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AR広告の体験価値を最大化するデザイン戦略|没入感を高める5つの要素

AR広告が切り拓く、新しい顧客体験の世界

スマートフォンを通して現実世界にデジタル情報を重ねるAR技術。
この技術は今、広告業界に革命をもたらしています。従来の広告が一方的に情報を伝えるだけだったのに対し、AR広告はユーザーが能動的に参加できる体験を提供します。能動的な体験として類似しているゲーム内広告の分野では、広告想起率が従来のWeb広告と比較して約180%、視認率が約140%、注目度が約170%という驚異的な数値を記録しており、その効果の高さが実証されています。
しかし、単にAR技術を導入すれば良いわけではありません。
ユーザーに深い印象を残し、ブランドへの好意を高めるためには、体験価値を最大化するデザイン戦略が不可欠です。本記事では、AR広告の没入感を高める5つの重要な要素について、最新の事例とともに詳しく解説していきます。
没入感とは何か?体験価値の核心を理解する

没入感とは、ユーザーが特定の環境や体験に完全に引き込まれる感覚を指します。
広告やデザインの分野において、没入感は消費者の注意を引き、深い感情的なつながりを生むための重要な要素となっています。ディズニーランドやユニバーサル・スタジオのような施設では、訪問者が現実を忘れ、その世界に没入できるような設計がされていることは、多くの方がご存知でしょう。
体験価値を構成する5つの領域
米コロンビア大学のB.H.シュミット教授の経験価値マーケティング理論によれば、体験は「感覚・感情・思考・行動・関係」という5つの領域に分類されます。AR広告においても、この5つの領域を意識したデザインが重要になります。
感覚的体験は五感で感じられる楽しさを提供し、感情的体験は自分の感情が動く楽しさをもたらします。思考的体験は知的好奇心を刺激し、行動的体験は実際に行動してみたくなる楽しさを生み出します。そして関係的体験は、ブランドやコミュニティとのつながりを深めるのです。
なぜ今、没入感が重視されるのか
デジタル技術の進化により、ARやVRの技術革新が進み、現実と仮想のシームレスな融合が可能となりました。
現代の消費者は、単なる商品の購入ではなく、物語性やテーマ性を持つ体験を求めています。ブランド体験の価値が高まり、没入感を重視したデザインが消費者の心をつかむ手段として注目されているのです。また、SNSにおいても、顧客個人の体験を語った投稿がシェアされ、共感の「いいね」を集めている現状があります。
要素1:インタラクティブ性で能動的な参加を促す

AR広告の最大の強みは、ユーザーが受動的に情報を受け取るのではなく、能動的に体験に参加できる点にあります。
従来のOOH広告は、生活導線の中で反復的に接触させる点が特徴でしたが、その多くは受動的な体験にとどまっていました。一方、AR技術を活用した没入型広告では、立体音響やAR技術、ショートドラマやクイズ番組などのギミックの掛け合わせにより、広告接触者の一人ひとりが没入できるような仕掛けを作り、インタラクティブな体験を通じてブランドの魅力を伝えることができます。
ユーザーの行動を引き出すデザイン
インタラクティブ性を高めるためには、ユーザーが自然に操作したくなるようなデザインが重要です。
例えば、ゲーム内広告では、ユーザーのプレイを邪魔しない形で広告を表示することで、「嫌われない広告」として認知拡大やブランド価値向上に貢献しています。動画を入稿するだけで様々なゲーム内に一斉配信が可能で、ユーザーの自然な視線の流れの中に広告を配置することで、高い視認率を実現しているのです。
また、ARコンテンツの情報量やデザインが、ユーザーの能動的な接触行動に大きな影響を与えることが実証実験で明らかになっています。適切な情報量と魅力的なデザインの組み合わせが、ユーザーの興味を引き続け、ブランドへの理解を深めるのです。
要素2:視覚的統合で現実空間との調和を実現
AR広告の成功には、デジタル要素が現実空間に自然に溶け込むことが不可欠です。
都市景観との調和を特に重視したデザインアプローチが注目を集めています。景観に用いられている看板の色彩などを詳細に分析し、それらの要素をARナビゲーションやARコンテンツの配色・トーンに反映することで、ARが現実空間に自然に溶け込み、かつ魅力的に感じられるよう設計することが可能になります。
景観に馴染むデザイン思想
ARグラスを通じた情報提示においては、複数のARナビゲーション方式が開発されています。地図表示型、ライン型、光の柱型、アバター追従型など、それぞれ異なる特性を持つデザインが存在し、用途や環境に応じて最適な方式を選択することが重要です。
これらのデザインは、誘導直感性(経路理解の容易さ)、周囲視認性(環境把握のしやすさ)、エンターテインメント性(体験の楽しさ)、安全性(事故防止への配慮)といった多角的な観点から評価されています。都市景観との調和や自然な視線誘導効果なども含めて総合的に検証されており、より洗練されたAR体験の実現が可能になっています。
要素3:コンテンツの質で記憶に残る体験を創出

没入感を提供することによる最大のメリットは、記憶に残る体験を創出できることです。
従来の広告と比較して、没入型の体験は消費者の記憶に深く刻まれます。実際、ゲーム内広告では、他のWeb広告の誘導想起率ベンチマーク33%に対し、48%が自発的に想起し、誘導で58%に上昇するという結果が出ています。この高い想起率は、質の高いコンテンツと没入感のある体験設計によってもたらされているのです。
感情的なつながりを生むストーリーテリング
AR広告において、単に情報を提示するだけでなく、ストーリー性を持たせることが重要です。
架空のパティスリー「しろいし洋菓子店」の事例では、架空の舞台「マンション・インディゴ」とその住人たちのストーリーを通じて、消費者はお菓子を楽しむだけでなく、物語に引き込まれる体験ができるようになっています。オンラインを基軸としたOMO(オンラインとオフラインの融合)ブランドとして展開することで、新たな顧客層を開拓し、定期的な更新で消費者のリピーターを増やすことに成功しています。
このように、コンテンツに物語性を持たせることで、単なる広告接触を超えた深い感情的なつながりを生み出すことができるのです。
要素4:ソーシャル拡散を促すシェアラブルな設計

訪れる街や移動中の電車空間の中で得られる没入感のある体験は、生活者にシェアしたくなるきっかけを生みます。
誰もが気軽に情報発信できる現代において、SNSを通してブランドへのエンゲージメントを高めることは極めて重要です。実際、ARを活用した実証実験では約8,500人がAR体験を楽しみ、SNS上では約3万件の投稿があり、二次推定imp数も含めのべ総imp数として約3,500万impに達し、大きな認知拡大につながった事例があります。
シェアしたくなる体験の要素
シェアラブルな体験を設計するためには、いくつかの重要な要素があります。
まず、視覚的に魅力的であることが大前提です。SNSでは視覚的なインパクトが重要であり、美しい、面白い、驚きのある体験は自然とシェアされやすくなります。次に、参加のハードルが低いことも重要です。複雑な操作を必要とせず、誰でも簡単に体験できる設計が、より多くの人々の参加を促します。
さらに、個人の体験を語りたくなるような要素を組み込むことも効果的です。自分だけの特別な体験や、友人と共有したい楽しい瞬間を創出することで、自然な形でのソーシャル拡散が期待できます。
要素5:データ活用で継続的な最適化を実現
AR広告の体験価値を最大化するためには、データに基づいた継続的な最適化が欠かせません。
フィジカル(現実世界)とデジタルを融合させた「Phygital」の考え方では、OOHと他メディアを結び付け、効果計測を可能にすることが重視されています。従来、OOH広告は効果測定が難しいとされてきましたが、デジタル技術との融合により、詳細なデータ取得と分析が可能になっています。
体験価値の定量化と改善サイクル
体験価値を定量化するためには、商品やサービスに期待する具体的な体験と、実際に体験したブランドの評価について調査を行い、そのギャップからコミュニケーション戦略のヒントを得る手法が有効です。
消費者には、同じ項目に対して、その商品やサービスに期待しているか、実際に利用したことのあるブランドではどうかについて回答してもらいます。期待していることが分かればコミュニケーション施策のアイデアのもとになりますし、ブランドがその期待にどれほど応えられているかも調査することができます。体験の評価が高いブランドは、今後売れていく可能性があるということもいえるでしょう。
このようなデータ駆動型のアプローチにより、AR広告の体験設計を継続的に改善し、より高い効果を実現することが可能になります。
まとめ:AR広告で実現する次世代の顧客体験
AR広告の体験価値を最大化するためには、5つの重要な要素を統合的に設計することが不可欠です。
インタラクティブ性で能動的な参加を促し、視覚的統合で現実空間との調和を実現する。コンテンツの質で記憶に残る体験を創出し、ソーシャル拡散を促すシェアラブルな設計を行う。そして、データ活用で継続的な最適化を実現する。これらの要素が有機的に結びつくことで、従来の広告では実現できなかった深い顧客体験が可能になります。
これからの時代、AR広告は単なる情報伝達の手段ではなく、ブランドと顧客をつなぐ体験の場として、ますます重要な役割を果たしていくでしょう。没入感を高める5つの要素を意識した戦略的なデザインにより、あなたのブランドも次世代の顧客体験を実現できるはずです。
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WRITTEN BY
水野 征太朗
アドバーチャ株式会社代表取締役CEO | 学生時代からインディーズゲーム開発者として、複数のゲームを開発・リリース。名古屋大学経済学部を卒業後、アビームコンサルティング株式会社にて、メタバース/XR/センサーなど先端技術を用いたソリューションの提案・開発に従事。その後、アマゾンジャパン合同会社にてデータ分析・ツール開発・プロセス改善等を経験。2022年にアドバーチャ株式会社を創業。




