センサリーマーケティング(五感マーケティング)とは、消費者の五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)に意図的に働きかけ、知覚・判断・購買行動を変えるマーケティング手法の総称です。スターバックスのコーヒー豆の焙煎香、PayPayの「ペイペイ!」決済音、高級ブランドの重厚な紙袋——いずれも「五感に訴える」ことで、消費者が意識しないうちにブランドの記憶を作っている実践例です。

この記事でわかること:

  • センサリーマーケティングの定義と、なぜ今注目されるのか
  • 「五感に訴える」施策が効果を出すための3つの条件
  • 五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)別の手法と国内外の事例
  • 香りを使うセントマーケティングの手法と始め方
  • 業種別・感覚別の「どこから着手すべきか」判断マトリックス
  • デジタル空間・ゲーム環境での五感マーケティングの可能性と効果測定

食品・飲料・日用品・外食・交通・ホテルなど、ブランド体験設計や新しい顧客接点を模索している企業のマーケティング担当者・ブランド戦略室向けの記事です。

本記事のスコープ:本記事は「五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)への直接的な感覚刺激」を主役にした実務向け解説です。広告全体の中で五感施策がどこに位置づくかは広告とは、AIやパーソナライゼーションを軸にしたブランド体験の戦略整理はAI時代のブランド体験戦略、感覚刺激も含む顧客接点全体の設計ステップはブランド接点設計とはを参照してください。

センサリーマーケティングとは何か——消費者の「無意識」に届くアプローチ

カラフルな波と光の抽象的なパターン——センサリーマーケティングが消費者の感覚に訴えかける多様な刺激を表現

センサリーマーケティングとは、ミシガン大学のアラドナ・クリシュナ教授(2010年)によって体系化された概念で、「消費者の感覚に訴えることによって、彼らの知覚、判断、そして行動に影響を与えるマーケティング」と定義されています(出典:Aradhna Krishna, Sensory Marketing: Research on the Sensuality of Products, 2010)。

日本語では「五感マーケティング」「感覚マーケティング」「五感刺激マーケティング」とも呼ばれます。

最大の特徴は、消費者が感覚刺激の影響を意識しないままブランドへの印象・行動が変わる点にあります。BGMが遅くなると人は店内に長居する。コーヒー豆の香りが漂うと空間の印象が変わる。重い紙袋を持ったとき、中身への期待感が高まる——これらはすべて無意識レベルで起きている変化です。

この「無意識への訴求」は行動経済学のナッジ理論とも親和性が高く、機能・スペックだけでは差別化が難しくなったコモディティ化市場での武器として注目されています。

研究が示す「無意識の影響力」

センサリーマーケティング研究は、2010年の65件から2021年には791件へと約12倍に増加しています(出典:MarkeZine、石井裕明 青山学院大学准教授による記述、2022年)。日本国内でも、青山学院大学の石井裕明准教授や早稲田大学の恩藏直人教授らがこの分野の研究を牽引しています。

なぜ今、五感マーケティングが注目されるのか

「良い製品を作って正しいターゲットに届ける」だけでは選ばれにくい時代に入っています。その背景には、三つの構造変化があります。

① 市場のコモディティ化
食品・日用品・外食チェーンを問わず、製品性能や価格帯での差別化が難しくなっています。競合が同等の品質・価格帯の商品を出してくる中で、「体験の質」がブランド選択の決め手になる局面が増えています。

② 広告飽和・広告ブロック時代
デジタル広告の過多により、消費者は視覚的な広告情報に対して無意識にフィルターをかけるようになっています。その反面、感覚刺激は注意を払わずとも処理される——この「受動的処理」のしやすさが五感マーケティングの強みです。

③ 体験価値経済への移行
イマーシブ(没入型)マーケティングの市場規模は2024年に約69億ドル(約1兆円)と推計され、2030年には約297億ドル(約4.5兆円)に成長すると予測されています(CAGR 28.6%、出典:Boston Institute of Analytics)。消費者はモノではなく「体験」に価値を感じ、価格を払う傾向が強まっています。

「五感に訴える」とはどういうことか——効果が出る3つの条件

「五感に訴える」とは、商品やブランドの情報を言葉やスペックで説明するのではなく、見た目・音・香り・手触り・味といった感覚そのものを通じて印象を残すことです。ただし、感覚刺激を足せば効果が出るわけではありません。成果につながる施策には、共通して次の3つの条件があります。

条件

内容

満たせていない例

① ブランドとの一致

感覚刺激がブランドの個性・価格帯と合っている

高級ブランドの店舗でテンポの速いポップスを流す

② 繰り返しの接触

同じ音・色・香りに何度も触れ、記憶の手がかりになる

キャンペーンごとに色やサウンドロゴを変える

③ 体験の邪魔をしない

刺激が強すぎず、顧客の行動を妨げない

入店直後にむせるほど香りが強い、音量が大きすぎる

身近な例では、コンビニの入店メロディ(聴覚)、パン屋の店先から漂う焼きたての香り(嗅覚)、飲料ブランドの一貫したボトル色(視覚)が3条件をすべて満たしています。いずれも「毎回同じ」「ブランドらしい」「邪魔にならない」ため、名前を見なくてもブランドが思い浮かぶ状態を作れています。

五感別の手法と国内外の活用事例

高級ブランドの小売店舗の内装——視覚マーケティングが消費者の購買判断に影響を与える空間設計の事例

まず五感それぞれの特徴を一覧で比較します。

感覚

代表的な手法

記憶への残りやすさ

導入しやすさ

主な接点

視覚

ブランドカラー、パッケージ、照明、映像広告

中〜高(反復で強化)

◎

店舗・パッケージ・デジタル広告

聴覚

サウンドロゴ、BGM、決済音

高(名前と結びつきやすい)

○

店舗・動画広告・アプリ

嗅覚

空間の香り、シグネチャーセント

非常に高(感情記憶と直結)

△(空間が必要)

店舗・ホテル・ショールーム

触覚

素材・重さ・手触り

中(品質評価に影響)

○

パッケージ・紙袋・商品

味覚

試食・試飲

高(購買直前に効く)

△(実物が必要)

店頭・イベント

視覚マーケティング——色・光・空間が判断を変える

視覚マーケティングは最も広く実践されているセンサリー手法です。ブランドカラー・ロゴ・パッケージ・店舗レイアウト・照明の色温度が、消費者の購買判断や空間の印象に直接影響します。

色彩心理学の基本:

カラー

心理的連想

主な活用業種

赤

エネルギー・緊張・購買意欲刺激

ファストフード・セール訴求

青

信頼・冷静・誠実

金融・テクノロジー

緑

自然・安心・健康

食品・ウェルネス

黒・ゴールド

高級感・洗練

ラグジュアリーブランド

照明の色温度も無視できません。暖色系の照明は人と人の距離感を広げる傾向があり、寒色系は縮める傾向があることがUSEN × 早稲田大学の調査で確認されています。

デジタル・ゲーム空間での視覚マーケティング:
没入型ゲーム環境内のサイネージ広告(ゲーム空間の看板・モニターに配信される広告)は、ゲームの世界観に溶け込むことで通常のWeb広告より高い視認率・記憶定着が期待できます。広告視認率は最大96%に達するという報告もあります(出典:Ad-Virtua公式情報)。

聴覚マーケティング(サウンドブランディング)——音でブランド名を刷り込む

サウンドウェーブのビジュアル——聴覚マーケティング(サウンドブランディング)でBGMやサウンドロゴが消費者の記憶に働きかける概念を表現

BGM・サウンドロゴ・音楽のテンポが顧客の滞在時間や購買行動に影響を与えることは、1980年代から研究されてきました。

テンポと行動変容の研究事例:

  • テンポが遅いBGM → 滞在時間延長 → 消費額増加
  • テンポが速いBGM → 購買時間短縮 → 回転率向上
  • クラシック音楽 → 高級ワインの購買を促進
  • ポップス → 安価なワインの購買を促進

(出典:USEN記事内の研究紹介)

日本企業のサウンドブランディング事例:

  • PayPay:「ペイペイ!」の決済音は、登録ユーザー7,500万人(2026年8月発表)を超えるサービスの利用シーンで毎日のように鳴り、ブランド名を聴覚で覚えさせる代表例になっています(出典:PayPay株式会社プレスリリース)
  • ファミリーマート:「あなたと、コンビに、ファミリーマート」のメロディは音商標登録済みで、店内入店時の聴覚ブランディングとして機能しています
  • チキンラーメン:「すぐおいしい、すごくおいしい。」のメロディも音商標登録済み

USENと早稲田大学は閉店時間を感覚的に伝える「閉店音楽」を共同開発し、顧客が不快感なく退店できる音楽サインを実装しています(出典:USEN公式)。これはサウンドブランディングが「購買後の体験」にまで影響する事例として注目されています。

嗅覚マーケティング——香りが記憶に残る理由

嗅覚は五感の中で唯一、感情・記憶を司る大脳辺縁系(海馬と隣接)に直接届く感覚です。この特性から、特定の香りが過去の感情記憶を呼び起こす「プルースト効果」が生まれます。フランスの小説家マルセル・プルーストが著作の中で描いた「マドレーヌの香りで幼少期の記憶がよみがえる」体験に由来します。

嗅覚の記憶への影響は他の感覚より強く、ブランドロイヤルティ形成にも有利です。具体的な手法と事例は、次の「セントマーケティングとは」で詳しく解説します。

触覚マーケティング——手触りが品質評価を変える

色や素材の異なる複数のショッピングバッグを手に持つ様子——紙袋の厚み・重さ・手触りが品質感を伝える触覚マーケティングの例

商品やパッケージの質感・重さ・手触りが、ブランドイメージや品質評価に影響を与えます。

研究事例(ウィリアムス&バージ):
温かいコーヒーカップを持った参加者は、冷たいカップを持った参加者より他者を「心温かい人物」と評価したことが確認されています(出典:MarkeZine論文紹介記事)。物理的な感覚が社会的な判断にも波及するという触覚の「越境効果」です。

実践例:

  • 高級ブランドの重厚な紙袋:厚みと重さが無意識に品質感・高級感を訴求
  • LUSH:手作り石鹸の色・香り・質感を店頭で体験させることで、多感覚統合の購買体験を提供
  • Dancing Crab(シーフードレストラン):手づかみで食べるスタイルが触覚・温度・硬さをフルに体験させ、記憶に残る体験価値を生み出す(出典:ダイヤモンドHBR記事)

味覚マーケティング——試食・試飲が購買ハードルを下げる

テーブルでワインを試飲する人々——試食・試飲で購買ハードルを下げる味覚マーケティングの例

味覚は実際の商品体験を通じてのみ刺激できる感覚です。試食・試飲は購買ハードルを直接引き下げる古典的なセンサリーマーケティングの実践として、食品・飲料業界で継続して活用されています。

飲食業では嗅覚・視覚・触覚・味覚が同時に刺激される「多感覚統合体験」がブランドロイヤルティを形成するため、食事体験の設計そのものがマーケティング戦略になります。

セントマーケティング(香りのマーケティング)とは——手法・事例・始め方

コーヒー豆とドリップコーヒーメーカー——セントマーケティング(香りのマーケティング)でコーヒーの香りがブランド体験を形成する事例

セントマーケティング(Scent Marketing)とは、店舗・施設・商品に意図的に香りを取り入れ、ブランドの印象や滞在中の行動に影響を与える嗅覚マーケティングの実践手法です。「香りマーケティング」「アロママーケティング」とも呼ばれ、ブランド専用の香りを開発する場合は「シグネチャーセント」「ブランドセント」と呼ばれます。

セントマーケティングの主な手法

手法

内容

向いている業種

空間の香り(アンビエントセント)

店舗・ロビーに業務用ディフューザーで香りを流す

小売・ホテル・オフィス・ショールーム

シグネチャーセント

ブランド専用の香りを開発し、全拠点で統一する

ホテル・航空・高級ブランド

商品由来の香りの演出

焼き立て・焙煎・調理の香りを店外まで届ける

ベーカリー・カフェ・外食

香り付きの販促物・ノベルティ

DM・ショッパー・試供品に香りを付ける

化粧品・日用品・食品

セントマーケティングの事例

  • ANA:空港ラウンジ・機内にオリジナルアロマを導入。旅行体験とブランドの記憶を香りで結びつけるブランディング施策として展開(出典:TOPPAN CREATIVE記事)
  • LEXUS(トヨタ自動車):ショールームで春夏秋冬の季節ごとに異なるフレグランスを使用し、高級感と季節感の体験的訴求を実現(出典:WASIMIL Blog)
  • スターバックス:店内でのコーヒー豆焙煎の香りを「サードプレイス」体験の核心要素として設計
  • ラスベガスのカジノ(1990年代の研究):特定の香りを漂わせたエリアでスロットマシンの売上が上昇したことが確認されています(出典:USEN記事内の早稲田大学 恩藏直人教授取材)

Mood Media社が10カ国を対象に行った調査では、BGM・ビジュアル・香りをすべて活用している店舗に「再訪問する可能性が高い」と答えた消費者は90%に上ります。

セントマーケティングの始め方(4ステップ)

  1. 目的を決める:滞在時間を延ばしたいのか、ブランドを覚えてほしいのか、高級感を伝えたいのかで香りの選び方が変わる
  2. 香りの方向性を決める:ブランドカラーやトーン(爽やか・温かい・上品など)と矛盾しない系統を選ぶ。食品を扱う売場では商品の香りを邪魔しない弱めの設計にする
  3. 小さく試す:1店舗・1フロアなど範囲を絞り、業務用ディフューザーのレンタル・リース型サービスで試験導入する
  4. 前後で比較する:導入前後の滞在時間・客単価・再来店率・アンケートの印象スコアを比べ、効果があれば他拠点へ広げる

香りは個人差が大きく、強すぎると逆効果になります。アレルギーや化学物質過敏への配慮として、香りの強さを控えめにし、店内に香りの使用を明示しておくと安心です。

センサリーマーケティングの効果データ

以下は現時点で確認できる主な効果データです。数値の信頼度に差があるため、確認できた出典を明記しています。

マルチセンサリー体験の効果(出典:freeyourself.com「Multi-Sensory Branding Statistics 2025」):

指標

効果

ブランド想起

マルチセンサリー体験は単一感覚比で最大70%向上

記憶定着率

感覚要素活用ブランドは非活用ブランドより30%多く記憶される

購買意欲

体験型マーケティング参加者で30%向上

ロイヤルティ

感覚マーケティング優先ブランドで40%向上

滞在時間

全感覚が活性化した場合、平均6分延長

売上

全感覚が活性化した場合、最大10%の売上増加

再訪問意向

BGM・ビジュアル・香り活用店舗に再訪問予定の消費者:90%(Mood Media調査)

※freeyourself.comの統計は同サイトによる集計値であり、社内稟議などで使う場合は個々の一次出典もあわせて確認してください。

業種別・感覚別「どこから着手すべきか」マトリックス

木材を基調にしたホテルのレセプションとロビー——照明・素材・香りを組み合わせてブランド体験を設計する業種の例

センサリーマーケティングに関心を持ったとき、「どの感覚から始めるべきか」は業種・目的・チャネル構成によって異なります。以下は業種別の推奨着手感覚と代表手法の一覧です(一般的な傾向であり、個社の状況に応じて判断が必要です)。

業種

主力感覚

推奨着手手法

典型的な目的

食品・飲料メーカー

嗅覚 + 味覚 + 視覚

試食・試飲、パッケージ色の統一、動画広告のシズル表現

購買ハードル引き下げ、ブランド想起

ホテル・ラグジュアリー

嗅覚 + 視覚 + 触覚

オリジナルアロマ、高級素材体験、照明設計

ブランド体験・再来館意向

外食チェーン

嗅覚 + 視覚

調理香の外部演出、店内デザイン・BGM

来店頻度向上、滞在時間最適化

日用品・消費財メーカー

触覚 + 視覚

パッケージ質感設計、視覚的差別化

棚前停止、高級感訴求

デジタルブランド

聴覚 + 視覚

サウンドロゴ、ゲーム内広告・デジタルサイネージ

ブランド想起定着、認知獲得

交通・インフラ

聴覚 + 視覚

サウンドブランディング、没入型デジタル広告

好感度向上、第一想起

小売・百貨店

嗅覚 + 視覚 + 聴覚

店舗香り、照明・BGMの統合設計

購買単価向上、滞在時間延長

着手順序の基本原則:

  1. 自社の主要チャネル(店舗型 / ECオンライン / デジタルメディア)を確認する
  2. 現在の顧客接点で「感覚設計がされていない空白」を特定する
  3. 競合他社がまだ取り組んでいない感覚から先行して着手する

業種マトリックスで感覚の組み合わせが見えたら、次は顧客接点全体(店頭・パッケージ・デジタル広告・SNS・カスタマーサポート)にどう配置するかの設計に進みます。接点ごとの感覚役割の整理はブランド接点設計とはで解説しています。

デジタル空間でのセンサリーマーケティング——限界と代替策

VRヘッドセットを装着して仮想空間を体験する子ども——デジタル空間で視覚・聴覚に訴える没入型体験の例

デジタル空間ではすべての感覚を届けることはできません。現時点では嗅覚・触覚・味覚の伝達は困難であり、デジタル広告・オンラインコンテンツで直接活用できる感覚は視覚と聴覚に限られます。

デジタルで活用できる感覚・できない感覚

感覚

デジタルでの伝達

代替アプローチ

視覚

◎ 可能

カラー戦略、デザイン品質、没入型映像

聴覚

◎ 可能

サウンドロゴ、BGM、ASMRコンテンツ

嗅覚

✕ 困難

香りの連想を喚起するビジュアル・コピー

触覚

△ 研究段階(hapticデバイス)

素材感を伝える映像・テキスト

味覚

✕ 困難

食感・風味をASMRや映像で間接的に演出

ゲーム内広告が「デジタル視覚センサリーマーケティング」として機能する理由

Ad-Virtua公式サイト掲載のゲーム「シスターズランナー」画面——ゲーム空間内の看板に広告枠が表示されている様子

デジタル空間で五感マーケティングを実践しようとしたとき、多くの広告フォーマットは「受動的な視覚刺激」にとどまります。その中で、没入型ゲーム環境内のサイネージ広告は、通常のWeb広告・バナー広告と本質的に異なる視覚体験を提供します。仕組みや種類の全体像はゲーム内広告とはで解説しています。

没入環境が視覚記憶定着を強化するメカニズム:

  • ゲームプレイ中は注意・集中リソースがゲーム空間に向けられているため、ゲーム内の看板・モニターへの視覚接触も「体験の一部」として処理される
  • 「自分がプレイした世界」の記憶は、受動的に閲覧したコンテンツより強く残りやすい(エピソード記憶への組み込み)
  • 広告がゲームプレイを阻害しないため、センサリーマーケティングの「過剰刺激を避ける」原則に沿った好感度の維持が可能

これが、ゲーム内サイネージ広告の広告想起率がWeb広告比で約1.8倍、好感度約85%というデータとして現れているセンサリー効果と解釈できます(出典:Ad-Virtua公式情報)。

AR・VR・メタバース、そしてAIによる拡張:
VR空間では視覚・聴覚を組み合わせた没入型ブランド体験が可能です。触覚フィードバック(haptic)デバイスによるバーチャル触覚体験や、AR技術を使った「仮想試着・仮想試食」も実用化が進んでいます。なお、AIによる視聴データ解析とパーソナライズで感覚体験の出し分けを設計する論点は本記事のスコープ外のため、AI時代のブランド体験戦略を参照してください。

ASMRコンテンツの台頭:
ASMR関連コンテンツのストリーム再生数は2023年時点で年間1億1,000万時間超に達しています(出典:influencer-hero.com)。デジタルで嗅覚・触覚・味覚を代替する手段として、聴覚と視覚を組み合わせた「感覚連想コンテンツ」の需要が高まっています。

センサリーマーケティングの効果測定・KPI設計

ビジネスアナリティクスのチャートとグラフ——センサリーマーケティングの効果測定とKPI設計に活用されるデータ分析の例

センサリーマーケティングの課題のひとつは「施策単体の短期ROI測定が難しい」点にあります。感覚刺激は長期的なブランド記憶への影響を目的とするため、通常の広告効果測定のフレームがそのまま使えないことがあります。

以下は施策別の測定アプローチの目安です。

感覚別の効果測定KPI

視覚マーケティング(ブランドカラー・パッケージ・デジタル広告):

  • ブランド認知率調査(認知度前後比較)
  • デジタル広告の視認率・広告想起率(ブランドリフト調査)
  • パッケージ変更後の棚前停止率・購買転換率

聴覚マーケティング(サウンドロゴ・BGM):

  • ブランド名の聴覚認知率(音を聞いてブランド名が答えられるか)
  • BGM変更前後の滞在時間・客単価(店舗での実験データ)
  • サウンドロゴの再生後ブランド想起率

嗅覚マーケティング(アロマ・香り設計):

  • 香りを活用した店舗の再訪問率・顧客満足度スコア
  • 香り前後での商品購買率変化(A/Bテスト)

総合評価指標(マルチセンサリー体験):

  • NPS(ネットプロモータースコア)前後比較
  • ブランドロイヤルティ指数
  • 感覚的印象調査(「このブランドは〇〇を感じさせる」項目のスコア)

短期ROIより「体験後の再訪問意向」「ブランド好意度」「購買転換率の長期推移」を優先指標に置くことが、センサリーマーケティングの正しいKPI設計です。デジタル施策で想起率・好意度を測る調査の組み方はブランドリフト測定とはを参考にしてください。

導入時のよくある失敗と注意点

センサリーマーケティングは「感覚刺激を足す」だけで効果が出る施策ではありません。実装で失敗しやすいポイントを押さえておきましょう。

失敗例① 感覚刺激の過剰投入
強すぎる香りや騒音レベルのBGMは顧客体験を損ない、逆効果になります。ホテル・高級品業態では特に注意が必要です(出典:WASIMIL Blog)。「感じさせすぎない設計」がセンサリーマーケティングの原則です。

失敗例② 感覚刺激がブランドイメージと矛盾している
高級感を訴求したいブランドでテンポの速いポップスを流す、清潔感を重視する食品ブランドで濃い香りを使うといった「感覚とブランドの矛盾」はむしろブランドイメージを棄損します。

失敗例③ 文化差・個人差を無視した設計
香りや音楽の好みは文化・年齢・性別で大きく異なります。海外で実績のある手法をそのまま日本市場に適用しても、同等の効果が出ないケースがあります。

失敗例④ 単一感覚への偏り
嗅覚だけ、聴覚だけという単一感覚の施策より、複数の感覚を統合したマルチセンサリー体験のほうが記憶定着・ブランドロイヤルティへの効果が高いことが複数の研究で示されています。

注意点:倫理・透明性
センサリーマーケティングは消費者が意識しない形での行動変容を狙う手法です。過剰・意図的な操作設計は倫理的懸念を招く可能性があります。消費者体験の質を高めることを目的に据えた設計が、長期的なブランド信頼につながります。

こんな企業におすすめ / おすすめしない企業

センサリーマーケティングがおすすめの企業

  • 店舗型接点を持つ企業(外食・小売・ホテル・空港等):物理的な空間を持つため、視覚・聴覚・嗅覚・触覚を統合したマルチセンサリー設計が実現しやすい
  • コモディティ化した市場にいる企業(食品・日用品・飲料等):製品性能での差別化が難しく、ブランド体験の品質が選択理由になる
  • ブランドロイヤルティ・第一想起が重要な企業(生活必需品・交通・インフラ等):繰り返しの感覚接触が長期的な記憶定着・想起率に有効
  • 若年層・ゲーマー層への認知拡大を目指すブランド:デジタル空間での没入型視覚・聴覚体験が記憶定着を高める
  • TVCM・OOH等の既存施策を補完したい企業:センサリー施策はマス広告では届かない「体験記憶」を形成できる

センサリーマーケティングをおすすめしない企業

  • 即時コンバージョン最大化を最優先する企業:センサリー施策は長期記憶形成が主目的のため、短期CPA改善への直接貢献は限定的
  • オンライン完結型の低関与商材:ECや価格比較で選択される商材では、感覚体験よりも価格・利便性が購買の主因になる
  • ブランド認知よりも機能説明が必要な商材(SaaS・産業財等):感覚訴求より論理的なベネフィット説明が優先される

デジタル時代の視覚センサリーマーケティング——ゲーム内広告という選択肢

嗅覚・触覚・味覚が届かないデジタル空間で、ブランド体験の品質を高める手段として注目されているのが、没入型ゲーム環境を使った視覚センサリーマーケティングです。

Ad-Virtuaのゲーム内サイネージ広告は、国内400タイトル以上・累計8,000万回超の再生実績を持つアドネットワークで、ゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信します(出典:Ad-Virtua公式情報、2025年後半時点)。

視覚・聴覚に訴えるデジタル施策の比較

比較ポイント

ゲーム内サイネージ広告

SNS動画広告

TVCM

届く感覚

視覚(没入空間内)

視覚+聴覚

視覚+聴覚

接触時の状態

プレイに集中した没入状態

スクロール中の流し見

在宅でのながら視聴

スキップ・回避

起きにくい(背景に溶け込む)

起きやすい

CM中の離席あり

若年層への到達

強い

強い

弱まりつつある

評価指標の例

広告想起率・好感度・CPM

視聴完了率・エンゲージメント

GRP・認知率

ゲーム内サイネージ広告の主な指標は、広告想起率約1.8倍・注目度約1.7倍・好感度約85%、CPMは約300円(一般的なWeb広告の目安約500円との比較)です(出典:Ad-Virtua公式情報)。媒体ごとのCPM相場はゲーム内広告 媒体別CPM比較ガイドで詳しく比較しています。

Ad-Virtuaが合う条件:

  • 若年層・ゲーマー層への視覚的ブランド記憶定着を図りたい
  • TVCM・OOH等のリアル感覚体験の「デジタル補完施策」を探している
  • 嗅覚・触覚が届かないデジタル空間でも、没入環境での視覚接触でブランド想起を高めたい
  • 好感度を維持しながらブランド認知を積み上げたい(強制広告視聴への抵抗感を避けたい)
  • 食品・飲料・日用品・交通・インフラ業界で生活者との新しい接点を作りたい

食品・飲料メーカーが検討を進めるときの順番

食品・飲料は「味と香り」が最大の価値ですが、デジタル広告ではそれを直接届けられません。そのため、パッケージ色やシズル映像で味と香りを連想させ、店頭の試食・試飲で実際の体験につなぐ設計が基本になります。検討時は次の順番で情報を集めると、社内稟議の根拠をそろえやすくなります。

  1. 広告全体の中での位置づけを確認する:広告とは
  2. デジタル側の視覚接点として媒体を理解する:ゲーム内広告とは
  3. 業界の事例と設計を確認する:飲料メーカーのブランド体験設計ガイド/食品メーカーのブランド体験施策事例
  4. 費用対効果の試算材料をそろえる:食品・日用品メーカーのゲーム内広告ROIガイド

料金は1週間300,000円(税別)から導入可能です。費用の考え方はゲーム内広告の費用・料金相場をご覧ください。自社商品の感覚イメージをどう映像化するか、どのタイトルで配信するかなどの具体的な相談はお問い合わせから受け付けています。

センサリーマーケティングを含むブランド体験設計の全体像はブランド体験とはもあわせて参照してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. センサリーマーケティングとセントマーケティングの違いは何ですか?
A1. センサリーマーケティングは五感すべてを対象にした総称で、セントマーケティングはそのうち嗅覚(香り)に特化した手法です。香りは記憶と結びつきやすい反面、空間がないと使えないため、デジタル施策では視覚・聴覚で「香りを連想させる」表現と組み合わせるのが一般的です。

Q2. 「五感に訴える」広告のキャッチコピーや表現にはどんなものがありますか?
A2. 「焼きたて」「ひんやり」「とろける」「シュワッと」のように、読んだ瞬間に感覚が思い浮かぶオノマトペや温度・食感の言葉がよく使われます。映像では湯気・結露・注ぐ音などのシズル表現が同じ役割を果たします。言葉と映像が伝える感覚をそろえると、印象がぶれずに残りやすくなります。

Q3. センサリーマーケティングは中小企業でも実践できますか?
A3. 実践できます。大規模なブランドセント開発や音商標登録は初期投資が必要ですが、BGMの選曲設計(月額数万円〜)や照明の見直し、パッケージ触感の改善は比較的低コストで着手できます。まず自社の主要顧客接点の「感覚設計がされていない空白」を特定することが第一歩です。

Q4. 音や香りを商標として登録できますか?
A4. 日本では2015年から音商標の登録が可能になり、ファミリーマートの入店メロディなどが登録されています。一方、香り(におい)の商標は日本では現時点で登録対象になっていません。香りでブランドを守りたい場合は、調香レシピの管理や契約面での対策が中心になります。

Q5. 複数の感覚を同時に使うべきですか?それとも一つに集中すべきですか?
A5. 一般的には、複数の感覚を統合した「マルチセンサリー体験」のほうが単一感覚より記憶定着・ブランドロイヤルティへの効果が高いとされています。ただし、感覚刺激の方向性が統一されていないと逆効果になります。まず1〜2つの感覚で実験し、ブランドトーンとの一致を確認してから拡張するアプローチが現実的です。

Q6. センサリーマーケティングと体験型マーケティングはどう違いますか?
A6. センサリーマーケティングは「感覚刺激への訴求」に焦点を当てた概念で、体験型マーケティングの一要素です。体験型マーケティングはより広い概念で、イベント・ポップアップ・デジタル体験などを含みます。詳しくは体験型マーケティングとはをご覧ください。

Q7. 競合がすでに同じ感覚施策をしている場合はどうすべきですか?
A7. 競合と同じ感覚では差別化になりません。競合が嗅覚ブランディングに力を入れているなら、自社は聴覚や触覚の設計を先行させるか、同じ嗅覚でも全く異なるブランドセントで対比的な立ち位置を取るアプローチがあります。

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