テレビCMのブランドリフト測定とは、CMに接触したグループと接触していないグループを比較し、認知度・好意度・購入意向などの差分(リフト値)を測ることで、CMが消費者の態度変容に与えた影響を可視化する手法です。売上指標だけでは捉えきれない「ブランドへの効き目」を定量化できるため、TVCMの稟議根拠や次回出稿の改善材料として、食品・飲料・日用品メーカーを中心に活用が広がっています。
この記事では、テレビCMのブランドリフト測定について、調査の設計方法から結果の読み解き方、自社実施と調査会社依頼の比較、そして次の打ち手へとつなげる実践的なアプローチまでを解説します。テレビCM全体の効果測定の流れはテレビCM効果測定の方法と指標、KPI設計の枠組みはテレビCM KPI設計:認知→想起→検索→行動のつなげ方で整理しているので、合わせて参照してください。広告そのものの基本構造を押さえたい場合は広告とは何かもおすすめです。

ブランドリフト調査とは?広告効果を可視化する手法
ブランドリフト調査とは、広告やキャンペーンによって消費者のブランドに対する認知度や評価、購入意向がどれだけ向上したかを測定する調査手法です。
従来の効果測定では、クリック数や購入数といった直接的な指標が重視されてきました。しかし、ブランディングを目的とするテレビCMでは、こうした指標だけでは真の価値を測ることができません。
ブランドリフト調査では、広告に接触したグループ(接触群)と接触していないグループ(非接触群)を比較し、その差分を「リフト値」として算出します。たとえば、接触群のブランド認知度が60%、非接触群が40%なら、差である20パーセンテージポイントがリフト値です。この手法により、広告と消費者の態度変容との因果関係を客観的なデータで証明できます。
テレビCM以外を含めた広告全体の評価指標を整理したい場合は広告効果とは、出稿量設計の前提となる指標はGRP・リーチ・フリークエンシーの考え方も参考になります。
セールスリフト調査との違い
ブランドリフト調査と混同されやすいのが、セールスリフト調査です。両者は優劣の関係ではなく、マーケティングの目的やフェーズに応じて使い分けるべきものです。
項目 | ブランドリフト調査 | セールスリフト調査 |
|---|---|---|
測定対象 | 認知・好意度・購入意向などの態度変容 | 実際の購買行動・売上 |
主な手法 | アンケート調査(接触群 vs 非接触群) | POSデータ・購買履歴の比較 |
主な指標 | 認知リフト・想起リフト・購入意向リフト | 売上リフト・購入率・客単価 |
向く目的 | 認知拡大・ブランド構築・第一想起獲得 | 販売促進・キャンペーンROI検証 |
結果が出る速さ | キャンペーン直後〜数週間 | 数週間〜数ヶ月 |
費用感の目安 | 数十万円〜数百万円 | 数百万円〜(パネル契約依存) |
認知拡大やブランドイメージ向上を目的とする場合は、ブランドリフト調査が適しています。一方で、販売促進やダイレクトレスポンスを目的とする場合は、セールスリフト調査が有効です。実務では両方を組み合わせ、「態度変容 → 購買行動」の因果ストーリーで稟議書に落とし込むケースが増えています。

調査設計の基本:設問・期間・比較の考え方
ブランドリフト調査を成功させるには、適切な調査設計が不可欠です。設問の設計、調査期間の設定、比較グループの構成という3つの要素を正しく組み立てることで、信頼性の高いデータを得ることができます。
設問例:何を測定するか
ブランドリフト調査では、主に以下のような指標を測定します。
- ブランド認知:「このブランドを知っていますか?」(純粋想起/助成想起)
- ブランド想起:「○○といえば、どのブランドを思い浮かべますか?」(カテゴリ第一想起)
- 好意度:「このブランドに好感を持っていますか?」(5段階/7段階尺度)
- 購入意向:「このブランドの商品を購入したいと思いますか?」
- ブランドイメージ:「このブランドにどのような印象を持っていますか?」(イメージワードの選択)
- 広告想起:「最近、このブランドの広告を見ましたか?」(CM想起の確認)
設問は、調査の目的に応じて選択します。認知拡大が目的なら認知度や想起率を、ブランドイメージ向上が目的なら好意度やイメージ項目を重点的に測定します。設問が多すぎると回答負荷が上がりサンプル品質が落ちるため、コア指標5〜8問程度に絞るのが実務上の目安です。
調査期間の設定
調査期間は、キャンペーンの規模や目的によって異なります。
一般的には、キャンペーン開始前にベースライン調査(プレ調査)を実施し、キャンペーン中または終了直後に効果測定調査(ポスト調査)を行います。短期間のスポットCMなら2〜4週間、長期的なブランディング施策なら数ヶ月にわたる継続測定が必要になることもあります。
重要なのは、外的要因(季節変動や競合の動向、突発的なPRイベントなど)の影響を最小限に抑えるため、接触群と非接触群を同時期に調査することです。プレ・ポストだけの比較では、市場全体のトレンドと自社CMの効果を切り分けられません。

比較グループの構成
ブランドリフト調査では、ランダム化比較試験(RCT)の手法をベースに、テレビCMの場合は視聴ログを用いた「接触ベース比較」が一般的です。
調査対象者を、テレビ視聴ログ等によって「広告接触群」と「非接触群」に分け、両グループに同じ内容のアンケートを実施します。デモグラフィック(年齢・性別・地域)を揃える「twinning(ツイニング)」と呼ばれる手法を使うことで、広告以外の外的要因を統計的に排除し、広告の純粋な効果を測定できます。これはKantarやNielsenなどの大手調査会社が採用する標準的なアプローチです。
サンプルサイズは、統計的に有意な差を検出できる規模が必要です。一般的には、各グループ300〜500サンプル以上が推奨されます。リフト値が小さい指標(例:購入意向の数ポイント差)を有意に検出したい場合は、各群1,000サンプル規模が必要になることもあります。
結果の読み解き:リフト値から見える広告効果
調査結果が出たら、次はデータの読み解きです。リフト値の大きさだけでなく、どの指標が向上したか、どのセグメントで効果が高かったかを分析することで、広告の真の効果が見えてきます。
リフト値の評価基準
リフト値は、広告接触群と非接触群の差分をパーセンテージポイントで表します。
たとえば、ブランド認知が接触群で96.4%、非接触群で87.7%なら、リフト値は8.7ポイントです。この数値が大きいほど、広告効果が高いと判断できます。
実務上の評価基準の目安は以下の通りです(カテゴリ・成熟度により変動)。
指標 | 弱い | 標準 | 強い |
|---|---|---|---|
助成想起(認知) | 〜3pt | 5〜10pt | 10pt以上 |
純粋想起 | 〜2pt | 3〜6pt | 6pt以上 |
好意度 | 〜2pt | 3〜5pt | 5pt以上 |
購入意向 | 〜1pt | 2〜4pt | 4pt以上 |
ただし、業界・ブランドの成熟度(既存認知が90%超なら伸び代は小さい)によって基準は異なるため、自社の過去キャンペーンや競合との比較ベンチマークを持っておくことが重要です。
セグメント別の分析
全体のリフト値だけでなく、年代別、性別、地域別、購買経験別などのセグメントで分析することで、より深い洞察が得られます。
たとえば、若年層でのリフト値が高ければ、その層へのリーチが効果的だったことがわかります。逆に、ターゲット層でのリフト値が低い場合は、クリエイティブやメッセージ、出稿時間帯の見直しが必要かもしれません。
食品・飲料カテゴリでは、「未購入者の購入意向リフト」を特に重視することで、新規獲得への寄与を可視化できます。既購入者の購入意向は天井効果で動きにくいため、全体平均だけ見ると施策の価値を過小評価しがちです。

クロスメディアの効果測定
複数のメディアを組み合わせたキャンペーンでは、各メディアの貢献度を測定することが重要です。
テレビCMのみ接触、デジタル広告のみ接触、両方接触の3グループを比較することで、各メディアの単独効果と相乗効果(インクリメンタルリフト)を把握できます。一般的には、複数メディアに接触したユーザーほど、ブランドリフト値が高くなる傾向があります。
近年は、TVS REGZAなどの大規模テレビ視聴ログとデジタル広告ログを突合させ、テレビCMとYouTube・TVer広告のクロスメディア効果を一元的に検証するソリューションも登場しています。テレビとデジタルの役割分担と予算配分の考え方はテレビCM×デジタル併用:役割分担と予算配分の型で詳しく整理しています。
ブランドリフト調査の実施方法と費用感
ブランドリフト調査の実施には、大きく分けて「自社(インハウス)でアンケート設計から実施まで行う方法」と「専門の調査会社に委託する方法」の2つがあります。それぞれの特徴を理解して、目的・予算・期間に応じて選択しましょう。
比較ポイント | 自社実施(インハウス) | 調査会社に委託 |
|---|---|---|
費用感 | 数万〜数十万円(パネル利用料) | 数十万〜数百万円 |
設計の専門性 | 自社のマーケ知見に依存 | 調査設計のプロが標準化された枠組みで提供 |
サンプル品質 | 自前パネル or 簡易調査ツール | 大規模・属性管理されたパネル |
テレビ視聴ログ連携 | 困難な場合が多い | TVS REGZA・ビデオリサーチ等と連携可能 |
結果の信頼性 | 内部判断には十分 | 稟議・社外発表に耐える |
速度 | 早い(自社判断で着手可能) | 設計打合せ含め2〜4週間 |
向いている用途 | 小規模CM・テスト出稿・社内学習 | 大型キャンペーン・年次ブランド健診 |
代表的な調査会社・サービスとしては、ビデオリサーチ、楽天インサイト、インテージ、マクロミル、Kantar、Nielsen などが挙げられます。テレビCMに強い会社は、テレビ視聴ログとアンケートパネルを連携させた「接触ベース測定」が可能で、より精度の高いリフト値を算出できます。
決裁者・経営層向けに調査結果を提示する場合は、外部調査会社の名前と手法(例:「Kantar twinning法」「視聴ログ連動」)を明記すると、稟議の説得力が大きく上がります。
調査だけで終わらせない:次の打ち手への落とし込み
ブランドリフト調査の真の価値は、結果を次のアクションにつなげることにあります。
調査で得られた洞察を基に、クリエイティブの改善、ターゲティングの最適化、メディアミックスの見直しなど、具体的な施策を実行することが重要です。
効果が高かった要素の強化
調査結果から、どのクリエイティブ要素やメッセージが効果的だったかを特定します。
たとえば、特定のタレントやストーリー展開が好意度向上に寄与していたなら、その要素を次のキャンペーンでも活用します。逆に、効果が低かった要素は改善または削除を検討します。
15秒・30秒の素材別、CM冒頭3秒のフック別など、クリエイティブを切り口にしたセグメント分析を仕込んでおくと、次回素材の打ち手が具体化しやすくなります。
ターゲティングの最適化
セグメント別の分析結果を基に、ターゲティングを最適化します。
効果が高かったセグメントにはリソースを集中し、効果が低かったセグメントには別のアプローチを試みます。また、想定外のセグメントで高い効果が見られた場合は、新たなターゲット層として注目する価値があります。
CMの出稿計画自体の見直しが必要な場合は、テレビCM出稿計画の立て方:目的別(新規・想起・指名)も参考にしてください。

追加接触の場としてゲーム内広告を活用
テレビCMで認知を獲得した後、さらなる接触機会を創出することで、ブランドリフト効果を持続・強化できます。
その有効な手段の一つが、ゲーム内広告です。Z世代のゲームプレイヤー割合は約80%で、プレイ時間は約100分と可処分時間の多くをゲームで消費しています。ゲームユーザーの男女比は男性64%、女性36%となっており、男性にリーチしたい商材・サービスと好相性です。
ゲーム内広告は、従来のWeb広告と比較して優れた効果を示しています。広告想起率は約180%で、Web広告の誘導想起率ベンチマーク33%に対し、48%が自発的に想起、誘導で58%に上昇します。視認率は約140%で、Web広告の業界平均67%に対し、最大96%が広告を閲覧します。
ブランドリフト調査の比較群に「TVCMのみ/TVCM+ゲーム内広告」を組み込むことで、追加接触によるインクリメンタルリフト(純増効果)を定量化できます。動画素材を流用しやすい点も、TVCM併用施策として選ばれる理由の一つです。動画系メディア全体の費用対効果比較は動画広告 費用対効果の比較、ゲーム内広告全体像はゲーム内広告とは(概要)で整理しています。
こんな企業にブランドリフト調査をおすすめする/おすすめしない
おすすめする企業
- 食品・飲料・日用品メーカーで、新商品・リブランディングのTVCMを年1〜数回出稿している
- ブランド認知や第一想起の獲得を経営課題として明確に持っている
- TVCM予算の稟議で、売上以外の効果指標を求められている
- クロスメディア施策(TVCM+デジタル+OOH等)を実施しており、各媒体の貢献度を切り分けたい
- クリエイティブ改善を継続的に回したい(社内に分析できるマーケ担当者がいる)
おすすめしない企業
- 直販ECや短期キャンペーンが中心で、売上・CV指標で効果を判断できる
- 広告予算が極端に小さく、調査費用(数十〜数百万円)が出稿費に対して過大になる
- 調査結果を活用する体制がない(結果が出ても次の打ち手に落とし込めない)
- ニッチBtoB商材で、一般生活者のパネルでは到達対象が少なすぎる
ブランドリフト調査はあくまで「次の打ち手を導くためのツール」です。結果を活用する社内プロセスとセットで設計することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. ブランドリフト調査の最低必要予算はいくらですか?
自社パネルを使った簡易調査なら数万円〜、調査会社に委託する場合は数十万円〜が一般的な相場です。テレビ視聴ログと連動した本格的な接触ベース調査では100〜300万円規模になることもあります。TVCM出稿費の3〜5%程度を測定費に確保しておくと、後から「効果が分からない」事態を避けられます。
Q. プレ・ポスト比較とRCT(ツイニング)比較、どちらを選ぶべきですか?
キャンペーン期間中に競合の動きや季節要因が大きい場合は、同時期に接触群と非接触群を比較するツイニング法がおすすめです。一方、市場が安定していて簡易に変化を見たい場合はプレ・ポスト比較でも一定の示唆は得られます。可能なら両方を併用するのが理想です。
Q. リフト値が小さかった場合、CMの失敗を意味しますか?
必ずしもそうではありません。既存認知が高い成熟ブランドでは、認知リフトは天井効果で出にくい一方、好意度や購入意向、ブランドイメージ項目で動きが出ているケースがあります。1指標だけでなく、複数指標とセグメント別のリフト値をセットで評価することが重要です。
Q. テレビCMと併用するとブランドリフトが伸びやすい媒体はありますか?
動画素材を活用できるYouTube広告、TVer広告、ゲーム内広告、デジタルサイネージなどが、TVCMとの接触重複によるインクリメンタルリフトを生みやすい傾向にあります。特にゲーム内広告は、TVCMでは届きにくい若年男性層への追加接触手段として食品・飲料カテゴリで採用が進んでいます。
Q. 自社でブランドリフト調査を実施することは可能ですか?
アンケート設計の知見があれば、簡易調査ツールを使って自社実施することも可能です。ただし、テレビ視聴ログとの連動や統計的検定の正確性を求める場合は、専門の調査会社に依頼するのが安全です。社内学習目的なら自社実施、稟議・社外発表用なら外部委託、と用途で使い分けるのが現実的です。
まとめ:調査を起点に、継続的な改善サイクルを回す
テレビCMのブランドリフト測定は、広告効果を可視化し、次の打ち手を導く重要なプロセスです。
調査設計では、目的に応じた設問の選択、適切な期間設定、比較グループの構成が鍵となります。結果の読み解きでは、リフト値の評価だけでなく、セグメント別の分析やクロスメディアの効果測定を通じて、深い洞察を得ることができます。
そして何より重要なのは、調査で終わらせず、次のアクションにつなげることです。効果が高かった要素の強化、ターゲティングの最適化、そして追加接触の場としてゲーム内広告を活用することで、ブランドリフト効果を持続・強化できます。継続的な測定と改善のサイクルを回すことで、広告投資の価値を最大化していきましょう。
メタバース・ゲーム内広告による認知拡大やブランド価値向上にご興味がある方は、ぜひ詳細をご確認ください。


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