ホテル・レジャー業界のブランド体験施策とは、予約・滞在・退出後までの全顧客接点でブランドへの感情的なつながりを設計し、リピートと指名購買につなげる取り組みの総称です。2026年の顧客構造変化(シニア層の離脱・Z世代の台頭)を踏まえると、認知フェーズからの長期設計が競争優位の鍵になっています。
この記事でわかること:
- 2026年のホテル・レジャー業界が直面している顧客接点の構造変化
- 認知〜ロイヤルティまで5つのフェーズ別に有効な施策と費用感
- リピート率向上に直結するCRM・ロイヤルティプログラムの設計ポイント
- MarriottやHiltonがFortnite・Robloxで実践したゲーム活用事例
- Z世代・若年層への今からの接点設計が10年後のファミリー層獲得につながる理由
ホテル・レジャー企業のマーケティング担当者・ブランド戦略室の方を主な対象に書いています。
ホテル・レジャー業界が直面する2026年の市場変化

2025年の国内延べ宿泊者数は6億5,348万人泊(前年比 -0.8%)と微減する一方、訪日外国人の延べ宿泊者数は1億7,729万人泊で過去最高を更新しました(観光庁 宿泊旅行統計調査 2025年年間値速報、2026年2月発表)。インバウンドが牽引する都市部・有名観光地と、日本人旅行者が減少しつつある地方・中小施設との格差は2026年に入っても鮮明化しています(宿研ナレッジ「2026年宿泊業界の動向」)。
この構造変化の裏側で起きているのが、顧客基盤の世代交代リスクです。宿泊業界の主要顧客層だった70代以上のシニア層は、健康・介護を理由に旅行頻度が急減しています。一方、次の主力顧客になる20〜30代の若年層に対して、多くのホテルは「いますぐ予約しない層」として施策投資を後回しにしてきました。
2026年のヒルトン「Trends Report」(世界14カ国14,000人調査)は、旅行の選択基準が「どこへ行くか」から「なぜ行くのか(感情的動機)」へシフトしていることを示しています。「休息したい」「意味ある体験を得たい」という感情動機が宿泊先を決める主因になっており、ホテルが単なる宿泊インフラではなく「感情を支える空間」として認識されるかどうかが選ばれる条件になりつつあります(Travel Voice 2026年1月20日)。
2026年に押さえるべき3つの顧客構造変化
変化 | 内容 | 施策への示唆 |
|---|---|---|
シニア層の離脱加速 | 70代以上が健康・介護理由で旅行頻度を急減 | 若年層への長期接点投資が不可欠 |
旅行二極化 | 「年1回も旅行しない人が50.5%」vs「旅行する人は年平均2.86回」 | 体験の質・納得感でリピーターを育成する層に集中 |
旅行動機の感情化 | 「どこへ行くか」より「なぜ行くのか」で選ばれる | 空間・体験設計が予約の入口になる |
出典:宿研ナレッジ「2026年宿泊業界の動向」、ヒルトン Trends Report 2026(Travel Voice経由)
ブランド体験設計の起点:5つの顧客接点フェーズ

ホテル・レジャー業界のブランド体験施策を整理するには、顧客が「知らない状態」から「リピーターになる状態」までの5段階を理解することが出発点になります。多くのホテルが施策を「予約直前〜チェックアウト後」の後半フェーズに集中させており、認知フェーズの施策が構造的に手薄なのが現状です。
ホテル顧客の5フェーズと各フェーズの特徴
フェーズ | 顧客の状態 | 求められる施策の方向性 |
|---|---|---|
①認知 | ホテル・施設名を知らない | 非侵入型の接触で好意的な印象を形成する |
②興味 | 存在を知ったが検討していない | SNS・コンテンツで「体験したい」という感情を醸成する |
③検討 | 旅行を計画している・比較している | OTA・自社サイト・口コミで選ばれる情報を整備する |
④体験 | 滞在中・来場中 | 感情記憶を残す空間演出・サービス設計 |
⑤ロイヤルティ | リピーター・ファン | CRM・ロイヤルティプログラムで関係を継続する |
競合コンテンツの約9割がフェーズ③〜⑤に集中しており、①②の施策設計を解説したコンテンツはほぼ存在しません。この記事は認知フェーズからの設計全体をカバーします。
フェーズ別施策マップと費用感の比較
各フェーズで有効な施策の種類・費用感・向いている企業規模を整理します。
ホテル・レジャー業界 施策別比較表
施策 | 有効フェーズ | 月間費用感(目安) | 主なKPI | 向いている規模 |
|---|---|---|---|---|
テレビCM | 認知 | 数千万円〜 | GRP・認知率 | ナショナルチェーン |
ゲーム内広告(サイネージ型) | 認知 | 30万円〜/週 | 想起率・注目度・CPM | 中〜大手全般 |
SNS広告(Instagram/TikTok) | 認知〜興味 | 数十万円〜 | リーチ・エンゲージメント | 中〜大手全般 |
インフルエンサーマーケティング | 興味 | 数十万〜数百万円 | 投稿リーチ・UGC | 中〜大手全般 |
SEO・コンテンツマーケティング | 興味〜検討 | 数十万円〜/月 | オーガニック流入・CVR | 全規模 |
OTA最適化・リスティング | 検討 | 従量制・数十万〜 | 予約数・CPA | 全規模 |
ロイヤルティプログラム | ロイヤルティ | システム費+運用費 | 会員数・リピート率 | 大手チェーン |
CRM・メール/アプリ通知 | 体験〜ロイヤルティ | 数十万円〜/月 | 開封率・再来率 | 中〜大手 |
体験型サービス設計 | 体験〜ロイヤルティ | スタッフ教育・設備投資 | NPS・口コミ評点 | 全規模 |
費用はいずれも概算です。ゲーム内広告(サイネージ型)の詳細は後述の「ゲーム内広告がホテル・レジャー業界で機能する条件」をご覧ください。
リピート率向上に直結する3つの施策と評価指標

現時点でリピート率向上への寄与が確認されている施策として、CRM活用・体験型サービス設計・ロイヤルティプログラムの3つが中心になっています。
1. CRMを活用したパーソナライゼーション
宿泊履歴・来訪目的(記念日・ビジネス・家族旅行など)をCRMで一元管理し、次回訪問時の提案を最適化する手法です。
国内の実践事例:
- 星野リゾート:ゲスト情報を顧客データベースで管理し、過去の滞在履歴に基づいたパーソナライズ提案でリピート率向上を実現(シナジーマーケティング「ホテルや旅館で顧客満足度を高めるにはCRMシステムが必須」より)
- アパホテル:誕生日・最終宿泊日から最適なタイミングを算出したクーポン配信を実施
主な評価指標:再宿泊率 / メール開封率 / ロイヤルティ会員数 / 平均宿泊単価
2. 感情記憶を残す体験型サービス設計
「単なる宿泊」ではなく「特別な体験」として記憶されることがリピートを生みます。2026年現在、アート・音楽・ウェルネス・地域食材といったテーマ特化型の空間演出が差別化手段として機能しています。
「五感で癒す空間設計」や「地元食材・ハーブを用いた飲食演出」がSNS自発拡散につながり、口コミによる新規獲得とリピート双方に波及する事例も報告されています(リロホテルソリューションズ「ホテルのマーケティング戦略とは」2024年)。
主な評価指標:NPS(ネット・プロモーター・スコア) / SNS投稿数・UGC数 / 口コミ評点
3. ロイヤルティプログラムとZ世代の特性
Arrivia調査によれば、Z世代・ミレニアル世代はロイヤルティプログラムへの参加意向が年配層より19%高い一方、期待を下回る体験をした場合には他ブランドへのスイッチも起こりやすい特性があります(Travel Voice「Z世代は『モノより体験』と『パーソナル化』」)。
Marriottの戦略:18〜25歳を「Bonvoy」に早期登録させ、カジュアルな宿泊から上位会員・高級ホテルへのステップアップを長期設計しています(ゆいマーケメディア「マリオットマジック」)。
主な評価指標:会員数 / アクティブ会員比率 / 会員vs非会員の客単価差 / 会員ランク移行率
Z世代・若年層への認知設計:10年後のファミリー層を今つかむ

「いまZ世代に広告投資しても予約につながらない」という判断は、短期のROIとしては正しいかもしれません。しかし長期視点では大きなリスクを内包しています。
宿研ナレッジの分析(2026年)では、「若い時期の良い体験が将来のファミリー層の選択につながる」という構造が明示されています。20代前半に形成されたブランド印象は、その人が30代になって家族旅行を計画するときの「第一候補」に影響します。シニア層が離脱しつつある今、10年後の主力顧客となるZ世代への接触を今から始めることが、顧客基盤の継続的な維持に直結するのです。
Z世代のメディア接触の現実
Z世代の約80%がゲームアプリを毎日プレイし、平均プレイ時間は約100分/日とされています(生活者データ・ドリブン「若年層にアプローチする、ゲームを活用した次世代PR手法」)。テレビリアルタイム視聴が減少する一方、スマートフォンゲームの利用時間は伸長しており、SNS・動画広告以外の接触面として「ゲーム空間」が台頭しています。
また、ヒルトンの2026年トレンドレポートによれば、日本では37%の旅行者が「スキップ・ジェネレーション旅行(祖父母と孫)」を経験または計画しており、若年層自身が旅行行動をとる機会も着実に増えています。
「今は予約しない若年層」への接触をどう設計するかは、従来の施策論では手が届かない領域です。次のセクションでは、グローバルホテルチェーンが取り組むゲーム活用の事例からその答えを探ります。
グローバルホテルチェーンが実践するゲーム内・バーチャル体験事例
日本国内の競合コンテンツでは、ホテル業界とゲーム活用を組み合わせた事例がほぼ紹介されていません。しかし海外の大手ホテルチェーンはすでに積極的な投資を行っています。
海外主要ホテルチェーンのゲーム・バーチャル体験活用事例
ブランド | プラットフォーム | 施策内容 | ロイヤルティとの連携 |
|---|---|---|---|
Marriott Bonvoy | Fortnite | 「Marriott Bonvoy Land」:4ブランドをテーマにしたミニゲームを展開 | ゲーム内ポイントが実際の宿泊特典に直結 |
Hilton | Roblox | Paris Hiltonとコラボした「Slivingland」で仮想ロビーを体験 | ロイヤルティプログラムと連動した特典設計 |
Dave & Buster's | Roblox | 「Dave & Buster's World」で複数ゲームを展開 | 仮想報酬が実店舗・実施設で利用可能 |
出典:NEWGAME「飲食とホテル業界のメタバース事例9選」(確認日:2026-04-18)
定量的な効果(来館者数増・会員増加数等)は各社とも非公表ですが、ロイヤルティプログラムとゲーム接点を統合するという設計思想は共通しています。「ゲームでブランドを体験させる → ロイヤルティプログラムに誘導する → リアルな宿泊へのステップアップを設計する」というファネルです。
国内事例(ホテル・レジャー近接)
- ホテルプラザオーサカ(Fortnite):「和牛鉄板パルクール」マップを2024年5月公開。大阪文化を発信し、万博来訪者増加を目標に設定
- 志摩スペイン村(Roblox):園内の街並みやアトラクションを仮想空間で再現。遠方在住の若年層・未来の来場者へのアプローチに活用
- SHIBUYA109(Fortnite):「SHIBUYA109 SHOOT and RUN」を2023年12月リリース。Z世代向けのブランド接触面として機能
出典:各社プレスリリース・NEWGAME記事(確認日:2026-04-18)
これらの事例に共通するのは「宿泊・来場の意思決定よりも前の段階で、ブランドとの感情的なつながりを作る」という目的です。Roblox・Fortniteは数千万〜億単位の開発費が必要ですが、日本国内ではより低コストで始められる「ゲーム内広告(サイネージ型)」も有効な認知施策として機能します。
ゲーム内広告がホテル・レジャー業界で機能する条件
Roblox・Fortniteを使ったコラボ型施策は「大規模投資型」の認知施策ですが、国内市場ではゲーム空間内の看板・モニターに動画広告を配信する「ゲーム内サイネージ広告」が、より導入しやすい認知チャネルとして選択肢に加わっています。
Ad-Virtuaが提供するゲーム内広告は、プレイ体験を妨げない形でゲーム空間の看板・モニターに動画広告を表示するアドネットワークです。国内400タイトル以上に対応しており、累計再生数は8,000万回を突破(公式サイト確認)。主な効果データとして、広告想起率 約1.8倍、注目度 約1.7倍、視認率 最大96%、ユーザー好感度 約85%が報告されています(出典:Ad-Virtua公式サイト、確認日:2026-04-18)。
料金は1週間30万円〜(最小出稿プラン)で、CPMは約300〜500円。テレビCMや大規模インフルエンサー施策と比較して「試せる規模感」であることも特徴です。
ゲーム内広告の仕組みや種類については「ゲーム内広告とは?種類・費用・効果を解説」を、費用感の詳細は「ゲーム内広告・メタバース広告の費用・料金相場」をあわせてご覧ください。
こんな企業に向いています
以下の条件に当てはまる場合、ゲーム内広告(サイネージ型)はブランド認知施策として有効に機能しやすいと考えられます。
- 若年層(10代〜30代)へのブランド認知拡大が課題になっている
- テレビCM素材やブランド動画がすでに制作済みで、転用・活用を検討している
- SNS広告・インフルエンサー施策とは異なる、新しい接触面を求めている
- 大都市圏・全国ブランドとして、マス認知施策の補完手段を探している
- 30万円/週という予算規模で認知施策を試したい
このような企業にはあまり向いていません
- 即時の予約獲得・CVRを最優先とする施策を求めている(ゲーム内広告は認知フェーズの施策)
- ターゲットが60代以上のシニア層のみ
- 動画素材がなく、制作から始める必要がある(ただし素材制作サポートは要問合わせ)
- 特定の旅行検討層(「○○県に旅行する予定の人」など)へのピンポイント配信を求めている
ゲーム内広告の活用を検討する際は、「認知フェーズの施策」として位置付け、CRM・ロイヤルティプログラム・体験型サービスの施策と組み合わせて設計することが重要です。認知から体験・リピートまでのフェーズ設計については「顧客接点を増やす方法」もご参照ください。
よくある質問
Q. ホテル業界でゲーム内広告を使っている国内事例はありますか?
A. Ad-Virtuaを活用したホテル業界向けの具体的な事例は、現時点(2026年4月)では公式サイト・プレスリリースに公表されていません。一方、ゲーム空間を活用した認知施策(Fortnite・Robloxを使ったコラボ型)では、ホテルプラザオーサカや志摩スペイン村などの事例が国内にも存在します。ゲーム内サイネージ広告は食品・飲料業界での実績が先行しており、ホテル・レジャー業界への展開は今後拡大が見込まれます。
Q. リピート率を数値で上げるにはどれくらい時間がかかりますか?
A. CRM施策やロイヤルティプログラムは、効果が顕在化するまでに6か月〜1年程度を要するケースが一般的です。一方、体験型サービス改善(スタッフ対応・空間演出)は短期間(1〜3か月)で口コミ評点やNPSに反映されることもあります。認知フェーズの施策(ゲーム内広告等)は直接的なリピート率への寄与ではなく、将来顧客の獲得に寄与するため、効果測定には長期の視点が必要です。
Q. Z世代を今から取りに行くべき理由は?
A. シニア層の旅行頻度が健康・介護理由で減少している一方、Z世代は現在の宿泊消費額は小さくても、10年後にファミリー層としての需要を担います。また、Z世代自身もロイヤルティプログラムへの参加意向が年配層より19%高く(Arrivia調査)、早期にブランド体験を形成しておくことが将来の直接予約比率向上にもつながります。宿研ナレッジ(2026年)は「若い時期の良い体験が将来のファミリー層の選択につながる」と明示しています。
Q. 年間旅行回数が少ない「旅行しない人」へのアプローチは有効ですか?
A. 国内では「年1回も旅行しない人が50.5%」という実態があります(宿研ナレッジ、2026年)。この層に対してリスティング・OTAで刈り取るアプローチは費用対効果が低いですが、非侵入型の認知接触(ゲーム内広告・SNS等)で潜在的な興味を育てておくことには意味があります。特に「旅行するなら○○」という第一想起を形成しておくことが、旅行意欲が高まった瞬間の選択に直結します。
Q. ゲーム内広告の費用対効果はどう測定しますか?
A. 認知施策の効果測定は直接CVとの紐付けが難しいため、一般的には「ブランドリフト調査(想起率・好感度の変化)」「接触前後のSNS言及数」「指名検索数の変化」「ロイヤルティプログラム新規登録数」などで測定します。Ad-Virtuaの場合、媒体ROIは平均4.5倍・最大5.4倍という数値が報告されています(Ad-Virtua公式サイト、確認日:2026-04-18)が、ホテル業界での個別データは要問合わせとなります。


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