米国の調査会社EMARKETERが2026年1月10日、米国のゲーム広告収益(video game ad revenues)が2029年までに100億ドルを超えるとの予測を公表した。あわせて、インゲーム広告が2026年の米国デジタル広告費全体に占める比率は2.3%にとどまるとしており、日本の広告主にとっては「ゲーム内という接点がどれだけ過小評価されているか」を数値で確認できる材料になる。

発表の内容
EMARKETERは2026年1月10日、FAQ形式のレポート記事「FAQ on video game advertising: Market size, format analysis, and how to find players in 2026」を公式サイトで公開した(出典)。著者はPeter Clark(EMARKETER Editors名義併記)。プレスリリースのような単発発表ではなく、EMARKETERが2025年半ばから継続的に発信してきたテーマを2026年向けの数値として整理し直した調査レポートである。
確定している事実は次の3点に集約できる。
- 市場規模予測: 米国のゲーム広告収益は2029年までに100億ドルを超える見通し
- デジタル広告費全体に占める比率: インゲーム広告は2026年の米国デジタル広告費全体の2.3%を占める見込み
- 投資と注目のギャップ: ゲーム業界は世界の消費者可処分時間を大きく占める一方、世界のメディア投資額全体の5%未満しか獲得できていない
このほか、レポートは消費者行動に関する複数のデータも示している。米消費者は1日平均1時間超をデジタルゲームに費やし、2026年には米国人口の59.2%がデジタルゲーマーになる見込みだという。世界では34億人超がデジタルゲームをプレイしており、ゲーマーはソーシャルメディア利用時間の27%、動画ストリーミング時間の25%をゲーム関連コンテンツに充てている。Z世代・アルファ世代に限れば、90〜95%が自らを「ゲーマー」と認識しているという。
広告効果の面では、ゲーム広告のアテンション(注目度)は他の人気広告チャネルの2.5倍、購買意向は2倍とされ、46%のゲーマーが「ゲーム内広告をきっかけに購入することが多い」と回答している。一方で、米ゲーマーの20.3%は「ゲーム内広告全般が嫌い」と回答しており、64%が「広告はゲーム体験を阻害する」と答えている(前年調査の59%から上昇)。広告が受容されやすい要因としては、スキップ可能(46.8%)、報酬付与(41.4%)、関連性(26.5%)の順に支持が高い。
なお、「2029年に100億ドル超え」は米国のゲーム広告収益全体の予測値であり、「2026年に2.3%」はインゲーム広告というフォーマットが米国デジタル広告費全体に占める比率を指す。両者は指標も母数も異なるため、単純に足し算・比較すべきではない。
EMARKETERとはどんな会社か

今回データを発表したEMARKETERは、ゲーム内広告を配信するプラットフォーム事業者ではなく、マーケティング・広告領域のデータを企業向けに販売する調査会社である。日本の広告主にとってはあまり馴染みのない名前だが、米国の広告・マーケティング業界では市場予測の一次情報源として頻繁に引用される存在であり、今回の数値がどのような会社から出ているかを理解しておくことは、データの信頼性を判断するうえで役立つ。
- 正式社名: EMARKETER Inc.
- 設立年: 1996年、社名「eMarketer」として創業
- 創業者: Geoff Ramsey氏、Terry Chabrowe氏
- 本社所在地: 米国ニューヨーク(685 Third Avenue, 21st Floor, New York, NY 10017)
- 親会社: Axel Springer SE(ドイツ・ベルリン発、米ニューヨークにも拠点を持つ同族経営メディア企業)。2016年6月、Axel SpringerがeMarketer株式の93%を約2億4,200万ドルで取得した
- 社名の変遷: 1996年に「eMarketer」として設立 → 2020年、姉妹会社Business Insider Intelligence(BII)と統合し「Insider Intelligence」に改称 → 2024年4月、有料サブスクリプション新製品「PRO+」のローンチにあわせて現在の「EMARKETER」に再ブランディング
- 従業員規模: 公式発表は確認できていない。第三者データベース(RocketReach)は約322名と推計しているが、非公式の参考値にとどまる
提供しているのは、広告配信ではなく「フォーキャスト(予測)・レポート・ベンチマーク」を企業向けサブスクリプション(PRO+等)として販売する事業モデルである。カバー領域は広告・マーケティングのほかEコマース・小売、金融サービス、ヘルスケア、テクノロジーなど複数業界に及び、地理的にはアジア太平洋、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、北米など6地域をカバーする。今回のゲーム広告レポートも、自社の消費者調査・マーケター調査(アンケート形式)に基づくデータが土台になっている。
広告配信インベントリや対応プラットフォームといった「媒体としての規模」は該当しない。EMARKETERは広告を運ぶ側ではなく、広告主・代理店・メディア企業が投資判断に使う二次データを供給する側の会社である点が、後述するAd-Virtuaのような配信事業者との決定的な違いになる。
ここまでの歩み
EMARKETERは今回のFAQレポート単体で「ゲーム広告は過小評価されている」という論点を持ち出したわけではない。2025年半ばから同一のテーマを複数回にわたり発信し続けてきた。
時期 | 記事タイトル | 著者 | 要点 |
|---|---|---|---|
2025-07-01 | As players score high value from video games, brands can inspire positive connections | Marisa Jones | ゲーマーの43%がゲーム連携でブランド好感度向上、Twitchユーザーの44%が配信者推奨商品を購入経験あり、Z世代はRobloxに1日2.5時間費やす等 |
2025-09-01 | Nonmobile Gaming Ad Spending Will Accelerate in 2026 and Beyond, After 2 Years of Sluggish Growth(チャート) | — | 2024〜2029年の米国非モバイルゲーム広告収益予測(具体数値はPRO+会員限定) |
2025-10-30 | Gaming's advertising paradox sees marketers underinvest amid massive reach | Peter Clark | 世界のゲームプレイヤー34億人、視聴時間は前年比6%増に対し、メディア投資は5%未満にとどまる「パラドックス」を指摘。Mountain Dew×Discord事例、Discord月間アクティブユーザー2億人等 |
2026-01-10 | FAQ on video game advertising: Market size, format analysis, and how to find players in 2026(今回) | Peter Clark, EMARKETER Editors | 上記の問題提起を踏まえ、2026年に向けた市場規模予測(2029年100億ドル超え、2026年に2.3%)とフォーマット別の実務ガイドをFAQ形式で整理 |
今回の発表は新しい調査結果というより、EMARKETERが半年以上かけて積み上げてきた「ゲーム広告は消費者の可処分時間の割に投資が薄い」という論点を、2026年の実務判断に使える具体的な予測数値とセットで再提示した集大成的なレポートといえる。過去記事で使われてきた「5%未満」「34億人」といったデータは今回のFAQでも再利用されており、EMARKETER社内で一貫した調査結果として継続的に引用されていることが確認できる。
なお、EMARKETER自身のゲーム広告領域における事業参入・撤退の経緯については、そもそも同社が広告配信事業者ではないため該当情報が見当たらない。前述の社名変遷(1996年設立→2020年Insider Intelligenceへ統合→2024年EMARKETERへ再ブランディング)がコーポレート面での主な変化として確認できるのみで、広告事業としての参入・撤退の歴史があるかどうかは公式情報からは確認できなかった。
広告出稿事例
EMARKETER自体は広告配信事業者ではないため、今回のFAQレポートに広告出稿事例そのものは含まれていない。参考情報として、EMARKETERが同じテーマの過去記事で紹介したブランド活用事例を記録する。
1. Mountain Dew(PepsiCo) × Discord「World of Warcraft」コミュニティ

Discord上のWorld of Warcraftコミュニティを活用したキャンペーンで、ブランド好感度が16%リフトしたと報告されている。出典はEMARKETERの別記事「Gaming's advertising paradox sees marketers underinvest amid massive reach」(2025年10月30日付、著者Peter Clark)であり、今回のFAQレポート本体に記載された事例ではない点に留意が必要である。
2. Walmartのadvergames活用

Walmartはadvergames(ブランド専用ゲーム)の文脈で言及されているが、今回のFAQレポートには具体的な施策内容・効果指標の記載がない。詳細は未確認であり、事例として参照する場合は追加の裏取りが必要になる。
なぜこの動きが起きたのか
背景にあるのは、ゲームというメディアへの消費者の可処分時間と、広告主の投資配分との間にある構造的なずれである。EMARKETERのデータによれば、世界で34億人超がデジタルゲームをプレイし、米消費者は1日平均1時間超をゲームに費やしている。Z世代・アルファ世代に限れば9割以上が自らを「ゲーマー」と認識する。それにもかかわらず、ゲーム業界が獲得できているメディア投資額は世界全体の5%未満にとどまる。
EMARKETERはこのギャップを2025年半ばから繰り返し指摘してきた。今回のFAQレポートは、そのギャップを「では2026年に何をすべきか」という実務判断に落とし込むために公開されたと読める。レポートが挙げる2026年の評価優先事項は、①フォーマットと受容性の適合、②YouTube・Twitch等ゲーミングエコシステム全体の活用、③報酬型フォーマットのテスト、④コンテキストに合わせたクリエイティブ展開、の4点である。
もう一つの背景として、マーケター側の投資判断を妨げる要因も明らかになっている。マーケターの64.4%が「ケーススタディや成功指標があれば投資意欲が高まる」と回答しており、投資が伸び悩む理由の一つが「エビデンス不足」であることを示している。

日本市場ではどうか
米国ではEMARKETERが「インゲーム広告は2026年のデジタル広告費全体の2.3%」という粒度で市場を継続的に追跡している。一方、日本国内で「ゲーム内広告」だけを独立カテゴリとして毎年金額集計している公的・業界統計は確認できなかった。
電通が2026年3月5日に発表した「2025年 日本の広告費」では、総広告費8兆623億円(前年比105.1%)、うちインターネット広告費4兆459億円(構成比50.2%)、動画広告は前年比121.8%の1兆275億円で調査開始以来初めて1兆円を突破——という粒度までは公表されているが、「ゲーム内広告」という単独区分は電通の発表資料に存在しない(出典1 / 出典2)。
これは日本のゲーム内広告市場が未成熟であることを直接意味するわけではなく、計測・分類の仕組みが米国に比べて整っていないことを示すデータギャップと捉えるべきである。実際、ゲーム内広告の市場規模・成長率まとめで紹介しているように、グローバル市場についてはMordor IntelligenceやThe Business Research Companyなど別の調査会社が独自に規模を算出しており、調査主体によって前提や算出方法が異なる状態が続いている。EMARKETERの数値はあくまで米国市場の消費者行動・メディア環境に基づく予測であり、日本市場にそのまま当てはめることはできない。
そもそも「ゲーム内広告」とは何を指すのか、どのような種類があるのかを整理していない読者は、先にゲーム内広告とはで全体像を確認しておくと、本記事の議論を追いやすくなる。
EMARKETERは今回のレポートで、ゲーム内広告のフォーマットを次の5種類に分類している。
フォーマット | 概要 |
|---|---|
intrinsic in-game ads | ゲーム世界に溶け込む看板・広告(サイネージ型) |
rewarded ads | 動画視聴などでアイテムを得られる報酬型広告 |
interstitial ads | 画面遷移時に表示される全画面広告 |
adjacent ads | ゲームプレイ外に表示されるバナー等 |
advergames | ブランド専用に制作されたゲームそのもの |
この分類のうち、日本の広告主が実際に検討しやすいのは「サイネージ型(intrinsic in-game ads)」と「報酬型(rewarded ads)」である。前者はプレイを中断させない形で看板やモニターに広告を表示する方式、後者はユーザーの任意視聴を前提とする方式で、いずれも64%のゲーマーが「広告はゲーム体験を阻害する」と回答している現状に対して、比較的受容されやすい形式とされる。報酬型広告の詳細はリワード広告の完全ガイドで解説している。
日本で同じ広告を実施する選択肢
EMARKETERは配信インベントリを持たない調査会社であり、実際にゲーム内で広告を配信するのは別のプレイヤーである。今回のレポートが指摘する「投資と可処分時間のギャップ」を日本市場で埋めようとする場合、国内で配信可能なアドネットワークを選ぶ必要がある。
Ad-Virtuaは、ゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信する国内のアドネットワークで、EMARKETERの分類でいう「intrinsic in-game ads(サイネージ型)」に近い仕組みを国内タイトル400以上に対して提供している。累計再生数は8,000万回を突破しており(2025年後半時点)、公表されている効果指標は広告想起率が通常比約1.8倍、注目度が約1.7倍、CPMは約300円(通常500円比)である。料金は1週間300,000円のプランが用意されている。
ただし、これらはAd-Virtua独自の実績値であり、EMARKETERの米国データとは調査主体も算出方法も異なる。米国のゲーミングエコシステム全体(Discord・Twitch・Robloxなどを含む)を分析するEMARKETERの視点と、国内タイトルに特化したAd-Virtuaの対応範囲は同一ではない点は明確にしておく必要がある。
向いている条件: TVCM・SNS広告の補完として若年層への接触を増やしたい、プレイ体験を阻害しにくい広告接触を求める、動画素材を流用してすぐに始めたい——という食品・飲料・日用品メーカーなどのブランドマネージャーには選択肢になりうる。
向いていない条件: 米国のDiscord・Twitch・Robloxなど海外プラットフォーム横断でのグローバル展開そのものを目的とする場合や、advergames(ブランド専用ゲーム制作)のような大規模な独自開発を前提とする場合は、国内アドネットワーク単体では対応範囲外であり、別の手段を検討する必要がある。

広告主が取るべき判断
今動くべき企業: 「エビデンス不足で投資判断ができない」状態にある企業は、EMARKETERが示す「64.4%のマーケターがケーススタディがあれば投資意欲が高まる」というデータと、Ad-Virtuaが公表している国内の効果指標(想起率約1.8倍、注目度約1.7倍)を組み合わせて、まずは小規模な検証枠から着手する判断がしやすい。特にTVCM・SNS広告の補完施策を探している段階の企業には、参入コストが比較的低い選択肢になる。
様子見でよい企業: 「ゲーム内広告全般が嫌い」と回答したゲーマーが20.3%存在し、64%が「広告はゲーム体験を阻害する」と感じている現状を踏まえると、ブランドイメージへの影響に極めて慎重な業種や、フォーマット選定(スキップ可能か、報酬型か)を十分に検討する体制がまだ整っていない企業は、まず社内でフォーマット別の受容性データを整理してから判断するのが妥当である。
関連する基礎知識への導線
- ゲーム内広告とは — フォーマットの全体像や仕組みを未確認の場合はこちらから
- ゲーム内広告の市場規模・成長率まとめ — EMARKETER以外の調査会社によるグローバル市場規模の推計
- リワード広告の完全ガイド — 本記事で触れた報酬型フォーマットの詳細
- テレビCMの代替・補完施策 — TVCM・SNS広告の補完としてゲーム内広告を検討する場合の位置づけ
FAQ
Q. EMARKETERの「2029年に100億ドル超え」という数値は、日本円でいくらになりますか。
A. 本記事執筆時点でEMARKETERは円換算の数値を公表していない。米国市場に限定した予測であり、日本市場の金額試算とは別物として扱う必要がある。
Q. EMARKETERはこの数値をどのように算出していますか。
A. FAQレポート内では自社の消費者調査・マーケター調査(アンケート形式)に基づくと説明されているが、サンプル数や具体的な調査手法までは本文で開示されていない。
Q. 「62%のプレイヤーが報酬型広告を最もエンゲージメントの高い形式と回答」という数値は確実ですか。
A. この数値は検索エンジンの要約経由で複数の情報源に一致が見られたものの、EMARKETER記事本文への直接アクセスでは同フレーズの完全な原文確認に至っていない。報道ベースの数値として参考程度に扱うのが妥当である。
Q. 米国デジタル広告費全体に対する2.3%という比率は、金額ベースでいくらに相当しますか。
A. 2.3%の分母となる2026年の米国デジタル広告費全体の予測総額は、本リサーチの範囲では特定できなかった。EMARKETERの別レポートに数値が存在する可能性があるが、今回のFAQレポートには記載がない。
Q. EMARKETERのレポートは無料で読めますか。
A. 今回のFAQレポートの一部はEMARKETER公式サイトで閲覧できるが、詳細なチャートや年次の具体的な金額データはPRO+という有料サブスクリプション会員限定のコンテンツとして提供されている。


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