ASAが公表した4件の裁定
英国の広告自主規制機関ASA(Advertising Standards Authority)は2026年11月4日、King、Scopelyなど4社のモバイルゲーム広告について「実際のゲームプレイと異なる」と判断し、現状の形での再掲載を禁じました。「Not actual gameplay(実際のゲームプレイではありません)」という注意書きを入れた広告も違反とされました。ゲームアプリで集客広告を出す日本企業にとっては表現の線引きを見直す材料になり、ゲームアプリの広告枠にブランド広告を出す企業にとっては、同じ枠に流れる広告の質を知る材料になります。
ASAは2026年11月4日(水曜日)に12件の裁定を公表しました。そのうち4件がモバイルゲーム広告です(出典: ASA 裁定一覧)。残りはオンライン薬局、AIセラピーアプリ、サプリメントなどの広告で、スナック菓子のWalkersは不認容でした。
広告主 | 対象タイトル | 結果 | 違反とされた広告 |
|---|---|---|---|
King.com Ltd | Farm Heroes Saga | 一部認容 | Facebook広告2本のうち1本 |
Scopely Inc | Pixel Flow! | 一部認容 | Facebook広告2本のうち1本 |
Omnilojo Pte Ltd | Dark War Survival | 認容 | 広告3本すべて。受賞を思わせるバッジ表示も違反 |
Vistrex Ltd t/a Royal Ark | Idle Zombie Miner: Gold Tycoon | 認容 | Facebook動画広告とGoogle Playのストア掲載ページの両方 |
出典: ASA各裁定ページ(King / Scopely / Omnilojo / Vistrex)
4件に共通する事実は次のとおりです。
- 対象広告をASAが確認した日はいずれも2026年4月28日
- 苦情件数はいずれも1件
- 適用された規程は、英国の広告コードであるCAP Code(第12版)の第3章「誤認表示」
- 違反とされた広告は現状のままでは再掲載できない。今後、実際のゲームプレイを示している・代表していると誤認させないよう指示された
KingとScopelyの裁定ページには、ASAが情報収集を経て、誤認を招くゲームプレイ表現を広く調べている(wider review)一環として取り上げた案件だと書かれています。苦情を受けて個別に審査しただけでなく、ASA側が分野を決めて調べた結果を同じ日にまとめて公表した形です。調査の開始時期や対象件数は確認できていません。
報道では、ASAの調査担当者 Freddie Alcock 氏の発言も伝えられています。mobilegamer.biz(2026年11月4日掲載)によると、同氏は「モバイルゲームの広告は、利用者が期待できるゲームプレイについて正確な印象を与えなければならない。実際のゲームを代表していない場面や機能で誤解させてはならない」と述べました。この発言はASAの裁定ページには載っておらず、2026年11月8日時点でASA公式ニュースにも同件のリリースは見当たりません。
適用されたCAP Codeの条項

各裁定で使われた条項は案件ごとに異なります。条項の名称は裁定ページの表記に基づく要約です。
条項 | 内容 | 適用された案件 |
|---|---|---|
3.1 誤認表示 | 消費者を重大に誤認させてはならない、または誤認させるおそれがあってはならない | 4件すべて |
3.7 立証 | 客観的に立証できる主張について、根拠となる資料を保有していなければならない | 4件すべて |
3.9 限定表示 | 注意書きなどの限定表示は、主張と矛盾してはならず、明確でなければならない | King |
3.11 誇張 | 誇張によって誤認させてはならない | King、Omnilojo |
注意書きに関する3.9が適用されたのはKingだけです。この点が今回の裁定でいちばん実務に響く部分だと考えられます。
英国の広告自主規制機関ASAとCAPの仕組み

今回の当事者は、裁定を出したASAと、広告を出した4社です。日本の読者にはASAの位置づけが分かりにくいため、先に規制側の仕組みを整理します。
ASAの位置づけと運営資金
ASAは自らを「the UK's independent advertising regulator(英国の独立した広告規制機関)」と説明しています。運営費は広告業界が負担する自主規制の仕組みで、公式サイトには「our regulation comes at no cost to the taxpayer(税金は使っていない)」とあります(出典: ASA「About the ASA and CAP」、確認日 2026年11月8日)。
設立年は公式ページで確認できませんでした。公式には、非放送広告のコードを60年以上、放送広告のコードを約20年運用してきたと書かれています。
CAPとの役割分担
組織 | 役割 |
|---|---|
ASA | 苦情や自らの調査をもとに広告を審査し、裁定を出す |
CAP(Committee of Advertising Practice) | ASAの姉妹組織。広告コード(CAP Code ほか)を策定し、適法な広告づくりの助言やガイダンスを出す |
ルールを作る組織と、ルールに照らして判断する組織が分かれている形です。
裁定の効力と法的な後ろ盾
ASAに違反と判断された広告は、撤回または修正が必要になります。ASAは自主規制機関ですが、従わない広告主に対しては法的な後ろ盾があり、非放送広告ではTrading Standards(2013年にOffice of Fair Tradingから役割を引き継いだ)、放送広告ではOfcomがその役割を担っています。
裁定は毎週水曜日に公表されます。今回の2026年11月4日も水曜日でした。
審査の規模
ASAの公式発表では、2022年に31,227件の広告を変更・撤回させ、21,955件の広告に寄せられた33,350件の苦情を処理しました。
広告主4社のプロフィール
KingとScopelyは大手企業グループに属しているため、ここでは会社紹介より、今回の対象タイトルとの関係を中心に整理します。
広告主 | 拠点・資本 | 確認できた事実 | 今回の対象タイトル |
|---|---|---|---|
King(King.com Ltd) | 今回の調査では資本関係の一次情報を確認できず | 公式は「a leading interactive entertainment company for the mobile world」と説明。主なタイトルはCandy Crush Sagaシリーズ、Farm Heroes Saga、Pet Rescue Saga、Bubble Witch Sagaなど | Farm Heroes Saga(iOS / Android / Amazon / Windows / Facebookに対応するマッチ3パズル) |
Scopely(Scopely Inc) | 2011年設立。2023年7月12日にSavvy Games Groupが49億ドルで買収を完了 | 代表作はMONOPOLY GO!、Star Trek Fleet Command、Stumble Guys、Yahtzee With Buddies。買収時点の共同CEOはWalter Driver氏とJavier Ferreira氏 | Pixel Flow! |
Omnilojo Pte Ltd | シンガポール | 報道(mobilegamer.biz)では、Last Z: Survival Shooterの販売元とも紹介されている。設立年・規模は未確認 | Dark War Survival |
Vistrex Ltd t/a Royal Ark | キプロス・リマソール | 設立年・規模は未確認 | Idle Zombie Miner: Gold Tycoon |
出典: King 公式サイト、Farm Heroes Saga 公式ページ、Scopely About、Savvy Games Group 発表、ASA各裁定ページ
Scopelyを買収したSavvy Games Groupは、サウジアラビアの公共投資基金(PIF)の100%子会社です。4社のうち資本の動きを公式に確認できたのはScopelyだけです。Omnilojo、Vistrexの設立年や規模は、今回の調査では確認できませんでした。
Scopelyについては補足があります。裁定ページでScopely側は、Pixel Flow! を開発・販売しているのはLoom Gamesだと説明しています。Loom Gamesの公式サイトにはイスタンブールのモバイルゲームスタジオとありますが、Pixel FlowやScopelyとの関係は書かれていません。両社がどのような契約・資本関係にあるかは確認できていません。
Omnilojoについても、報道でLast Zの販売元と紹介されているものの、今回の裁定の対象はDark War Survivalの広告だけです。
ASAとモバイルゲーム広告のこれまで
ASAは今回の4件より前にも、モバイルゲーム広告について裁定を出してきました。ASAの公式サイトで確認できた範囲で、モバイルゲーム広告に関する裁定を時系列に並べます。
裁定日 | 広告主 / タイトル | 論点 | 結果 |
|---|---|---|---|
2022年4月13日 | AppQuantum Publishing / Gold and Goblins | ゲームプレイの誤認。ゴブリンが乗り物で広い空間を走って資源を集める映像だったが、実際はつるはしで岩を掘る固定画面。「シネマティックな表現」という反論は退けられた | 認容 |
2024年1月17日 | FunPlus / Stormshot | ゲームアプリ(Hill Climb Racing 2)内に配信された広告が性暴力を矮小化 | 認容 |
2024年1月24日 | Gamehaus / Whispers | PEGI 3のゲーム(Virtual Families 3)内に配信された広告が、近親関係や子どもの性的描写を示唆 | 認容 |
2024年4月3日 | Top Games / Evony: The King's Return | ゲームプレイの誤認。パズル要素だけを見せたが、中核は都市建設とPvP/PvE。「本物のゲーム映像」という主張は、中核体験を反映していないとして退けられた | 認容 |
2025年5月21日 | GreenPixel / Hotel Merge Empire | パズルアプリ内に配信された広告がDVを矮小化 | 認容 |
2025年6月25日 | HOMA Games / Tape Thrower | 4+のパズルアプリ内で、女性を性的に扱う広告を配信。配信先の選び方も問題に | 認容 |
2025年11月19日 | Hutch Games / F1 Clash | ルートボックス(ガチャ)の開示不足など課金表示の論点 | 一部認容 |
2026年11月4日 | King、Scopely、Omnilojo、Vistrex | ゲームプレイの誤認。ASAが進める調査の一環として4件を同日公表 | 認容・一部認容 |
出典: ASA各裁定ページ(Gold and Goblins / Stormshot / Whispers / Evony / Hotel Merge Empire / Tape Thrower)
表のとおり、ASAが扱ってきた論点は大きく3つに分かれます。
- ゲームプレイの誤認(Gold and Goblins、Evony、今回の4件)
- ゲームアプリ内に配信された広告の表現の不適切さ(Stormshot、Whispers、Hotel Merge Empire、Tape Thrower)
- 課金に関する表示(F1 Clash)
過去の裁定と今回の違い
ゲームプレイの誤認については、2022年と2024年に先例があります。2024年のEvonyの裁定は「本物の映像でも、中核でない一部だけを切り出せば誤認になる」という考え方を示しており、今回のVistrexの裁定も同じ考え方に立っています。Gold and Goblinsの広告は、乗り物で資源を集めて広いマップを走るという点で、今回のVistrexの広告と構図がほぼ同じです。
今回の裁定で目立つ点は2つあります。
- ASAが分野を決めて調べ、4社分を同じ日に公表した
- 「Not actual gameplay」という注意書きが、誤解を解くどころか印象と矛盾すると判断された
なお、ASAは2026年10月30日に戦略の更新(Updated ASA strategy responds to a changing advertising landscape)を公表していますが、その内容と今回の調査との関係は確認できていません。ASAの裁定一覧を「mobile game」で検索すると19件が表示されますが、これは検索結果の件数で、網羅的な集計ではありません。
違反とされた広告と問題なしとされた広告
今回の裁定は、出稿事例として読むこともできます。KingとScopelyは2本ずつ審査され、それぞれ1本が違反、1本が問題なしと判断されました。同じ会社の広告で結論が分かれたため、線引きが読み取りやすくなっています。違反とされた広告そのものの画像はASAの裁定ページには掲載されていないため、以下は裁定文の記述に基づいて説明します。
広告主 | 違反とされた広告 | 問題なしとされた広告 | 分かれ目 |
|---|---|---|---|
King | 手のカーソルでマッチ3を操作 → 釘・ノコギリ・牛 → 「FAIL」。注意書きあり | 朝日と収穫のアニメーション → 実際のマッチ3 | 手のカーソル、操作UI、操作に連動する結果があるとゲームプレイに見える |
Scopely | 手のアイコンでパイプを回すパズル → 本編 | 豚がキューブを吐く演出 → 本編 | パズルがサムネイルと冒頭で目立ち、手のアイコンもある |
Omnilojo | 3本すべて | なし | 操作できないストーリー映像をゲームプレイに見せ、映像品質も誇張。受賞風のバッジ |
Vistrex | 動画広告とGoogle Playのストア掲載ページ | なし | 実在するが、60秒・一部の鉱山だけのボーナス面を主要なプレイに見せた |
King「Farm Heroes Saga」

Farm Heroes Sagaは、野菜や果物のキャラクター「Cropsies」を3つそろえて消すマッチ3パズルです。
違反とされた広告(a)では、マス目に並んだアイコンを手の形のカーソルで操作し、3つそろえて消すと釘が落ち、ノコギリが牛に迫り、最後に「FAIL」と表示されます。画面には「Not in-game footage」と「Not actual gameplay」が交互に表示されていました。
Kingは、マッチ3は本作の中核のゲームプレイで、釘・ハッチ(落とし戸)・牛・ノコギリはテンポを伝えるための架空の演出であり、注意書きで創作的な表現だと示していると説明しました。
ASAの判断は次のとおりです。手のカーソル、マス目の操作、それに連動する結果があるため、この映像はゲームプレイに見える。釘や牛はゲームに存在せず、しかも場面の目的と危機感そのものを担っているので、消費者を誤認させる。注意書きは誤解を正すのではなく、その印象と矛盾している。mobilegamer.bizは、この部分の裁定文を「contradict, rather than clarify」と引用しています。
一方、広告(b)は朝日と野菜・果物の収穫を描いたアニメーションで始まり、その後に釘や牛の出てこないマッチ3のプレイが映ります。ASAは冒頭をテーマ演出と受け取られるものとし、続くマッチ3は実際のゲームを正しく反映していると判断しました。
参考として、King公式サイトに掲載されているFarm Heroes Sagaのゲーム画面を示します。下の2枚は違反とされた広告ではなく、実際のゲーム画面です。


違反条項は3.1、3.7、3.9、3.11です(出典: ASA裁定 King.com Ltd)。
Scopely「Pixel Flow!」

違反とされた広告(a)は、手のアイコンがパイプを回して道をつなぐパズルを解く場面で始まり、豚がパイプを流れたあと、ピクセルアートのベルトコンベアパズルに切り替わります。広告(b)は、棚に並んだ漫画調の豚が色付きキューブを吐き出す場面から、同じピクセルアートのパズルに切り替わります。
Scopelyは、本作のゲームの仕組みは1つだけで、豚を正しい順番とタイミングでベルトコンベアに送り出し、ピクセルアートを消していくものだと説明しました。冒頭はキャラクター紹介の演出で、どちらの広告でも尺の3分の1以下であり、ゲーム画面のスクリーンショットも提出しています。
ASAは(a)について、パイプのパズルがサムネイルで目立ち、冒頭に置かれ、手のアイコンもあるため、宣伝されているゲームプレイの一部と受け取られやすいと判断しました。実際のゲームはピクセルアートの繰り返しだけなので、プレイ体験が広告と大きく異なるという結論です。(b)の冒頭はテーマ演出・シネマティックな素材と受け取られ、続く映像は実際のゲームプレイを代表しているとして問題なしとされました。
違反条項は3.1、3.7です(出典: ASA裁定 Scopely Inc)。
Omnilojo「Dark War Survival」

対象は3本の広告で、いずれも認容されました。
- 広告(a): 非常にリアルなストーリー場面で、プレイヤーのシェルターが「レベル4しかない」と批判される。その後、実在の人物が、穏やかな音楽とアニメ調のサバイバル拠点の映像に合わせて「リラックスできるゲーム」と語る
- 広告(b): サバイバル拠点に改造した列車の車内に人々がいて、外にはゾンビ、武装した列車が走るアニメ調の場面
- 広告(c): 三人称視点で、キャラクターが店を物色し、ゾンビを撃ち、車で拠点に戻って夕食を作る。ナレーションは「pure strategy fun」。画面に「2026 Game Creative」「2026 Survival Game」の文字と月桂冠風のグラフィック
ASAは、3本とも操作できないストーリー映像を実際のゲームプレイを代表するものとして見せ、プレイの幅や性質、プレイヤーが期待できる映像品質を誇張したと判断しました。Omnilojoは、映像はゲーム内に実在するストーリーやキャラクターの演出だと説明しつつ、中核のゲームプレイとの区別や文脈の補足はもっとできたと認めています。
もう1つの論点は(c)の受賞風の表示です。月桂冠風のグラフィックと組み合わせた表示は、正式な受賞と受け取られやすいとされました。Omnilojoは、Google Play / App Storeでのフィーチャーやおすすめを指すつもりで、正式な賞ではないと説明しています。受賞の立証はありませんでした。
違反条項は、ゲームプレイの誤認が3.1、3.7、3.11、受賞の示唆が3.1、3.7です(出典: ASA裁定 Omnilojo Pte Ltd)。
Vistrex「Idle Zombie Miner: Gold Tycoon」

Facebookの動画広告では、「Dig Mines Merge Zombies Gather Gold」というキャプションとともに、漫画調のゾンビがブルドーザーを運転して資源を集めて売り、エリアを解放して広いマップが現れる様子が描かれました。Google Playのストア掲載ページでも、ブルドーザーのプレイ、コイン収集、HUDを見せる画像が並んでいました。
Vistrexは、本作は放置型の合成と採掘のタイクーンゲームで、鉱山をクリアすると自動で始まるスキップできないボーナス面「Goliath the Destroyer」で掘削機を運転すると説明し、その録画を提出しました。
ASAは、本作の中心はゾンビが岩を砕く放置型のゲームだと判断しました。ボーナス面は広告と似た部分があるものの、掘削機の強化や広いオープンワールドのマップはなく、移動や速度も大きく違います。さらに、ボーナス面は60秒で、194ある鉱山のうち4鉱山(裁定の記載では4〜7番目)のあとにしか出ないため、中核の体験ではないとされました。ストアの掲載ページも広告と同じく審査の対象になった点は、ほかの3件にない特徴です。
違反条項は3.1、3.7です(出典: ASA裁定 Vistrex Ltd)。
裁定から読み取れる線引き
4件の結論から、次の線引きが読み取れます。ASAが一般的な基準として示したものではなく、個別の裁定から整理したものです。
表現 | 裁定での扱い |
|---|---|
手のカーソルなど「操作している」ことを示す表示を入れる | その部分はゲームプレイとして評価される(King、Scopely) |
「Not actual gameplay」などの注意書きを添える | 映像の印象と矛盾すると免責にならない(King) |
操作できないカットシーンを中心に見せる | ゲーム内に実在しても誤認になる(Omnilojo) |
ごく一部のボーナス面を主要なプレイのように見せる | 実在しても誤認になる(Vistrex) |
ストアの掲載ページの画像 | 広告と同じく審査の対象になる(Vistrex) |
「2026 ◯◯」と月桂冠のような受賞風デザイン | 正式な受賞がなければ誤認になる(Omnilojo) |
テーマ演出と分かる導入アニメのあとに実際のプレイを見せる | 問題なしとされた(King、Scopely) |
規制の対象になった背景
実際とは違うゲームプレイを見せるユーザー獲得広告(UA広告)は、ハイパーカジュアル、放置系、4X系のゲームで多いと長く指摘されてきました。ただし、業界全体でどの程度の割合を占めるかを示す一次データは確認できていません。
ASAの裁定の履歴を見ると、ゲームプレイの誤認と、ゲームアプリ内に流れる広告の表現の不適切さが、2022年以降くり返し取り上げられています。ゲームアプリの広告枠には他のゲームのUA広告が多く流れ、その表現がくり返し規制の対象になってきました。
「Not actual gameplay」の注意書きは、業界で広く使われてきた手法です。今回のKingの裁定は、注意書きを入れても映像がゲームプレイに見えれば違反になりうることを示しました。注意書きを入れれば足りるという前提で作られてきた広告は、見直しの対象になると考えられます。
日本のモバイルゲーム広告をめぐる状況
日本では、ASAのように個別のモバイルゲーム広告のゲームプレイ表現に裁定を出した事例は確認できていません。ただし、ゲーム広告への苦情は増えています。
JAROの苦情データ
公益社団法人日本広告審査機構(JARO)が2026年7月23日に公表した「2025年度の苦情受付状況」では、オンラインゲームの広告への苦情が大きく増えました(出典: JARO、確認日 2026年11月8日)。

- 業種別の苦情で、オンラインゲームは718件で3位(前年度468件、前年度比153.4%)。1位は電子書籍・ビデオ・音楽配信の1,171件、2位は医薬部外品の1,076件
- インターネット上の広告に限った業種別件数でも、オンラインゲームは653件で3位
- オンラインゲームへの苦情のうち、広告表現への苦情が554件で77.2%を占める。性的な表現のほか、「人が殺される場面がグロテスクで気持ち悪い、怖い」といった内容
- 性的な広告への苦情1,937件のうち、オンラインゲームが382件
- 掲載方法への苦情の例として「ゲームの至るところでの動画表示は目障り」が挙げられている

苦情の総数は過去最多の12,589件で、媒体別ではインターネットが初めて6割を超えました。

媒体別の上位10の表では、インターネットが7,664件で1位です。複数の媒体にまたがる苦情があるため、表の合計は総数と一致しません。
JAROの集計の中心は「表現の不快さ」と「掲載方法」で、「実際のゲームと違う」タイプの苦情件数は公表されていません。英国のようなゲームプレイの誤認が日本でどれだけ問題になっているかは、この数字からは分かりません。
景品表示法との関係
日本で同じ論点に当てはまりうる法律は景品表示法です(出典: 消費者庁「優良誤認とは」、確認日 2026年11月8日)。
項目 | 英国(ASA / CAP Code) | 日本(景品表示法) |
|---|---|---|
性格 | 業界の自主規制。法的な後ろ盾はTrading Standards、Ofcom | 消費者庁による行政規制 |
誤認の禁止 | 3.1 誤認表示 | 第5条第1号 優良誤認表示(実際のものより著しく優良であると示す表示など。故意でなくても対象) |
根拠の提示 | 3.7 立証(根拠資料を保有していなければならない) | 第7条第2項 不実証広告規制(合理的な根拠資料の提出を求められ、出せなければ不当表示とみなされる)。課徴金との関係では、資料が提出されなければ第8条第3項で優良誤認表示と推定される |
ゲームプレイ表現への適用 | 今回の4件を含め裁定あり | 行政が処分した事例やガイドラインは確認できていない |
「実際とは異なるゲームプレイ映像」が優良誤認に当たるかどうかについて、行政の判断は確認できていません。ただ、根拠を示せない表示は不当とするという点で、CAP Codeの3.7と日本の不実証広告規制は同じ考え方に立っています。日本でも当たりうる論点として扱っておくのが無難だと考えられます。
英国で配信している日本企業への影響
ASAの裁定は、英国向けに配信された広告であれば広告主の国籍を問いません。今回もシンガポール、キプロス、米国の企業が対象になりました。英国でUA広告を配信している日本のゲーム会社も、ASAの裁定の対象になりえます。
日本でゲーム関連の広告を実施する選択肢
今回の裁定は規制のニュースなので、「同じ広告を日本で出せるか」という話ではありません。日本の広告主にとっての意味は、ゲームとの関わり方によって2つに分かれます。
- 自社でゲームやアプリを作り、集客広告を出す企業(ゲームコラボ、PRゲーム、アプリを持つ事業会社)
- ゲームアプリやゲーム空間の広告枠に、自社ブランドの広告を出す企業
1の企業には、前章の線引きがそのまま当てはまります。広告で見せる遊びと実際の遊びを一致させる設計の考え方は、プレイアブル広告の設計ガイドで整理しています。
2の企業にとっては、どの面に広告を出すかが論点です。ゲームに関わる広告枠には、表示位置とプレイへの影響が異なる複数の種類があります(全体像はゲーム内広告とはを参照)。
種類 | 表示される場所 | プレイへの影響 | 今回の論点との関係 |
|---|---|---|---|
インタースティシャル | 画面遷移時に全画面表示 | ゲームを中断する | 他のゲームのUA広告が多く流れる枠。JAROの「目障り」苦情やASAの配信先の裁定と同じ環境 |
リワード広告 | 動画を見るとアイテムがもらえる枠 | 利用者が任意で見る | 同上 |
サイネージ広告 | ゲーム空間内の看板・モニター | プレイを中断しない | ゲームの中にブランドの動画を表示する形で、ゲームプレイを宣伝するものではない |
コラボ型広告 | ゲームのキャラクターやアイテムとのコラボ | ゲームの一部になる | ゲーム内容と一体になるため、表現の確認は企画段階で必要 |
リワード広告の仕組みはリワード動画広告とはで詳しく扱っています。
サイネージ型の選択肢としてのAd-Virtua
日本国内でゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を出す場合の選択肢の一つが、Ad-Virtuaです。Ad-Virtuaの公表値では、対応タイトルは400以上(カジュアル、RPG、パズル、アクションなど)、累計再生数は8,000万回を超えています(2025年後半時点)。料金は1週間300,000円のプランがあり、広告想起率は約1.8倍、注目度は約1.7倍、好感度は約85%、CPMは約300円(通常500円比)としています。
ブランドの既存の動画素材をそのまま配信する形なので、今回の裁定で問題になった「ゲームの中身を誇張して見せる」表現とは、目的も作り方も異なります。ただし、今回の裁定はSNS・検索・アプリストアに出たUA広告が対象で、ゲーム内のサイネージ広告がこの規制の外にあるという意味ではありません。広告の表現そのものが誤認や不快感を招かないかは、どの面に出す場合でも広告主が確認する必要があります。
こんな企業におすすめです。
- 食品・飲料、日用品など、若年層への認知や想起を伸ばしたいブランド
- TVCMやSNS広告の動画素材があり、プレイを中断しない接触面に追加で配信したい企業
- ゲームアプリの広告枠に出したいが、全画面で割り込む形式は避けたい企業
おすすめしない企業もあります。
- アプリのインストール数や獲得単価を主な目標にしている企業。サイネージ型は認知・想起を狙う広告で、UA広告とは評価指標が違います
- 自社のゲームのプレイ内容そのものを見せて遊んでもらいたい企業。この場合はプレイアブル広告やUA動画が候補になり、今回の線引きを踏まえた制作が必要です
広告主が取るべき判断
今すぐ見直したほうがよい企業
- 英国でゲームやアプリのUA広告を配信している企業。注意書きを入れた広告、冒頭に手のカーソルやHUDを入れた広告、ボーナス面やカットシーンを中心に見せる広告は、今回の裁定に照らして確認したほうがよいと考えられます
- ストアの掲載ページの画像を、広告と別の基準で作っている企業。Vistrexの裁定では、ストアの画像も審査の対象になりました
- 「◯◯年 No.1」「受賞」風のバッジを、正式な受賞の根拠なしに使っている企業
- PRゲームやゲームコラボの集客広告で、実際の遊びと違う演出を使う予定がある企業。日本では処分事例は確認できていませんが、景品表示法の優良誤認に当たりうる論点です
様子見でよい企業
- 自社の動画素材をゲームアプリやゲーム空間の広告枠に出すだけで、ゲームプレイを宣伝しない企業。今回の裁定の直接の対象ではありません。ただし、同じ枠に流れる他社の広告の表現は、配信先を選ぶときの判断材料になります
- 英国で広告を配信しておらず、ゲームやアプリの集客広告も出していない企業
関連する基礎知識
- ゲーム内広告とは:ゲーム外広告とゲーム内広告の違い、種類の全体像
- リワード動画広告とは:今回のようなUA動画が流れる枠の仕組み
- プレイアブル広告の設計ガイド:広告で見せる遊びと実際の遊びを一致させる設計
- インタラクティブ広告とは:操作して見せる広告の基本
- ゲーム内広告の費用:出稿を検討する段階の料金の考え方
- ブランド体験とは:体験を損なわない広告接触を考える上位の論点
よくある質問
苦情が1件だけでも裁定になるのですか?
今回の4件は、いずれも苦情が1件でした。ただし、KingとScopelyの裁定ページには、ASAが情報収集を経て誤認を招くゲームプレイ表現を広く調べている一環だと書かれています。苦情の件数が少なくても、ASAが自ら調べている分野であれば審査の対象になると読み取れます。
4社は裁定に対して声明を出していますか?
各社が独自に出した声明やプレスリリースは確認できていません。裁定ページに載っているのは、各社がASAに回答した内容の要約です。たとえばOmnilojoは、中核のゲームプレイとストーリー映像の区別を「もっとできた」と認めています。
App Storeにも同じようなルールはありますか?
AppleのApp Store Review Guidelines 2.3は、スクリーンショットやプレビューを含むメタデータが「アプリの中核体験を正確に反映すること」を求めています。2.3.4はプレビューに使えるものをアプリ自体の画面キャプチャに限り、2.3.1(a)は提供していないコンテンツをApp Storeの内外で宣伝するなどの誤認を招くマーケティングを削除理由に挙げています(出典: Apple App Store Review Guidelines、確認日 2026年11月8日)。Google Playの該当ポリシーは今回確認できていません。
2024年9月のソーシャルカジノ系の裁定も同じ論点ですか?
ASAは2024年9月25日に、Zeroo Gravity Games(Cash Tornado)、Huuuge Global(Billionaire Casino)、Mobee(Ignite Classic Slots)の3件の裁定を公表しており、「gameplay」で検索すると該当します。ただし、論点の詳細は確認できていないため、ゲームプレイの誤認と同じ論点かどうかは分かりません。


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