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Z世代を惹きつける屋外看板とデジタル広告の融合戦略

近年、広告業界では「Z世代」というキーワードが頻繁に登場します。デジタルネイティブと呼ばれる彼らは、従来の広告手法では心を動かすことが難しいと言われています。そんな中、屋外看板とデジタル技術を融合させた新しい広告戦略が注目を集めています。
私はGAFAM出身のXRエンジニアとして、メタバース広告の開発・運用に携わってきました。特にゲーム内広告の可能性に早くから着目し、Z世代へのアプローチ方法を研究してきました。
Z世代を理解する:なぜ従来の広告が効かないのか
Z世代(1995年〜2010年頃に生まれた世代)は、生まれた時からデジタル環境に囲まれて育った初めての世代です。彼らの特徴を理解することが、効果的な広告戦略の第一歩となります。
Z世代の約80%がゲームをプレイしており、平均して1日約100分をゲームに費やしています。これは彼らの可処分時間の多くがゲーム空間で消費されていることを意味します。
どう思いますか?あなたの周りのZ世代も、スマートフォンを手放さず、常に何かのコンテンツを消費していませんか?
従来の広告手法が効かない理由は、Z世代が持つ「広告への耐性」にあります。彼らは幼少期からデジタル広告に囲まれて育ったため、広告をスキップする能力や、関心のないコンテンツをフィルタリングする能力に長けているのです。

また、Z世代は「本物志向」が強いことも特徴です。ステレオタイプな広告メッセージや過度に商業的なアプローチに対して敏感で、ブランドの真正性や価値観を重視する傾向があります。
Z世代の消費行動とメディア接触の特徴
Z世代のメディア接触行動を見ると、テレビの視聴時間が短い一方で、屋外で移動している時間が長いという特性があります。これは、彼らが常に「オンザゴー」の状態にあることを示しています。
興味深いことに、2022年に渋谷ハチ公前の大型サイネージで行われた調査では、10代女性の70.8%、20代女性の63.6%が広告を認知していたというデータがあります。これはZ世代女性に対して、屋外広告が高い効果を発揮できることを示しています。
彼らの消費行動においては、SNSの影響力が絶大です。友人の推薦や実際の体験談、インフルエンサーのレビューなどを参考にする傾向が強く、広告よりも「口コミ」を信頼する傾向があります。
Z世代は広告を見ているようで見ていない、でも実は見ている。彼らの心を動かすには、広告であることを感じさせない「体験」が鍵となる。
デジタルOOH(DOOH)の進化と可能性
屋外広告(OOH:Out Of Home)の世界は、デジタル技術の進化により大きく変わりつつあります。特にデジタルサイネージを活用したDOOH(Digital Out Of Home)は、静的な看板から動的なコンテンツへと進化しました。
2021年の世界のデジタル屋外広告市場は209.9億米ドルという規模でしたが、2022年から2030年にかけて年平均成長率11.7%で拡大し、2030年には568億米ドルに達すると予測されています。この急成長の背景には、都市のスマート化や5G通信の普及、AIやIoTを活用したリアルタイム広告配信の進化があります。

DOOHの最大の特徴は、リアルタイムでコンテンツを変更できる柔軟性です。天候、時間帯、人流データなどに応じて広告内容を最適化できるため、状況に合わせた訴求が可能になります。
プログラマティックOOHという革新
さらに進化したのが「プログラマティックOOH」です。これは複数の広告枠をオンラインでネットワーク化し、取引や広告の配信を自動化したシステムを指します。
プログラマティックOOHのメリットは、広告出稿のスピード向上、精緻なターゲティング、そして自動での広告枠買付にあります。従来のOOH広告では、媒体社への問い合わせや手動での入稿が必要でしたが、プログラマティックOOHではプラットフォーム上で完結するため、効率的な運用が可能です。
例えば、あるIT機器メーカーは「IT関心者層」というカスタムオーディエンスに向けたターゲティングキャンペーンを実施しました。企業のIT関連意思決定者が参加する展示会などの位置情報をもとに、彼らの出現頻度が高いエリアのデジタルサイネージに広告を配信。その結果、広告接触者のWeb上での関心度は非接触者と比べて平均8.8ポイント高くなりました。
このように、位置情報データを活用したターゲティングがOOHでも可能になったことは、デジタルOOHの大きな進化と言えるでしょう。
Z世代を惹きつける融合戦略:リアルとデジタルの橋渡し
Z世代を惹きつけるためには、屋外広告とデジタル広告の強みを融合させた戦略が効果的です。彼らはリアルな体験とデジタル体験の境界を自由に行き来する世代であり、その特性を活かした広告設計が求められます。
スマートフォンの普及とSNSの定着により、消費者は一方通行の広告には反応しなくなりました。そこで注目されているのが、デジタル屋外広告にモバイル連動機能やQRコード、ARコンテンツなどを組み合わせた「インタラクティブな広告体験」です。

特に効果的なのは、SNSと連動した「バズる広告」戦略です。渋谷や原宿といった若者が集まるエリアでは、インスタグラムやTikTokで拡散されるような仕掛けを組み込んだ屋外広告が成果を上げています。
メディアミックスにおけるDOOHの役割
ある銀行サービス企業の「住宅ローン」に関する広告効果検証では、DOOH広告の認知有無別に態度変容を比較したところ、DOOH広告認知によって訴求サービスの認知・興味・利用意向がリフトしていることが確認されました。
特に男性30-40代の認知、男性30代の興味についてはリフト幅が20ポイントを超える結果となり、DOOH広告が特定のターゲット層に対して商材理解の促進や興味喚起に大きく貢献することが示されました。
また、「タクシー内広告+WEB広告」に「DOOH広告」が加わることで、訴求サービスの認知・興味・利用意向が高くなることも判明しました。これはDOOH広告が他媒体と組み合わせることで相乗効果を発揮し、統合的な広告効果を高める可能性を示唆しています。
さらに興味深いのは、DOOH広告認知後に「友人・知人と話した」割合が9%、「インターネットで検索した」割合も高かったという結果です。これはDOOH広告が行動変容を促す効果を持つことを示しています。
成功事例に学ぶ:Z世代を惹きつけた広告キャンペーン
Z世代を惹きつけるためには、彼らの価値観や行動様式を理解した上で、創造的なアプローチが必要です。ここでは、屋外広告とデジタル広告を融合させて成功した事例を紹介します。
2024年2月に実施された「#ニュー懐メロ」プロジェクトは、Z世代が懐かしいと感じる2010年代前半の楽曲群を「ニュー懐メロ」と称し、体験型OOH広告を展開しました。東急田園都市線渋谷駅の道玄坂ハッピーボードに掲出されたこの広告は、「スマートフォンでOOHに触れると音楽が聴ける」という新しい広告体験を演出。Z世代に人気のミュージックキーホルダー「The Music」とタイアップし、音楽に物理的に触れる体験をリバイバルさせました。
データドリブンなアプローチの重要性
IoTやセンサーテクノロジーの活用により、デジタル屋外広告は視聴者数、滞在時間、反応率などの詳細なデータ収集が可能になっています。これにより、広告主はPDCAサイクルに基づく継続的なパフォーマンス改善が行えるようになり、マスメディア広告では不可能だった「投資対効果の見える化」が実現しています。
例えば、ジオテクノロジーズ社が提供する位置ターゲティングによるアンケート調査「トリマリサーチ」は、位置情報を活用して広告接触者を抽出し、Webアンケートを実施することができます。これにより、事前のスクリーニング調査を行うことなく、低コスト・短時間で屋外広告の効果測定が可能になりました。
このようなデータドリブンなアプローチは、Z世代向けの広告戦略を最適化する上で非常に重要です。彼らの行動パターンや反応を定量的に把握することで、より効果的なコミュニケーション設計が可能になります。
未来の広告戦略:テクノロジーがもたらす新たな可能性
5G・6G通信の拡大により、高速・大容量データ配信が可能となる中、リアルタイムで天候・時間帯・人流に応じたコンテンツ切り替えが可能なスマートデジタルサイネージが主流になりつつあります。
また、ジェスチャー操作や顔認証によるパーソナライズド広告など、より深いレベルでの消費者接点創出が技術的に現実のものとなっています。日本国内でも、2025年の大阪万博に向けた都市開発プロジェクトの中で、こうした革新的な広告技術の実証実験が進行中です。
メタバースとリアル空間の融合
私が特に注目しているのは、メタバースとリアル空間の融合です。現在、メタバース内の広告とリアル空間の広告は別々に展開されていることが多いですが、将来的にはこの境界が曖昧になっていくでしょう。
例えば、ARグラスを装着した状態で街を歩くと、実際の屋外広告がインタラクティブなコンテンツに変化したり、個人の興味関心に合わせてパーソナライズされたりする未来が考えられます。
また、リアル空間での行動データとメタバース内での行動データを統合し、一貫したユーザー体験を提供することも可能になるでしょう。これにより、Z世代を含む若い世代に対して、より自然で違和感のないマーケティングアプローチが実現します。
まとめ:Z世代を惹きつける統合的アプローチ
Z世代を惹きつけるためには、屋外看板とデジタル広告の強みを融合させた統合的なアプローチが必要です。彼らはデジタルネイティブでありながら、リアルな体験も重視する世代であり、その特性を理解した広告設計が求められます。
デジタルOOH(DOOH)の進化により、リアルタイムでのコンテンツ最適化やターゲティングが可能になり、Z世代へのリーチ効果が高まっています。また、ゲーム内広告は彼らが多くの時間を費やすゲーム空間において、自然な形で広告メッセージを届ける有効な手段となっています。
成功事例からは、データドリブンなアプローチの重要性や、インタラクティブな要素を取り入れた体験型広告の効果が示されています。そして未来に目を向ければ、メタバースとリアル空間の融合など、テクノロジーがもたらす新たな可能性が広がっています。
Z世代を惹きつける広告戦略の核心は、彼らを「広告のターゲット」としてではなく、「体験の共創者」として捉える視点にあります。彼らの価値観や行動様式を深く理解し、リアルとデジタルの境界を超えた新しい広告体験を提供することが、これからのマーケティングの鍵となるでしょう。
私たちアドバーチャは、ゲーム内広告という新しい領域から、Z世代との接点創出に貢献していきたいと考えています。メタバース空間における広告の可能性はまだ始まったばかりです。この新たなフロンティアで、皆さんと一緒に革新的なマーケティングの未来を切り拓いていきましょう。
詳細はアドバーチャのウェブサイトでご確認いただけます。Z世代にリーチするための最適な広告ソリューションをご提案いたします。
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WRITTEN BY
水野 征太朗
アドバーチャ株式会社代表取締役CEO | 学生時代からインディーズゲーム開発者として、複数のゲームを開発・リリース。名古屋大学経済学部を卒業後、アビームコンサルティング株式会社にて、メタバース/XR/センサーなど先端技術を用いたソリューションの提案・開発に従事。その後、アマゾンジャパン合同会社にてデータ分析・ツール開発・プロセス改善等を経験。2022年にアドバーチャ株式会社を創業。

