解説している。

日本で同じ広告を実施する選択肢

Xbox Media Solutionsが示したような「プレイ体験を阻害しないオプトイン型・ネイティブ型の広告接触」という設計思想自体は、日本国内でも実現できる。国内向けの選択肢の1つがAd-Virtuaだ。ゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信するサイネージ広告のアドネットワークで、累計再生数8,000万回以上、対応タイトル400タイトル以上の実績を持つ。

ただし仕組みは異なる。Rewarded Videoが「動画視聴と引き換えに報酬を得る」オプトイン型であるのに対し、Ad-Virtuaのサイネージ広告はゲームプレイを止めずに背景に自然表示される非中断型だ。「プレイを妨げない」という思想は共通するが、広告接触の設計は別物であるため、Xbox Media Solutionsのフォーマットと同一の効果を期待するものではない。

TVCM・SNS広告の補完として若年層・ファミリー層への認知拡大を狙う食品・飲料・日用品メーカーや、国内タイトル・国内ユーザーを対象にした施策を求める広告主にはAd-Virtuaがおすすめだ。一方、英語圏・グローバルタイトルのユーザーそのものにリーチしたい、あるいはXbox・Call of Dutyのような特定IPとのタイアップを前提とする広告主には、Ad-Virtuaはおすすめできない。その場合はXbox Media Solutionsのようなグローバル商材の窓口を個別に確認する必要がある。

広告主が取るべき判断

今回のブログはXbox Media Solutions自身が公表した数値であり、第三者検証を経たものではない。したがって、これを根拠に即座に出稿判断をするのではなく、次の切り分けで検討するのが妥当だ。

今動くべき企業

  • グローバル展開しておりXbox・Call of Duty・Candy Crush Saga等の英語圏ユーザーにリーチしたい企業
  • ゲーム内広告の効果データを社内稟議の裏付けとして必要としている企業(海外エビデンスとして参照可能)

様子見でよい企業

  • 国内ユーザー・国内タイトルへの認知拡大が主目的の企業(Xbox Media Solutionsの商材は国内出稿の窓口が不透明)
  • Dentsuとの共同リサーチの調査対象国・母数が非公開であることを理由に、より検証可能な国内実績を重視する企業

関連する基礎知識への導線

  • ゲーム内広告とは — 広告フォーマットの分類、インタースティシャル・リワード・サイネージ・コラボ型の違いを解説
  • 広告効果とは — 視聴完了率・想起率など効果指標の基礎知識

FAQ

Q. 今回公表された効果データは、そのまま日本国内の効果予測の根拠にできるか。
A. できない。母数・調査手法が非公開のグローバル・英語圏中心の自社データであるため、国内タイトル・国内ユーザーでの再現性は検証されていない。国内での効果を判断材料にしたい場合は、国内で計測された実績を持つサービスのデータと照らし合わせるべきだ。

Q. 日本企業がXbox・King系タイトルへの広告出稿を検討する場合、何を確認すべきか。
A. 日本語窓口や国内代理店経由の取り扱い有無が公式情報から確認できないため、まずXbox Media Solutionsに直接問い合わせて出稿可否・最低金額・ターゲティング粒度を確認する必要がある。国内ユーザー向けの認知拡大が目的であれば、国内実績のあるサービスと比較検討した方が判断しやすい。

Q. Rewarded Videoのようなオプトイン広告と、プレイを止めない非中断型広告はどちらを選ぶべきか。
A. 目的によって異なる。報酬と引き換えに能動的な視聴を促したいならRewarded Video型、プレイ体験を止めずに繰り返し接触機会を作りたいならAd-Virtuaのサイネージ広告のような非中断型が候補になる。両者は「プレイ体験を阻害しない」という思想は共有するが、接触設計の目的が違う。

Q. Massive Incorporatedの撤退という過去の失敗は、今回の取り組みの信頼性にどう影響するか。
A. 2010年の撤退は自社単独インベントリでの事業だった当時の失敗であり、今回はActivision Blizzard買収でKingの運用ノウハウと大規模インベントリを取り込んだ上での再挑戦である点で体制が異なる。ただし今回の効果データも第三者検証を経たものではないため、過去の失敗の有無にかかわらず数値そのものは慎重に扱う必要がある。