発表の内容

オランダの広告・ゲーム大手Azerionは2026年7月、英国の音声広告スタートアップAudiomobと提携し、ハイスコア更新や対戦での勝利といったゲーム内の出来事に合わせて流れる音声広告「Moments(モーメンツ)」を、米国・中南米・欧州の広告主に提供すると発表した。日本ではMomentsを買える窓口が現時点で確認できないため、国内の広告主はこの動きを「プレイのどの瞬間に広告を出すか」で競う流れの参考事例として押さえ、国内で使える別の手段と比べて判断することになる。

2026年7月9日、Azerion Group N.V.(以下Azerion)とAUDIOMOB LTD(以下Audiomob)は、両社の公式サイトに同じタイトルの記事「Azerion Expands Premium Advertising Offering with Audiomob Moments」を公開した(Azerion公式発表、Audiomob公式ブログ)。

AudiomobとAzerionの提携を告知する公式画像。駐車場パズルゲームの画面にLEGOのロゴと「Audiomob 'Moments'」の文字が入っている
出典: Azerion / Audiomob(

発表で確定している内容は次のとおり。

項目

内容

発表日

2026年7月9日(両社同日)

提供するもの

Audiomobのアプリ内音声広告フォーマット「Moments」

提供先

Azerionのエコシステムに参加する広告主

対象地域

米国、中南米(LATAM)、ドイツ、オランダほか(原文は「and other regions」で、ほかの国名は書かれていない)

多言語対応

AudiomobのAI生成広告(AI Generated Ads)とDCO(ダイナミック・クリエイティブ・オプティマイゼーション、Dynamic Creative Optimisation)を組み合わせ、18言語でパーソナライズした音声広告を配信できる

非公表の項目

契約金額、提供開始日、価格、計測パートナー、日本語対応の有無

Momentsはゲームやアプリの中で起きた出来事をきっかけに音声広告を流す。Azerionの発表ではターゲティングの例として「Positive Moment > Reward > Received Speed Boost」(スピードアップの報酬を得た瞬間に達成を祝う広告を流す)と「Loss Moment」(負けた瞬間に励ましや次への動機づけを届ける)の2つが挙げられている。

AzerionのAudio Director、セム・テムール(Cem Temur)氏は次のようにコメントした。

モバイルゲームのユーザーは、世界で最もエンゲージメントの高い消費者層の一つです。ブランドには、ユーザーを邪魔するのではなく、その瞬間に寄り添うフォーマットがふさわしい。Audiomobとの提携で、Momentsを当社のグローバルなプラットフォームの広告主に届けられます。

Audiomob共同創業者のウィルフリッド・オベン(Wilfrid Obeng)氏は、Audiomobが「ゲームとゲーム以外のコンテンツで月間5億人を超えるユーザーにリーチし、月間150億件を超える広告リクエストを扱っている」と規模を示したうえで、Momentsの追加によって「プレミアムでアテンション重視の広告ソリューションを提供するAzerionの力がさらに強まる」と述べている。

事業者プロファイル

今回の主役はMomentsを開発したAudiomobで、Azerionはそのフォーマットを自社の広告主に販売する側にあたる。

Azerionとはどんな会社か

Azerion(アゼリオン)のロゴ
出典: Azerion(

Azerionはオランダ・アムステルダムに本社を置き、Euronext Amsterdamに上場している(ティッカーはAZRN)。創業者はアティラ・アイテキン(Atilla Aytekin)氏とウムット・アクプナル(Umut Akpinar)氏。設立年は、投資家向けサイトとAudiomob側の発表文では2014年、Azerionの会社紹介ページでは2013年と、公式の中でも表記が分かれている。発表文のフッターでは自社を「one of Europe's largest digital advertising and entertainment media platforms(欧州最大級のデジタル広告・エンターテインメントのメディアプラットフォーム)」と紹介している。

投資家向けサイトで公表されている規模は次のとおり。

項目

数値

2025年売上高

5億4,100万ユーロ

広告主

40万超

パブリッシャー

30万超

月間インプレッション

130億超

従業員

912人(時点の記載なし)

拠点

統計欄では17か国。同じサイトの別の箇所では16か国以上・26都市とあり、記載が一致しない

広告主向けのページでは7種類のフォーマットのうちの1つとして「Audio」が挙がっている(Azerion広告主向けページ)。ただし、このページにAudiomobやMomentsの記載はない。音声事業の個別ページは確認時点で表示されず、Azerionの音声事業のリスナー数や提携パブリッシャー数は公表値が見つからなかった。会社全体の沿革はAzerionの企業解説で扱っている。

Audiomobとはどんな会社か

Audiomob共同創業者のクリスチャン・フェイシー氏とウィルフリッド・オベン氏。ロンドンのテムズ川沿いで撮影
出典: Audiomob(

Audiomobはモバイルゲームの中に音声広告を流す英国ロンドンの会社である。会社の基本情報は次のとおり。

項目

内容

正式社名

AUDIOMOB LTD(英国登記、会社番号11944173)

設立

公式の会社紹介では2020年。法人登記は2019年4月12日で、当初の社名はJUKEBOX TECHNOLOGY LTD。2019年7月に現社名へ変更

本社

英国ロンドン。アブダビとニューヨークにも拠点がある

創業者

クリスチャン・フェイシー(Christian Facey)氏、ウィルフリッド・オベン氏。公式サイトでは2人ともGoogle・Facebook出身と紹介されている。2021年の報道ではフェイシー氏がCEO、オベン氏がCTO

従業員数

非公開

受賞

Bloomberg Top 25(2024年)、Startups 100 Top 20(2025年)、Startup.comのInnovative Startups(2025年)

認証

IAB UK Gold Standard(2026年9月取得)、TAG

公式サイトは理念として「there is a better way to advertise in games(ゲームにはもっと良い広告のやり方がある)」を掲げている。

規模の数値は公式の中で2通りある。今回の発表でオベン氏が示したのは「ゲーム・非ゲームのコンテンツで月間5億ユーザー超、月間の広告リクエスト150億超」。一方、会社紹介ページ(Audiomob About)には「MAU 3億、月間ビッドリクエスト150億超、アプリ1,200本、160か国」とある。集計の範囲が違うと考えられるが、公式の説明はない。

広告がゲーム内に流れる仕組み

ゲームの開発者がUnityのプラグイン、またはiOS・AndroidのネイティブSDKを組み込むと、ゲーム内で音声広告を流せるようになる。AdMobやAppLovin MAXのメディエーション向けのアダプターも用意されている。

公式の広告フォーマットのページ(Audiomob Ad Formats)によれば、リワードとスタンダードの2形式は、端末がミュートのときには再生されない。音量が小さいときは、音量を上げるよう促す表示が出る。

3つのフォーマット

Audiomobの広告フォーマットは3種類ある。

Audiomobのリワード音声広告のイメージ。音声広告を聴いたモバイルゲームのプレイヤーがゲーム内の報酬を受け取る
出典: Audiomob(
Audiomobのスタンダード音声広告がゲームのプレイ中に表示されているイメージ
出典: Audiomob(

フォーマット

内容

公式に書かれている数値・条件

リワード(Rewarded)

音声広告を聴く代わりにゲーム内通貨やパワーアップがもらえる。残り時間が画面に出る

「Increase engagement by over 52%」(何と比べた数値かは書かれていない)

スタンダード(Standard)

動きの速いゲーム向け。ミュートできるまでのカウントダウンが出る

5秒でミュートできる

モーメンツ(Moments)

開発者が広告枠ごとに勝利・敗北・報酬・ブーストなどの「瞬間」をタグ付けし、その瞬間に広告を流す

ポジティブ・ネガティブ・ニュートラルの3つの感情の場面で使える

Audiomob「モーメンツ」の利用イメージ。スキン解除、レベル到達、パワーアップの瞬間に、Sony Music、Hyundai、Babbelのロゴがゲーム画面に表示される3台のスマートフォン
出典: Audiomob(

Momentsのページでは狙いを「Reach players at emotional highs and lows like wins or losses with perfectly timed ads(勝ち負けのような感情の上がり下がりの瞬間に、タイミングを合わせた広告でプレイヤーに届く)」と説明している。上の画像にはSony Music、Hyundai、Babbelのロゴが入っているが、実際の配信事例かどうかの説明はない。

Momentsについては再生秒数、ミュート時の扱い、Moments単独の効果指標がフォーマットのページに書かれていない(説明文はスタンダードと同じ文言の繰り返しになっている)。18言語のAI生成とDCOもこのページにはなく、提携の発表にだけ出てくる。

リワード型の音声広告と動画のリワード広告の違いは、リワード広告の解説と見比べると分かりやすい。

主要パートナー

区分

企業

計測・検証

IAS、DoubleVerify、HUMAN、MOAT、DCM

MMP(アプリ計測)

Adjust、Singular、Tenjin

導入パブリッシャー(公式事例)

Lockwood Publishing(Avakin Life)、TapNation、Magic Lab、INDIEZ、Kepithor Studios、Chick Mania、Mad Hook、9th Impact

広告主(フォーマットのページに掲載のロゴ)

Disney、Dr Pepper、Empire、KFC、P&G、STC、Mastercard、Warner Music Group

販売

Azerion(2026年7月から)

DSPやSSPとの接続については公式サイトに記載がない。今回の提携でMomentsの計測を誰が担うかも、発表には書かれていない。

Audiomobの特許や、ここで扱わない事例はAudiomobの企業解説にまとめている。

ここまでの歩み

Audiomobの資金調達

時期

内容

金額

投資家

そのとき会社がしようとしていたこと

2019年4月

法人登記(JUKEBOX TECHNOLOGY LTD)

—

—

会社の立ち上げ。同年7月に現社名へ変更

2021年

Google for Startups Black Founders Fund(欧州)

未確認

Google

報道ベースの情報で、使い道は確認できていない

2021年11月

シリーズA

1,400万ドル

リード: Makers Fund、Lightspeed Venture Partners/参加: Sequoia Scout Program、Google

音声技術の開発、各国での特許出願、ロンドンとアブダビの拠点拡大

2022年2月以前

Black Angel Group(Alphabet社内のエンジェルグループ)からの出資

非公開

Black Angel Group

報道ベースの情報で、目的は確認できていない

時期不明

Samsung、Plug and Play、Supernode Globalが投資家として公式サイトに掲載

未確認

同左

会社紹介ページにロゴがあるだけで、出資の時期や形は書かれていない

シリーズAの情報はTechCrunchの2021年11月9日の報道によるもので、Audiomobのニュースルームでは確認できない。同じ報道では、累計調達額が1,600万ドル、企業価値が約1億1,000万ドルとされている。公式に累計調達額を示した資料は見つからず、シードラウンドの時期・金額とシリーズA以降の調達も確認できていない。投資家に日本企業は確認できなかった。

報道によればシリーズAにはMakers FundとLightspeedに加えてGoogleも参加しており、公式サイトにはSamsungなどの事業会社も投資家として並んでいる(掲載の時期と出資の形は不明)。「ゲームの中で音声広告を流す」という方式に、VCに加えて大手テック企業も投資家として名を連ねている。

その後の歩みは次のとおり。

  • 2024年: Bloomberg Top 25に選出
  • 2025年: Startups 100 Top 20に選出
  • 2025年9月30日: 国内窓口の株式会社オトナルが自社ブログのAudiomob紹介記事を更新
  • 2026年7月9日: Azerionとの提携(今回)
  • 2026年9月4日: IAB UK Gold Standardの認証を取得

撤退・終了したプロダクトは見つからなかった。

Azerionのこれまでの取り組み

Azerionはもともとゲームを自社で持つ会社だった。今回の提携はその事業を手放した後の動きにあたる。

  • 2016〜2021年: Voidu、Sulake(Habbo)、Spil Gamesなどのゲーム会社を買収
  • 2022年2月: SPAC(EFIC1)との合併でEuronext Amsterdamに上場
  • 2023年8月: Youda Games PortfolioをPlaytikaに売却。公式には金額非開示で、報道では8,100万ユーロ超、アーンアウト込みで最大1億5,000万ユーロとされる
  • 2025年: Whow Games(DoubleDown Interactiveへ)などPremium Games事業を売却し、自社ゲーム事業からほぼ撤退
  • 2026年6月25日: Westfield Riseとショッピングモール内のオーディオ広告で独占提携
  • 2026年7月: Wellaのヘアケアブランド「Nioxin」でAIパーソナライズ音声広告を実施(後述)
  • 2026年7月9日: Audiomob Momentsの提供を発表(今回)
  • 2026年7月16日: Bauer Media Franceが広告販売事業をAzerionへ移管
  • 2026年8月21日: VenatusがAzerionを技術パートナーに選定(詳しい解説)
  • 2026年9月23日: パブリッシャー向け事業をImprove Digitalに統合
  • 2026年11月6日: 12月18日開催の臨時株主総会(経営陣・監査役会メンバーの選任)の招集を通知

2023年と2025年の売却で、Azerionは自社ゲームの在庫をほぼ手放した。2016年以降は自社でゲームを買い集めていたのに対し、Momentsは他社のゲームの在庫から生まれる外部ベンダーのフォーマットを販売メニューに加える動きで、向きが逆になっている。2026年の夏に外部の在庫やフォーマットを続けて取り込んでいることから、Azerionは「ゲームを持つ会社」から「在庫とフォーマットをつなぐ広告インフラの会社」へ移ったと考えられる。

音声に限ると、6月のモール内オーディオ、7月のNioxin、同月のMomentsと、2026年の夏に音声関連の動きが3件続いた。ただしAzerionの広告メニュー上で、Momentsが「Audio」フォーマットの一部なのか、別の商品なのかは公式ページからは読み取れない。

広告出稿事例

以下はAudiomobの公式事例ページに載っている数値である。どの事例にも実施時期は書かれていない。LTR(リッスンスルーレート)は、音声広告が最後まで聴かれた割合を指す。

英国歳入関税庁(HMRC)

英国の税務当局HMRCが副業で収入を得ている若年層に納税義務を知らせるために実施した。フォーマットはリワード、スタンダード、モーメンツの3つで、事例ページの概要とIntegration formatの欄の両方にMomentsが明記されている。目的はエンゲージメント、想起、行動意向の3つ。

  • LTR: 95.2%
  • CTR: 0.59%

事例ページは成果を「ensured messages were heard in moments of high attention(注意が高まっている瞬間にメッセージが確実に聴かれた)」と説明している(HMRC事例)。

英国歳入関税庁(HMRC)によるAudiomob音声広告事例のビジュアル
出典: Audiomob(

コカ・コーラ(エジプト)

代理店はMediaCom(DMSの名前も記載されている)。

  • インプレッション: 200万超
  • LTR: 74%
  • CTR: 2.03%

MediaComのアカウントリード、Heba Yasser Mohamed氏は「innovative way to reach our audience through non-intrusive in-game audio ads(邪魔にならないゲーム内音声広告でオーディエンスに届く、新しいやり方)」とコメントしている。

使ったフォーマットの記載はページ内で食い違っている。Integration formatの欄は「Rewarded & Moments」、本文は「Rewarded and Standard」となっており、Momentsを使ったかどうかはこのページだけでは決められない(コカ・コーラ事例)。

コカ・コーラのエジプトでのAudiomob音声広告事例のビジュアル
出典: Audiomob(

そのほかの公開事例

Momentsを使っていない事例も、比べる材料として載せる。次の2件はAudiomobの公式事例として公開されていた数値で、この記事の執筆時点では再確認していない。

ブランド・地域

フォーマット

代理店

公表されている指標

ヒョンデ(トルコ)

リワード、スタンダード

Moon Digital

10.8万インプレッション、LTR 75%、CTR 6.3%、リード8,000件超

カリーズ×Xbox(英国)

リワード、スタンダード

—

LTR 78%、CTR 2.19%

事例一覧のページにはブランド名を伏せた業種別の数値もある(いずれもリワードとスタンダード)。

業種・地域

LTR

CTR

自動車(米国)

86.27%

1.76%

消費財(米国)

83.08%

1.13%

エンタメ(ブラジル)

81.55%

1.59%

ファストフード(米国)

86.42%

4.76%

医薬(米国・カナダほか)

86%

2.26%

玩具(ドイツ)

83.34%

4.67%

Momentsを使ったHMRCのLTR(95.2%)は、上の業種別の値より高い。ただし目的も地域も違う1件どうしの比較なので、Momentsの効果と言い切れる材料にはならない。

Azerion側の音声広告の事例としては、Wellaの「Nioxin」がある。Azerionと代理店Digitasが、AIでパーソナライズした音声広告を配信した。報道(ExchangeWire、2026年7月29日)によると、リスナーの70%が「行動した、または行動する意向がある」と答え、ブランド想起は21ポイント上がった。これはMomentsではなく、Azerionが自前で扱った音声広告の事例である。

なぜこの動きが起きたのか

ヘッドホンを着けてソファでスマートフォンのゲームを遊ぶ男性

Audiomobの側から見ると、Momentsは、開発者が付けたイベントのタグを使って、広告主が「勝った瞬間」「報酬をもらった瞬間」を選んで買えるようにしたフォーマットである。リワードやスタンダードとは「いつ流すか」で違いを出せる一方、売れるかどうかは広告主の数に左右される。40万超の広告主を抱えるAzerionの販売網に載せたことで、売り先を広げたと考えられる。2か月後にはIAB UK Gold Standardの認証も取り、規模と信頼性の両方をそろえた形になった。

Azerionの側から見ると、自社ゲームを売却したあとは、他社のゲームやメディアから在庫やフォーマットを集めて広告主に売ることが事業の中心になる。テムール氏のコメントにある「ユーザーを邪魔するのではなく、その瞬間に寄り添うフォーマット」という言い方からは、プレイを中断させない広告を前面に出したい意図が読み取れる。

業界全体で見ると、ゲーム内広告の競争は「何回表示するか」から「プレイのどの瞬間に出すか」へ移り始めていると考えられる。今回の提携は、その考え方が専業ベンダーの商品から、欧州大手の販売メニューに載った例にあたる。ゲーム内広告の分類の中で音声広告やサイネージ広告がどこに入るかは、ゲーム内広告とはで整理している。

日本市場ではどうか

東京の繁華街の交差点を行き交う人々

現時点では、日本の広告主がMomentsを使える状態にはないとみるのが妥当である。理由は2つある。

1つ目はAzerionの発表の対象地域に日本が入っていないこと。Azerionの日本法人や日本拠点も確認できなかった。

2つ目はAudiomobの国内窓口である株式会社オトナルの案内に、Momentsが載っていないこと(オトナルのAudiomob紹介ページ)。紹介されているのはスタンダード広告とリワード広告の2種類だけで、料金・CPM・フィルレートは「お問い合わせ」、国内の配信量の記載もない。掲載ロゴはVoodoo、カヤック、東京通信グループで、どういう形で導入しているかは書かれていない。このページは「月間3億人以上のプレイヤー、500以上のゲーム、690以上のアプリ」としており、Audiomob公式の「アプリ1,200本」と数字が合わない。ページに更新日の記載がないため、どちらが新しいかは分からない。

仮に国内でMomentsが提供されても、次の点が壁になる。

  • AI生成とDCOの18言語に日本語が入っているか分からない。入っていなければ、日本語の音声素材を自社で用意する必要がある
  • リワードとスタンダードは端末がミュートだと再生されない。国内のスマホゲームがどのくらい消音で遊ばれているかを示すデータは見つからなかった
  • Momentsは、開発者がゲーム内のイベントにタグを付けることが前提で、国内タイトルでの実装状況は分からない

国内で、勝利や報酬獲得といったゲーム内のイベントに連動して音声広告を出し分けるメニューは、今回の調査の範囲では確認できなかった。

市場の大きさを示す数字としては、電通「2025年 日本の広告費」がある。総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)、インターネット広告費は4兆459億円(前年比110.8%、構成比50.2%)、ラジオ広告費は1,153億円(前年比99.2%)だった(電通)。同じページには、ポッドキャストなどのデジタル音声やゲーム内広告の内訳は載っていない。国内のモバイルゲーム広告市場は2025年に約4,400億円(31.2億ドル)の見込みとされる(二次情報で、円とドルの併記は出典のまま。換算レートは示されていない。詳しくはゲーム内広告の市場規模)。

日本で同じ広告を実施する選択肢

Momentsが目指しているのは、プレイを止めずに、ゲームの流れの中で広告に触れてもらうことである。国内で同じ狙いの広告を今すぐ出す場合、選択肢は大きく2つに分かれる。

1つはオトナル経由でAudiomobのリワード・スタンダード音声広告を使う方法。Momentsのようなイベント連動はできないが、ゲーム内の音声広告という点は同じで、Audiomobの海外事例の数値を参考にしやすい。

もう1つはゲーム空間の看板やモニターに動画を流すサイネージ型のゲーム内広告で、国内の選択肢の一つにAd-Virtuaがある。音声とサイネージ動画の違いは次のとおり。

比較ポイント

Audiomob Moments(海外)

Audiomob(国内、オトナル経由)

Ad-Virtua

届け方

音声。イベントに連動して再生

音声。リワード・スタンダード

ゲーム空間内の看板・モニターに動画を表示

国内で今使えるか

確認できない

使える(料金は問い合わせ)

使える

端末が消音のとき

未確認(リワード・スタンダードは再生されない)

再生されない

映像なので画面に出る

必要な素材

音声(AI生成・DCOあり。日本語対応は未確認)

音声

動画

規模

月間5億ユーザー超(Audiomob全体)

国内の配信量は非公表

国内400タイトル以上、累計再生数8,000万回突破(2025年後半時点)

料金

非公表

問い合わせ

1週間300,000円のプラン

公表されている指標

LTR、CTR

LTR、CTR(海外事例)

広告想起率約1.8倍、注目度約1.7倍、好感度約85%(自社公表値)

規模ではAudiomobが160か国に配信しており、国内に絞ったAd-Virtuaとは桁が違う。また、Ad-VirtuaがMomentsのようなイベント連動の出し分けに対応しているかは、この記事では確認できていない。指標もAudiomobはLTR・CTR、Ad-Virtuaは想起率・注目度で、測っているものが違うため、数字を並べて優劣は決められない。

こうした違いから、Ad-Virtuaが合う企業と合わない企業は次のように分かれる。

こんな企業におすすめ

  • TVCMやSNS用の動画素材がすでにあり、新しく音声素材を作らずにゲーム内広告を試したい企業
  • 料金と配信先を出稿前に決めておきたい企業
  • 国内の若年層に、ゲームの中で認知を広げたい食品・飲料、外食、レジャーなどの企業

おすすめしない企業

  • 勝利や報酬獲得といった特定の瞬間に合わせて広告を出し分けたい企業
  • 耳で聴かせることに意味がある商材(音楽、語学、ラジオ番組など)を扱う企業
  • 海外の複数市場で一度にゲーム内広告を配信したい企業

音声と動画は届け方が違うので、どちらか一方を選ぶのではなく、併用する選択肢もある。

広告主が取るべき判断

今回の発表は欧米向けで、日本の広告主が今すぐ予算を動かす必要がある話ではない。条件によって判断は分かれる。

次のような企業は今動いてよい。

  • 米国・中南米・ドイツ・オランダでマーケティングをしており、現地のゲームユーザーに届けたい企業。Azerionの営業窓口にMomentsの条件を問い合わせられる
  • 国内でゲーム内広告を一度試して、効果の基準値を持っておきたい企業。Momentsが国内に来たときに比べる材料になる

次のような企業は様子見でよい。

  • 国内だけで広告を出しており、ゲーム内のイベント連動を前提にした施策を考えている企業。国内でMomentsが使えるかがはっきりするまで待ってよい
  • 音声素材を作る体制がなく、日本語対応の有無が分からないまま判断できない企業

どちらの場合も、ゲーム内広告を検討するときは「消音でも届くか」「どの瞬間に表示・再生されるか」「何の指標で効果を測るか」の3点を出稿先に確認しておくと、海外の新しいフォーマットが出てきたときにも同じ基準で比べられる。

関連する基礎知識

よくある質問

Q. 負けた場面で広告が流れるのは、ブランドにとって逆効果ではないのか

A. Momentsはポジティブ・ネガティブ・ニュートラルの場面を分けて使える設計で、Azerionの発表では「Loss Moment」を励ましや次への動機づけを届ける場面として紹介している。負けの場面を避けて、勝利や報酬の場面だけを買えるかどうかなど、配信の細かい設定は公表されていないため、出稿前に確認が必要になる。

Q. ユーザーが音楽アプリを聴きながらゲームをしていたら、広告はどうなるのか

A. Audiomobには他のアプリで再生中の音楽(Apple MusicやSpotify)を一時停止して広告を流し、終わったら再開する「audio passback」という機能がある。関連する特許を、日本(第7505048号)を含む各国で取得している。Momentsでもこの機能が働くかは、公式ページには書かれていない。

Q. 紹介されているMomentsの事例は、Azerion経由で出稿したものか

A. HMRCとコカ・コーラの事例ページには、Azerionの名前は出てこない。Azerion経由でMomentsを使った事例は、公表されたものが見つからなかった。提携の成果を示す数字はまだ公表されていないことになる。

Q. Azerionの臨時株主総会は、今回の提携に影響するのか

A. Azerionは2026年11月6日に、12月18日開催の臨時株主総会を招集した。議題は経営陣と監査役会メンバーの選任で、Audiomobとの提携への影響について公式の説明は見つかっていない。選任後の音声事業の方針は総会後の発表を確かめる必要がある。