インバウンド向けブランド体験設計——「旅マエ」で指名買いリストに入ることが最重要課題

訪日外国人への認知拡大・指名買い獲得は、来日してから店頭で勝負するのでは遅い。 化粧品・美容用品カテゴリでは訪日客の48.1%が、医薬品カテゴリでは40.0%が「旅行前から購入するブランドをあらかじめ決めて来日している」というデータがある(博報堂「訪日外国人のモノ消費」調査、確認日: 2026-04-30)。

この記事でわかること:

  • 旅マエ・旅ナカ・旅アトのフェーズ別に何をすべきか
  • 主要なインバウンドマーケティング施策の特徴と向き不向き
  • ゲーム内広告が旅マエ接点として機能する理由と活用の考え方
  • 国別のターゲット市場ごとに有効なプラットフォームの整理
  • 2026年11月の免税制度変更が消費行動に与える影響

こんな担当者に向けた記事です: 訪日外国人向けの認知施策を検討しているブランドマーケティング担当者・販促担当者で、SNS・OTA以外の新しい旅マエ接点を探している方。


インバウンド市場の現状——なぜ「旅マエ」が重要なのか

京都の清水寺を訪れる多くのインバウンド観光客」width=

2025年の訪日外客数は42,683,600人(前年比+15.8%増)で過去最高を更新した。旅行消費額も9兆4,559億円(同+16.4%増)と暦年として過去最高で、1人当たりの旅行支出は22.9万円に達している(観光庁「インバウンド消費動向調査2025年暦年(速報)」2026年発表、確認日: 2026-04-30)。

消費額の国別内訳(2025年暦年)は中国が2兆26億円(構成比21.2%)、台湾が1兆2,110億円(12.8%)、米国が1兆1,241億円(11.9%)と続く(同調査)。2026年以降も訪日外客数は年間4,500万人超へ増加が見込まれている(インバウンドマーケティングジャパン「2026年予測」、確認日: 2026-04-30)。

「指名買い」が体験消費と並んで拡大している

訪日外国人の消費行動は「とりあえず現地で探す」から「来日前にSNSで商品をリスト化し、目的地ベースで動く」スタイルへシフトしている。AdverTimes(2026年4月21日)は「訪日客は来日前からSNSで商品をスマホにリスト化している」と指摘しており、店頭での出会いを待つだけのマーケティング戦略は機会損失が大きい。

指名買いが生まれる構造:

  1. 訪日前に動画・SNS・ブログでブランドを認知する
  2. 「日本に行ったら買いたいリスト」に入る
  3. 来日後、リストに基づいて購買行動をとる

このフローから逆算すると、「どの媒体で・いつ・どのように認知を形成するか」という旅マエのブランド体験設計が指名買い獲得のカギになる。


訪日前の情報収集実態——旅マエ接点の全体像

訪日前の情報収集では、動画サイト(35.2%)、SNS(32.5%)、個人のブログ(27.4%)、口コミサイト(12.7%)が主要チャネルとなっている(観光庁「インバウンド消費動向調査」より、確認日: 2026-04-30)。

ただし「SNS・動画で情報収集する」という点は共通しているものの、国・市場によって使用するプラットフォームが大きく異なる点に注意が必要だ。

市場

主要プラットフォーム

特記事項

中国

抖音(ドウイン/TikTok)、小紅書(RED)、WeChat

独自エコシステム。日本のSNS広告は届かない

韓国

YouTube、Facebook(半数以上)、個人ブログ

YouTubeへの配信が最も効率的

米国・カナダ

YouTube(50%以上)、トリップアドバイザー

情報の詳しさと信頼性が重視される

東南アジア

Instagram(旅行計画段階)、TikTok(若年層)

Z世代ゲーマー比率が高い

(出典: アウンコンサルティング「訪日前の情報収集」プレスリリース等、確認日: 2026-04-30)

国別にアプローチの優先順位は変わるが、どの市場でも共通するのは「旅行前に能動的に情報収集をしている層にリーチする」ことの重要性だ。


フェーズ別のインバウンドブランド体験施策

チームでマーケティング戦略のフェーズを議論するビジネスパーソンたち

JNTOは訪日外国人のカスタマージャーニーを「認知喚起→興味・関心→比較・検討→予約・訪日→帰国・再来日」の5段階で整理しており、実際の施策設計ではこれを「旅マエ・旅ナカ・旅アト」の3フェーズに落とし込んで考えるのが実務的だ(JNTO「インバウンドのデジタルマーケティング施策」公式ページ、確認日: 2026-04-30)。

旅マエ(訪日前)——指名買いリストに入る施策

旅マエは「存在を知られ、興味を持たれ、リストに入る」フェーズ。最も投資効果が高い局面でもある。

主な施策:

  • SNS広告(Instagram・YouTube・TikTok・中国向け各プラットフォーム)——国ごとに使うプラットフォームを分けた運用が必要
  • 現地インフルエンサー活用——翻訳の質と現地メディアへの理解が成否を分ける(AdverTimes, 2026年4月21日)
  • 多言語コンテンツマーケティング——7言語対応の自社メディアを持つ企業が指名買いで優位
  • OTA(Viator・GetYourGuide・Klook等)への広告出稿——欧米豪向けに特に有効
  • ゲーム内広告——ターゲット国のゲームアプリに広告を出稿し、ゲームプレイ中に非侵入型でブランド認知を形成する(後述)
  • 海外検索エンジン向けSEO(Baidu・Naverなど)

旅ナカ(訪日中)——来店・購買に転換する施策

旅ナカは「指名買いリストを行動に転換する」フェーズ。旅マエで認知できていれば、旅ナカの施策はコンバージョン加速に絞れる。

主な施策:

  • 位置情報を活用したジオターゲティング広告
  • GoogleマップのMEO対策(多言語対応)
  • デジタルサイネージ(空港・商業施設・観光スポット)
  • 多言語対応のPOP・案内

旅アト(帰国後)——リピート購買とSNS拡散を促す施策

旅アトは「ファンを越境ECへつなぐ」フェーズ。特に中国市場では越境ECとの連携が重要になる。

主な施策:

  • 越境EC連携(TMall・JD.com等)
  • SNS拡散促進(ハッシュタグキャンペーン)
  • フォローアップコンテンツ(帰国後のブランドとの接点維持)

インバウンドマーケティング施策の比較表

各施策の特徴・向き不向きを以下に整理する。

施策種別

主なフェーズ

強み

弱み・注意点

費用感

向いている市場

SNS広告

旅マエ

高リーチ・ターゲティング精度

国ごとにプラットフォームが異なり運用コスト増

中〜高

全市場(プラットフォーム分散が必要)

インフルエンサー

旅マエ

信頼性・拡散力

費用対効果の測定が難しい

中〜高

中国・東南アジア特に有効

ゲーム内広告

旅マエ

非侵入型・Z世代へのリーチ・体験型

直接的な行動喚起には向かない

中(30万円〜/週)

東南アジア・欧米Z世代

OTA広告

旅マエ〜旅ナカ

予約動線と直結

体験消費に強い。日用品には不向き

欧米豪

現地メディア広告

旅マエ

詳細情報提供・信頼性

制作コスト・ローカライズ必要

市場別に異なる

ジオターゲティング

旅ナカ

来店誘引の精度が高い

旅マエ認知なしでは効果が限定的

全市場

デジタルサイネージ

旅ナカ

高視認性・没入感

到達範囲が限定的

中〜高

訪日中の全市場

越境EC連携

旅アト

リピート購買・継続接点

物流・決済の整備が前提

中国

MEO対策

旅ナカ

検索流入・無料〜低コスト

成果が出るまで時間がかかる

全市場


なぜゲーム内広告が旅マエ施策として注目されるのか

スマートフォンでモバイルゲームをプレイする若者」width=

インバウンドマーケティングの競合記事のほとんどは、旅マエ施策として「SNS広告・インフルエンサー・OTA」を列挙する。これらは確かに有効だが、ゲーム内広告には他の旅マエ施策にはない特性がある。

世界34億人以上のゲームプレイヤーへのリーチ

現在、世界には34億2,000万人以上のアクティブゲーマーが存在する(i CROSS BORDER JAPAN「ゲーム内広告とは?世界30億人に届く!海外マーケ施策の新たな選択肢」、確認日: 2026-04-30)。Z世代に限ると約80%がゲームをプレイしており、SNSよりも長い可処分時間をゲームに費やしているケースも多い(Ad-Virtua公式サイトより)。

ゲームプレイ中の「嫌われない」広告接触

ゲーム空間内の看板・モニターに表示されるサイネージ型広告は、ゲームの進行を遮断しない。ゲーム外のインタースティシャル広告(画面遷移時に強制表示)やリワード広告とは異なり、プレイ体験を阻害せずにブランド認知を積み重ねる点が最大の特徴だ。この「嫌われにくい」接触が、ブランド好意度への貢献につながりやすい。

グローバルブランドの活用事例

海外では大手ブランドがゲーム内広告をグローバルなブランド認知施策に活用している。Levi'sは501ジーンズのクリエイティブを世界6か国でゲーム内配信し広告想起率の向上を確認、TOMMY HILFIGERは未開拓層への認知獲得を目的にゲーム内広告を活用してブランド好意度の向上・購入意向の上昇を確認している(出典: 博報堂DY ONE「新たなメディアとして話題!インゲーム広告のご紹介」、確認日: 2026-04-30)。

ゲーム内広告の参考効果数値

業界内で参照される効果数値として、ゲーム内広告の広告想起率は従来型Web広告比で約180%、視認率は約140%、注目度は約170%とされている(複数の業界記事が引用する参考値。1次出典は各プラットフォーム社の調査、独立検証未確認。確認日: 2026-04-30)。


国別ターゲット市場とゲームプラットフォームの活用整理

インバウンドを対象としたゲーム内広告を検討する際は、ターゲットとする訪日客の出身国・市場ごとに、どのゲームプラットフォームが最も普及しているかを把握することが重要だ。

市場

ゲームの特性

注目ポイント

中国

独自規制下の大型モバイルゲーム市場。TikTokゲーム・Honor of Kings等が主流

現地プラットフォームを通じた配信が必要

韓国

モバイル・PCゲームともに市場規模が大きい。若年層のゲーム接触率が高い

旅マエ認知形成として有効

台湾

モバイルゲームへの親和性が高い市場。日本コンテンツへの関心も強い

旅マエ施策として親和性あり

東南アジア(ASEAN)

フィリピン・インドネシア・タイ・ベトナムはZ世代〜α世代のゲーム参加率が高く、SNS拡散力が強い(i CROSS BORDER JAPAN, 確認日: 2026-04-30)

インバウンド拡大余地が大きい市場

中東・アフリカ(MEA)

ゲーム市場が前年比8.2%の急速な成長(同上)

今後の訪日市場として注目

欧米(米・加・豪)

PCゲーム・コンソールゲームも普及。グローバルタイトルへの配信が有効

1人当たり消費額が大きい高単価市場

現時点での留意点: 国・地域ごとのゲームプラットフォームへの具体的な配信経路は各プロバイダーによって異なる。計画時は、グローバル配信に対応しているプラットフォームを選択すること。


2026年11月の免税制度変更が「旅マエ接点」をさらに重要にする

2026年11月、日本の免税制度が現行の「店頭即時免税」から「リファンド方式」(出国後の空港等での還付)へ完全移行する予定だ(インバウンドマーケティングジャパン記事、確認日: 2026-04-30。本制度変更は現時点では「予定」であり、確定情報として断定することは控える)。

この制度変更が実現した場合、訪日消費行動が大きく変わる可能性がある。

現在、免税のメリットが購買の背中を押しているケースは少なくない。即時免税が廃止されると「免税メリットを得るために来日後まとめ買いする」動機が減り、購買の意思決定はより訪日前の計画・ブランド指名度に基づくものになりやすい。

つまり、「来日したから購入した」ではなく「最初からこれを買いに来た」という指名買い行動の比重が高まると見られる。訪日前のデジタル接点でのブランド認知強化の必然性は、制度変更後にさらに高まる。


インバウンドブランド体験施策で使うKPI

マーケティング施策のKPI・指標を示すアナリティクスデータ

施策を選定・評価する際の指標として、以下を参考にしてほしい。

旅マエフェーズのKPI候補:

  • ブランド認知率(旅行前アンケートでの認知有無)
  • 広告想起率(出稿後の追跡調査)
  • ブランド指名買い率(旅行後のアンケート比較)
  • CPM(1,000インプレッション当たりコスト)

旅ナカフェーズのKPI候補:

  • 来店数・来店率(旅ナカのジオターゲティング広告効果)
  • 購買件数・購買単価

旅アトフェーズのKPI候補:

  • 越境EC転換率
  • SNS投稿数・リーチ数
  • 再訪意向率

なお、日本への再訪意向は電通「ジャパンブランド調査2025」(2025年8月25日)で52.7%を記録し世界1位となっており(確認日: 2026-04-30)、旅アトの体験設計がリピート訪日客の育成につながる可能性が高い。


こんな企業・ブランドに向いている施策設計

インバウンドブランド体験設計に向いている企業

  • 化粧品・美容用品・日用品メーカー——指名買い率が高いカテゴリで、旅マエ認知の投資対効果が得やすい
  • 食品・飲料メーカー(パッケージ商品)——コンビニ・免税店での購買を指名買い化したい企業
  • 外食チェーン・小売業——訪日前の「行きたいリスト」入りを狙う
  • 観光地・宿泊施設・体験サービス——再訪意向が高い日本観光のリピーター育成
  • Z世代・若年層をターゲットとしている商材——ゲーム内広告等の新興接点を活用したい企業

現時点では優先度が低い可能性がある企業

  • BtoB製品・サービス——訪日外国人の消費者購買との接点が少ない
  • 不動産・大型設備投資——単価が高く旅マエの認知が購買に直結しにくい
  • 特定地域限定の商品・サービス——訪日客がアクセスしない地域が主戦場の場合、旅ナカ施策の費用対効果が低い
  • インバウンド向け施策に割ける予算が年間100万円未満の場合——多言語コンテンツ制作・プラットフォーム別運用には一定の投資が必要

ゲーム内広告がインバウンド施策として合う企業の条件

上述の施策比較を踏まえ、ゲーム内広告がインバウンド向けのブランド体験設計に適合しやすい条件を整理する。

以下に当てはまる場合、ゲーム内広告はインバウンド施策の選択肢になりうる:

  1. 訪日前の旅マエ認知を重視している——SNS・動画以外の旅マエ接点を追加したい
  2. Z世代・若年層訪日客をターゲットとしている——東南アジア・欧米のゲーマー層にリーチしたい
  3. 「嫌われにくい広告接触」を優先している——ブランド好感度の棄損なく認知形成したい
  4. 動画素材をすでに保有している——既存の映像クリエイティブをゲーム内広告に転用できる
  5. 週30万円程度から新しい接点を試したい——SNS広告と並行してテストできる予算感

現時点での留意事項: 国内のゲーム内広告プラットフォームでは日本向けゲームタイトルが中心となる場合がある。インバウンドターゲット国で普及しているゲームへの出稿経路については、プラットフォームに事前確認することを推奨する。

ゲーム内広告やゲーム空間を活用したブランド体験設計については、ゲーム内広告とは?仕組み・種類・効果まとめや、ゲーム内広告・メタバース広告の費用・料金相場も参照してほしい。


よくある質問

Q. インバウンド向けマーケティングは訪日中(旅ナカ)の施策だけで十分ではないですか?

A. 旅ナカだけでは指名買いの獲得は難しい。博報堂の調査では化粧品・美容用品の48.1%、医薬品の40.0%が「旅行前から購入ブランドを決めていた」と回答している(確認日: 2026-04-30)。旅ナカは「指名買いリストに入っているブランドを購買する」フェーズであり、リストに入っていない状態で店頭に来てもらうことを期待するのはリスクが高い。旅マエ・旅ナカ・旅アトの3フェーズをセットで設計することが基本だ。

Q. 中国からの訪日客向けには何から始めるべきですか?

A. まず小紅書(RED)・抖音(ドウイン)といった中国国内のプラットフォームへのアプローチが現実的だ。日本のSNS広告は中国内では届かないため、中国向けには現地プラットフォームを通じたコンテンツ配信・広告出稿が前提となる。また、越境ECとの連携で旅アトのリピート購買につなげる構造を同時に整備しておくと消費額の最大化につながりやすい。

Q. ゲーム内広告はどのくらいの予算から試せますか?

A. 一例として、国内のゲーム内広告プラットフォームでは週30万円(初期費用なし)程度から出稿できるケースがある。旅マエ施策の一つとして比較的導入しやすい費用感だが、対象国のゲームへの配信経路については事前にプラットフォーム側に確認が必要だ。

Q. 指名買い率を測定するにはどうすればいいですか?

A. 訪日後のアンケート調査(観光庁が実施する「訪日外国人消費動向調査」や自社での独自調査)で「旅行前から購入を決めていたか」「どの媒体で知ったか」を把握するのが基本だ。自社でアンケートを設計する場合は、施策を打った国・市場と施策前後の数値比較を設計時点から計画しておくと効果検証につなげやすい。

Q. 免税制度変更は2026年11月以降も確実に実施されますか?

A. 現時点では「予定」であり、確定情報ではない。2026年11月の実施が報道・政府発表で示されているが、施策設計の際は最新の公式情報を確認した上で判断してほしい。


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